交通事故とラフマニノフ(ファイナル最終ラウンド)


ファイナル二巡目は、  Asher Fisch指揮、イスラエル・フィルとの共演です。
外には何台も中継車が停まり、会場もさすがにほぼ満席。
ここまでなんとなくゆるい感じで続いてきたこのコンクールも、いよいよクライマックスを迎えているのだなということがわかります。

今日は、普段のコンクールではなかなか起きない驚くことがありました。
ここまでスタインウェイを弾いていた今日の奏者3人が、全員ピアノをファツィオリに変更したのです。オーケストラと合わせるにあたってピアノを変える人がチラホラいるということはわりとありますが、さすがにこんなにゴッソリ変更になるというのは、なかなかないこと……。
コラフェリーチェさんなどは、ラフマニノフに合わせて変えたいとわりと早い段階から決めていたようですが、バリシェフスキーさん、スティーヴン・リンさんあたりは、当日のリハーサルをファツィオリで弾いてみてから、迷いに迷って、変更を決めたみたいです。
それはもちろん、できることならここまで弾き慣れたピアノで最後までいけたほうが良いですもんね。それでもやはりこの広いホールでは、自然に鳴り、素直なまるい音がでるファツィオリが味方になると感じたということでしょうか。確かに一巡目、マリア・マゾさんがモーツァルトを弾いた時、調律師の越智さんが言っていたとおりの、自然で素直に鳴っている感じがするなと思いました。
(とはいえこのモーツァルトは1階で聴いていて、2階で聴いたときの音の通り具合は確認できませんでしたが。なぜか毎回あてがわれる席が違うので)

それで、今日聴いてみた雑感。
全員ファツィオリにスイッチして、確かにどのピアニストのステージでも楽器が無理なく鳴って音が通ってきたという感じがしました。良い楽器だなぁとしみじみ。爆発力のあるイスラエル・フィルの音に対抗するには、やはりこのくらい音にエネルギーのある楽器のほうが良いのかもしれないなと。
が、楽器に助けられた人と、逆にアラが目立ってしまった人がいたような気がしないでもない……。

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プロコフィエフの2番で安定した良い演奏を聴かせたのはスティーヴン氏。
バリシェフスキー氏は前回と違って断然音が良く聴こえたけど、なんだか初めて聴く種類の、じっとりとしたプロコフィエフでした。二人が弾いたのは同じ作品とは思えないほど、印象が違う仕上がり。おもしろいね。

コラフェリーチェ氏は、相変わらずのびのびやりたいように弾いていてよかったんだけど、正直、彼のタッチでファツィオリを弾くならもう少し違うレパートリーが聴いてみたかったような気もしないでもない。何が聴いてみたかったかなぁ、とか演奏中に考えてしまいました。ごめんなさいね。
でもご本人曰く、ラフマニノフの3番はこれまで演奏した経験もあってとても好きな曲だということ。
さらに終演後おもしろいエピソードを聞かせてくれまして。
以前、車で大好きなこの作品を聴いていて交通事故にあったことがあるそうで。車がぶつかって、自分たちは急いで車の外に逃げたんだけど、ラフマニノフの3番だけがずっと車から流れ続けていて、その場面がすごく印象に残っていると言っていました。
なんつー思い出。

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今回ちょっとウロウロしてからふらっとバックステージに行ってみたら、コラフェリーチェ氏は既にお着替え済みでした。足元が、今流行りらしい、しかしあれでどうやって普通に歩けるのかどうしてもよくわからない、ヒモを通していないコンバースでした。
さすが今どきの若者です。

さて、いよいよ明日29日は最終日。イスラエル時間で19時半から3人が演奏したあと、最終の結果が発表されます。