昨日のコンクール新聞の記事から。
スタインウェイ&サンズ、アーティストサービス担当グラナーさんのインタビューです。
《あるジャーナリストにスタインウェイの典型的な音はどんな音かと聞かれて、こう答えました──「私にはわかりません」。》
アルゲリッチなら典型的なアルゲリッチらしい、ブレハッチなら典型的なブレハッチらしい音がするピアノであるべきというのが、グラナーさんの意味するところです。
コンクールでは同じピアノを続けていろいろな人が弾きます。
いい音がするピアノだなと思って聴いているうちに、このピアノは誰でも弾きやすいピアノなんだなと思うこともあります。つまり極端に言えば、“猫が鍵盤の上を歩いても”いい音がしそうなピアノ。それはそれでいい楽器。
それに対して、ものすごくうまい人が弾くと大変良い音がするのに、そうでもないときはそれなりというピアノもありますよね。これもまた、別の意味でいい楽器です。
この前グラナーさんに話を聞いたとき、今回のスタインウェイは、ピアニストの気持ちがイガイガしているときに弾いたらそういう音が出るよ、気持ち良く楽しんで弾いていたら素敵な音が出るけど、と言っていました。
さて、こちらは2次予選最終日の今日演奏した、ポーランドのアンジェイ・ヴェルチンスキ君。すごく品のある優しい音で演奏されたワルツOp.34が印象に残りました。
今回のスタインウェイは彼にとって鍵盤が軽めで、弾くのがとっても難しかったそうですが、音が一番きれいでショパンに合っていると感じたため、あえて選んだと言っていました。
一方、3日目に演奏したタラセーヴィチ=ニコラーエフ君もスタインウェイを弾いていましたが、ちょっと興味深いことを言っていたのでご紹介しましょう。
「セレクションで4台のピアノを試し、スタインウェイが一番ショパンに合うピアノだと思ったので、選びました。すべてのピアノのレパートリーに合うピアノではないかもしれませんが、ショパンを弾くにはすばらしいピアノです。とくに、ペダルを踏まずに鳴らしたフォルテの音で選びました。今2次で弾いたスケルツオ3番ではこの音がとても大切になりますから。ラウンドごとで変えるという選択肢もあったのですけれど。
今回のピアノのうち、3台は世界最高水準のすばらしいピアノだと思いました。その3台がどれかは言いませんけどね…」
なんてドッキリする発言でしょう。
メーカー関係のみなさんも、もしもこれを読んでいらしたら、ドッキリしているでしょうか。ドッキリさせてすみません。
※意見には個人差があります(念のため…!)
コンクールのピアノ選び、奥が深いです。15分の中でみんないろいろなことを感じ、考えながら選んでいるんですね。