ファイナル最終結果発表


第17回ショパン国際ピアノコンクールは、チョ・ソンジン君が優勝、そして各賞の受賞者は以下のとおりということで幕を閉じました。

第1位 Seong-Jin Cho
第2位 Charles Richard-Hamelin
第3位 Kate Liu
第4位 Eric Lu
第5位 Yike (Tony) Yang
第6位 Dmitry Shishkin

ファイナリスト
Aljoša Jurinić
Aimi Kobayashi
Szymon Nehring
Georgijs Osokins

ポロネーズ賞  Seong-Jin Cho
マズルカ賞  Kate Liu
ソナタ賞  Charles Richard-Hamelin
聴衆賞 Szymon Nehring

◇優勝者ガラコンサート
2015年
11月20日、21日 N響定期演奏会
11月23日 リサイタル
◇入賞者ガラコンサート
2016年
1月23日~31日

チョ君は1次からファイナルまで完成度の高い演奏を聴かせてくれましたが、なかでも3次のプレリュードは記憶に残るものでした。コンチェルトでは、オーケストラの調子がイマイチ不完全に思えるところもあったのですが、審査員はそうした周りのコンディションも考慮に入れたうえで、最終的な判断をしたのだと思います。
それにしても、お月様フェイス時代から聴いてきた日本のピアノファンにとっては、感慨深い結果だったのではないでしょうか。コンクールでの優勝はスタートラインとはいえ、あのときのあの子が、天下のショパンコンクールの覇者となったわけですからね。
私自身も、2009年浜松、2011年チャイコフスキー、2014年ルービンシュタイン、そして今回と、彼が上位入賞したコンクールをなぜか偶然すべて現地で聴いているので、その変貌ぶりを思うと感慨深いものがあります。この間徐々に口数も増え、ひねくれジョークを口走るようになり、それに伴って音楽のなかにもおもしろいエッセンスが増えていって。まさに、音楽家がオープンになってゆく過程を目の当たりにしたと感じます。
ガラコンサートでは、優勝にふさわしいピアニストであることを証明するような、ファイナルよりも正直言ってずっと生き生きしたコンチェルトを聴かせてくれました。アンコールの「英雄ポロネーズ」も、気持ちのこもったすばらしい演奏。いろいろな感情が刺激されました。この選曲にはどんな意味があるのだろう、ショパンやポーランドの聴衆への敬意が込められているのか。自身の将来を暗示しているようにも見えるぞ。
……などと、素敵回答を期待しながら、どうしてアンコールにこれを選んだのか尋ねると、「短い作品じゃないといけないし、でもノクターンじゃ暗すぎるし、プレリュードはもうエリックが弾いていたでしょ。本当はワルツが弾きたかったんだけどもう指が動かなかったから、『英雄ポロネーズ』にしただけなんだけどね」と、安定のひねくれクール回答をくれました。

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(レセプションにて。シャイボーイ、顔を隠すのが間に合いませんでした。
白ワインが好きなの?ぶどうの種類はなにが?とか聞かれ、
フランス留学がいかに少年を大人にするのか、しみじみ感じてしまいました)

さて、第2位のリシャール=アムラン氏に関して言いますと。
実は今回のコンクールの1次予選で唯一、私が次の人を聴くのをあきらめてバックステージに走った人でした。(コンクール取材でごく稀にある、超ドキドキする瞬間です。次が休憩じゃないタイミングで、面識のない“これは行く!”と思うピアニストが出てきてしまったときの葛藤……。どうしよう、どうしようと、失礼ながら次の奏者の経歴や見た目の雰囲気などをチェックして、決断するという)
アムラン氏には恩着せがましく(?)それを1次のバックステージから伝えていたのですが、そのときに「いやぁ、優勝なんてないよ」と本人に言われていたので、彼がファイナルに進んだときの私のドヤ顔は相当なものだったと思います。
いずれの結果発表でも冷静だった彼ですが、最終結果発表から数日後にお話を聞いた時は、本当に本当に嬉しそうで、幸せそうでした。話をしていてこちらも嬉しくなりました。2位という結果が、今の自分にはとても良いとも言っていました。
写真撮影のとき、舞台だとものすごく背が高そうに見えるけど近寄るとそこまででもないよねというと、そんなこと初めて言われた!それは興味深いなぁ、と驚いていました。けっこう多くの人がそう感じてると思うんだけど。

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(なつかしい、1次予選終了後のバックステージ。眼鏡をフキフキ)

ケイト・リウ、エリック・ル、トニー・ヤンの3人も、それぞれ後でお話を聞いたらとても嬉しそうでした。とくにケイトとトニーは自分の入賞に驚いていて信じられないという雰囲気。ケイトについては、マズルカ賞にも自分でものすごくびっくりしているようでしたし、トニーに至っては「もともとは2次予選を突破するのを目標にしていたし、セミまで進めたらファイナルまで滞在費を負担してもらえるからラッキーと思っていたのに」とのこと。
なんて無邪気なフィフス・プライズ・ウィナー! 前回怒りまくっていたデュモンとえらい違いです。
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(最終結果発表前も一緒にいた仲良し3人組)

そしてシシキンは、おそらくご自分でももっと上に行けると思っていたのだろうと思いますが、でも、発表後の取材にも快く応じてくれて、「家庭画報」用の撮影ではものすごいイケメンショットを提供してくださいました。
先日のコンクールのガゼッタ表紙に載ったシシキンが、ハリウッド映画の敵役でどこまでも追いかけてくるサイボーグ的な雰囲気だったので(実際に対面すると案外あたたかい感じのする人ですが)、以来私のなかで足の速いサイボーグイメージがぬけません。
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そのためもあって、ファイナルのコンチェルトを聴いているときは、「人間を愛してしまったサイボーグの切ない恋物語」が脳内展開されていて、じんわりと感動してしまいました。終演後に会ったとき、思わず「演奏から物語が見えるようだったよ」と言ってしまったのですが、どんな?とつっこまれなくてよかった。
インタビューでは、彼のインスタグラムにも登場する彼女が横に付き添っていましたが、「ディーマは、僕のショパンにはロマンティックが足りない、教えて~!ってずっと言ってたの」とすごい楽しそうに話していたので、思わず「サイボーグの切ない恋コンチェルト」の感想を伝えそうになりましたが、なんとかこらえました。

その他にも、オーケストラと呼吸のぴたりとあったザ・ポーランドなショパンのコンチェルトを聴かせてくれたネーリング氏、自由な感性で音楽を奏でていたユリニチ氏、常に予想外の音楽展開でシビレさせてくれたオソキンス氏、そして、(勝手に私が抱いていた)昔の神童イメージから大きく変貌した、明るく自由で生命力ある演奏を聴かせてくれた小林愛実さん(いろいろお話をして、このタイプの演奏家は強いしこのあともどんどんいろいろなことを吸収、成長するんだろうなと思いました)。彼らについてもいろいろ書きたいエピソードはあるのですが、長くなってしまうので、続編で。
ちなみに、真面目にやったインタビューなどに基づく諸々の記事は12月1日発売の「家庭画報」新年号で紹介しますのでお楽しみに。どこにも載せきれなかった話題、とくに1次~セミで印象に残った子の話題などは、このサイトで紹介したいと思っています。

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ところで結果発表は、10月20日の演奏終了後、日付が変わった21日の深夜に行われました。ライブ配信をご覧になっていた方はご存知かと思いますが、発表まで、本当に時間がかかりました。
審査員の海老さんによれば、彼女とアルゲリッチが採点の方法がよく理解できなくてやりなおしていたからとのことでしたが、その後にも、「過半数の審査員が1位なしでもいいのではという意見だった」こともあり、話し合いにわりと時間がかかったのではないかと思われます。
結果発表の時、公式のスタッフやカメラマンが動き出すと発表がもうそろそろだな……とわかるのですが、今回、最初に公式カメラマンが下りてきたとき、「ファイナリスト見た? もう出るかもしれないのに本人たちが会場にいなくて、前代未聞の地味で残念な結果発表になるかもだよ!」と騒いでいました。あのときは多分、集計が終わった第一段階のタイミングだったのだと思います。そこからまた時間かかったもんね……。
今回はすでに採点表も公開されましたが、17人中10人の審査員が第1位に値する10点満点を誰にも与えていないわけで、“ショパンコンクールの権威”というものに想いを馳せずにいられませぬ。

審査は1次からファイナルまでの印象を総合して判断することになっています。弟子には投票することができませんので、3人の弟子がファイナルに進出していたダン・タイ・ソンは、10人中7人にしか点数を入れられません。
ファイナルの採点表を見て一段と目を引くのが、フィリップ・アントルモンがチョ君に「1点」しか入れていないところかな。よほど好みに合わなかったんでしょうね。
まあ、それはそれとして、みんないろいろいっていたユンディが、かなり良心的というか、自分が良いと思ったものに良い点を純粋に入れているんだろうなという審査をしているこのに、私は安心しました。けっこうみんな事前に、ユンディはライバルになりそうな同じアジア人のピアニストには厳しいのではないかとか、いろいろ言っていたじゃないですか…。でも、まったくまともな採点をしているように、私には見えます(自分が案外ユンディと趣味が合っているからそう思うだけなのか? でも、まだ細かく見ていませんが、採点にも一貫性ある感じがします)

審査の欠席については、もちろん結果に影響を与えることだし、尊敬された行動でないのではとは感じましたが、逆に彼の審査員席での行動がやたら報告されたりしているのを見ると、なんだかなぁと思ってしまいました。実際、たとえばロシアのおじいちゃん大先生審査員が審査中に携帯いじったり居眠りしてたりしても、だれも大騒ぎして書きこまないでしょう。人気者のユンディも大変ねと。
ついでに、真面目に聴いているふりをしてひどいことしてる審査員のほうがよほど非難されるべきだと思うけどなあ、と思ってしまいました(別に今回の審査員にそういう方がいるという意味ではありません!)。
いずれにしても、ご本人に直接事情を聞いていないので私はなんとも。
ちなみに、ユンディがしばしばコンチェルトの時、審査員席でノリノリで指揮の動きをしていて、そういう演奏は気に入っていたのだろうという話を何度か聞いたことがありましたが、たまたまその後、ユンディもいる雑談の場に居合わせたとき、「連日長時間でどうしても眠気が襲ってくる。そういうときは指揮の動きで眠気対策」みたいなことを言っていたので、もしや指揮の動きをするときは、気に入っているの逆だったのか?と思いました。そのとき横に座っていたアルゲリッチも、超うけて同意していました。
というわけで、何事も、本人に聞いてみないと真相はわからないものです。聞いてもわからないこともあるけど。

最後は話が審査の話にずれてしまいましたが、このあとも、締切原稿を書き進めながら、こぼれ話や思ったことがあれば公開していきたいと思います。