シャルル・リシャール=アムランおまけインタビュー

【家庭画報の特集、ジャパン・アーツのガラコン冊子、ジャパン・アーツHPなどで書いても、
さらに書ききれなかったコメント(ユル会話中心)を紹介していきます】

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シャルル・リシャール=アムランさん(第2位、ソナタ賞)

─1次の後、あまりにすばらしい演奏に、このまま上位入賞したら(その時はまだエントリーしていた、2015年11月の末から開催の)浜松コンクールに来なくなってしまうかもしれないよねと言ったら、そんな結果にはならないよとおっしゃっていましたよね~。

そうでしたねぇ(笑)。さすがに、出場は辞退することになりました。でも、日本にはガラ・コンサートで行けるようになりましたから。初めての日本で、6都市も回ることができて嬉しいです。テクノロジーの進んだアジアの大都会を見ることが本当に楽しみなんです。韓国に行ったときも、とてもおもしろかったので。

─コンクールで演奏したヤマハのピアノはいかがでしたか?

すばらしいピアノで、選ぶときにも迷いませんでした。やわらかい表現がちゃんと伝わるピアノです。コンクールでは、印象を強くするために大きく弾くという考えもあるかもしれませんが、感じるままにやわらかい表現をすることで演奏がより親密なものになり、お客さんが咳もみじろぎもせず、より真剣に聴いてくれるということもあると思います。

─ピアノを始めたのはアマチュアピアニストのお父さまの影響だとか。

はい、父はコンピューター関係の仕事をしていた人で、同時にアマチュアのピアニストです。母は精神分析医をしています。

─お母さまが精神分析医というのは、なんだかすごいですね。

いえいえ、普通ですよ。日本では少し文化が違うのかもしれませんけど、カナダでは精神分析医に診てもらうのはかなりポピュラーですからね。僕自身は通ったことはありませんけど(笑)。

─家族にいるなら必要ないですよね(笑)。

そうですね。その意味で、僕の母は、単純な母以上の存在ですね(笑)。ワルシャワでのガラ・コンサートには、両親も来ていました。あのコンサートで、僕が受け取った花束を渡した女性がいたでしょう。あれは母だったんです。
……というのも、実はちょっとおかしな話があって。最前列に座っていた母の後ろで、ステージの写真を撮ろうとしている人がいて、係の人がそれをやめさせようと合図をしていたらしく。それを見た母は、「立て」という合図だと思って、慌てて立ち上がった(笑)。
ステージにいた僕は、母が一人だけ急に立ち上がったのを見つけたものだから、花を渡してみたんです。ちょっと笑っちゃうでしょう! でも、とても喜んでいました。

─お母さんかわいいですねぇ。ところで、ショパンの演奏をする上で大切にしていることは?

音楽の持つ自然な魅力を充分に見出すため、まずは、ハーモニーへの感受性。そして、楽譜に忠実であることを大切にしています。
楽譜に書かれたことを体に馴染ませ、演奏中はそれを忘れて演奏しなくてはなりません。とても難しいことですが、楽譜に書かれたことの詳細一つ一つと一体化できていないと、実際に“忘れて”演奏することはできません。
僕自身、聴く側としても、楽譜への注意と個性のバランスが良い演奏を好みます。とはいえ、ピアニストの個性があまりにすばらしい場合は、個性が強調された演奏でも聴く価値が大いにあると感じます。例えば、グレン・グールドのようなピアニストの演奏がそうです。僕の個性はグールドほどに特殊なものではありませんから、バランスのよいところを見つけるほうがいいのです。

─なるほど……。グールドはカナダのピアニストにとってやはり特別ですか?

もちろん全員が好きだとは言わないと思いますが、やはり特別なピアニストで、彼がすばらしい人物だということを否定できる人はいないと思います。かの有名なバッハの「ゴルドベルク変奏曲」の音源などは、史上最高の録音の一つだと思います。彼独自の“声”を聴くことができます。彼の演奏を聴く時は、作曲家の作品を聴くというよりは、彼の音楽が聴きたくて聴くんですよね。例えば、バッハを聴きたければアンドラーシュ・シフを聴くかもしれませんが、グールドの録音を聴く時は、グールドが聴きたくて聴くんです。

─でも、現代の演奏家というのは、一般的には作曲家の解釈者と考えられていますよね。

もちろん、僕の仕事はそうです。グールドは特殊な例外だと思います。個性があまりにすばらしいので、そのバランスなど気にしなくて良いのです。アルゲッチなんかも、その種類のピアニストだと思います。特殊な個性ですから、みんな、彼女を聴くということを楽しむのです。

─ショパンの演奏については、ポーランド舞曲の理解も重要だと思いますが、そうした理解はどのように深めていったのですか?

基本的には、直感的に持っているものを深めていったと思います。加えて、いろいろな録音を聴きました。作品を勉強していれば、音楽それ自体が語っているので、マズルカやポロネーズについての本を読む必要は必ずしもありません。良い感覚がつかめたら、それに従うだけです。

─ショパンにじっと向き合ってきたコンクール中、ショパンがそばにいると感じた瞬間とか、ありませんでしたか?

それはなかったなぁ(笑)。ショパンはきっと、社会に適応できた人ではなかったと思います。孤独で、不安を抱えていたということは、彼の作品にたくさん内包されている人間の感情からもわかります。
コンクール中にふと、ショパンは彼の音楽がこんなにたくさんの人に楽しまれているということはすばらしいと感じているだろうけれど、コンクールというオリンピックか競馬のような場で演奏されていることや、ソロ作品がこんな大きな会場で弾かれていることは、彼の想定外だろうなとは思いました。
それにしても、彼はきっと人生の中でアジアの人に会ったことはなかったでしょうね。この50年ほどのことだと思いますが、今これほどアジアの人が彼の音楽を受け入れていることには驚くだろうと思いました。クラシック音楽のなかでもショパンの音楽が特に人類にとってユニバーサルな存在だということを示していると思います。

◇◇◇

以上、リシャール=アムランさんのおまけインタビューでした。
ひとつ印象的だった出来事。
もう日本ではたくさんの人があなたのファンになっていますよ!と言ったとき、
「いやぁ、今だけだってわかっているよ……」とボソリとつぶやかれるということがありました。ほんわかした外見に惑わされがち(?)ですが、
なかなか現実主義というか、冷静というか、そういった一面もときどき感じました。
あたたかく感情豊かだけれど、クールで悲観的なところもある。
もしかしたら彼はショパンっぽい人なのかもしれません。
……まぁ、ショパンには実際に会ったことがないのでわかりませんけど。

★ガラコン会場で販売される、ジャパン・アーツ公式プログラム冊子や、
下記サイトもあわせてご覧ください。もう少し真面目です。
ジャパン・アーツHP シャルル・リシャール=アムランインタビュー

[家庭画報 2016年1月号 Kindle版]

 

ファイナル最終結果発表

第17回ショパン国際ピアノコンクールは、チョ・ソンジン君が優勝、そして各賞の受賞者は以下のとおりということで幕を閉じました。

第1位 Seong-Jin Cho
第2位 Charles Richard-Hamelin
第3位 Kate Liu
第4位 Eric Lu
第5位 Yike (Tony) Yang
第6位 Dmitry Shishkin

ファイナリスト
Aljoša Jurinić
Aimi Kobayashi
Szymon Nehring
Georgijs Osokins

ポロネーズ賞  Seong-Jin Cho
マズルカ賞  Kate Liu
ソナタ賞  Charles Richard-Hamelin
聴衆賞 Szymon Nehring

◇優勝者ガラコンサート
2015年
11月20日、21日 N響定期演奏会
11月23日 リサイタル
◇入賞者ガラコンサート
2016年
1月23日~31日

チョ君は1次からファイナルまで完成度の高い演奏を聴かせてくれましたが、なかでも3次のプレリュードは記憶に残るものでした。コンチェルトでは、オーケストラの調子がイマイチ不完全に思えるところもあったのですが、審査員はそうした周りのコンディションも考慮に入れたうえで、最終的な判断をしたのだと思います。
それにしても、お月様フェイス時代から聴いてきた日本のピアノファンにとっては、感慨深い結果だったのではないでしょうか。コンクールでの優勝はスタートラインとはいえ、あのときのあの子が、天下のショパンコンクールの覇者となったわけですからね。
私自身も、2009年浜松、2011年チャイコフスキー、2014年ルービンシュタイン、そして今回と、彼が上位入賞したコンクールをなぜか偶然すべて現地で聴いているので、その変貌ぶりを思うと感慨深いものがあります。この間徐々に口数も増え、ひねくれジョークを口走るようになり、それに伴って音楽のなかにもおもしろいエッセンスが増えていって。まさに、音楽家がオープンになってゆく過程を目の当たりにしたと感じます。
ガラコンサートでは、優勝にふさわしいピアニストであることを証明するような、ファイナルよりも正直言ってずっと生き生きしたコンチェルトを聴かせてくれました。アンコールの「英雄ポロネーズ」も、気持ちのこもったすばらしい演奏。いろいろな感情が刺激されました。この選曲にはどんな意味があるのだろう、ショパンやポーランドの聴衆への敬意が込められているのか。自身の将来を暗示しているようにも見えるぞ。
……などと、素敵回答を期待しながら、どうしてアンコールにこれを選んだのか尋ねると、「短い作品じゃないといけないし、でもノクターンじゃ暗すぎるし、プレリュードはもうエリックが弾いていたでしょ。本当はワルツが弾きたかったんだけどもう指が動かなかったから、『英雄ポロネーズ』にしただけなんだけどね」と、安定のひねくれクール回答をくれました。

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(レセプションにて。シャイボーイ、顔を隠すのが間に合いませんでした。
白ワインが好きなの?ぶどうの種類はなにが?とか聞かれ、
フランス留学がいかに少年を大人にするのか、しみじみ感じてしまいました)

さて、第2位のリシャール=アムラン氏に関して言いますと。
実は今回のコンクールの1次予選で唯一、私が次の人を聴くのをあきらめてバックステージに走った人でした。(コンクール取材でごく稀にある、超ドキドキする瞬間です。次が休憩じゃないタイミングで、面識のない“これは行く!”と思うピアニストが出てきてしまったときの葛藤……。どうしよう、どうしようと、失礼ながら次の奏者の経歴や見た目の雰囲気などをチェックして、決断するという)
アムラン氏には恩着せがましく(?)それを1次のバックステージから伝えていたのですが、そのときに「いやぁ、優勝なんてないよ」と本人に言われていたので、彼がファイナルに進んだときの私のドヤ顔は相当なものだったと思います。
いずれの結果発表でも冷静だった彼ですが、最終結果発表から数日後にお話を聞いた時は、本当に本当に嬉しそうで、幸せそうでした。話をしていてこちらも嬉しくなりました。2位という結果が、今の自分にはとても良いとも言っていました。
写真撮影のとき、舞台だとものすごく背が高そうに見えるけど近寄るとそこまででもないよねというと、そんなこと初めて言われた!それは興味深いなぁ、と驚いていました。けっこう多くの人がそう感じてると思うんだけど。

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(なつかしい、1次予選終了後のバックステージ。眼鏡をフキフキ)

ケイト・リウ、エリック・ル、トニー・ヤンの3人も、それぞれ後でお話を聞いたらとても嬉しそうでした。とくにケイトとトニーは自分の入賞に驚いていて信じられないという雰囲気。ケイトについては、マズルカ賞にも自分でものすごくびっくりしているようでしたし、トニーに至っては「もともとは2次予選を突破するのを目標にしていたし、セミまで進めたらファイナルまで滞在費を負担してもらえるからラッキーと思っていたのに」とのこと。
なんて無邪気なフィフス・プライズ・ウィナー! 前回怒りまくっていたデュモンとえらい違いです。
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(最終結果発表前も一緒にいた仲良し3人組)

そしてシシキンは、おそらくご自分でももっと上に行けると思っていたのだろうと思いますが、でも、発表後の取材にも快く応じてくれて、「家庭画報」用の撮影ではものすごいイケメンショットを提供してくださいました。
先日のコンクールのガゼッタ表紙に載ったシシキンが、ハリウッド映画の敵役でどこまでも追いかけてくるサイボーグ的な雰囲気だったので(実際に対面すると案外あたたかい感じのする人ですが)、以来私のなかで足の速いサイボーグイメージがぬけません。
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そのためもあって、ファイナルのコンチェルトを聴いているときは、「人間を愛してしまったサイボーグの切ない恋物語」が脳内展開されていて、じんわりと感動してしまいました。終演後に会ったとき、思わず「演奏から物語が見えるようだったよ」と言ってしまったのですが、どんな?とつっこまれなくてよかった。
インタビューでは、彼のインスタグラムにも登場する彼女が横に付き添っていましたが、「ディーマは、僕のショパンにはロマンティックが足りない、教えて~!ってずっと言ってたの」とすごい楽しそうに話していたので、思わず「サイボーグの切ない恋コンチェルト」の感想を伝えそうになりましたが、なんとかこらえました。

その他にも、オーケストラと呼吸のぴたりとあったザ・ポーランドなショパンのコンチェルトを聴かせてくれたネーリング氏、自由な感性で音楽を奏でていたユリニチ氏、常に予想外の音楽展開でシビレさせてくれたオソキンス氏、そして、(勝手に私が抱いていた)昔の神童イメージから大きく変貌した、明るく自由で生命力ある演奏を聴かせてくれた小林愛実さん(いろいろお話をして、このタイプの演奏家は強いしこのあともどんどんいろいろなことを吸収、成長するんだろうなと思いました)。彼らについてもいろいろ書きたいエピソードはあるのですが、長くなってしまうので、続編で。
ちなみに、真面目にやったインタビューなどに基づく諸々の記事は12月1日発売の「家庭画報」新年号で紹介しますのでお楽しみに。どこにも載せきれなかった話題、とくに1次~セミで印象に残った子の話題などは、このサイトで紹介したいと思っています。

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ところで結果発表は、10月20日の演奏終了後、日付が変わった21日の深夜に行われました。ライブ配信をご覧になっていた方はご存知かと思いますが、発表まで、本当に時間がかかりました。
審査員の海老さんによれば、彼女とアルゲリッチが採点の方法がよく理解できなくてやりなおしていたからとのことでしたが、その後にも、「過半数の審査員が1位なしでもいいのではという意見だった」こともあり、話し合いにわりと時間がかかったのではないかと思われます。
結果発表の時、公式のスタッフやカメラマンが動き出すと発表がもうそろそろだな……とわかるのですが、今回、最初に公式カメラマンが下りてきたとき、「ファイナリスト見た? もう出るかもしれないのに本人たちが会場にいなくて、前代未聞の地味で残念な結果発表になるかもだよ!」と騒いでいました。あのときは多分、集計が終わった第一段階のタイミングだったのだと思います。そこからまた時間かかったもんね……。
今回はすでに採点表も公開されましたが、17人中10人の審査員が第1位に値する10点満点を誰にも与えていないわけで、“ショパンコンクールの権威”というものに想いを馳せずにいられませぬ。

審査は1次からファイナルまでの印象を総合して判断することになっています。弟子には投票することができませんので、3人の弟子がファイナルに進出していたダン・タイ・ソンは、10人中7人にしか点数を入れられません。
ファイナルの採点表を見て一段と目を引くのが、フィリップ・アントルモンがチョ君に「1点」しか入れていないところかな。よほど好みに合わなかったんでしょうね。
まあ、それはそれとして、みんないろいろいっていたユンディが、かなり良心的というか、自分が良いと思ったものに良い点を純粋に入れているんだろうなという審査をしているこのに、私は安心しました。けっこうみんな事前に、ユンディはライバルになりそうな同じアジア人のピアニストには厳しいのではないかとか、いろいろ言っていたじゃないですか…。でも、まったくまともな採点をしているように、私には見えます(自分が案外ユンディと趣味が合っているからそう思うだけなのか? でも、まだ細かく見ていませんが、採点にも一貫性ある感じがします)

審査の欠席については、もちろん結果に影響を与えることだし、尊敬された行動でないのではとは感じましたが、逆に彼の審査員席での行動がやたら報告されたりしているのを見ると、なんだかなぁと思ってしまいました。実際、たとえばロシアのおじいちゃん大先生審査員が審査中に携帯いじったり居眠りしてたりしても、だれも大騒ぎして書きこまないでしょう。人気者のユンディも大変ねと。
ついでに、真面目に聴いているふりをしてひどいことしてる審査員のほうがよほど非難されるべきだと思うけどなあ、と思ってしまいました(別に今回の審査員にそういう方がいるという意味ではありません!)。
いずれにしても、ご本人に直接事情を聞いていないので私はなんとも。
ちなみに、ユンディがしばしばコンチェルトの時、審査員席でノリノリで指揮の動きをしていて、そういう演奏は気に入っていたのだろうという話を何度か聞いたことがありましたが、たまたまその後、ユンディもいる雑談の場に居合わせたとき、「連日長時間でどうしても眠気が襲ってくる。そういうときは指揮の動きで眠気対策」みたいなことを言っていたので、もしや指揮の動きをするときは、気に入っているの逆だったのか?と思いました。そのとき横に座っていたアルゲリッチも、超うけて同意していました。
というわけで、何事も、本人に聞いてみないと真相はわからないものです。聞いてもわからないこともあるけど。

最後は話が審査の話にずれてしまいましたが、このあとも、締切原稿を書き進めながら、こぼれ話や思ったことがあれば公開していきたいと思います。

 

カワイ調律師さんインタビュー

今回、セミファイナルに進んだガリーナ・チェスティコヴァさんやチ・ホ・ハンさん、日本人コンテスタントとして注目されていた竹田理琴乃さん、9年前の高松コンクールに15歳で入賞していたチャオ・ワン君、そして大人気のジュリアン君など、個性的なコンテスタントから選ばれていた、Shigeru Kawai

調律を担当していた小宮山淳さんにお話を聞きました。
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◇◇◇
─今回ショパンコンクールのピアノを準備するにあたって、心掛けていたことはありますか?

ホールがわりと大きいので、ピアノの鳴りが良くなるよう、それにむけてパーツを選んで変えておくようにしました。そうして作り込んだ楽器をドイツに持っていき、日本の空気より湿気がない環境でしばらく置いてから、こちらに持ってきました。
私が以前ショパンコンクールの調律を担当したのは15年前、イングリット・フリッターさんがカワイを弾いて2位に入賞したときです。このときの経験からホールの響きなどは知っていたので、方向性は作りやすかったですね。

─ショパンだけを弾くコンクールということで、どんな音を心掛けましたか。

エチュードなどはコロコロした音が必要ですが、その他は民謡のような要素のある音楽が中心ですから、表面的な音ではなく、心からの叫びとか、ポーランド人に独特の優しさのようなものがあり、強く叫ばないような音を目指しました。……“チャラくない”音といいますか。
たとえば、静かに蠟燭の明かりで本を読んでいるというか、そんなものを感じる音です。他のピアノよりも、丸めの発音になっているのではないかと思います。ショパンはこの音色で流れれば一番合うのではないかという音を作りました。

─次々異なるピアニストが演奏するコンクールで心掛けていることは?

繊細な調整は必要なのですが、こういうタッチでなければこういう音がでないというようなタイプの繊細な調整だと、ピアノのキャパが狭くなってしまいます。なので、仕上がりとしては、図太さがあるというか、包容力がある調整にしておかないと、多くのピアニストが好んでくれるピアノにはなりません。

─カワイのピアノを選んだ方には、個性的なおもしろいピアニストが多かったですね。

はい、いろいろなタイプがいて、それぞれが、表現のしやすい良いピアノだと言ってくださいました。ガリーナなんかは、これだけピアノも良くて自分で満足のいく演奏ができたのに次に通過できないということは、私はどうしたらいいんだろう、少しピアノを触らないで考えるといっていました。それを聴いて、泣きそうになりましたね。そう言ってもらえて嬉しい反面、サポートできなかったことにがっかりしました……。

─カワイを弾いたピアニストの中でもジュリアン君は特に人気でしたが、ピアノに何かリクエストはありましたか?

ほとんどなかったですね。

─彼は家にカワイを持っているので、楽器に慣れていると言っていました。

そうなんですか。実際、コンクールやコンサートなどの本番でカワイを弾いたことがないというピアニストは、コンクールのセレクションで良いピアノだと思っても選ぶことができないという声を聞くことがあります。
2時間のコンサートをともにして、ようやく最後に楽器の本当の良さというのはわかってくるものですから。カワイのピアノでそういう経験をしたことがある方は、コンクールのセレクションの15分で良い印象をうけると、選択してくれるのだと思います。今後、多くの方にコンサートでカワイを弾く機会をもっていただけるよう、自分たちでも演奏会を用意していくことが必要だなと感じています。
いずれにしても、セレクションって初日の午前中がすごく大事なんです。限られた時間で選ばなくてはならないため、コンテスタントはみんな情報を集めているので、弾きにくいという話が出回ると、触ってもらえなくなってしまうんです……。どんなに努力しても、後半で盛り返すのは難しくなってしまうんですよね。

─最近ちょっと気になっているのが、時間をかけてピアノに慣れていくことができないコンクールという場で選ばれるピアノと、コンサートで良い楽器とされるピアノは違うのだろうかということです。

僕はそう思わないですかねぇ。コンクールで良いピアノはコンサートでもいいと思います。いずれにしても2時間リハーサルができるコンサートでは、その間に楽器に歩み寄ることができますから。

─鍵盤の重さにもコンテスタントたちの好みの傾向があったと思いますが、カワイのピアノについてはどんなことを心掛けましたか?

軽すぎず重すぎずは絶対的に心掛けました。鍵盤の深さや重さというのは、音色とのバランスで感じ方が変わります。同じ深さでも、音が明るいと浅く感じるし、音が太くて暗いと深く感じるんです。

─調律師という仕事は、音楽を理解していないとできませんね。

多少なりともそうですね。僕、実は音楽大学でトロンボーンやっていたんですよ。でも、演奏家の道に進むことはないとなったとき、カワイのコンサートチューナーという仕事を見つけて、この道に進みました。僕が演奏していたのは金管楽器ではありますが、ここで吹いている音が向こうでどう鳴っているかを聴くという癖はついていたと思います。

─どのような音を目指していますか?

世の中がデジタル化している中で、アナログ的なものを残したいという気持ちがあります。弦、そして木が振動して音が出ている感じがするような、自然に歌うアコースティック楽器ならではの音がする。それがカワイのピアノです。
良いピアノとは、キャパが広く、オールマイティで、その中で演奏家が好みの音を追求していくことができるピアノだと思います。

ファイナルが始まりました

セミファイナルを振り返るチャンスを逃したまま、あっという間にファイナルが始まってしまいました。
10名のファイナリストと演奏日程は、以下の通り。

10月18日
Mr Seong-Jin Cho (South Korea)
Mr Aljoša Jurinić (Croatia)
Ms Aimi Kobayashi (Japan)
Ms Kate Liu (United States)

10月19日
Mr Eric Lu (United States)
Mr Szymon Nehring (Poland)
Mr Georgijs Osokins (Latvia)

10月20日
Mr Charles Richard-Hamelin (Canada)
Mr Dmitry Shishkin (Russia)
Mr Yike (Tony) Yang (Canada)

ファイナルでは、ヤツェク・カスプシク指揮ワルシャワフィルとの共演で、ショパンのピアノ協奏曲第1番または第2番を演奏します。かつての優勝者のほとんどが第1番を演奏していることが知られていますが、今回、10人中第2番を選んでいるのは、最終日の登場するアムランさんのみです。

昨日、チョ・ソンジン君の演奏でファイナルがスタートしました。
私が聴いて来た過去2回のショパンコンクール、指揮者はいずれもアントニ・ヴィットさんだったのですが、カスプシクさんのショパンはやわらかくあたたかく優しい印象。わりとご自分の好みがはっきりしていて厳格というイメージだったヴィットさんの時と違って、カスプシクさんは「ソリストが好きなようにやらせて、それを一生懸命ウォッチングしながらオーケストラを合わせていく」という感じ。
この日の4人の演奏でも、指揮者が彼でなかったらどうなっていたことだろう…という場面がけっこうあったような。

チョ君は、持ち前の明るい音でとてもさわやかなショパンを聴かせてくれました。会場の1階で聴いていて、少しオーケストラの音に埋もれて聴こえる部分もあったのが気になりますが、2階正面だともう少しいいのかも。

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終演後のチョ君。たくさんのカメラに囲まれていましたが、こちらから、ステージでの気分はどうだったと声をかけると、わざわざレコーダーに顔を近づけて、日本語で「ヨカッタ」といいました。
(前にもこういうことがあった気がしますが、「麒麟です」みたいだなと思いました。)
今回のコンクール中、初めて自分で満足いく演奏ができたそうで、とても嬉しそうでした。
4ステージ終えてショパンへの愛や情熱は変わった?と尋ねたところ、変わらない、ずっと大きなままだよと言っていました。

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続くアリョーシャ・ユリニチ君は、ヤマハのピアノからボリューミーな音を出し、自由なショパンを演奏。それにあわせてオーケストラもボリューミーな感じ。
近くで見て、ずいぶんキラキラした目で話す人だなぁと思いました。人柄って本当に演奏に出ますね。

そして小林愛実さん。オーケストラの長い前奏に続く、最初のつかみの音で例によってグッと心を掴み、生命力あふれる音楽を聴かせてくれました。客席もすごく盛り上がっていて、私がこれまでこのコンクールで見たフライング拍手のなかでもっともフライングな拍手が起こっていました。まあ、この日のお客さん全体的にフライングぎみでしたけど。
この写真は、結果発表の前のもの。コンチェルトの楽譜を抱えていました(写ってませんが)。
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ケイト・リウさんは、ファイナルでピアノをスタインウェイにチェンジ。しかし彼女の独特の打鍵は、どのピアノからも同じように豊かな音を鳴らします。細い体ながら、ものすごいテクニック。聴衆からも人気の彼女、一段と大きな喝采とスタンディングオベーションを受けていました。

さて、残るは6人のピアニストの協奏曲。
どんなショパンが聴けるでしょうか。

ファツィオリ調律師さんインタビュー

先に、ファツィオリを選択した唯一のコンテスタント、ティアン・ルさんと、夫のユーリ・シャドリンのインタビューを紹介しましたが、今度は調律を担当した越智晃さんのお話を紹介します。
越智さんには、昨年2014年のルービンシュタインコンクールのときにもお話を伺っています。

このコンクールの際には、ファイナルの2ステージ目で4人がピアノをスタインウェイからファツィオリに変更し、6人中5人がファツィオリを演奏するということが起きて、話題になりました。

この時に使用されたピアノは、5年前のショパンコンクールの後、リムやフレームの形をはじめ、基本的な構造を大幅に改良した新モデル。コンチェルトでのパワー不足が否めなかった旧モデルから、力強い音を実現する方向に大きく舵を切って設計されたピアノでした。

今回のショパンコンクールで使用したピアノは、その改良後のモデルでありながら、78人中選択したピアニストは1人という結果となりました。越智さん、そのことについて今後の課題を考察するとともに、最近のピアノのトレンドについても興味深いお話を聞かせてくれました。

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◇◇◇

─今回のファツィオリはどんなピアノだったのでしょうか?

チャイコフスキーコンクールで使用したのと同じものです。ただ、中のアクションは二つ用意してありました。1台のはチャイコフスキーコンクールと同じもの、もう1台は、ショパンコンクール用に調整してあった新しいものです。ショパンらしく、少しやわらかくあたたかい音がする方向性で仕上げてありました。
ですが、いざ会場に持って来てみたら、他にパワフルな楽器が揃っていたこともあり、チャイコフスキーコンクール用のアクションのほうを採用しました。直前まで主に手を入れていた新しいほうのアクションを使いたいという気持ちはありましたが、他と比べてしまうとパワー不足で難しいなと思って……。

─ショパンを弾くのに向いているピアノとは、どういうものなのでしょう?

あたたかく、よく歌う音が出せるものです。社長のパオロ・ファツィオリとも、その方向性にしようという一致した見解があり、それにむけて音を作りました。

─ティアン・ルさんは、自分でコントロールして音が出せるピアノが良かったから、4台の中で一番鍵盤が重めだったファツィオリを選んだとおっしゃっていました。それが逆に、多くの人にとって、リハーサルができないコンクールでうまくコントロールできるだろうかという不安につながり、他を選ぶという結果になったのではとも言っていました。

その意見に、全く同意ですね。このピアノの鍵盤は、一般的にみて特別重いわけではないのですが、他が軽かったようです。動かしやすくて軽いピアノにしておけば、結果は違ったのかなと……。経験不足、認識不足だったと思います。

─そうなると、コンクールで選ばれるためには、普段のコンサートで良いピアノだとされるピアノとは必ずしも同じでないピアノが求められるということに?

今回、そうしなくてはだめなのだろうなと思いました。鍵盤が軽く、押さえると一気にバッと音が出てきてくれる。そして嫌な音が出にくい。そういうピアノが、こうした場では求められていると感じました。
あと、ファツィオリは湿度などの環境の変化でそんなに大きな影響を受けていませんでしたが、ずいぶん敏感に反応している楽器もあったようなので、そういう楽器は弾きやすさのためにきわどい線で作っているんだろうなと。
かつては簡単に音が出てしまうピアノは敬遠されていて、川真田豊文さんなどが第一線で活躍していらした頃は、意図するより後に音が出てくるような調整をされていたように思います。

─今回のファツィオリは、簡単に音が出るピアノではなかったと……。パオロ社長がピアノづくりを始めたときのことについて、ピアニストがピアノと格闘しなくていいピアノが作りたかったと言っていたことを思い出したのですが。その、格闘しなくていいということと、簡単に音が出るということのニュアンスの違いは?

あまりに簡単に音が出てしまうピアノって、弾いているところを見たらほとんど格闘しているように見えるのではないかと。意図するより早く大きく音が出るとしたら、それをよほどうまくコントロールできる力がないといけませんから。

─水がすごい勢いで出ているホースをつかんでコントロールする、みたいな?

はい……。でも今のトレンドはそれなんでしょうね。

─5年前のショパンコンクールとの違いは感じますか?

すごく感じます。もっといろいろな音が聴けたような気がするんですけれどね。でもこれが、これからピアノの標準的な音になるのかもしれません。とはいえ、5年後にはまた変わっているのかもしれませんが……戻るということもあるのかなぁ。でもこのまままでは寂しいかなぁ。

◇◇◇
今回ご紹介したのは、あくまで今回越智さんが感じたご意見なわけですが、実際、もともと豊かに鳴る楽器を鳴らしきった大迫力の演奏に多く出会った印象はあります。ただ、私はずっと1階で聴いており、このホールは場所によってずいぶん聴こえ方が違うので、2階で聴いたらどう聴こえるのかわかりません。

少し感じたのは、普通は、そのホールで与えられたピアノで、リハーサルの時間を使いピアノを手なずけることってプロの演奏家には絶対に求められる能力だけど、弾きやすいピアノが揃うコンクールでは、そこが見られなくなってしまうのかなぁと。あとは、楽器の耐久性との両立というのも難しい問題なんだなと思いました。
コンクールは間違いなくピアノという楽器の“進歩”に大きく役立っているともいますが、コンクールのピアノは別ジャンルみたいになっていくのでしょうか。いわば、レーシングカーと一般の車の開発の違いみたいな? もちろん、そこに互いの技術革新は生かされ合うものだと思いますが。

良い楽器ってなどんな楽器のことなんだろうなぁ、
と、今回はピアノについていろいろ考えるショパンコンクールなのでした。

 

スタインウェイ──ショパンが弾ける調律師

世界各地で行われるコンクール。それぞれのレパートリーや音楽文化の特徴にあわせて、または単にスケジュールやいろいろなご事情にあわせて、同じメーカーでも異なる調律師さんがメイン・チューナーを担当されることが多いです。
今回おもしろいなと思ったのが、先の記事でもちらりとご紹介したスタインウェイの調律師、ヤレク・ペトナルスキさん。ポーランド人でワルシャワ・フィルハーモニー・ホールでの調律経験も豊富、ピアニストでもあるという方です。
私が見てきた過去2回(2005年、2010年)ではポーランド人調律師が担当していたことはなかったので、今回の一つの試みだったのかもしれません。
ちなみに前回5年前は若手ホープの調律師さんがコンクールが始まる直前に急病で倒れ、急遽(このあとの話にも出てくる)ジョルジュ・アマンさんが駆けつけて調律を担当していました。このときアマンさんがくださった名刺が薄い木でできていて、やっぱり“調律師の神”は違うな…と思ったなぁ。
さて、ここで少し前になりますが、1次予選のときにアーティストサービス、ゲリット・グラナーさん(以下G)と調律師のヤレクさん(Y)に聞いたお話をご紹介します。

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◇◇◇
─今回のショパンコンクールの調律では、どんなことに気が配られていますか?
G ショパンにふさわしい音を作るため、音楽的な反応を聴きとることができる調律師が担当しています。ポーランド人のヤレクはピアニストでもあり、今回のコンクールのレパートリーはほとんど演奏することができます。彼は単に技術者の観点で音を判断するだけでなく、ショパンを弾くタッチでピアノに触れて楽器を理解することができるのです。この、普通の技術者とは違うアプローチにより、演奏家と理想的なつながりを持つことができるピアノが生まれます。それで今回の調律は、彼が担当してくれているのです。

─今回の音を作るうえで一番意識したことは?
Y ショパンを演奏するのに合った、柔らかく歌うことのできる音を作ることです。とにかく、ショパンのスタイルにふさわしい音を目指していますね。

─今回は、楽器の準備段階ではベテラン調律師のジョルジュ・アマンさんも参加していたそうですが。
G はい。ピアノの最終的な調整は、セレクションの1週間前から、アマンとヤレク、あとシモンという3人の調律師が担当し、いろいろな方向から3人でピアノを整えていきました。それぞれの技術者が同じ方向を向き、アーティストのような精神でピアノに向かっている。それによって毎日お互いに学んでもいる。ベテランだから何にでも優れているとは限りません。お互いに意見を交換しあうことで、それぞれの技術者がより向上していくというのが、スタインウェイの考えです。
それと、もうひとつ。スタインウェイのピアノは、そのピアニストならではの音が出る楽器を目指していますから、ピアニストの気持ちがイガイガしているときに弾いたらそういう音になるし、気持ち良く楽しんで弾いていたら、そういう音が出ます。ですから、ピアニストが安心して弾けるようなサポートも必要なんですね……つまり、調律師はサイコロジストの能力も持っていないといけないのです。

◇◇◇
このあともう少し詳しくヤレクさんのお話を聞いてここでご紹介しようと思っていましたが、こちら、のちのち別の形でご紹介できることになりそうなので、その誌面をお楽しみに。

調律師さんがショパンを弾けるということは、確かにひとつの大きなプラスになるだろう思います。ショパンの音楽の心を自分なりに理解していなければ、絶対にその演奏にふさわしい音はできませんよね。自分でその“ショパン向きのタッチ”を試せるというのも、なるほど、というお話でした(2014年ルービンシュタインコンクールのスタインウェイの調律師さんも、優れたタッチでピアノを試せる能力は必要だと言っていたことを思いだしました)。

だからといって、それじゃあショパンに限らず演奏する場では、ピアノがうまい調律師さんのほうがいいのかというと、そういうわけでもない。
調律師には鋭敏な耳と感性、技術が求められ、でも結局最後にピアノを弾くのはピアニストなわけですから、考えれば考えるほど複雑です……。

今回、ピアノの音の流行や、何を大切にするべきなのかということについて、勝手にすごく考えさせられています。コンクールはもうファイナルに突入しようとしていますが、今後もいくつかピアノにまつわる興味深いお話をご紹介しながら考えていきたいと思います。

 

ユーリ・シャドリン&ティアン・ル、音楽とピアノについて語る

前回2010年のショパンコンクール、セミファイナルに進みながらも腕の故障で棄権をした、ユーリ・シャドリン。
コンクールの華やかなステージで、ショパン音楽大学からもってきたという会議室にあるような背もたれ付きの椅子に座り、豊かにピアノを鳴らしながら深い味わいのある音楽を聴かせてくれたピアニストです。親しみやすい風貌も相まって人気を集めていたので、棄権を残念に思った方も多いことでしょう。

さて、今回のショパンコンクールに彼の奥様であるティアン・ルさんが出場しているということは以前の記事でご紹介しました。彼女は残念ながら第2次予選への進出がなりませんでしたが、演奏翌日にお聞きした二人のインタビューをご紹介します。

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ぽんぽん明るく感性で話すティアンと、案外慎重で論理的なユーリ、なんとも絶妙なカップル。
ふたりはショパンコンクールの後に結婚。小さなお嬢ちゃんは、今回コンクール中、親御さんに預けてきているそうです。
最近は教える立場にもあるというユーリ。興味深いメッセージを残してくれました。

◇◇◇
以下、ユーリ・シャドリン(Y)&ティアン・ル(T)

─まずティアンさん、ショパンコンクールを受けることにしたきっかけを教えてください。やはりユーリさんから勧められて?
T まず、私がアメリカで師事した最初の先生から彼がショパンコンクールのファイナリストになったときの話を聞いていて、挑戦も勧められたこと。それにもちろん、前回出場した夫からも、ぜひ一度経験してみるべき場所だと勧められたので。実際、参加してすごくよかったです。ステージに一歩出た瞬間、いっぱいの聴衆が目に入って、ワオ!って。すごくいい気分になりました。幸せでした。

─今回、唯一ファツィオリを選んだコンテスタントということでみんなその音に注目していました。演奏してみていかがでしたか?
T 特別に豊かな音がとても気に入って選びました。厚みがあってパワフルです。大きな音である必要はありません。たくさんの深みと幾重にもなっている層を感じました。このピアノで音楽をつくっていくことをとても楽しみました。私は、あまりに軽いアクションのピアノが少し苦手なんです。
このファツィオリは少し重めで、演奏していてとても楽しかったです。他の人がファツィオリを選ばなかったのは、鍵盤が重くて少し深かったため、うまく演奏できないかもしれないという不安を感じていたからみたい。私はあまりそういうことは気にならないし、技術的になんの問題もなく演奏できたので、嬉しかったです。今回の4台では、スタインウェイが一番軽く、次がヤマハ、カワイ、そしてファツィオリの順だと感じました。

─ティアンさんにとって良いピアノとはどういうものなのですか?
T ブランドには関係なく、簡単すぎず、一緒に音楽を作るための、深みがあるピアノが好きです。

─ユーリさんにとっては?
Y その場合によります。例えばコンサートなどで、そのピアノで練習する時間が取れる場合は、少し難しいピアノもいいと思います。でも、コンクールの場合はちょっと状況が違いますよね。15分で4台のピアノを試さなくてはなりません。だからみんな、コントロールしやすそうだと感じるピアノを選ぶのだと思います。
音としては、深い音が好きです。ピアノが深い音を持っていれば、コンサートホールで弾く時に何かをピアノに何かを強制する必要がありません。ピアノを強くたたき、何かを強制して音を出さなくてはならないというのは最悪です。ハンマーが強く弦を叩くということで、音はどんどん悪くなっていきますから。
それと、すばらしいピアノというのは、パーフェクトでないとも思います。今回のショパンコンクールのファツィオリを少し触らせてもらいましたが、決して簡単なピアノではないけれど、本当にすばらしい楽器でした。
深くいろいろな音を持っている。そして、強制されることが嫌いだと感じました。リスペクトとともに演奏されるべきピアノなんだと思います。ピアニストが、これをしたいと勝手なことをすると、ピアノが受け入れない。ピアノを納得させないといけないんです。ピアノがやりたくないことを強制なんてしたら、多分殴り返してくる(笑)。
T そう、弾く前にちゃんと対話しないといけないの。良い子にしてねって。
Y 本当にいろいろな音を持っているピアノですからからね。だからこそ、扱うのは大変なのかもしれません。


─ところで、ショパンコンクールとはティアンさんにとってどんな存在?
T ピアニストなら、ショパンをどう演奏するかを理解しないといけない。卓越したショパン弾きになる必要はないけれど、その言語を理解しないといけないし、ショパンを演奏するための伝統を理解しないといけない。巨匠が伝える古い伝統を学ばないといけない。それを披露することができた、特別な場所でした。

─ユーリさんにとっては、5年前のコンクールの経験はどんなものでしたか? 5年前にこの質問をしたら、時間がたてばわかるかもねといっていました。
Y いい記憶も、悪い記憶もあるんです。すごくいろいろな感情が混在しています。それでもいつも感じるのは、ショパンはロシア人である僕にとても近いということ。ポーランドは、人の見た目も食文化も似ているし、僕は言葉もだいたいわかる。クラシック音楽を愛していると言うことも一緒。長くアメリカにいると、たとえばアメリカ人にとってのクラシック音楽とは、ぜんぜん関係性が違うように感じるんです。僕はロシアを離れてだいぶ経っているけど、きっとショパンがポーランドに帰る感覚は、僕がロシアに帰る感覚に似ているんじゃないかと思います。

─ショパンコンクールを受けるにあたって、ユーリさんから何かアドバイスはあった?
T 彼は私の先生でもあるんです。フライシャー先生のレッスンを受ける前に、彼のレッスンを受けています。こういうところに注意しなさいとかこうしたらいいよなど……。
Y わかった、わかったから……。
T 私、彼をとても尊敬しているの、ピアノの先生のときだけは(笑)。
Y なんか別の話してたんじゃなかったっけ!?

─照れてますね。ところでティアンさん、「ユーリ先生」から学んだことで一番大きなことはなんですか?
Y ちょっと恥ずかしいからやめてくれる……?
T 「音楽への誠実さ」だと思います。いつも音楽に対して、純粋で、誠実であること。私はオールドファッションな演奏が好きなので、とても誠実な彼の演奏を尊敬しています。そもそも、同じ先生のもとで育ってきたから、私たちの音楽の趣味はとても似ていますし。
Y 誠実……というのはね、こういうことです。例えば、ステージに出て音楽を感じているふりをするような音楽は、誠実じゃないと思うんです。僕も最近教える立場になって感じるのは、若い学生たちがみんな、拍手と歓声欲しさに、大きく早く弾くようになってしまっているということ。そのうえ、録音を聴いて、いいと思った巨匠の演奏をコピーする……。

─それで自分で感じている“ふり”をすると…。
Y その通り。50年前はそんなことは起きていなかったはずです。そういうことを見ている中で、よりいっそう、誠実であろうという気持ちを持つようになったのです。音楽が充分でないから、顔の表情や身体の動きで表現を追加するなんて、本当にばかげています。天才たちが書いた作品は、ちゃんと音で表現すればそれだけで十分に感動的なものであるはずです。それがわかっていたら、顔をつくったりはしない。音楽に対して失礼ですよ。

─ティアンさん、師であるフライシャー氏から学んだ一番大きなことは何でしょうか?
T 本当の音楽をどのようにして掴むかということ。彼が教えてくれるのは、どうやって演奏するかではなく、どうやって作品を理解するか。楽譜を読み取る方法を教えてくれるんです。どうしてこうするべきなのか、ロジカルに考えて音楽を組み立てるべきだということです。
Y 僕には、ピアノを勉強している若い人たちに言いたいことがあります。試しに、1曲でいいから鉛筆で五線紙に楽譜を書き写してみてほしい。やってみると、本当に大変なんです。
T 以前、ノクターンの最初の1ページを書き写してみたら、1時間半もかかりました。書き写すだけでもこんなにかかったんですから、考えて書いていくのに費やす労力は膨大です。そこに込められた想いがどれほどかが実感できます。
Y 今は楽譜もコンピューターで作れますから、気が付きにくいんです。これをやってみると、とても大切なことを知ることができます。作曲家が何かを書くと言うことは、そこに意味があるから。なにひとつおろそかにしてはいけないのだということがよくわかります。

─ところで、日本に来る計画があるとか?
Y 中国に行く予定があるので、そのときに日本で演奏会ができないか、計画中です。昔からずっと日本に行くことに憧れていて。とくに京都に行ってみたいんです。実現するといいな!

◇◇◇
ティアンがインタビューの準備をしているのを待っている間、
ユーリがショールームにあったファツィオリで、シューベルトを弾き始めました。
最近プロモーション録音したばかりだという、「さすらい人幻想曲」です。
澄んだ美しい音が響いて、しみじみ、良いピアニストだなと思いました。
なんだかとてもなつかしい光景。
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オフショットがファツィオリ・ピアノフォルティのブログで紹介されていますので、ぜひご覧ください。

セミファイナルが始まります

10月14日から、コンクールはセミファイナルに突入します。
43名のうち、20名のコンテスタントが次のステージに進みます。

12日夜の結果発表もまた、予定時刻からそう遅れることなく始まりました。
すごく待たされるとみんな緊張疲れして、いざ発表の時にはもうグッタリみたいなことになってしまうわけですが、最近は集計もコンピューター化され、基本的に話し合いもなしということで、わりとアッサリ結果が出ます。

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昔は結果発表というと、拍手の中、全審査員がゾロゾロ下りてきて、宝塚の大階段みたいだなと思ったこともありましたが(先生方の足取りはだいぶ重めですけど)、今回は1次は事務局の人のみ、2次は事務局の人+ズィドロン審査委員長という形で、コンパクトにおこなわれています。前回もそうだったけな。もう記憶が定かでない。

第2次予選、何か魔物が降臨しているのではというほど、らしくないミスをしたり、なんとなく調子悪そうに弾いたりしているピアニストが多かったように思います。でも結果を見てみると、審査員たちは音楽性を見ていて、そんな細かい(そしてときにはでっかい)ミスは気にしていないんだなということがわかります。とはいえ、それがメンタルの弱さや注意力の低さに由来している感じがすると、問題になるのでしょうが。

結果発表後の様子から。
ポーランドメディアの取材を受ける小林愛実さん。
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第2次は、演奏後に調子が出なかったと言っていましたが、見事通過。日本人唯一のセミファイナリストとなりました。結果が発表される直前、彼女の姿を見かけたのでいつもの調子でやっほ~と声をかけようとしたら、ステージ外ではいつもパカッと明るい感じのはずの愛実さんが超こわばった表情で立っていたので、びっくりしすぎて声がかけられませんでした。
緊張してたんだろうな。

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歓喜の抱擁!
手前のおばさま二人の大喜びっぷりに目がいきがちですが、その後ろでおじさんと抱き合うオレンジ色のフードの後頭部は、カナダのYIKE YANG君のものです。

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こちらはカメラに狙われるアムランとタルタコフスキーの後ろ姿。
ステージが進むにつれ発表後のプレスの気合いもすごくなっていきます。
喜びの瞬間をおさえるため、カメラマンはもうすぐ名前が呼ばれるかもしれない有力なコンテスタントの前に、あらかじめ張って待っています。それも、ものすごい至近距離で(人が多くてスペースがないため)。
関係ないこっちは、そんな素敵な瞬間にアホ面で写り込むことがないように、必死です。

配信を聴いた方はお気づきかと思いますが、タルタコフスキーさんはワルツOp.34-1の冒頭で、何かを飲んでいる最中に聴いていたら大惨事になるレベルのミスなどをしてしまいました。でもこうして無事通過したので、音楽性さえ確かと評価されていれば、少なくとも第2次予選では、そういうミスは結果に影響しなかったということのようです。

私としては、通ってほしいなと思っていた一部のコンテスタントは残りませんでした。でも彼らの演奏を聴くことができたのは、こうして1次からコンクールを聴いていたからにほかならないと。最後に入賞者ガラコンサートを聴いただけでは、彼らの演奏には出会えなかったわけですからね。まだ聴いていない演奏があるみなさまも、なんとなく気になる人がいたらぜひアーカイヴをチェックしてくださいませ。

審査員の中でも意見がかなり割れているという噂なので(まあ、この通過メンバーを見ればうっすらわかる気もしますが)、この後どんな展開を見せるのでしょうか。
セミファイナルでもおもしろい演奏が聴けそうなことだけは、確かです。

第2次予選に進むことの決まったコンテスタントは、以下の通り。
演奏日程はこちらからご覧いただけます。

Mr Luigi Carroccia (Italy)
Ms Galina Chistiakova (Russia)
Mr Seong-Jin Cho (South Korea)
Mr Chi Ho Han (South Korea)
Mr Aljoša Jurinić (Croatia)
Ms Su Yeon Kim (South Korea)
Ms Dinara Klinton (Ukraine)
Ms Aimi Kobayashi (Japan)
Mr Marek Kozák (Czech Republic)
Mr Łukasz Krupiński (Poland)
Mr Krzysztof Książek (Poland)
Ms Kate Liu (United States)
Mr Eric Lu (United States)
Mr Szymon Nehring (Poland)
Mr Georgijs Osokins (Latvia)
Mr Charles Richard-Hamelin (Canada)
Mr Dmitry Shishkin (Russia)
Mr Alexei Tartakovsky (United States)
Mr Zi Xu (China)
Mr Yike (Tony) Yang (Canada)

スタインウェイの音

昨日のコンクール新聞の記事から。
スタインウェイ&サンズ、アーティストサービス担当グラナーさんのインタビューです。
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《あるジャーナリストにスタインウェイの典型的な音はどんな音かと聞かれて、こう答えました──「私にはわかりません」。》

アルゲリッチなら典型的なアルゲリッチらしい、ブレハッチなら典型的なブレハッチらしい音がするピアノであるべきというのが、グラナーさんの意味するところです。

コンクールでは同じピアノを続けていろいろな人が弾きます。
いい音がするピアノだなと思って聴いているうちに、このピアノは誰でも弾きやすいピアノなんだなと思うこともあります。つまり極端に言えば、“猫が鍵盤の上を歩いても”いい音がしそうなピアノ。それはそれでいい楽器。
それに対して、ものすごくうまい人が弾くと大変良い音がするのに、そうでもないときはそれなりというピアノもありますよね。これもまた、別の意味でいい楽器です。

この前グラナーさんに話を聞いたとき、今回のスタインウェイは、ピアニストの気持ちがイガイガしているときに弾いたらそういう音が出るよ、気持ち良く楽しんで弾いていたら素敵な音が出るけど、と言っていました。

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さて、こちらは2次予選最終日の今日演奏した、ポーランドのアンジェイ・ヴェルチンスキ君。すごく品のある優しい音で演奏されたワルツOp.34が印象に残りました。
今回のスタインウェイは彼にとって鍵盤が軽めで、弾くのがとっても難しかったそうですが、音が一番きれいでショパンに合っていると感じたため、あえて選んだと言っていました。

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Photo: W. Grzędziński/NIFC

一方、3日目に演奏したタラセーヴィチ=ニコラーエフ君もスタインウェイを弾いていましたが、ちょっと興味深いことを言っていたのでご紹介しましょう。

「セレクションで4台のピアノを試し、スタインウェイが一番ショパンに合うピアノだと思ったので、選びました。すべてのピアノのレパートリーに合うピアノではないかもしれませんが、ショパンを弾くにはすばらしいピアノです。とくに、ペダルを踏まずに鳴らしたフォルテの音で選びました。今2次で弾いたスケルツオ3番ではこの音がとても大切になりますから。ラウンドごとで変えるという選択肢もあったのですけれど。
今回のピアノのうち、3台は世界最高水準のすばらしいピアノだと思いました。その3台がどれかは言いませんけどね…」

なんてドッキリする発言でしょう。
メーカー関係のみなさんも、もしもこれを読んでいらしたら、ドッキリしているでしょうか。ドッキリさせてすみません。
※意見には個人差があります(念のため…!)

コンクールのピアノ選び、奥が深いです。15分の中でみんないろいろなことを感じ、考えながら選んでいるんですね。

第2次予選最終日を前に

第2次予選も残すところあと1日となりました。

演奏時間は30~40分。課題曲は、バラード、スケルツォ、幻想ポロネーズ、舟歌、幻想曲から1曲、指定のポロネーズから1曲、ワルツから1曲。これらでミニマムの時間に達しない場合は、好きなショパンの作品を加えていいということになっています。ピアニストの趣味が、選曲に現れてくるステージ。作品1のロンドとノクターン第2番を加えたシシキンとか、演奏機会の少ない「変奏曲 パガニーニの想い出」を選んだオソキンス弟とか、ここでソナタ第2番をぶっこんだチョ君とか、それはもういろいろ。

このステージでは、第1次同様、詩的な作品の構成力・表現力を見ると同時に、ワルツ、ポロネーズという舞曲の演奏能力が試されます。

いろいろな演奏がありましたが、やはりポロネーズって難しいんだなとしみじみ思ってしまいました。優美で堂々としたポロネーズのステップが目に浮かぶような演奏もあれば、まるでノクターンのように歌心たっぷりに最初から最後までさらさら流れていくものもあり。いずれも説得力さえあればいいんじゃないかと思いますが、ここはショパンコンクールなので、“正しい”ポロネーズが求められるのでしょう。

その点で、ポーランド男子勢(そういえば女の子がいない)の刻むポロネーズのリズムは、どこか聴きどころがあるような気がしました(他の作品がイマイチぴんとこない人でも)。
この夏ブレハッチに電話インタビューしたとき、ポーランドでは学校でポロネーズを習うから自分も踊れるんだと言っていましたが、そういう若いころの刷り込みってやっぱり大きいでしょうね。
ちなみにこの時に聞いたお話は、家庭画報の特集内で紹介する予定です。

ポーランド男子のなかでもひときわインパクトのあるポロネーズを聴かせてくれたのが、クシシュトフ・クシァンジェク(と聞こえたけど、どう読むのだろう)君。演奏が全体的にとても個性的で、ステージに登場したときの、自転車に空気いれてるみたいなポーズのお辞儀もなかなか愛らしいです。
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ポロネーズはOp.44を演奏しましたが、キメの音のあとで思わずこぶしを握りしめるなど、それはもうポーランド魂炸裂のポロネーズでした。一音のインパクトがすごくて、それってとても価値のあることだなと思いました。少なくとも、コンサートとしては。
終演後、ショパンへの想いを尋ねると、多少モジモジしたあと、「いろいろあるけど一つ言えるのは、彼に実際に会えなかったのがすごく残念だってことですね…」。迷った末の第一声がそれって…いつもそんなことばっかり考えているのかな、なんだかいい人みたいだな、と思いました。

同じOp.44のポロネーズを弾いたアレクシア・ムザさん(ギリシア/ベネズエラ)。見た目と言い、演奏といい、なんともいえぬ魅力のある人です。ポロネーズは前進するエネルギーに溢れていて、ラテン系の髭のおじさんがドッドコ舞っている様子が目に浮かびました。
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自分の中に確かなイメージがあって弾いていることがよく伝わる演奏。ちょっと粗かったので、コンクールという場でどう評価されるのか…。

そして、大人気のジュリアンさんは、彼の美点を引き立てる選曲。ファッション、メイク含めすべての点において自分の見せ方がわかっているというところでしょうか。

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Photo:B.Sadowski/NIFC

プラスα作品には、コンクールで弾かれるのは珍しい幻想即興曲をチョイス。(ご存知の方も多いと思いますが、一般的にショパン作品の中で1、2を争う人気のこの曲、ショパンは生前発表することがなく、自分が死んだら捨ててほしいとされていた楽譜の中から友人が死後に出版した、といわれている作品です)
ちなみにジュリアンさんはカワイのSK-EXを弾いていますが、自宅でもカワイを所有しているから迷わず選んだとのこと。
1次の演奏後、「僕のカワイはとても良いピアノで、すごくハッピー。このピアノはとても繊細で、大きな音も出せればとても繊細なピアニシモも出せる。とてもうまくコントロールできる」と、嬉しそうでした。

一方、前述の通り、チョ君はプラスα演目としてソナタ第2番を選んだわけですが、曰く「プレリュードもソナタも両方弾きたかったからこうした」とのこと(3次の課題は、今回からソナタしばりではなく「ソナタまたはプレリュード全曲」となりました)。
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(1次演奏後の写真から)

チョ君にとってプレリュードはショパンの中で最も難しい作品のひとつだとのこと。ちなみに彼にとっての3大ムズいショパンは、「24のプレリュード」「幻ポロ」「バラ4」だそうです。ここにバラード4番がくいこんでくるところに、彼の一筋縄ではいかない変さを感じます(いい意味で)。

そして、ニコラーエワの孫ということで注目されている、タラセーヴィチ=ニコラーエフ。いかにもロシアな、太い音とロマンティックな歌の入り乱れた、なかなか興味深い演奏を聴かせてくれました。
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終演後バックステージで話をしていて、会話の中でこちらが「ひとつの曲の中でもまるで違う人のようにいろいろな音を出していましたね」と言ったら、なぜか、人間というものは本来多様な人格をもっているもので、それは宇宙にまでつながるなんたらかんたらみたいな、ものすごい壮大な話に発展していきました。
この興味深いコメントは後日詳しく紹介するとして、とにかく、脳内の不思議ワールドをお持ちの方だということだけ、ここではお伝えしておこうと思います。
今年8月に来日していたらしいですね。東京超楽しかったと言ってました。

他にも印象的な演奏はいろいろありました。
アムラン君の幻想ポロネーズは、私的にかなり心に響きました。
オソキンスの予想外の展開ばかり見せる演奏もやはり気になる。「これは次も聴いてみないとわからん」と思わせながらどんどん次に進んでいくタイプでしょうか。ちなみに彼の演奏のときに入ってきて前に座ったポーランド女子たちが、演奏中終始笑っていたんですが、5年前、ボジャノフの演奏中にも同じことがあったなと思いだしました。もっともこの時は、右前の顔の見える位置に座っていたけど。

さて、12日の夜にはセミファイナルに進む20名が発表されます。
楽しみだ。