ファイナリスト発表!ここまでを振り返ります


ルービンシュタインコンクール、ファイナリストが発表されました。

アントニ・バリシェフスキー Antonii BARYSHEVSKYI(ウクライナ)
スティーヴン・リン Steven LIN(アメリカ)
レオナルド・コラフェリーチェLeonardo COLAFELICE(イタリア)
チョ・ソンジン Seong-Jin CHOO(韓国)
アンドレイス・オソキンス Andrejs OSOKINS(ラトヴィア)
マリア・マゾ Maria MAZO(ロシア)

ファイナルでは、室内楽、そして2回の協奏曲の3ステージが行われます。
発表後はすぐに、翌日から始まる室内楽にむけてリハーサルが行われたようです。
空き日がないと大変です…。
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室内楽の演奏順はこちら
23日は14時から、24日は11時からで3人ずつ演奏します。

さて、ファイナリストが発表された後ではありますが、ここまでバックステージなどで撮ってきた写真やコメントを、ドバッとご紹介したいと思います。

まずはステージ1のバックステージから。

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一昨年の浜コンでセミファイナリストとなったオシプ・ニキフォロフさん。
演奏順を選ぶのが最後になって、初日2番目に弾きましたが、一番目の人と同じピアノとは思えないあたたかい音が出ていて、この若者、やはりいいもの持ってるな!と思いました。聴衆もすごく盛り上がっていました。ご本人は、ステージでは自分の音がよく聴こえなかった…音のバランスはどうだった?と不安げでしたが。
ステージ2に通過しなかったのが残念だったピアニストのひとりです。

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初日3番目に登場した須藤梨菜さん。
堂々としたプロコフィエフのソナタ6番が印象的でした。「普通はもう少し後のステージにもってくるようなレパートリーかもしれないけれど、大好きな作品なので思い切って最初のステージにもってきた」とのこと。
そういえばステージ1の後半で、隣に座っていたドイツ人のジャーナリストと誰がよかった?という話をしていたとき「僕、なんだかよくわからないけど彼女の音がけっこう好きだったんだよね」とちょっと恥ずかしそうに言っていました。
なぜ照れる!

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中桐望さんは、豊かにピアノを鳴らす力強いバッハ=ブゾーニのシャコンヌから、やわらかく繊細なシューマン、ラヴェルへと運んでゆくプログラム。やはり彼女もステージ上で音のバランスが聴きとりにくかったと言っていました。今回の会場は、客席で聴こえる感じとステージで聴こえる感じがだいぶ違うようで、そんな話をよく聞きます。
各コンテスタントには、ホテルからホールへの送り迎えなどをするボランティアさんがつくのですが、中桐さんお世話係のおばさんが、「彼女すごくかわいいわよねぇ。私、養子にしたいんだけど」と言ってきて、どう反応したらよいのかちょっと困りました。
かわいいから養子、という発想がすごい。

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ニコライ・ホジャイノフ君は、多くのコンテスタントが華やかなプログラムを持ってくる中で、例によって独自路線を貫きました。ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」でこれでもかというほど静かに始め、ラフマニノフのソナタ1番でじわっと盛り上げてゆく感じ。
次のステージではクライバーンで聴いてしみじみいいなと思ったハイドンを弾く予定だったので、ぜひまた聴きたかったのですが、残念です。
とはいえ、彼は8月に来日が決まっています。サントリーホールでの読響サマーフェスティバル「三大協奏曲」(8月20日)、浜離宮朝日ホールでのリサイタル(8月25日)で聴くことができるので、楽しみに待ちましょう。
リサイタルについては、後日ジャパン・アーツのHPにインタビューを寄稿する予定です。

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チョ君が優勝した2009年の浜コンで第3位だったホ・ジェウォンさんも、のびのびとした演奏で良かったんですが、ステージ2に進まずちょっと残念でした。昨日会場で会ったら「明日からエルサレムに行く!」と言っていました。うらやましいな。
彼はファツィオリのピアノを選んでいましたが、かなりダイナミックに鳴らしても音がキツくならないところなど、ピアノにうまく助けられているなと思いながら聴いていました。
実際あとで話を聞いてみると、自分のレパートリーはつかみにくい和音をフォルテで鳴らすものが多いので、そういうときに今回の新しいスタインウェイだとメタリックな音になりそうなリスクを感じたためファツィオリにしたとのこと。
バックステージには、現代作品の作曲家、ユスポフ氏が来ていて「これまで聴いた中で一番自分がイメージしていた演奏に近かった! 録音したくなったらぜひ連絡して」と言っていました。果たして録音は実現するのでしょうか。

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工藤レイチェル奈帆美さん。
彼女をショパンコンクールで聴いたのは2005年のことだから、9年も前のことか! あれからいろんなことがあったなぁ、と、勝手に感傷に浸りながら演奏を聴いていました。工藤さんは日本と韓国のハーフで、アメリカで生まれたんだそうです。
彼女もファツィオリを選んだひとり。今回のファツィオリはかなり音のボリュームがある楽器だと思っていましたが、彼女は不必要に鳴らしまくることなく、楽器のまろやかな音を活かし、女性的でしなやかな演奏を聴かせてくれました。どんな種類の弱音が出るかを重視した結果、ファツィオリを選んだとのこと。「楽器がインスピレーションをくれた。一緒に音楽をしてくれると思った」と言っていました。

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マリア・マゾさんは、今回ファイナリストの中で唯一ファツィオリを選んでいるピアニスト。
ステージ1では弾き始めてすぐに、なんと見事にファツィオリの扱いをわかっている人なのだ!と感じました。演奏に少し乱れるところがあっても、それをカバーするに十分の魅力のある音。一方、それで自分が期待しすぎたせいか、ステージ2のときは、何かステージ1とは違う様子だったというか、音の印象も違ったように感じましたが、どうなのでしょう。
ところで彼女の登場時の話。
名前がコールされて拍手が起きたあと、マリアさんが出てくるわ、と思って注視していた舞台袖から、ひょっこりヒゲ面の男性が出てきて、もんのすごくギョッとしました。あまりの衝撃に、しばらく笑いが止まらなくて苦労しました。
後で聞いたらそれは彼女の旦那さんだったそうです。このシーンは配信では映っていなかったのかなー。

続いてステージ2から。

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個性的な衣装、そしてそれに似合った個性的な演奏で楽しませてくれたイリヤ・コンドラティエフさん。ステージ衣装も私服も個性的ですけどファッションにこだわりがあるの?と聞いたら、特にないと言っていました。特になくてアレになるってすごいよなー。髪はモスクワで切っているそうです。モスクワの美容院イケてるな。ホジャイノフのクルクルも、モスクワ美容院製ですもんね(※彼のクルクルはパーマではありませんが)。

ファイナルには進出できませんでしたが、聴衆からの人気も高く、結果発表後はたくさんの人から声をかけられていました。そしてご本人もかなり納得のいっていない模様で、いろいろ胸の内を熱く語ってくれました。一応、日本からもみんな応援していたよと伝えてみましたが、少しは励みになったでしょうか…。早くまた元気を取り戻してほしいです。

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尾崎未空さん、ステージ1の後には「演奏できて楽しかった!」と晴れやかな表情でしたが、ステージ2のあとはいろいろ思うところがあったようで、「ショパンはもっともっと音楽的に練り上げなくてはいけないと、こういう場所で弾いてみて改めて感じた」というコメント。こういう大舞台の経験を繰り返して、ひとつひとつのレパートリーが徐々に手の内に入っていくのですね。そんな成長の瞬間を目の当たりにした気分でした。
そういえばこのステージ2の演奏中、少し舞台から目を離してもう一度未空さんを見たら、まるっと肩が出ていました。あれ、こんなセクシーなドレス着てたっけ?と思ったら、どうやら弾いている間に肩の部分が落ちてきたらしいことがわかって、「それ以上落ちるなー!」とハラハラしながら見ていました。そんな状況でも、しっかり落ち着いて最後まで弾ききりました。
そういえば、漫画「ピアノの森」でもそんな場面ありましたね。あれは肩ひもが切れちゃうっていう話でしたけど。
未空さん、見た目の印象はかわいらしいですが、お話ししてみるとなんだかいい感じにクールで、おもしろい18歳!

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そして、吉田友昭さん。
「展覧会の絵がこんなにかぶったのは予想外だった」と言っていましたが、確かに今回、ステージ2で3人も「展覧会の絵」を選んでいる人がいたのは驚きでした。それも18歳(Yuton Sunさん)、24歳(Suh Hyung-Minさん)、31歳(よっしだ君)…ということで、それぞれの人生のステージ(?)に似合った演奏を聴き比べることになりました。吉田さんの演奏は、さすが最年長かつ1児の父、しんみりと力強く、アル中を克服した後、酸いも甘いも知って意識のはっきりしたムソルグスキーといった感じでした。
ちなみに先にご紹介した、結果に不満だったコンドラティエフさん、「なんでヨシダが通らなかったのか意味がわからない!」としきりに言っていました。
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以前からお知り合いだというふたり。

 

そして結果発表後の様子から。

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ものすごく爽やかな笑顔のキム・ジヨンさん。
抽選会でお見かけしたときから、ちょっとクラシックのピアニストとは違う、ギラギラした元気溌剌の気配を醸していた彼。演奏もとても健康的。現代作品はとくにスポーティーな印象。
人を惹きつけるキラキラ感を持っている方ですね。ムフッと大きく息を吐きながらファツィオリのピアノをリンゴン鳴らし、この人きっと懸垂とかやったらめちゃくちゃ回数いくんだろうなと、全然関係ないことを思ったりしながら聴いていました。

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こちらも、結果がダメだったとは思えない満面の笑み、マルチン・コジャクさん。
私はこれまで彼の演奏を、2010年ショパンコンクール、2013年クライバーンコンクールと聴くことがありましたが、間違いなく今回が一番よかったです。相変わらず、見かけによらず荒々しい部分もありましたが、のってくると、こんなに丁寧に歌える人だったっけ? 自信満々に弾く人だったっけ?と、まるで昔とは別人を見ているような演奏。これはこの一年で何かあったに違いない…と思い聞いてみたところ、とくにブラームスやベートーヴェンばかりを選んでいた前回のクライバーンに比べて、バルトークやラフマニノフ、ドビュッシーとレパートリーを大幅に変えたのは大きいかもしれないとのこと。そしてそれだけではなく、彼はこの1年ほどで心の平和を手に入れたのだろうなと思いました。人生なるようになるさ! その時の気持ちにしたがって生きればいいのさ! と、4年前ショパンコンクールのバックステージで見かけたときとは別人のような幸せそうな表情で語っていました。
聴衆からの人気は絶大。彼がファイナル進出できないとわかった瞬間、聴衆からは大ブーイング。コジャクさん自身も「こんなに温かい聴衆は初めて。すごくいい経験だったので結果は気にしていない」と、結果にブーイングが起きたという状況自体をずいぶん楽しんでいたようでした。
ちなみに、昨年クライバーンコンクールの取材をしていたときのブログで書きましたが、彼はクライバーンのステージで執拗なほどに鍵盤を拭きまくっていて、どうしちゃったんだろうと気になったものでした。今回はそれがなかったので、もう今なら聞いてもいいかなと尋ねてみたところ「実はあの後いろんな人からそう言われたんだけど、あのピアノの鍵盤はまるで湖のように濡れていて、滑るから拭いていただけなんだよ。今回の鍵盤はすごくドライだった」とのこと。
いや…あの拭き方は、鍵盤が汗で濡れてるとかそういうレベルじゃなかっただろ…と思ったんですが、ご本人曰くそういうことです。

そして最後に、ファイナル進出となったチョ・ソンジンさん。

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また隠れる。

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さらに隠れる。

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そして、目を逸らして1枚。リアクションからして本当に写真が嫌だとは思えないんですよ。こういう写真もあるので。
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(頼んでもいないのにカメラ目線)

写真を撮らせないで困らせることに快感を覚えてしまっているのでないといいんですが。
やはり、シャイボーイの心理はわかりません。
肝心の演奏ですが、ステージ1、ステージ2とも、みずみずしくドラマティック、正統的な中に自由さのある音楽が強い印象を残し、聴衆からも大きな人気を集めていました。とくに、バルトークの「野外にて」とリストのロ短調ソナタは、ガッツリ心に届きました。また聴きたい!

長くなりましたが、ここまでツイッターでばらばらとつぶやいていた情報も含め、一気にまとめて書いてみました。
これから5日間にわたるファイナル、引き続きすばらしい演奏を楽しみにしましょう!