アーティスティックディレクター、イディトさんインタビュー

今夜いよいよファイナル最後の演奏があり、その後夜遅くに結果発表が行われますが、その前に、コンクールのアーティスティックディレクター、イディト・ズビさんのインタビューをご紹介します。一部ちょっと際どいコメントのような気もするのですが、せっかくお話ししてくださったので、結果が出る前に掲載したいと思います。

◇◇◇
─このコンクールの正式な名称は、「The Arthur Rubinstein International Piano Master Competition」ですね。この“マスター”という言葉にはやはり意味があるのですか?

このコンクールに出場することが許された全てのピアニストは、すでにピアノの“マスター”であるという意味が込められています。すでに演奏活動をしている人、演奏活動をするに値する能力を持っている人が参加するコンクールです。若くてもすでに世界で演奏活動をしている人もいますし、若いころに幸運を掴めなくて歳を重ね、今演奏活動をしている人ももちろん参加しています。

─イディトさんは審査員ではないとは思いますが、お聞きします。審査員の間に審査方針についての共通の認識のようなものはあるのでしょうか?

わかりません。一つ言えるのは、審査員はお互いに意見交換をしてはいけないことになっているということです。そして、私が彼らと一緒にいる限りは、彼らが何か一つの方針を持っているという印象はありません。誰か輝きをもったピアニストがいれば、審査員の意見はおのずと一致するし、それは同時に聴衆の意見とも一致するということなのではないでしょうか。前回のトリフォノフが優勝したときはまさにその状態でした。今回もそうなってくれるといいと思っています。

─そういう意味では、1次の審査結果は聴衆のリアクションとわりと重なっていた感じがしましたが、2次の後は結果発表のときにブーイングも起きるなど、そうでもありませんでしたね。それもあって、審査の方向性がどういうものなのか少しわからないなと思ったところがあるのですが。

それについては、単に2次になったときにはここの聴衆はすでに好きなコンテスタントに
気持ちが入っていて、よりエモーショナルな反応をしたというだけだと思いますけどね。それに対して、審査員はいつでも客観的で、できる限り専門家としての姿勢を保つべきです。ここの聴衆はとてもあたたかいですが、幸い専門家ではありません。聴衆が全員専門家だったら……むしろいろいろ難しいですよね。

─このコンクールにこんなにも実力のあるピアニストが集まるのはなぜでしょうか? 多くのいわゆる大きなコンクールは、旅費も宿泊もほぼ全部サポートしてくれるものが多いですよね。一方でこのコンクールは、コンテスタントは基本的には部屋を二人でシェアし、一人部屋を希望する場合は自己負担が必要ですし(※部屋にはアップライトピアノがあり、決められた時間内で練習できます。ホテルの部屋をシェアする場合は無料、一人部屋を希望する場合は1泊100ドル弱を自己負担するそう。2次に進んだら、一人になった者同士で部屋をまとめられますが、さすがにファイナルになると1人部屋になります)、音楽院での練習もほとんどアップライトピアノしかないということで、条件としてはなかなか厳しいところもあると思うのです。

そう? 一人の部屋を希望しなければ宿泊も無料で、わざわざ出かけて行かなくてもいつでも部屋で練習できて、友達もできるし、状況はとても恵まれていると思うけど! 多くの人がお互いを知っていますから、一緒に宿泊するのも問題ないでしょうし。とはいえ、普段グランドピアノに慣れていればアップライトで練習するのはちょっと辛いだろうというのは確かですね。ただ、そういう場合は、グランドピアノのあるショップやプライベートな家を見つけて弾かせてもらっている人もいるみたいです。旅費も、最高で500ドルサポートしています。
私たちは残念ながら36人分のグランドピアノを用意して部屋に入れることはできませんが、状況は回を重ねるごとにかなり改善されています。今回は、入賞者の副賞として、これまでで最も多くのコンサートを用意しています。入賞賞金だけがコンクールの目的ではありませんよね。コンクール事務局として海外のコンサートをアレンジするのは簡単なことではないのですが、できる限りのつながりを駆使してコンサートを作りました。
とはいえ私たちのコンクール事務局はお金がたくさんあるわけではありませんし、スタッフもたった3人しかいません。もしかしたら多くのコンクールほど十分なサポートはないかもしれない…それでもみんなが受ける理由は、なんでしょうね。いろいろなコンクールを見て比べているあなたにむしろ教えてほしいです。ホスピタリティと温かさ、でしょうかね。

─コンクールの規定について、前年の8月以降審査員の弟子である人は参加できず、さらに過去の生徒にも投票できないというのは、結構厳しいルールですね。自分の生徒には投票できないというルールはよく聴きますが。

私がこのコンクールに携わって11年ですが、このルールは以前からありました。この規定には、プラスとマイナスの面があります。プラスの面は、おかげで不正が行われないこと。ある審査員が、他の審査員の生徒に投票しなくては悪いかもしれない、投票しなかったら嫌われて自分を次の審査員に呼んでくれないかもしれない……などと感じて変な決断を下すことはなくなります。過去の生徒に対しては、もしも投票してもカウントされません。できるだけ審査をクリーンにする試みです。とはいえ、不正をしようと思えば方法はあるかもしれませんが、私はそんな審査員はいないと信じています。
マイナスがあるとすれば、審査員がみなすばらしい教育者であるために、すばらしいピアニスト達がたくさん参加できないということなのです。

─とても厳密なルールがあっても、どうしてもコンクールの結果が出たあとは審査の“政治”が話題になることもありますよね。

私自身に直接言う人はいませんが、このコンクールについてもそういう噂はあるのかもしれません。私が言えるのは、このコンクールには100%政治はないということ。なぜこんなことが言えるかというと、私は誰も疑っていないし、誰も疑いたくないからです。
審査員の先生たちはお互いに意見交換をしてはいけないことにはなっていますが、同じホテルに泊まって行動を共にしていますし、夜はバーで一緒に飲んだりもするでしょう。私はそこにいませんし、それを取り締まる警察がいるわけでもありませんから、何もできません。
それともう一つの問題は、誰も人の心の中は覗けないということです。誰かが、このコンテスタントは上昇志向のある人物の生徒だと思い、そういう上昇志向のある人物同士がつながっていれば……。14人も審査員がいれば、もしかしたら完全に正直でない人もいるかもしれない。わかりません。彼らはみんな人間ですから、いつでも完全に正しくいられないかもしれない。
私自身はいつでも正直でいたいと思っています。でも残念ながらすべてをコントロールできるわけではないのです。でも、このコンクールは他の某コンクールよりそういう噂が少ないと信じています。より大きいコンクールであればあるほど、やっぱり結果についてそういう噂が出てしまうものなのだと思いますが。
有名になればなるほど、敵は増えるものです。敵はみんな、相手を傷つけようとするものです。こんな話も聞いたことがあります。あるコンクールの事務局に、予備審査を通過したコンテスタントについて、その人は犯罪者だから参加させてはいけないというメールがとどいたことがあるそうです。その1席をとりたい別のピアニストの陰謀なのか、わかりません。こういう話は本当に嫌ですね。

─11年間このコンクールの歴史を見てきて、変化は感じますか?
このコンクールはもはや私の生活の一部のようなものです。でも、基本的にはコンクールというものは好きではありません。すばらしいピアニストと途中でお別れしなくてはいけないのは本当に辛いからです。そのため、せめてこのコンクールをできるだけフェスティバルの雰囲気にして、競い合うという空気をなくすよう心掛けています。ただ一人で練習して、一人で部屋で夜を過ごし、そのうえ結果もよくなかったなどという経験はしてほしくないのです。
室内楽を入れたのはここ数回のことで、管楽器との五重奏は今回が初めてです。室内楽の課題は、ピアニストの互いに聴く能力を確認することもできるうえ、演奏者にとってリフレッシュになるのではないかと思います。毎回新しいことを取り入れたいと思っています。

─今回は40周年ということで、何か特別なことはあったのでしょうか?
審査員はいつもより多く、2人コンテスタントを多く受け入れましたが、それ以外はほとんど同じですね。オープニングコンサートは豪華にやりました。それと、賞金は前回よりずっと上がりました。例えば前回は優勝賞金25000ドルでしたが、今回は40000ドルです。

─ルービンシュタインについて思い出はありますか?
とても良く覚えていることがあります。ニューヨークで勉強していた頃、彼がマスタークラスにやってきました。その中で話していたことのほとんどはあまり覚えていないのですが、その時の生徒に、「若者よ、恋をしなさい。そうすればあなたの演奏はずっと良くなりますよ」と言った、そのことだけはっきり覚えています(笑)。
それからイスラエルに移り、ラジオ局のプロデューサーとしてこのコンクールを録音していて、彼の奥さまにインタビューをしました。ルービンシュタイン自身はインタビューを嫌がったので。ルービンシュタインは、とても生き生きとした、人生を愛している人でしたね。すばらしい人物でした。

 

交通事故とラフマニノフ(ファイナル最終ラウンド)

ファイナル二巡目は、  Asher Fisch指揮、イスラエル・フィルとの共演です。
外には何台も中継車が停まり、会場もさすがにほぼ満席。
ここまでなんとなくゆるい感じで続いてきたこのコンクールも、いよいよクライマックスを迎えているのだなということがわかります。

今日は、普段のコンクールではなかなか起きない驚くことがありました。
ここまでスタインウェイを弾いていた今日の奏者3人が、全員ピアノをファツィオリに変更したのです。オーケストラと合わせるにあたってピアノを変える人がチラホラいるということはわりとありますが、さすがにこんなにゴッソリ変更になるというのは、なかなかないこと……。
コラフェリーチェさんなどは、ラフマニノフに合わせて変えたいとわりと早い段階から決めていたようですが、バリシェフスキーさん、スティーヴン・リンさんあたりは、当日のリハーサルをファツィオリで弾いてみてから、迷いに迷って、変更を決めたみたいです。
それはもちろん、できることならここまで弾き慣れたピアノで最後までいけたほうが良いですもんね。それでもやはりこの広いホールでは、自然に鳴り、素直なまるい音がでるファツィオリが味方になると感じたということでしょうか。確かに一巡目、マリア・マゾさんがモーツァルトを弾いた時、調律師の越智さんが言っていたとおりの、自然で素直に鳴っている感じがするなと思いました。
(とはいえこのモーツァルトは1階で聴いていて、2階で聴いたときの音の通り具合は確認できませんでしたが。なぜか毎回あてがわれる席が違うので)

それで、今日聴いてみた雑感。
全員ファツィオリにスイッチして、確かにどのピアニストのステージでも楽器が無理なく鳴って音が通ってきたという感じがしました。良い楽器だなぁとしみじみ。爆発力のあるイスラエル・フィルの音に対抗するには、やはりこのくらい音にエネルギーのある楽器のほうが良いのかもしれないなと。
が、楽器に助けられた人と、逆にアラが目立ってしまった人がいたような気がしないでもない……。

RIMG3085
プロコフィエフの2番で安定した良い演奏を聴かせたのはスティーヴン氏。
バリシェフスキー氏は前回と違って断然音が良く聴こえたけど、なんだか初めて聴く種類の、じっとりとしたプロコフィエフでした。二人が弾いたのは同じ作品とは思えないほど、印象が違う仕上がり。おもしろいね。

コラフェリーチェ氏は、相変わらずのびのびやりたいように弾いていてよかったんだけど、正直、彼のタッチでファツィオリを弾くならもう少し違うレパートリーが聴いてみたかったような気もしないでもない。何が聴いてみたかったかなぁ、とか演奏中に考えてしまいました。ごめんなさいね。
でもご本人曰く、ラフマニノフの3番はこれまで演奏した経験もあってとても好きな曲だということ。
さらに終演後おもしろいエピソードを聞かせてくれまして。
以前、車で大好きなこの作品を聴いていて交通事故にあったことがあるそうで。車がぶつかって、自分たちは急いで車の外に逃げたんだけど、ラフマニノフの3番だけがずっと車から流れ続けていて、その場面がすごく印象に残っていると言っていました。
なんつー思い出。

RIMG3087
今回ちょっとウロウロしてからふらっとバックステージに行ってみたら、コラフェリーチェ氏は既にお着替え済みでした。足元が、今流行りらしい、しかしあれでどうやって普通に歩けるのかどうしてもよくわからない、ヒモを通していないコンバースでした。
さすが今どきの若者です。

さて、いよいよ明日29日は最終日。イスラエル時間で19時半から3人が演奏したあと、最終の結果が発表されます。

ファイナルが始まりました

ファイナル、室内楽の二日間が終わり、コンチェルトの一巡目が始まりました。

ところで室内楽の課題について振り返って説明しますと、これは指定のピアノ四重奏またはピアノと木管のための五重奏作品から選んで演奏するというものでした。
“ピアノと木管のための五重奏”を導入したのは今年が初めてだったとのこと。今回エントリーしていた36人のコンテスタントのうち、木管のほうを選んでいたのはわずか3人!
幸い、6人のファイナリストのうちコラフェリーチェさんがベートーヴェンのピアノと木管のための五重奏を選んでいたため、共演のNew Israel Woodwind Quintetのみなさんにも無事に出番がありました。

最近コンクールの課題曲に室内楽を取り入れるところが増えていますね。
共演の方々にインタビューをしていても感じるのは、結局短い時間のリハーサルでは、音楽的なものを一緒に練り上げるということまではどうしたってできないということ。そうなるとここで試されるのは、コミュニケーション能力、そして、他の楽器とのバランスを聴いて、自分の音をコントロールする技術、なのでしょうね。
その意味で、スティーヴン・リン君とチョ君は、いけてるなぁと、私は思いました。
特にチョ君のヴィオラ奏者さんからの愛され度はすごかった。
チョ君の終演後、客席で知らないおじいさんから、「君は彼と知り合いなのかい?すばらしかったねぇ。私は今の演奏を聴いて、そのままその場でとろけてしまいそうだったよ」と声をかけられました。
年季の入ったジイサンまでもとろけさせる男。シャイボーイ、やるね!

さて、コンチェルトの話に移りましょう。
課題曲は古典派の協奏曲、モーツァルトの20~27番、ベートーヴェンの1、2番から選ぶというものです。共演はAvner Biron指揮イスラエル・カメラータ・エルサレム。そして会場は一気に広い場所に移ります。

RIMG2981 RIMG2983
客席数は2100ほどと、東京で言えばサントリーホールと変わりませんが、ものすごく横幅が広く奥行きがあり、バルコニー状になっていないため2階席の前の方に座ってもステージを遠く感じます。ホールのデザインもすごく変わっていて、こういうのを何て呼んだらいいのかよくわかりません。宇宙船みたいな感じ。1階の方は、かなり大き目の升席みたいにブロックでわかれています(もちろん椅子はあります)。
後方の席は残念ながらガラ空きです。コンクールのファイナルでお客さんがいっぱいじゃないのって、初めて見たかも…。二巡目のほうはプログラムも華やかだしいっぱいになるのでしょうか。
ちなみに審査員たちは2階席の一番前の列に座っています。
RIMG2988
(ステージからの風景。ステージの天上も響きを助けようという気持ちが感じられない形状)

さて、最初のバリシェフスキーさんが登場しまして、モーツァルトです。
ああ、この人相変わらずフルフェイスのヘルメットをかぶったような、豊かな毛髪と髭。そしてファイナルの夜の公演でもシャツ姿、裾をパンツにインしないジャズピアニスト的スタイルなのねと思いながら、ホールでどんな音がするのか楽しみに待っていると……

あら、全然ピアノの音が聴こえない。
オーケストラはまあ、少し遠いけどまともに聴こえるのですが、ピアノの音はどこかに反射してもんやり届いているという印象。例えるなら、東京国際フォーラムのホールA(5000席)の2階のだいぶ後ろの席で聴いているみたいです(って、例えがわかりにくいか)。
ちなみに私が今日座っていたのは、審査員の3列後ろです。
こんなふうにしか聴こえないホールで一体審査員はどうやって審査するんだろう?これじゃあミスしたか否か、オーケストラと合っているか否か以外は判断のしようがないじゃないかと、本気で思いました。途中からは、耳のペラペラの部分を指で起こして聴いたくらいです。これやるとけっこう聴こえが変わるんですよね。だから織田裕二とか、めちゃくちゃいろんな音がよく聞えているんだろうなと思います。

いろいろモヤモヤした気持ちのまま、次のスティーヴン・リンさんのベートーヴェン1番へ。
あれ、けっこう聴こえる。やっぱりスティーヴン氏くらい音が出せる人は、こういう場所でもけっこうちゃんと遠くまで届くんだな。でもまだやっぱり、薄いビニール一枚隔てて聴いているような気分。

そして、同じベートーヴェンの1番で、今度はコラフェリーチェ君。
うわー、ぜんぜん音が通ってくるじゃないの…。
もちろん、サントリーホールの2階席で聴くような感じに綺麗に聴こえるまではいきませんが、ちゃんと細かいニュアンスも聴き取れ、“薄いビニール”的な感じもなくなり。
結局、ピアニストの出す音の違いだったということがよくわかりました。音響の良いホールでないからこそ、技術やセンスの違いがここまで明白に表れてしまう。恐るべし、音響の悪いホール。
コラフェリーチェ君、前進するような良い演奏で、少し荒削りっぽいところもありましたが、これだけ音が違うとね…。
ちなみに今日は全員スタインウェイですから、同じピアノです。

とはいえ、あくまでこれは私の耳で聴いた主観によるものですので、他の方がどう思うのかはわかりません。まあ、他にも同様の意見をちらほら聞きましたが。

RIMG2984
終演後のコラフェリーチェ君。先生と一緒に。
ベートーヴェンの1番は、子供の頃初めてオーケストラと共演した、思い出のピアノ協奏曲なのだそう。ここにはコンペティションをしに来ているつもりではなく、ただ演奏をしに来ているだけだ、演奏中は何も考えずただ音楽に没頭するようにしている、と、18歳にして落ち着いたコメントでした。
一方の先生は、弟子のコンクールを聴くなんて自分で出る以上にストレスがたまる! やきもきして見ているだけで自分では何もできないんだから! と言っていましたが、なんだか嬉しそうでした。

さて、明日は一巡目の残りの3人。
そして1日間をあけ、28、29日で最後の協奏曲と結果発表が行われます。

 

ファツィオリ調律師さんインタビュー

続いては、今回のルービンシュタインコンクールで
ファツィオリの調律を担当している越智晃さん。

RIMG2960
越智さんはこれまでにも、ファツィオリが参入するようになって以降のショパンコンクール、チャイコフスキーコンクールなどの舞台で調律を担当しています。パオロ・ファツィオリ社長がその腕を信頼している才能と技術の持ち主であり、大きな現場を任されているお方。
当初スタインウェイで10年以上調律師として仕事をし、その後ファツィオリに移るという経歴をお持ちなので、両楽器のことをよくご存知です。
というわけで、さっそくインタビューをご紹介しましょう。

◇◇◇

─今回のファツィオリは、前回優勝したトリフォノフさんが昨年12月に選定し、会場に入れてからもアドバイスを受けつつ調整した楽器ということですね。オープニングコンサートではトリフォノフさん自身この楽器を弾いていて、やはりファツィオリを見事に弾きこなしているなという感じがしましたが。

彼は、ファツィオリからピアニシモをすごくきれいに出してくれますからね。加えて新しい楽器では、フォルテも充分に出るようになっていますし。ファツィオリの魅力を最もよく引き出してくれるピアニストだと思います。弾き慣れていますから、それも大きいと思います。
コンクールのピアノについて彼が最初に言ったのは、今回のスタインウェイは鍵盤が深く、ファツィオリのほうはどうしても浅く感じるということでした。多くの人はスタンウェイに慣れているから、ファツィオリも深めにしたほうがいいだろうということで、スタインウェイと同じほど深くはしませんでしたが、いつも仕上げるより0.5ミリくらい深く仕上げました。

─今回のピアノのキャラクターはどのようなものでしょうか?

やはりこれまでのファツィオリと一番違うのは、パワーがついたということ。そしてそのおかげでソロからコンチェルトまで、オールマイティに対応できる楽器になったということです。以前はコンチェルトになるとちょっと弱いかもしれないと思うところがあり、いつも問題意識として念頭に置いていたのですが、大きく改善されています。
今回、ボリュームの必要な作品がレパートリーにあるからファツィオリを弾きたいというコンテスタントがいるところを見ると、実際にだいぶ印象も変わったのだろうと思っています。

─ファツィオリのピアノには、何か特別なコントロール方法というのがあるのでしょうか。

社長のパオロが「ピアニストがピアノと格闘しているところは見たくない」と考えて新しいピアノを創ることにしたのが、ファツィオリの始まりです。それだけに、このピアノは力まなくても音が出るのですが、普段一生懸命弾かないと音量、音質とも出しにくいピアノに慣れていると、どうしてもファツィオリを前にしても力んで弾こうとする方が多いようには思います。ファツィオリをあまり弾いたことがない方だと戸惑ってしまうようなところは、あるかもしれません。そのあたりは、この楽器を弾いてもらえる機会をどんどん増やしていく他に解消する方法はないかなと思います。
とはいえ調律師の使命は、これまでファツィオリを弾いたことがないというピアニストにも気持ち良く弾いてもらえるようにすることだとは思っていますが。

─自らファツィオリを選んだピアニストでも、完璧にコントロールできているピアニストと、いまいち扱いきれていないように見えるピアニストがいると感じることがあります。実際話を聞いて、扱いにはコツがあって自分はしっくりきたと言う人と、扱いに特別な違いは感じないと即答する人とに分かれて、興味深いと思いました。

その感想の違いは、初めて弾いたファツィオリの個体にもよるかもしれません。ファツィオリのピアノはどんどん新しくなっていて、特にフルコンに関してはすごく良くなってきていますから。最近のピアノだと、扱いに大きな違いは感じないのかもしれません。僕が調整するときも、例えばスタインウェイを扱うときと同じ感覚でやっています。

─パオロ社長からは、何か調律についてアドバイスがあったりするのですか?

特にないですね(笑)。ですがとにかく、2010年のショパンコンクールからたった4年間で、いろいろな改良を加え、この状態にまでもってきてくれたことにすごく感謝しています。これまでのファツィオリ特有の良さは保ちながら、コンチェルトのときなどにグワッと押し出す底力が必要だということで、フレームの形をはじめいろいろなことが変わっています。いろいろな角度からよく見てみると、以前の楽器と比べて驚くほど変わっていますよ。
とはいえこのピアノはまだ新しい楽器なので、あと1、2年もするとますます良くなっているでしょう。3年後のルービンシュタインコンクールあたりではすごく良い状態になっていると思うんですが。

─それじゃあこのピアノを所有している地元のディーラーさんがこのままとっておいてくれれば……。

まあ、売るでしょうね(笑)。
とはいえ、今後の大きなコンクールに向けて、すでに良いなと思う楽器の候補はあります。今回の経験をもとに、またいろいろ調整をしていこうと思います。

─今回は、1次で36人中5人のコンテスタントがファツィオリを選びました。それぞれのリクエストに対応されたりするのでしょうか。

なぜか終盤に固まってしまったので、うまく対応できるか心配していましたが、幸い好みに大きな違いがあるピアニストが連続して登場することはなかったのでよかったです。たとえばキム・ジヨンさんは軽い鍵盤を好みましたが、ホ・ジェウォンさんは重いほうがいいということでした。ジェウォンさんの演奏の前には、鍵盤のハンマー側にひとつひとつ重りをつけて対応しました。ショパンコンクールの時のフランソワ・デュモンさんにした対応と同様です。デュモンさんの時ほど重くはしませんでしたが、今回は1グラムほど重くして対応しました。彼はずいぶん満足してくれていたようです。

─その作業にはどのくらい時間がかかるのですか?

1台に貼り付けるのにだいたい20分くらいですから、時間的にはたいしたことはないんです。それに、今回、スタインウェイの調律師さんが朝に作業をするというのでこちらは夜に作業をしていたため、睡眠時間さえけずればいくらでも時間をとることができ、じっくり作業できました。

─音に対してはみなさんからどんなリクエストがありましたか?

高音をブライトにしてほしいというリクエストが多かったです。会場が全然響かない空間だったので、少し調整を加えました。

─ファツィオリ最初の演奏者の後に会場でお会いしたら、のどから心臓が飛び出しそうとおっしゃっていましたが、やはり演奏中は緊張されるのですか?

そうですね、だんだん慣れてきましたが(笑)、さすがに一人目は緊張しました。ピアノが原因で失敗などにつながれば、自分の任務が果たせていないことになりますから、トラブルが起こらないようにと祈るような気持ちです。最初の演奏が始まるまでは、あのホールで楽器がどう鳴るのかもわかりません。何度かステージが続くうちに、これなら大丈夫かなと自分を納得させる要素が増えていくので、だんだん緊張もやわらいでいきます。

─どんなふうに弾いてもらえると嬉しいですか?

そうですねぇ……もちろんあまり汚い音は出してほしくないですが。でもファツィオリを選ぶピアニストには、あんまりガッツリ弾いて汚い音を出すというような人がいないので、助かります(笑)。

─調律とは、越智さんにとってどういう仕事なのでしょうか?

調律することによって、そのピアノを自分の音にするということは、したくないんです。楽器がこの音になりたいという方向に持って行くというか。楽器と自分との対話という感じですね。“こうしてやろう”という気持ちを起こすと、楽器って絶対に背中を向けてしまいます。僕が理想としているイメージは、ダンパーペダルを踏んで止音されていないときに、風が吹いたらフワ~っと弦が鳴り出すくらいの、ストレスのかかっていない状態です。楽器が鳴りたいように鳴ることができるようにしてあげるのが調律師の務めだといつも考えています。

─そこにピアニストがやって来て、思い思いに弾くわけですよね。

そうですね。ですから、ピアノをできるだけ無垢の状態でわたしてあげることが必要です。その後は、ピアニストが自分で色をつけていくわけです。まっさらな状態のピアノを提供できたときには、一番ちゃんと仕事をできたなという感じがします。

◇◇◇

越智さんは現代作品にご立腹の様子ではありませんでしたが、それには、コンクールの舞台でファツィオリを選ぶピアニストのタイプに一定の特徴があったからなのかもしれません。もちろん、弾いた人数にも違いがありましたけど。どうなんでしょうか…。
ちなみに越智さん、調律師になりたいと思ったのは小5のときのことで、小6のときには初めてのマイチューニングハンマーを持ち、家のピアノをいじるようになっていたのだということ。チューニングハンマーを握るべくして生まれてきた人物なのでしょう。

全然関係ありませんが、越智さんと雑談をしていると、たびたび「〇〇さんって〇〇にソックリじゃない?」という発言があり、この例えがとても秀逸です。
いつか許可を得て、「Mr.オチの例え語録」を公開したいところであります。

スタインウェイ調律師さんインタビュー

さて、いよいよファイナルが始まりましたが、ここからが長い。
とはいえファイナルに入ると1日にピアノが弾かれる時間はぐっと減りますから、調律師さんたちにも少しだけ時間には余裕が出てくるようです(その分緊張感はアップするかもしれませんが)。
というわけで、各メーカーの調律師さんにお話を聞いてみます。

まずは今回スタインウェイの調律を担当している、
ウルリヒ・ゲルハルツ(Ulrich Gerhartz)さん。
RIMG2910

ゲルハルツさんは、ロンドンのスタインウェイホールのディレクター、そしてスタインウェイUKアーティストサービスのディレクターでもあります。
つまり調律師でありながら、普段からコンサートのアレンジやアーティストケアも担当しているということ。リーズ国際ピアノコンクールなどではひとりで両方の仕事をしているそうです。

で、私もこれまでさまざまな調律師さんとお話をする機会がありましたが、なんだかいままでにいないタイプでした。インタビューをお読みいただけば、おわかりいただけるかと思いますので、どうぞ。

◇◇◇

─コンクールのピアノを調律することの難しさはどんなところにありますか? やはり、コンサートでの調律とは違いますか?

違いますね。ピアノコンクール、特に1次や2次の段階では1日にたくさんの演奏が行われますし、そのそれぞれの演奏で、ピアノに普通のリサイタル以上の負荷がかかります。コンクールというのは、それぞれのピアニストが自分のできることを最大限披露しようとする場ですから。
今回のコンクールで本当に不運だったのは、イスラエル人作曲家による現代作品が、ピアノのイントネーションを損なうような書き方で作られた作品だったことです。フォルティシモの部分が多く、ピアニストが楽譜に書かれた通りに弾こうとするあまり、限度を越えた音を出そうとすることが多いのです。例えば、声楽家が1曲歌って声にダメージを受けるような作品を歌えば、その後声の調子は悪くなってしまいますよね。それと同じことです。
より成熟したピアニストたちは、ピアノにダメージを与えない限界を感じてそれ以上のフォルティシモは出しませんが。ピアノの音というのは、ある一定以上の音量になれば、必ず騒音になってしまうのです。
普段のリサイタルと違い、コンクールでは朝調律をして、2人のピアニストが2時間演奏したあと、少し調律の時間が与えられ、また再び演奏です。その限られた時間の中で、メカニック、音色、そしてもちろん調律をできるだけ良い状態に整えなくてはいけません。
そんな状況ですから、この現代作品が多く弾かれる日は、調律は狂わないにしても、一日の終わりに近づけば近づくほど音色が変わってしまいました。

─今回は、1次で36人中31人のピアニストがスタインウェイを選びました。そうなるとやはり、それぞれの要望に合わせるのというのは難しいですよね。

時間がありませんから不可能です。誰かに合わせてしまえば他のピアニストが苦しむことになります。できるのは、全員のコメントを聞いて、全員のプラスになるような状態に整えることです。まずは場所と音響に合わせ、続いてはレパートリーに合わせる必要が出てきますが、そこは多くのコンテスタントのレパートリーの傾向に合わせていくしかないのです。

─今回使用されているピアノは2013年製のハンブルク・スタインウェイだそうですが、このピアノのキャラクターはどのようなものですか?

豊かな音量と、基本的にクリアな音色を持っています。会場の響きはとてもドライで、ピアノの音をまったく助けてくれません。昨年12月にハンブルクで選定されてすぐにイスラエルに運ばれましたが、そこからはずっとテル・アビブのディーラーのショールームに置かれていました。5月8~9日にかけてホールに持ち込まれ、そこから11日のピアノセレクションまでに状態を整えなくてはいけませんでした。とても慌ただしかったのですが、しっかりと良い状態になったので、喜ばしく思っています。輝かしい音でありながら音楽的な部分を持っているピアノは、多くのピアニストにとってコントロールしやすいので、そういう音を目指しています。

─ステージが進むにつれてピアノの状態が良くなっているように感じます。

コンクールの期間は、一つのホールに置かれたピアノが数年間で弾かれるのと同じくらいの量使用されることになりますから、極めて特別な状況です。一日良い状態の音が保たれるように努力はしていますが、当然一日が終わると音が変わってしまい、それを毎朝もとに戻す作業をしていく中で、音がだんだん馴染んでくるのでしょう。

─ところで、コンクールでご自分が調律したピアノが弾かれているときはどのような気分なのですか? 緊張したりするのでしょうか?

私はこれまでたくさんのコンクールで調律を担当していますし、時にはアーティストケアまで自分で行っている立場なので、平静でいられますね。各コンテスタントの演奏を注意深く聴くようにしていますが、耳をフレッシュな状態で保つため、全ての演奏は聴きません。全員の演奏をすべて聴いてしまうと耳が疲れてしまいますから。
ごくまれにあるのは、ナーバスになるというより、怒りに近い感覚を持つことですね……。それは、自分の調律したピアノが、そのピアノが弾かれるべきでない方法で弾かれているときです。構造上それ以上押さえつけられるべきでない方法で鍵盤が叩かれたり、ピアニストがあるべきトーンを見つけられていなかったりすると、音はひどいものになってしまいます。そんなときの気分は最悪で、本当にガッカリしてしまいます。ピアニストに、ピアノから離れてほしいとすら思ってしまいます。私はそのピアノが持っている能力も、どう触れるべきかもわかっているわけですから。そのピアノが持つトーンを見つけてもらうことがとても大切なんです。
もちろん普段は、演奏、そして演奏家の傍でとても特別な思いで聴いていますよ。良い音を引き出してくれたときには最高の気分です。ピアニストが、そのピアノから良い音を引き出すことができる人かどうかは、そうですね……30秒見ていればわかります。

─ご自身でもピアノを弾かれるのですか?

私はもちろんピアニストではありませんが、毎日何時間もピアノの鍵盤に触れていますから、リーズ国際ピアノコンクールの審査委員長、ファニー・ウォーターマン女史にもタッチをほめられたくらいで。全ての音をしっかり整えるために、そして鍵盤の反応を確認するためには、繊細に鍵盤に触れる能力を持っている必要があります。

─……なにかこれまでインタビューしてきた調律師さんとは少し視点が違って、とても興味深くお話を伺いました。

そうですか。私は自分ができることをやっているだけなのですけどね! もうスタインウェイの仕事は28年やっていて、20年以上コンサートグランドピアノ関係を担当し、たくさんのアーティストと仕事をしてきました。自分が世話をしたコンサートグランドピアノは、私にとって家族のようなものです。それぞれに個性を持った彼らを最高の状態にしてあげることが私の仕事です。内田光子、アンドラーシュ・シフ……さまざまなピアニストがやってきますが、彼らピアニストのためにピアノに生命を吹き込まなければいけません。とても大変な仕事で、単純にピアノを調律するという作業を越えているような気がしています。

◇◇◇

…いかがでしょうか。

なんだかすごく、ピアノ目線なんですよね。
ピアニストのためにという想いは当然心の中にあるのでしょうけれど、なんだかどちらかというと、すごくピアノ寄りの目線なんですよね。
私も大音量で叩かれているピアノの音を聴いていると悲しくなるほうなんですが、ゲルハルツさんの場合は、もはやご立腹ということで。おもしろいなぁ。自分の家族がひどい扱いを受けているみたいな気持ちになるんでしょうかね。
10分ほどの短いインタビューでしたが、多くのことを語ってくださいました。

ここからは、室内楽、異なる2つのオーケストラとの共演が続き、ピアノにも細かな調整が加えられていくことでしょう。インターネットの配信だとなかなか聴き取り切れないものもあるかもしれませんが、ぜひその変化にご注目ください。

ファイナリスト発表!ここまでを振り返ります

ルービンシュタインコンクール、ファイナリストが発表されました。

アントニ・バリシェフスキー Antonii BARYSHEVSKYI(ウクライナ)
スティーヴン・リン Steven LIN(アメリカ)
レオナルド・コラフェリーチェLeonardo COLAFELICE(イタリア)
チョ・ソンジン Seong-Jin CHOO(韓国)
アンドレイス・オソキンス Andrejs OSOKINS(ラトヴィア)
マリア・マゾ Maria MAZO(ロシア)

ファイナルでは、室内楽、そして2回の協奏曲の3ステージが行われます。
発表後はすぐに、翌日から始まる室内楽にむけてリハーサルが行われたようです。
空き日がないと大変です…。
RIMG2942

室内楽の演奏順はこちら
23日は14時から、24日は11時からで3人ずつ演奏します。

さて、ファイナリストが発表された後ではありますが、ここまでバックステージなどで撮ってきた写真やコメントを、ドバッとご紹介したいと思います。

まずはステージ1のバックステージから。

img20140514_160247
一昨年の浜コンでセミファイナリストとなったオシプ・ニキフォロフさん。
演奏順を選ぶのが最後になって、初日2番目に弾きましたが、一番目の人と同じピアノとは思えないあたたかい音が出ていて、この若者、やはりいいもの持ってるな!と思いました。聴衆もすごく盛り上がっていました。ご本人は、ステージでは自分の音がよく聴こえなかった…音のバランスはどうだった?と不安げでしたが。
ステージ2に通過しなかったのが残念だったピアニストのひとりです。

img20140514_171726
初日3番目に登場した須藤梨菜さん。
堂々としたプロコフィエフのソナタ6番が印象的でした。「普通はもう少し後のステージにもってくるようなレパートリーかもしれないけれど、大好きな作品なので思い切って最初のステージにもってきた」とのこと。
そういえばステージ1の後半で、隣に座っていたドイツ人のジャーナリストと誰がよかった?という話をしていたとき「僕、なんだかよくわからないけど彼女の音がけっこう好きだったんだよね」とちょっと恥ずかしそうに言っていました。
なぜ照れる!

img20140516_120436
中桐望さんは、豊かにピアノを鳴らす力強いバッハ=ブゾーニのシャコンヌから、やわらかく繊細なシューマン、ラヴェルへと運んでゆくプログラム。やはり彼女もステージ上で音のバランスが聴きとりにくかったと言っていました。今回の会場は、客席で聴こえる感じとステージで聴こえる感じがだいぶ違うようで、そんな話をよく聞きます。
各コンテスタントには、ホテルからホールへの送り迎えなどをするボランティアさんがつくのですが、中桐さんお世話係のおばさんが、「彼女すごくかわいいわよねぇ。私、養子にしたいんだけど」と言ってきて、どう反応したらよいのかちょっと困りました。
かわいいから養子、という発想がすごい。

img20140518_172634
ニコライ・ホジャイノフ君は、多くのコンテスタントが華やかなプログラムを持ってくる中で、例によって独自路線を貫きました。ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」でこれでもかというほど静かに始め、ラフマニノフのソナタ1番でじわっと盛り上げてゆく感じ。
次のステージではクライバーンで聴いてしみじみいいなと思ったハイドンを弾く予定だったので、ぜひまた聴きたかったのですが、残念です。
とはいえ、彼は8月に来日が決まっています。サントリーホールでの読響サマーフェスティバル「三大協奏曲」(8月20日)、浜離宮朝日ホールでのリサイタル(8月25日)で聴くことができるので、楽しみに待ちましょう。
リサイタルについては、後日ジャパン・アーツのHPにインタビューを寄稿する予定です。

RIMG2891
チョ君が優勝した2009年の浜コンで第3位だったホ・ジェウォンさんも、のびのびとした演奏で良かったんですが、ステージ2に進まずちょっと残念でした。昨日会場で会ったら「明日からエルサレムに行く!」と言っていました。うらやましいな。
彼はファツィオリのピアノを選んでいましたが、かなりダイナミックに鳴らしても音がキツくならないところなど、ピアノにうまく助けられているなと思いながら聴いていました。
実際あとで話を聞いてみると、自分のレパートリーはつかみにくい和音をフォルテで鳴らすものが多いので、そういうときに今回の新しいスタインウェイだとメタリックな音になりそうなリスクを感じたためファツィオリにしたとのこと。
バックステージには、現代作品の作曲家、ユスポフ氏が来ていて「これまで聴いた中で一番自分がイメージしていた演奏に近かった! 録音したくなったらぜひ連絡して」と言っていました。果たして録音は実現するのでしょうか。

IMG_20140519_182127
工藤レイチェル奈帆美さん。
彼女をショパンコンクールで聴いたのは2005年のことだから、9年も前のことか! あれからいろんなことがあったなぁ、と、勝手に感傷に浸りながら演奏を聴いていました。工藤さんは日本と韓国のハーフで、アメリカで生まれたんだそうです。
彼女もファツィオリを選んだひとり。今回のファツィオリはかなり音のボリュームがある楽器だと思っていましたが、彼女は不必要に鳴らしまくることなく、楽器のまろやかな音を活かし、女性的でしなやかな演奏を聴かせてくれました。どんな種類の弱音が出るかを重視した結果、ファツィオリを選んだとのこと。「楽器がインスピレーションをくれた。一緒に音楽をしてくれると思った」と言っていました。

img20140519_221330
マリア・マゾさんは、今回ファイナリストの中で唯一ファツィオリを選んでいるピアニスト。
ステージ1では弾き始めてすぐに、なんと見事にファツィオリの扱いをわかっている人なのだ!と感じました。演奏に少し乱れるところがあっても、それをカバーするに十分の魅力のある音。一方、それで自分が期待しすぎたせいか、ステージ2のときは、何かステージ1とは違う様子だったというか、音の印象も違ったように感じましたが、どうなのでしょう。
ところで彼女の登場時の話。
名前がコールされて拍手が起きたあと、マリアさんが出てくるわ、と思って注視していた舞台袖から、ひょっこりヒゲ面の男性が出てきて、もんのすごくギョッとしました。あまりの衝撃に、しばらく笑いが止まらなくて苦労しました。
後で聞いたらそれは彼女の旦那さんだったそうです。このシーンは配信では映っていなかったのかなー。

続いてステージ2から。

DSC_0156
個性的な衣装、そしてそれに似合った個性的な演奏で楽しませてくれたイリヤ・コンドラティエフさん。ステージ衣装も私服も個性的ですけどファッションにこだわりがあるの?と聞いたら、特にないと言っていました。特になくてアレになるってすごいよなー。髪はモスクワで切っているそうです。モスクワの美容院イケてるな。ホジャイノフのクルクルも、モスクワ美容院製ですもんね(※彼のクルクルはパーマではありませんが)。

ファイナルには進出できませんでしたが、聴衆からの人気も高く、結果発表後はたくさんの人から声をかけられていました。そしてご本人もかなり納得のいっていない模様で、いろいろ胸の内を熱く語ってくれました。一応、日本からもみんな応援していたよと伝えてみましたが、少しは励みになったでしょうか…。早くまた元気を取り戻してほしいです。

DSC_0162
尾崎未空さん、ステージ1の後には「演奏できて楽しかった!」と晴れやかな表情でしたが、ステージ2のあとはいろいろ思うところがあったようで、「ショパンはもっともっと音楽的に練り上げなくてはいけないと、こういう場所で弾いてみて改めて感じた」というコメント。こういう大舞台の経験を繰り返して、ひとつひとつのレパートリーが徐々に手の内に入っていくのですね。そんな成長の瞬間を目の当たりにした気分でした。
そういえばこのステージ2の演奏中、少し舞台から目を離してもう一度未空さんを見たら、まるっと肩が出ていました。あれ、こんなセクシーなドレス着てたっけ?と思ったら、どうやら弾いている間に肩の部分が落ちてきたらしいことがわかって、「それ以上落ちるなー!」とハラハラしながら見ていました。そんな状況でも、しっかり落ち着いて最後まで弾ききりました。
そういえば、漫画「ピアノの森」でもそんな場面ありましたね。あれは肩ひもが切れちゃうっていう話でしたけど。
未空さん、見た目の印象はかわいらしいですが、お話ししてみるとなんだかいい感じにクールで、おもしろい18歳!

img20140522_131843
そして、吉田友昭さん。
「展覧会の絵がこんなにかぶったのは予想外だった」と言っていましたが、確かに今回、ステージ2で3人も「展覧会の絵」を選んでいる人がいたのは驚きでした。それも18歳(Yuton Sunさん)、24歳(Suh Hyung-Minさん)、31歳(よっしだ君)…ということで、それぞれの人生のステージ(?)に似合った演奏を聴き比べることになりました。吉田さんの演奏は、さすが最年長かつ1児の父、しんみりと力強く、アル中を克服した後、酸いも甘いも知って意識のはっきりしたムソルグスキーといった感じでした。
ちなみに先にご紹介した、結果に不満だったコンドラティエフさん、「なんでヨシダが通らなかったのか意味がわからない!」としきりに言っていました。
DSC_0149
以前からお知り合いだというふたり。

 

そして結果発表後の様子から。

RIMG2937
ものすごく爽やかな笑顔のキム・ジヨンさん。
抽選会でお見かけしたときから、ちょっとクラシックのピアニストとは違う、ギラギラした元気溌剌の気配を醸していた彼。演奏もとても健康的。現代作品はとくにスポーティーな印象。
人を惹きつけるキラキラ感を持っている方ですね。ムフッと大きく息を吐きながらファツィオリのピアノをリンゴン鳴らし、この人きっと懸垂とかやったらめちゃくちゃ回数いくんだろうなと、全然関係ないことを思ったりしながら聴いていました。

RIMG2941
こちらも、結果がダメだったとは思えない満面の笑み、マルチン・コジャクさん。
私はこれまで彼の演奏を、2010年ショパンコンクール、2013年クライバーンコンクールと聴くことがありましたが、間違いなく今回が一番よかったです。相変わらず、見かけによらず荒々しい部分もありましたが、のってくると、こんなに丁寧に歌える人だったっけ? 自信満々に弾く人だったっけ?と、まるで昔とは別人を見ているような演奏。これはこの一年で何かあったに違いない…と思い聞いてみたところ、とくにブラームスやベートーヴェンばかりを選んでいた前回のクライバーンに比べて、バルトークやラフマニノフ、ドビュッシーとレパートリーを大幅に変えたのは大きいかもしれないとのこと。そしてそれだけではなく、彼はこの1年ほどで心の平和を手に入れたのだろうなと思いました。人生なるようになるさ! その時の気持ちにしたがって生きればいいのさ! と、4年前ショパンコンクールのバックステージで見かけたときとは別人のような幸せそうな表情で語っていました。
聴衆からの人気は絶大。彼がファイナル進出できないとわかった瞬間、聴衆からは大ブーイング。コジャクさん自身も「こんなに温かい聴衆は初めて。すごくいい経験だったので結果は気にしていない」と、結果にブーイングが起きたという状況自体をずいぶん楽しんでいたようでした。
ちなみに、昨年クライバーンコンクールの取材をしていたときのブログで書きましたが、彼はクライバーンのステージで執拗なほどに鍵盤を拭きまくっていて、どうしちゃったんだろうと気になったものでした。今回はそれがなかったので、もう今なら聞いてもいいかなと尋ねてみたところ「実はあの後いろんな人からそう言われたんだけど、あのピアノの鍵盤はまるで湖のように濡れていて、滑るから拭いていただけなんだよ。今回の鍵盤はすごくドライだった」とのこと。
いや…あの拭き方は、鍵盤が汗で濡れてるとかそういうレベルじゃなかっただろ…と思ったんですが、ご本人曰くそういうことです。

そして最後に、ファイナル進出となったチョ・ソンジンさん。

RIMG2934
また隠れる。

RIMG2938
さらに隠れる。

RIMG2939
そして、目を逸らして1枚。リアクションからして本当に写真が嫌だとは思えないんですよ。こういう写真もあるので。
RIMG2933
(頼んでもいないのにカメラ目線)

写真を撮らせないで困らせることに快感を覚えてしまっているのでないといいんですが。
やはり、シャイボーイの心理はわかりません。
肝心の演奏ですが、ステージ1、ステージ2とも、みずみずしくドラマティック、正統的な中に自由さのある音楽が強い印象を残し、聴衆からも大きな人気を集めていました。とくに、バルトークの「野外にて」とリストのロ短調ソナタは、ガッツリ心に届きました。また聴きたい!

長くなりましたが、ここまでツイッターでばらばらとつぶやいていた情報も含め、一気にまとめて書いてみました。
これから5日間にわたるファイナル、引き続きすばらしい演奏を楽しみにしましょう!

ステージ2、通過者と演奏順

昨日夜遅く、ルービンシュタインコンクール、
ステージ2に進む16名の参加者が発表されました。

stage2

審査方法は、各審査員が次のステージに進むべきと思う16人と、予備としてmaybeの3人を選び、集計するというシンプルなスタイル。審査委員長のアリエ・ヴァルディ氏が通過者の名前を読み上げ、コンテスタントたちが登壇します。
RIMG2903

昨夜11時すぎまでおこなわれていた結果発表から一夜、日をあけることなくステージ2が始まります。通過者が後半に集中したので、中盤以降に登場した人も今日いきなり弾くことになります。

日本勢、尾崎未空さん、吉田友昭さん、そして工藤レイチェル奈帆美さんとかなり残ってます。ファツィオリを弾いた人も5人中3人が通過。若い可能性を秘めたピアニストと、成熟したピアニスト、両方が半々くらいという感じでしょうか。楽しみな顔ぶれです!

一方、次のステージも聴いてみたいと思っていた何人かのピアニストが残らず、残念に思ったり、事情を聞いて驚いたりする部分もありましたが、これもコンクールの常ですね。また別のステージで聴けることを楽しみに。

さて、ステージ2は、ステージ1より少し長い50~60分のリサイタル。
課題曲はステージ1と同様とても自由。どんな演奏が飛び出すでしょうか。

テルアビブの人々、そして選曲について考えたこと


ここテル・アビブの街にはとにかくネコが多いです。
人間より多いんじゃないか?というくらい、頻繁に猫が出没します。
ネコ好きの人なら、いちいちつっかかって前に進めないだろうというくらい、味のあるネコさんがあちこちに。ホールのエントランスはネコさんのたまり場のようで、夕刻になるとだいたい集合しています。

ところでここでテル・アビブについて改めてご紹介。
イスラエルという国は、東側に、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地エルサレムがあることでも知られていますね。
一方のテル・アビブは地中海に面した西側に位置する、イスラエル最大の都市です。
国連ではイスラエルの首都はテル・アビブとしていますが、イスラエル側は、首都はエルサレムだと主張しているとのこと。
ご存知の通り、地域によっては宗教的、政治的問題を抱えていて、治安も悪いです。
今回イスラエルを訪れるにあたってどんな街だろうかとうっかり“イスラエル”のワードでGoogle画像検索をしてしまったところ、ものすごく陰惨な画像がたくさんヒットしてしまいましたので、みなさんくれぐれも試さないように。
テル・アビブは治安も良く安全です。なので、テル・アビブで検索すれば問題なかったんですが…。

テル・アビブにはどこまでも続く美しいビーチがあり、この季節には特に、休暇を過ごす長期滞在の観光客も多く見られます。緑も多く、人は親切で、それぞれが良い感じに自由に(自己中に?)生きているという印象。
DSC_0110

外国人にとって少し驚きなのは、ユダヤ教の「安息日」(シャバト)の習慣。金曜日の日没から土曜日がそれにあたります。
そのため、ホールもお客さんが増えるのは金曜と土曜。日曜日の日中は、平日以上に人が少なかったです。

安息日には機械を操作したり、火を扱ったりしてはいけないそうです。そのためたくさんのレストランなどが閉まっているのはもちろん、例えばエレベーターが各階停止の自動運転になっていたり(ボタンを押すことによる電気の反応で火花が発生することがダメらしい)、はたまた聞くところによると、ホテルのロビーにあるエスプレッソマシンのスイッチも入れられないようになっていたりするとかで、初めての滞在だと驚くような習慣に遭遇します。
そういえば、金曜、土曜とアパートの階段の電気が消えて真っ暗でかなり怖かったのですが、これもシャバトゆえか…。それともたまたま消えていただけなのか。

一方、安息日はどうした?というくらい、年中無休24時間営業のスーパーも多いので便利なところもあります。しかもそれを教えてくれる店員さんが大体ものすごく得意気です。こういうときには、イスラエルの人かわいいなと思います。

ただ、イスラエルの人の自由さ、無邪気さをかわいいと思えないのが、ホールでのマナーです。配信をご覧の方はお気づきかもしれませんが、携帯が鳴ることはしょっちゅう。
ある日など、となりのおじさんはワルトシュタインに合わせて貧乏ゆすりをしているし、前に座っているおばさんは膝の上に置いたビニール袋を意味もなく手でモミモミして音を立てつづけているし、その横には演奏中に何度もひそひそ話を続ける人がいて、それをなんと前述のモミモミおばさんが注意するなど、無法地帯状態でした。
いつもそうだというわけではないのですが、おかげでこの滞在中で、雑音を排除して演奏だけに集中する能力が鍛えられそうです。

さて、そんなルービンシュタインコンクールも、ステージ1の5日目が終了。
明日19日が最終日となり、直後に結果発表が予定されています。

ここまで聴いてきて感じていることは、つくづく、プログラムの選び方って重要だなということ。派手で聴衆の反応を得やすいとか、技巧や音楽性で審査員にアピールできるとか、そういう意味でももちろん重要だとは思いますが、やっぱりピアニストの個性に合ったプログラムであることが大切だなぁとつくづく。
以前ご紹介したとおり、このコンクールのリサイタル課題曲はかなり自由で、「ステージ1、ステージ2のいずれかで、古典派、ロマン派、既定の現代作品が入っていればあとはなんでもいい」というものです。
つまり、苦手な分野があれば、ある程度“ごまかせる”わけで。
それなのに、例えば(あくまで私の視点から見てですが)あまり色気のあるタイプと思えないのにやたらロマン派や近代作品から妖艶系のプログラムを選んでいたり、あまり音の粒を揃えて弾くのが得意そうに見えないのに、バッハやモーツァルトばかりのプログラムを組んでいたり。いや、もちろんこれはあくまで私がそう感じるというだけで、実際には見事にその作品向きの技術をお持ちなのかもしれませんけど、やっぱり、もったいないなと思ってしまいます。
だからといっていかにも“課題曲に古典派が入っていたからできるだけ短くて華やかなものを弾いてごまかします”みたいなのがミエミエでも、微妙ですけどね。
プログラムの組み立てって難しいですね。

まあ、これはコンクールに限った話ではないのかもしれません。普段の演奏会でも、ご本人が得意と思っている作品と、聴く側がこの人にはこれが合うと思うものが違うというのは、時々あること。
ポートレイトなどで、他人が選ぶ写真と本人が気に入っている写真が違うというのと似たようなものかもしれません。というより、何のジャンルにおいてもあることですよね。
前に誰かが言っていました。人は自分のことには絶対に客観的になれないと。
その事実を心の片隅で覚えておくか否かの違いは大きいと思いますが。

というわけで、最後はだいぶ話がそれましたが、明日はいよいよステージ1最終日&結果発表です。みなさんが次のステージも聴きたいと思ったピアニストは残ってくれるでしょうか…。

続いて今回のファツィオリのお話

さて、続いて今日はファツィオリのピアノの出所のお話。

ファツィオリは、ルービンシュタインコンクールには初めての参加です。
今回ステージに乗っているピアノは、ファツィオリのF278。
ファツィオリには、普通のフルコンサートグランドよりも少し大きい
F308(つまり全長が3m8cm)という型があることが知られていますが、
今回使用されているのは通常サイズのフルコンです。
製造年は2013年。
ピアノフォルティの公式ブログでも紹介されている通り、
昨年12月にトリフォノフが、イタリア、サチーレの工房で選定した楽器です。
前回のコンクールで演奏したときの経験をもとに慎重に選ばれ、
その後改良を重ねられたとのこと。

ファツィオリといえば、前述の特大サイズをはじめ、4本目のペダルなど、
革新的な技術をどんどん開発し取り入れてゆくメーカーというイメージがありますが、
実際、「ピアノが完成することはない」というのがパオロ・ファツィオリ社長の信念だとか。

パオロさんに前にお話をうかがったとき、
「ピアニストがピアノと格闘しているのを見るのが耐えられなかった。
もっと楽に豊かな音が出るピアノが創りたかった」
とおっしゃっていたのが印象に残っています。
この方、普段からなかなか自由というか、70歳近いのに“少年”みたいな人で、
確かにこの人なら普通の人間が想像もしないような思い切ったことをしそう、
という独特の気配をお持ちです…。

実際にはもちろんパオロさんの思いつきだけで事が進んでいるわけではなく、
科学的な研究チームとともにさまざまな開発がなされているそうですが。

そんなわけで今回ステージに乗っているファツィオリも、
「今までとはかなり違う」のだそうです。

2010年のショパンコンクール、2011年のチャイコフスキーコンクールでの経験をもとに、
大きな改良が加えられ、あの時のピアノとはフレームの形をはじめ
いろいろなことが変わっているとのこと。

ほとんどのコンクールの調律、アーティストケアは日本のチームが担当していますが、
そんな日本側からの意見が大いに取り入れられ、大胆な改良が施されたらしいです。
結果、ファツィオリ特有の良さは残しつつ、
オーケストラとの共演などでも負けない底力が充分についた、とは、
ショパンコンクール、チャイコフスキーコンクール、
そして今回も調律を担当している越智晃さんのお話。

いよいよステージ1の5日目、6日目にはファツィオリのピアノが登場する予定です。
ピアニストたちがどう弾きこなすのか、楽しみであります!

まずはスタインウェイの出所について


今日はバックステージで、ファツィオリの方、スタインウェイの方、
イスラエルの“伝説の”調律師さんによるトークセッションが行われていました。
演奏のインターミッションの間にライブ配信されていたものの
アーカイヴがこちらで見られます。(1時間46分あたりから)

個々のピアニストのリクエストにいかに対応するかというテーマも出てきます。
こういうトークセッションは初めての企画だったらしいです。

さて、今日はまずこれまでのところ連日ステージに登場している
スタインウェイのピアノについての情報を。


今回のステージで使用されているスタインウェイのピアノは、
昨年2013年に製造された、新しいハンブルク・スタインウェイだそうです。
審査委員長のアリエ・ヴァルディさんが、
ご自身の門下生(日本人とイタリア人の生徒さん)を同伴して、
一緒に選定したとのこと。
実際の出場者に近い年代のピアニストの意見を聞こうという目的なんでしょうかね。

そのピアノを地元テル・アビブで一番大きなディーラーさんが購入。
今回はそのディーラーさんからの提供で使用しているとのこと。
そしてコンクール終了後には売られてゆくことが、ほぼ決まっているらしいです。
というのも、
「ピアニストが全力で弾いて、スタインウェイのトップ調律師が休憩のたびに調律する。
コンクール期間中これが何度も何度も繰り返され、
コンクールが終わるころにはこのピアノのコンディションは最高になっているはず!」
…だから、とのこと。
終わるころに最高の状態って! と心の中で軽くつっこみましたが、
もちろん今もすでにいい状態のものが、もっと良くなるということですからね!

このお話を聞かせてくれたのは、
上記のトークセッションで真ん中に座ってお話をしているゲリット・グラナーさん。
わからないことがあったらなんでも聞いて!僕の足のサイズでもなんでも教えるよ!
と言ってくれました。(デカそう)

グラナーさんはアーティストのケアを担当されていて、
どこのコンクールに行っても必ずお見かけします。
確か、2011年のチャイコフスキーコンクール某局のドキュメンタリー番組でも、
ロマノフスキーのリハーサル中のシーンの中で、
グラナーさんがロマさまと話している様子が放送されていました。
その時「ロマノフスキーさんが、ファンの男性から話しかけられています」みたいな
微妙なナレーションが流れていて、
リハの邪魔をしてアドバイスするファンの人みたいな扱いをうけているグラナーさんに
ちょっとウケた記憶が。

さて、今のところまだファツィオリのピアノは登場していませんね。
どうやら選んだコンテスタントが最後の2日あたりに集中しているようで。
今しばらく、登場を楽しみに待ちましょう!