第2次予選最終日を前に


第2次予選も残すところあと1日となりました。

演奏時間は30~40分。課題曲は、バラード、スケルツォ、幻想ポロネーズ、舟歌、幻想曲から1曲、指定のポロネーズから1曲、ワルツから1曲。これらでミニマムの時間に達しない場合は、好きなショパンの作品を加えていいということになっています。ピアニストの趣味が、選曲に現れてくるステージ。作品1のロンドとノクターン第2番を加えたシシキンとか、演奏機会の少ない「変奏曲 パガニーニの想い出」を選んだオソキンス弟とか、ここでソナタ第2番をぶっこんだチョ君とか、それはもういろいろ。

このステージでは、第1次同様、詩的な作品の構成力・表現力を見ると同時に、ワルツ、ポロネーズという舞曲の演奏能力が試されます。

いろいろな演奏がありましたが、やはりポロネーズって難しいんだなとしみじみ思ってしまいました。優美で堂々としたポロネーズのステップが目に浮かぶような演奏もあれば、まるでノクターンのように歌心たっぷりに最初から最後までさらさら流れていくものもあり。いずれも説得力さえあればいいんじゃないかと思いますが、ここはショパンコンクールなので、“正しい”ポロネーズが求められるのでしょう。

その点で、ポーランド男子勢(そういえば女の子がいない)の刻むポロネーズのリズムは、どこか聴きどころがあるような気がしました(他の作品がイマイチぴんとこない人でも)。
この夏ブレハッチに電話インタビューしたとき、ポーランドでは学校でポロネーズを習うから自分も踊れるんだと言っていましたが、そういう若いころの刷り込みってやっぱり大きいでしょうね。
ちなみにこの時に聞いたお話は、家庭画報の特集内で紹介する予定です。

ポーランド男子のなかでもひときわインパクトのあるポロネーズを聴かせてくれたのが、クシシュトフ・クシァンジェク(と聞こえたけど、どう読むのだろう)君。演奏が全体的にとても個性的で、ステージに登場したときの、自転車に空気いれてるみたいなポーズのお辞儀もなかなか愛らしいです。
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ポロネーズはOp.44を演奏しましたが、キメの音のあとで思わずこぶしを握りしめるなど、それはもうポーランド魂炸裂のポロネーズでした。一音のインパクトがすごくて、それってとても価値のあることだなと思いました。少なくとも、コンサートとしては。
終演後、ショパンへの想いを尋ねると、多少モジモジしたあと、「いろいろあるけど一つ言えるのは、彼に実際に会えなかったのがすごく残念だってことですね…」。迷った末の第一声がそれって…いつもそんなことばっかり考えているのかな、なんだかいい人みたいだな、と思いました。

同じOp.44のポロネーズを弾いたアレクシア・ムザさん(ギリシア/ベネズエラ)。見た目と言い、演奏といい、なんともいえぬ魅力のある人です。ポロネーズは前進するエネルギーに溢れていて、ラテン系の髭のおじさんがドッドコ舞っている様子が目に浮かびました。
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自分の中に確かなイメージがあって弾いていることがよく伝わる演奏。ちょっと粗かったので、コンクールという場でどう評価されるのか…。

そして、大人気のジュリアンさんは、彼の美点を引き立てる選曲。ファッション、メイク含めすべての点において自分の見せ方がわかっているというところでしょうか。

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Photo:B.Sadowski/NIFC

プラスα作品には、コンクールで弾かれるのは珍しい幻想即興曲をチョイス。(ご存知の方も多いと思いますが、一般的にショパン作品の中で1、2を争う人気のこの曲、ショパンは生前発表することがなく、自分が死んだら捨ててほしいとされていた楽譜の中から友人が死後に出版した、といわれている作品です)
ちなみにジュリアンさんはカワイのSK-EXを弾いていますが、自宅でもカワイを所有しているから迷わず選んだとのこと。
1次の演奏後、「僕のカワイはとても良いピアノで、すごくハッピー。このピアノはとても繊細で、大きな音も出せればとても繊細なピアニシモも出せる。とてもうまくコントロールできる」と、嬉しそうでした。

一方、前述の通り、チョ君はプラスα演目としてソナタ第2番を選んだわけですが、曰く「プレリュードもソナタも両方弾きたかったからこうした」とのこと(3次の課題は、今回からソナタしばりではなく「ソナタまたはプレリュード全曲」となりました)。
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(1次演奏後の写真から)

チョ君にとってプレリュードはショパンの中で最も難しい作品のひとつだとのこと。ちなみに彼にとっての3大ムズいショパンは、「24のプレリュード」「幻ポロ」「バラ4」だそうです。ここにバラード4番がくいこんでくるところに、彼の一筋縄ではいかない変さを感じます(いい意味で)。

そして、ニコラーエワの孫ということで注目されている、タラセーヴィチ=ニコラーエフ。いかにもロシアな、太い音とロマンティックな歌の入り乱れた、なかなか興味深い演奏を聴かせてくれました。
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終演後バックステージで話をしていて、会話の中でこちらが「ひとつの曲の中でもまるで違う人のようにいろいろな音を出していましたね」と言ったら、なぜか、人間というものは本来多様な人格をもっているもので、それは宇宙にまでつながるなんたらかんたらみたいな、ものすごい壮大な話に発展していきました。
この興味深いコメントは後日詳しく紹介するとして、とにかく、脳内の不思議ワールドをお持ちの方だということだけ、ここではお伝えしておこうと思います。
今年8月に来日していたらしいですね。東京超楽しかったと言ってました。

他にも印象的な演奏はいろいろありました。
アムラン君の幻想ポロネーズは、私的にかなり心に響きました。
オソキンスの予想外の展開ばかり見せる演奏もやはり気になる。「これは次も聴いてみないとわからん」と思わせながらどんどん次に進んでいくタイプでしょうか。ちなみに彼の演奏のときに入ってきて前に座ったポーランド女子たちが、演奏中終始笑っていたんですが、5年前、ボジャノフの演奏中にも同じことがあったなと思いだしました。もっともこの時は、右前の顔の見える位置に座っていたけど。

さて、12日の夜にはセミファイナルに進む20名が発表されます。
楽しみだ。