ファイナルが始まりました


ファイナル、室内楽の二日間が終わり、コンチェルトの一巡目が始まりました。

ところで室内楽の課題について振り返って説明しますと、これは指定のピアノ四重奏またはピアノと木管のための五重奏作品から選んで演奏するというものでした。
“ピアノと木管のための五重奏”を導入したのは今年が初めてだったとのこと。今回エントリーしていた36人のコンテスタントのうち、木管のほうを選んでいたのはわずか3人!
幸い、6人のファイナリストのうちコラフェリーチェさんがベートーヴェンのピアノと木管のための五重奏を選んでいたため、共演のNew Israel Woodwind Quintetのみなさんにも無事に出番がありました。

最近コンクールの課題曲に室内楽を取り入れるところが増えていますね。
共演の方々にインタビューをしていても感じるのは、結局短い時間のリハーサルでは、音楽的なものを一緒に練り上げるということまではどうしたってできないということ。そうなるとここで試されるのは、コミュニケーション能力、そして、他の楽器とのバランスを聴いて、自分の音をコントロールする技術、なのでしょうね。
その意味で、スティーヴン・リン君とチョ君は、いけてるなぁと、私は思いました。
特にチョ君のヴィオラ奏者さんからの愛され度はすごかった。
チョ君の終演後、客席で知らないおじいさんから、「君は彼と知り合いなのかい?すばらしかったねぇ。私は今の演奏を聴いて、そのままその場でとろけてしまいそうだったよ」と声をかけられました。
年季の入ったジイサンまでもとろけさせる男。シャイボーイ、やるね!

さて、コンチェルトの話に移りましょう。
課題曲は古典派の協奏曲、モーツァルトの20~27番、ベートーヴェンの1、2番から選ぶというものです。共演はAvner Biron指揮イスラエル・カメラータ・エルサレム。そして会場は一気に広い場所に移ります。

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客席数は2100ほどと、東京で言えばサントリーホールと変わりませんが、ものすごく横幅が広く奥行きがあり、バルコニー状になっていないため2階席の前の方に座ってもステージを遠く感じます。ホールのデザインもすごく変わっていて、こういうのを何て呼んだらいいのかよくわかりません。宇宙船みたいな感じ。1階の方は、かなり大き目の升席みたいにブロックでわかれています(もちろん椅子はあります)。
後方の席は残念ながらガラ空きです。コンクールのファイナルでお客さんがいっぱいじゃないのって、初めて見たかも…。二巡目のほうはプログラムも華やかだしいっぱいになるのでしょうか。
ちなみに審査員たちは2階席の一番前の列に座っています。
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(ステージからの風景。ステージの天上も響きを助けようという気持ちが感じられない形状)

さて、最初のバリシェフスキーさんが登場しまして、モーツァルトです。
ああ、この人相変わらずフルフェイスのヘルメットをかぶったような、豊かな毛髪と髭。そしてファイナルの夜の公演でもシャツ姿、裾をパンツにインしないジャズピアニスト的スタイルなのねと思いながら、ホールでどんな音がするのか楽しみに待っていると……

あら、全然ピアノの音が聴こえない。
オーケストラはまあ、少し遠いけどまともに聴こえるのですが、ピアノの音はどこかに反射してもんやり届いているという印象。例えるなら、東京国際フォーラムのホールA(5000席)の2階のだいぶ後ろの席で聴いているみたいです(って、例えがわかりにくいか)。
ちなみに私が今日座っていたのは、審査員の3列後ろです。
こんなふうにしか聴こえないホールで一体審査員はどうやって審査するんだろう?これじゃあミスしたか否か、オーケストラと合っているか否か以外は判断のしようがないじゃないかと、本気で思いました。途中からは、耳のペラペラの部分を指で起こして聴いたくらいです。これやるとけっこう聴こえが変わるんですよね。だから織田裕二とか、めちゃくちゃいろんな音がよく聞えているんだろうなと思います。

いろいろモヤモヤした気持ちのまま、次のスティーヴン・リンさんのベートーヴェン1番へ。
あれ、けっこう聴こえる。やっぱりスティーヴン氏くらい音が出せる人は、こういう場所でもけっこうちゃんと遠くまで届くんだな。でもまだやっぱり、薄いビニール一枚隔てて聴いているような気分。

そして、同じベートーヴェンの1番で、今度はコラフェリーチェ君。
うわー、ぜんぜん音が通ってくるじゃないの…。
もちろん、サントリーホールの2階席で聴くような感じに綺麗に聴こえるまではいきませんが、ちゃんと細かいニュアンスも聴き取れ、“薄いビニール”的な感じもなくなり。
結局、ピアニストの出す音の違いだったということがよくわかりました。音響の良いホールでないからこそ、技術やセンスの違いがここまで明白に表れてしまう。恐るべし、音響の悪いホール。
コラフェリーチェ君、前進するような良い演奏で、少し荒削りっぽいところもありましたが、これだけ音が違うとね…。
ちなみに今日は全員スタインウェイですから、同じピアノです。

とはいえ、あくまでこれは私の耳で聴いた主観によるものですので、他の方がどう思うのかはわかりません。まあ、他にも同様の意見をちらほら聞きましたが。

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終演後のコラフェリーチェ君。先生と一緒に。
ベートーヴェンの1番は、子供の頃初めてオーケストラと共演した、思い出のピアノ協奏曲なのだそう。ここにはコンペティションをしに来ているつもりではなく、ただ演奏をしに来ているだけだ、演奏中は何も考えずただ音楽に没頭するようにしている、と、18歳にして落ち着いたコメントでした。
一方の先生は、弟子のコンクールを聴くなんて自分で出る以上にストレスがたまる! やきもきして見ているだけで自分では何もできないんだから! と言っていましたが、なんだか嬉しそうでした。

さて、明日は一巡目の残りの3人。
そして1日間をあけ、28、29日で最後の協奏曲と結果発表が行われます。