クライバーンコンクール審査員、児玉麻里さんのお話

先の事務局長のインタビューにもあったとおり、今回のクライバーンコンクールでは審査員の顔ぶれが一新され、初参加の方ばかりでした。

今回の審査員の面々はこちらです。

Jury Panel 2
Photo:Ralph Lauer
Alexander Toradze,Mari Kodama, Joseph Kalichstein, Erik Tawaststjerna, Leonard Slatkin, Marc-Andre Hamelin, Anne-Marie McDermott, Arnaldo Cohen, and Christopher Elton

日本からは、児玉麻里さんが参加されました。

実は私、雑誌の編集部にいた頃、児玉さんの連載エッセイの編集を担当していたので、とても久しぶりの嬉しい再会でした。毎月パリからFAXで原稿が送られてきていたんですよね…まだFAXで原稿が来ることも多かったあのころ…。
久しぶりにお会いした児玉さんは相変わらず素敵でして、ズバズバいろいろおっしゃるのに話していてなんだかとてもほっとするというか。麻里さまとのお話する時間はわたくしにとって、テキサスでの心のオアシスでありました。

というわけで、審査結果についての児玉さんのお話です。

◇◇◇

入賞者3人は、説得力のあるピアニストだった

─まずは3人の入賞者についての印象をお聞かせください。

説得力のある3人だったと思います。
まずソヌ・イェゴンさんは、とても音楽的なピアニストです。リートがお好きだと聞きましたが、リートっぽく弾いているところからはそれが感じられましたね。セミファイナルで弾いたR.シュトラウスの編曲作品など、よく歌心がわかっている人だと感じましたし、モーツァルトの協奏曲もオペラがよくわかって弾いていると思いました。

そしてブロバーグさんとシューさん。才能や可能性というものについて、審査員それぞれに考えや好みがあると思いますが、私はブロバーグさんとシューさんはとても際立っていると感じました。特にブロバーグさんはシューさんより4歳年上ということもあり、落ち着いていました。
二人に共通しているのは、なにひとつ無駄な音を弾いていないということ。全部の音にテンションが込められていて、適当に音を鳴らすということがありません。二人は個性がまったく違いますが、それぞれにすごく可能性があると思いました。

 

─審査員9人の意見は一致していた感じがありましたか? それともばらばらの感触もあったでしょうか?

私たちは審査するピアニストについて話してはいけないことになっていたので、基本的に意見は交換していませんが、そこまでで落ちてしまった人に関してはいいということでお話する機会もありました。
その中でだいたいは意見が一致していたと思いますが、1次、2次で、一人二人、この人がどうして落ちたのかわからないという不満を口にされている審査員の方もいましたね。でもそれは本当に少数で、多くは一致していたという印象です。最終結果にしても、1位から3位の順番はともかく、この3人が上位3人ということはみなさんの中ではっきりしていたと感じます。

音楽に説得力があるということ

─審査員の間で、こういう方向で審査をしましょうというような共通の認識はあったのでしょうか。このコンクールは、ポテンシャルだけでなくすぐに第一線で活動できる成熟した人が求められているということですが、審査員のみなさんはみんなそれをなんとなく知って参加されていたのでしょうか?

そういう確認のようなものは全然ありませんでした。みなさん自分が好きなように評価をしていたと思います。
私は、成熟した人を求めるコンクールだと感じましたけれど、他の方がそう思われたかどうかはわからないんですよ。事務局長のジャックさんからも、具体的にそういった説明はありませんでしたから。
優勝するとこれとこれをこなす責任があるというリストを見て、この期間を生き延びて、その後も活動を続けていける人ではないといけないのだと思いました。
ただ審査のたびに毎回言われたのは、1次からそのステージまですべてを通しての判断をしてほしいということ。コンチェルトをよく弾いても、リサイタルの演奏がどうだったか、バランスをとって評価してほしいと言われました。ですから私も、毎回一人一人についてメモのためにつけておいた点数やコメントを見返して判断していきました。

─先日の審査員によるシンポジウムでも、“どんなピアニストを探しているか”という質問が出ていましたが(注:そのときは審査員のカリクシュタイン氏が、「何かを探しているわけではい。作品があるべき姿になっていればいいと思うがその答えも一つではない。ただ、作曲家を間違って解釈していると感じるときは、音楽への理解がないと思ってマイナスの評価にはなる」と答えていました)、ちょっとその聞き方を変えて、児玉さんにとって、あるピアニストを見るときの要素としてもっとも重要視するポイントはどこにあるのでしょうか。

やはり何かを探しているということはなくて、私たちは、自分とは違う解釈でもそれを納得させる力を持ったピアニスト、こういう見方、弾き方や解釈の仕方もあるのだなと思わせるピアニストを評価すると思います。

─自分が好きなタイプではないけれどすごいのはわかる、そういうピアニストもやはり評価するということになりますか。

“好み”でなくても説得力があれば、自分はこうはしないけれどなるほど、と思いますよね。自分勝手に、気分で弾いているんじゃないかなと感じられるときは、あまりいい印象を持ちません。

─その境目を判断するもととなるのは、やはり楽譜に書かれていることでしょうか。

楽譜がまず一番ですね。作曲家の残したものが全部書いてありますから。
ただ、いくら楽譜に書かれたそのままに弾いていたとしても、カルチャーに反した弾き方をすれば違和感が出てきます。
たとえばラヴェルの楽譜とベートーヴェンの楽譜に同じようなことが書いてあったとします。言語でいえば、フランス語ならば最後にeが書いてあったらそれは発音せず、ドイツ語なら反対にきつく発音しますが、これは音楽でも同じです。同じ音が同じように最後に書いてあっても、フランス音楽の場合は力が抜けるように弾くわけです。それがカルチャーなんですよね。
いくら楽譜に書いてある通りに弾いていてもそれがわかっていないとちょっと変だなという感じがするわけです。例えばそういうところで、説得力が変わってきます。

─それがスタイルを知っているか否かということになるのですね。でもつまりそれは、子供のころから長らく音楽学校などで音楽教育を受けていても、それが身につかないこともあるということなんですねぇ。

そこが深いですよね。勉強することが山ほどありますからね。時間もかけないといけないことです。

 

◇◇◇

今回の審査員の先生方、それぞれの美学がはっきりしているようで、わりと意見がわかれたのではないかと思っていましたが、児玉さんのお話からするとそういう感じではなかったようです。
そうはいっても、個性の違う演奏家(審査員)が集まってひとつの結論を出そうとするコンクールというものはむずかしいですね。審査員のうちの1人か2人がこれは優勝に値する才能だ!と思ったところで、多数がそう思わなければ次のステージにすら進めないこともある。このコンクールに限らずいつでもあることです。

ところで、記者会見で1位2位は僅差だったのかという質問が出た時、それは教えないよと事務局長が話していましたが、聞く話から推測するに、わりと僅差だったのではないかなと思います。

クライバーンコンクール事務局長&CEO、Jacques Marquisさん

ヴァン・クライバーンコンクールは成熟したピアニストを求めているということを以前から明確に示していて、優勝者には3年間にわたって多くのコンサートの機会が与えられます。かつてはよく、それによってピアニストが疲弊して長いキャリアを築くことができない…と言われることもありました。

その“噂”を完全に過去のものとするべく、このコンクールは、審査方法やコンクール後の契約についてさまざまな変更を加えながら開催されています。

前回2013年から、Jacques Marquis氏が事務局長&CEOに就任。ジャックさんは、長らくモントリオール国際コンクールの運営にも携わってきた方です。
今回のクライバーンコンクールは彼が就任して2度目ということで、大胆な変更も加えられました。
というわけで、ジャックさんに、今回加えられた変更の意図や審査員の選定、クライバーンコンクールが目指すものについてお話を聞きました。

ちなみに余談ですがこのジャックさん、結果発表のステージに登場していたあの方ですが、普段いつ見てもテンション高く、常に冗談をいうタイミングを狙っているというか、とにかく愉快な感じの方です。疲れた、みたいな顔をしていることを見たこともありません。
この前、キン肉マンのテリーマンがテキサス出身だと知ったのですが、なんかテリーマンとイメージがかぶります(ジャックさんはべつにキザみたいな感じではないですし、そもそも、フランス系カナダ人なのでテキサスの人でもないんですけどね。まあ、とにかくエネルギッシュでパワーがありそうってことです)。
というわけで、ちょっと長いですがインタビューをご覧ください。
(結果発表前に行ったインタビューです)

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(もっとイエーイ!みたいなポーズで撮らなくていいんですかと聞いたら、なに言ってるんだ、私はいつだって真面目だ!と言われました)

◇◇◇

協奏曲の演奏能力が高い人を、ファイナル前に失わない

―今回のコンクールから、いろいろ新しくなった面があると思います。現在のところ、それらはみんなうまくいったという手応えがありますか?

そうですね。今回は、芸術面、マーケティング面両方で、いろいろな変更がありました。芸術面ではまず、最高の30人の参加者を選ぶためにスクリーニング審査の方法を変更しました。すばらしい人材を絶対に取りこぼしたくありませんから、これはとても大切な作業でした。
本大会のほうでは、ファイナルの前の段階にモーツァルトのピアノ協奏曲を入れたことが大きな変更の一つですね。
以前の課題曲では、コンチェルトは最後に残った6人だけが演奏する形でした。ですが実際にプロのピアニストになってからの活動のことを考えるとどうでしょう。その50%がリサイタル、10%が室内楽、そして40%くらいはコンチェルトになります。
ですから、ピアニストにオーケストラと演奏する高い能力があるかどうか知ることはとても重要なのです。ファイナル前にコンチェルトの能力が高いピアニストを失うことがないように、セミファイナルで12人に協奏曲を演奏してもらうことにしました。
クライバーンコンクールは、ピアニストのキャリアを切り拓くことを目的としています。ポテンシャルのある若者を見いだして太鼓判を押すことを目的としたコンクールであはありません。
ウェブサイトやPR会社、マネジメント、経済面など、優勝した後は、キャリアの成功のためにあらゆる援助をします。ですから、それに応える能力を持つ人を見つけなくてはいけません。その意味で、協奏曲の高い演奏能力は必須なのです。

―それで、かわりに室内楽がファイナルで演奏されることになったのですよね。これもなかなか珍しいと思いますが。

そう思います。ピアノパートを弾くこと自体は難しくないと思いますが、ここではミュージシャンシップという大切な側面を見ることができます。私たちは審査員のために、コンテスタントの能力を見極めるためのできる限りたくさんの情報を得ようとしているのです。

1年目のコンサート回数を減らし、徐々に増やす形へ

―キャリアの確立を助けるというコンセプトのもと、優勝者には多くのコンサートが用意されていますが、一方で過去には、そのためにピアニストが疲れ果ててしまうと指摘されてきました。そういったことが起こらないよう、なにか配慮がなされているのでしょうか。

今回から、1年目のコンサートの数を減らしました。
私たちのコンクールは、3人の入賞者に合計300のコンサート契約を用意しています。そんな中、例えば優勝者について、昔は1年目に75回、2年目に50回、3年目に40回の演奏会を用意していたのに対して、今年は1年目から順に、40回、50回、60回と増やしていく形に変えました。
もちろん、多くの主催者たちはこれを喜んでいませんよ。だって彼らは、クライバーンの優勝者が「今」欲しいのですから。
でも私たちは優勝者の将来のことを考えて、とくに1年目には演奏会ごとにちゃんと練習したり休んだりする時間が持てるよう、こうした形に変更しました。また、たとえば数週間にわたるツアーには事務局のスタッフが同行して、様子を見守ることにしています。
提携するマネジメントも、今年からより近い距離で優勝者の世話をしてくれるエージェントに変わりました。

―今回、会場のチケット販売はどうだったのでしょうか。

最終的な集計結果はまだですが、マーケティングの面でもいろいろな新しい試みを取り入れたので、少なくとも、ウェブ配信の視聴数は増えました。逆にそのために、ホールに来ることなくコンクールを鑑賞しようという人が増えたのかもしれません。
ただ、長い目で見れば、ウェブで聴いている方々はいずれホールに足を運んでくれると思っています。1次から徐々に来場者数が増えて、今回もファイナルの協奏曲は完売ですので、それでいいのではないかと。ちなみに、次回のコンクールのマーケティングについてもすでに私の中にはアイデアがあります。
私たちには、海外、国内、地元という3つのマーケットがあります。海外へはmediciによるウェブ配信がうまくいき、多くの方々が見てくださいました。
国内については、映画館でのファイナルのライブ上映を今回から行いました。放送はmediciが行い、制作はMETライブビューイングと同じ会社のプロデューサーが担当しています。
そして地元の方々のためには、シンポジウム、ピアノランチ、マスタークラスや子供向け企画など、誰でも無料で参加できるイベントを多く行いました。最終日にはサンダンススクエアで公演と授賞式のライブビューイングを行い、その後は広場の一角にあるレストランで、協力してくれたすべてのボランティアスタッフに感謝をするクロージングパーティを行います。

コンクール審査員の常連は避ける方針

―今回から、 40年にわたって同じ方がつとめていた審査員長も変わり、審査員全体の顔ぶれも新しくなりましたね。

私たちは、新しい優勝者を見つけていかなくてはいけません。いつも同じ審査員が審査をしていたら、審査員同士が仲良くなってしまいますから…。そこで私は、できるだけ審査員経験が多くないコンサートピアニストを中心に審査員を選ぶことにしました。少しは審査員経験の豊富な人もいましたけどね。結果的に、良いバランスとなったと思います。
それに、新しい審査員をお呼びすれば、みなさん帰国してから、クライバーンコンクールは運営もすばらしくバイアスもなくていいコンクールだったとあちこちで話してくれるでしょ(笑)?

―では、コンクール審査員の常連みたいな方々はここでは入れない方針だと。

はい。あちこちで審査員をしている人、たとえばチャイコフスキー、ルービンシュタインで審査員をして、ここでも審査をということになれば、すでにコンテスタントたちのことを知っていて、なにかしらのイメージを持った状態で審査することになってしまいます。私は新しい耳で聴いてくれる人にお願いしたいのです。

―審査員長が本選の指揮をするというのはめずらしいですね。

そうですね。スラットキンさんに審査員長をお願いしたいといったら、指揮も自らおやりになりたいとおっしゃったので、それもいいかなと思ったのです。
コンチェルトを2人の別の指揮者が担当することにも狙いがありました。ここで共演でしたことで、また共演したいと思って声をかけてくれる指揮者のネットワークが少しでも増えることになりますから。

―審査員のメンバーはどのように選んだのですか?

審査員を選ぶときには、室内楽アンサンブルのメンバーを選ぶようにしないといけないんです。一緒に気持ちをあわせて演奏することができるけれど、それぞれの個性が異なるというような。世界のいろいろな場所から、多様なエステティックを持った審査員を集めます。

―スタインウェイとの協力関係も興味深いです。40台ものピアノが用意されているのですよね。

はい、そのかわりに、プログラムやウェブサイトでスタインウェイについて紹介しています。それにもちろん、ウェブ配信では常にロゴが映りますからね。スタインウェイにとってもいい機会になっていると思います。

―昔はホストファミリーがコンテスタント用に置かれたピアノをそのまま購入すると、クライバーンがサインをしてくれるという制度があったそうですよね。

はい、うちにもそれが1台ありますが(笑)。でももちろんもうそれはできないことですので、もしかしたら入賞者のサインなど、また別の方法があるかもしれませんね。

―たくさんのコンクールが存在する中で、このコンクールが目指そうとしていることは?

最高のピアニストを選ぶということ。そして、そのピアニストのキャリアを切り拓くことです。
私たちは、オーケストラや世界各地のホールとの関係を駆使して、優勝者のキャリアをサポートします。
私がもう一つ関わっているモントリオールのコンクールであれば、ポテンシャルの感じられる若い人を優勝者とすることもあり得ますが、ここではそうではない。明確なヴィジョンがあります。スーパーエクセレントで、キャリアを確立できる人を求めているのです。
クライバーン氏はチャイコフスキーコンクールによって有名になりました。私たちも、同じような存在になりたい。クライバーンと比べることはできないにしても、我々も最高のピアニストを選び、3年間にわたって支援してゆくのです。

―3年が経って、その後のことは…。

まぁ、私たちは母親ではないので、全員の子供たちが3年の勉強を終えて戻ってきてしまっても面倒を見切れませんよね。雛鳥が巣立つことを手伝わないといけないわけです。
重要なことは、その3年の間に良いエージェントを見つけられる支援をすることだと思っています。

◇◇◇

「コンチェルトの演奏能力が高い人を取りこぼさない」
「指揮者とのつながりをすこしでも提供する」
など、なるほど…と思いました。いざファイナルの協奏曲になったら経験不足が露呈してみんなボロボロ、みたいなこと、たまにあるもんね…。

審査員の選定についての見解も興味深いです。新しい耳で聞いてくれる人を選ぶと。
以前わたくし、審査員のメンバーがどのコンクールでも同じだということは、どこでもその面々の好みのタイプのピアニストでなければ「勝てない」構造ができてしまっているのではないかという問題提起をして、ことごとく審査員の方々をムッとさせてしまったことがありましたが、でもやっぱりそうだもんなぁ。

それでも今回も、ちょうど立ち話をしたある審査員の方が、あるコンテスタントについて、「昔某コンクールで聴いたときは本当にすばらしくて、そのあとも何度か聞いているけど、数年たった今回はどうのこうの」みたいなことを言っていました。実際、過去に聴いていたらどうしたってそういう見方になるよなぁ。
だからといって、これからもっと知名度を伸ばしたい新しいコンクールが、有名な審査員を招きたいと思う気持ちもわかる。ということは、歴史のあるコンクールこそ、こういう新メンバーをそろえる改革に乗り出してくれたらいいということですね。

 

クライバーンコンクール、最終結果

クライバーンコンクール、最終結果が発表されました。

ゴールドメダル
ソヌ・イエゴン(韓国、28歳)

シルバーメダル
ケネス・ブロバーグ(アメリカ、23歳)

ブロンズメダル
ダニエル・シュー(アメリカ、19歳)

聴衆賞
レイチェル・チャン(香港、25歳)

室内楽賞
ダニエル・シュー(アメリカ、19歳)

委嘱作品賞
ダニエル・シュー(アメリカ、19歳)

ジョン・ジョルダーノ審査員長賞
キム・ダソル(韓国、28歳)

Raymond E. Buck審査員賞
レオナルド・ピエルドメニコ(イタリア、24歳)

審査員賞
イーケ・トニー・ヤン(カナダ、18歳)

ファイナルの演奏をすべて聴き終えたところで、正直言って誰が優勝するのか、入賞しそうなのか、全然予想がつかなかったので、結果を見て、そうか…となんとなく納得した次第です。ファイナリストはみんなそれぞれの魅力があって、審査のうえで何を重要視する人が多数派かで結果が変わるのだろうなという感じでした。
関係者や一般のお客さんの意見を聞いていても、多くの人が一致して、この人際立ってるねーと言っている人がいないというか、いろいろな人の、この人すばらしいと言っている人がバラバラというか。コンテスタントの中にも、一貫してノリまくっているみたいな人がいなかったというか。
きっと別の結果でも、そうか…と思ったかもしれません。とはいえ、ソヌさんは室内楽でもコンチェルトでもソロでも、落ち着いた演奏、そしてときどき、普段シャイっぽい雰囲気の内に秘めているなにかを大放出するような、情感豊かな演奏を聴かせていたと思います。クライバーンならではの3年間にわたるコンサート契約の中で、ピアニストとしての魅力、スターらしさが花開いていくことに期待します。

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結果発表のあとには記者会見が行われ、その後、コンテスタントや審査員、関係者やホストファミリー、ボランティアみんなが参加するクロージングパーティーが行われました。

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去年までこのパーティーは、ホテルの宴会場みたいなところで行われていたのですが、今回はダウンタウンに新しくオープンしたサンダンススクエアという広場の一角のレストランで行われていました。
半分屋外で会場の見通しも悪く、しかも近くのステージでは大音量でバンド演奏が行われているという、異常に取材のしにくい環境でありました。
それでも、入賞者やそのほかのコンテスタント、審査員の児玉麻里さんなどに少しお話を聞けましたので、順次ご紹介したいと思います。

ちなみに先に白状しておきますが、肝心のソヌ・イエゴンさんのコメント、取り逃しました…。
ようやく捕まえたと思ったら、ホストファミリーがなにか呼んでいるからちょっと待って、というので、じゃあ絶対に帰る前にインタビューお願いしますよ!とご本人とホストファミリーに念を押してリリースしたところ、あっさり帰られてしまいました。びっくり。どの入賞者よりも先にいなくなっていましたよ。これ、彼のためのパーティじゃなかったのという素朴な疑問。お疲れだったのかな。
こういう場面で遠慮はいけませんね。迷惑と思われたくないビビり精神が災いしてしまいました。つくづく自分はこういう仕事に向いてないと思いますね、ええ。

とはいえ、ソヌさんのホストファミリーの人が証言する「犬とソヌさんの関係」、そして「トニー君のシャツの謎」など情報収集したので、後日ご紹介しますね。(いらない?)

 

噂の自動演奏ピアノ、スタインウェイSPIRIO

ヴァン・クライバーンコンクールはスタインウェイとの協力によりいろいろな場面にピアノが提供されています。
そんなわけでホールのロビーには、噂の世界最高峰のハイレゾリューション自動演奏ピアノ、スタインウェイのSPIRIOを展示中。
日本では今年2017年の後半にリリースされる予定いうことで、ちょっと話題になっているピアノです。

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コードが下から伸びているくらいで、外観は普通のグランドピアノと変わりません。
ピアニストの演奏や過去の音源から、独自のソフトウェアでハンマーの動きの速度やペダルの動きなどを測定し、現代の演奏家はもちろん、歴史上のピアニストの演奏も忠実に再演させることができるというもの。
再現できる演奏のライブラリーには、ラン・ランやユジャ・ワンなどのスタインウェイアーティストはじめ、ホロヴィッツとかミケランジェリもあるんだとか。

自動演奏はiPadで制御され、従来の自動演奏ピアノより、一段と細やかなニュアンスの違いが反映されるそう。映像からの情報も解析しているらしいです。
サンプリングされた演奏データは今もどんどん増えていて、新しい記録をとる(というのかな?)のは1年以上の順番待ちとのこと。

「ピアニストのコンサートを自宅で聴くことを可能にするピアノ」というコンセプト。キャッチコピーは「ホロヴィッツを家に連れて帰ろう」的な(勝手に考えました)。
ただし「ちゃんとピアノのメンテナンスと調律をしておいてもらわないと、ホロヴィッツがホンキートンクで弾くことになっちゃう」とスタインウェイの人が冗談を言っていましたが。たしかに、デジタル化された巨匠は、調律の狂ったピアノに文句を言いませんからね。
(あと、「グールドの演奏を再現する場合は、うなり声は入らない」とも言っていました。そりゃそうだ)

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ロビーではいろいろな演奏のデモンストレーションが行われていました。
ときどき、たった今までホール内でコンテスタントが演奏していたのと同じ曲目を自動演奏させていたりして、ちょっとびっくりしましたが。
(自分がコンテスタントだったら、ものすごい巨匠の名演を自分が弾いた直後に流されたらちょっとイヤかもしれぬ…)

SPIRIOのデモンストレーションを見たある方が、「大ピアニストの自動演奏を見ていると、鍵盤を押し下げ、戻すときのコントロールの繊細さがつぶさにみられておもしろい。たとえば若いピアニストのものと比べると明らかに違う…」とおっしゃっていましたが、実際、人の姿も指もないから、鍵盤の動きが本当によく見えるんですよね。同じ曲を違うピアニストで再生したときの鍵盤の動きの違いを見比べることも、とてもおもしろいはずです。

ここフォートワースは、もともとコンクールを立ち上げたのも地元の富裕層たちということで、リッチな方々が多いことでも有名。コンクールの休憩中に、ホロヴィッツやユジャ・ワンの生演奏を家に持ち帰ることができるピアノをちょっと衝動買いしちゃった…的な人がいたかもしれませんね。確認していませんが。

クライバーンコンクールファイナル、室内楽

ファイナル、2日間の室内楽のステージが終わりました。

コンテスタントはそれぞれ、1回きりのリハーサルで本番に臨むことになります。
共演はブレンターノ弦楽四重奏団。内田光子さんとよく共演しているクァルテットですね。

Kenneth Broberg e170
Photo:Carolyn Cruz

1日目、最初に演奏したのはケネス・ブロバーグさん。
演目はドヴォルザークのピアノ五重奏曲。
彼のピアノの音はわりと硬質な印象なのですが、弦楽と合わさったときには、よく言えばその音が目立ち、悪く言えばそれがなじまずという印象。ちょっと変な例えかもしれませんが、アグレッシブな雰囲気で会話をしている4人の周りで、ピアノの人が、どうした、どうしたと顔を出そうとしているような、そんな感じだったかな…。あくまで個人的な印象ですが。

Yury Favorin044
Photo:Ralph Lauer

ユーリ・ファヴォリンさんはフランクのピアノ五重奏曲を選択。
あたたかい音で、ときに後ろにさがり、あるときにはググッと前に出てくる。室内楽慣れしているんだろうなという、さすがの安定感の演奏でした。

Yekwon Sunwoo069
Photo:Ralph Lauer

ソヌ・イェゴンさんは、ブロバーグさんと同じドヴォルザークを選択。
これがまた、先ほどはアグレッシブな演奏をしていたクァルテットが同じメンバーとは思えないほど違った演奏をしていました。ピアノと弦楽器の掛け合いも楽しく、感動的な瞬間がちらほら。
ソヌさん、クァルテットの面々と肩をたたき合いながらステージからはけていきました。レディを先に退場させるところなどにも、こなれ感が。さすが、アンサンブル能力が重視される仙台コンクールの覇者であります。

Georgy Tchaidze403
Photo:Ralph Lauer

そして二日目の一人目は、ゲオルギ・チャイゼさん。
ドヴォルザークのピアノ五重奏曲。持ち味の魅力的なもんやりサウンドは、弦楽四重奏となじむような、少し埋もれるような。しかしアンサンブルとしては無駄に目立ちすぎず、ぴたりとクァルテットに寄り添ってまとまった音楽を聴かせていた印象です。

Rachel Cheung058
Photo:Ralph Lauer

レイチェル・チャンさんは、ブラームスを選択。
冒頭のピアノの入りのところ、セミファイナルで聴かせてくれたキラリン音を期待していたら、そこでいきなり予想外の音だったのでビックリしましたが。ブラームスというセレクトのためか、最初から最後まであたたかく重めの音を鳴らし、弦楽の中で堅実に演奏していた印象。

Daniel Hsu099
Photo:Ralph Lauer

そして最後の奏者、ダニエル・シューさんはフランクを選曲。
弦楽器に合わせるところは合わせ、自分が出るべきところは一気に出て、存在感充分。いろいろな音を鳴らしています。若さを感じる場面もありながら、それはそれで魅力的だなと感じられました。
以上、あくまで個人的な、そしてざっくりした音や演奏の印象でありました。

ファイナルで室内楽を演奏するというのはわりとめずらしいケースかと思いますが、このタイミングでアンサンブル能力を試すということが、最終結果にどんな影響を及ぼすのか、興味深いところです。

そんな中、あるジャーナリストが審査員がたむろしているところにやってきて、「室内楽って、どのくらい審査に影響しますか?」という大変興味深い質問を投げかけていました。そこで小耳にはさんだひとつの意見。

「でも実際、プロとして室内楽を演奏するときは、共演する相手を選ぶことがほとんど。それに、音楽性が合わない人とやってうまくいかないことなんてプロになってもあるけれど、それはどうにもならない。しかもたった1回のリハーサルで本番に臨むことなんて、実際にはあんまりない」

つまりこの課題で、基本的なアンサンブル能力や意欲のあり方を見ることはできても、室内楽の演奏としての音楽的な完成度をまともに評価しようとすると共演者との相性に大きく左右されるので、そのあたりは差し引いてみてあげないといけない、ということになるかと。

一方今日の審査員によるシンポジウムでは、「室内楽の演奏には、ピアノソロ作品以外の作品にも興味を持ち、聴いているかも現れる」という話がありました。
これもまた、なかなか興味深い。

さて、ファイナルの協奏曲はいよいよ今夜から。
下記の時間から、3人ずつ2日間にわたって演奏します。
ライブ配信はこちら

現地時間6月9日(金)19:30 [日本時間 10日(土)午前9:30]

ユーリ・ファヴォリン(ロシア、30歳)
ケネス・ブロバーグ(アメリカ、23歳)
ソヌ・イェゴン(韓国、28歳)

現地時間6月10日(土)15:00 [日本時間 11日(日)午前5:00]

レイチェル・チャン(香港、25歳)
ゲオルギ・チャイゼ(ロシア、29歳)
ダニエル・シュー(アメリカ、19歳)

クライバーン、ファイナリストが発表されました

クライバーンコンクール、ファイナリストが発表されました。

ケネス・ブロバーグ(アメリカ、23歳)
レイチェル・チャン(香港、25歳)
ユーリ・ファヴォリン(ロシア、30歳)
ダニエル・シュー(アメリカ、19歳)
ソヌ・イェゴン(韓国、28歳)
ゲオルギ・チャイゼ(ロシア、29歳)

演奏日程はこちらで見られます。

1日あけて、6月7日から行われるファイナルは、室内楽とコンチェルトの2ステージ。

最初の2日間は室内楽で、ブレンターノ弦楽四重奏団と共演。ブラームス、ドヴォルザーク、フランク、シューマンのピアノ五重奏曲から選びます。

そして最後の課題となるコンチェルトは、審査員長のスラットキン指揮、フォートワース交響楽団との共演。選曲のリストなどはなく、なんでも自由に選んでいいという太っ腹(?)なルールですが、一応、事前に指揮者とオーケストラからの了承が必要とのこと。(今回の6人、偶然全員違うコンチェルトを選んでいます。めずらしい!)

審査員長が自ら指揮をするということは、共演者としての感触も審査に反映されるのかな、さらには、それまでのステージで気に入った人に協力的にしたりできちゃうんじゃないの!などと思いましたが、審査のルールブックを見たところ、審査員長&指揮者はファイナルの順位付けには投票できないのだそうです。タイが出たときだけ、それを解決するために投票することになるらしい。(審査員長が最終順位の投票に基本的には参加しないというのも、それはそれで斬新な気もしますが)

審査は、これまで全てのステージを考慮しての判断となります。1位から順にふさわしいと思う人を投票&決定、過半数にならない場合は上位2人で再投票というシステムとのこと。

さて、発表後のファイナリストの6人の表情です。

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ソヌ・イェゴンさん。
2013年仙台コンクールの優勝者ということで、仙台コンクールのみなさんが応援してるといってたよ、と伝えると、はにかみフェイスですごくうれしそうにしていました。また仙台や日本で演奏したいなと言っていました。
ファイナルの協奏曲では、ラフマニノフの3番を演奏します。

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ケネス・ブロバーグさん。
今回は6人のファイナリスト中2人がアメリカ人ということになりましたが、そのうちの1人として地元人気を集めています。ミネアポリス出身。2001年ヴァン・クライバーンコンクール優勝者のスタニスラフ・ユデニチさんのお弟子さんだそうです。
ファイナルではラフマニノフのパガニーニの主題による狂詩曲を演奏します。

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ゲオルギ・チャイゼさん。
おめでとう!と声をかけても表情一つ変えず、ありがとう、とぼそっと言うあたり、いい感じのロシアの人風味出しています。私の中での彼のショスタコーヴィチ感がより一層高まってきました。
ファイナルではプロコフィエフの3番を演奏。

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ユーリ・ファヴォリンさん。
先月はLFJ出演のために来日していたばかり。日本好きなんだよー、好き以上に好きなんだよー、文化とか、食べ物とか、と、日本の思い出を語り出したら急ににこやかになりました。
ためしに食べ物は何が好きなのか聞いてみると、「魚」とのこと。
ステージでのお辞儀の手の揃え方が猫っぽいのはそのためか…などと、いらんことを考えてしまいました。さすがに言いませんでしたけど。
ファイナルではプロコフィエフの2番を演奏。ロシア人のおふたりはプロコフィエフ攻めですね。

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ダニエル・シューさん。(インタビュー中)
最年少、唯一の10代のファイナリストとなりました。
結果発表前から、緊張する~!といってバタバタ(?)していましたが、ファイナル進出が決まったら決まったで、どうしよ~、みたいな感じでワサワサしていました。
ファイナルではチャイコフスキーの1番を演奏。これはクライバーンのシンボルのような曲で、フォートワースの聴衆にとっては特別な作品だとよく言われます。
「昔から大好きな作品で長く勉強してきた。この曲をここで演奏するのは特別なことだとわかっているけど、今はこのステージに上がって演奏するのがとにかく楽しみ!」とのこと。

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そして唯一の女性となったレイチェル・チャンさん。
ドレスも私服もいつもかわいい。
セミファイナルのプロコフィエフがとても印象に残りましたが、ファイナルではベートーヴェンの4番というシブめの選曲です。
それにしてもあの独特の音とタッチ。子供の頃なにか特別なテクニックの教育でもうけたのかなと思いましたが、「頭でイメージした音を出そうとしているだけ。特別なメソッドみたいなものはなかったと思うけど、香港で師事していた先生は、とにかく聴くことを大事にするように言う人だった」と話していました。
結局、耳なんですね。

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おまけ。ライブ配信のナビゲーターをしているアンダーソン&ロウさん。
最初、ジャケ写とイメージが違うので気が付きませんでしたが、去年自分がライナーの訳と解説を書いたジョン・フィールドのノクターン集のエリザベス・ジョイ・ロウさんは、このロウさんだということに、2次予選あたりで気が付きました。
このアルバムのおかげで、ノクターンの創始者と呼ばれたフィールドが、当時ロシア貴族の間では「フィールドを知らないことは罪悪」と言われるほど人気だったこと、リストやショパンにすごく影響を与えたこと、そしてあんなきれいでおだやかな曲を書きながら、“酔っ払いのジョン”と呼ばれるような破滅型の人生を送った人だということを知りました…。
上の写真は、ロウさんに無事ご挨拶もすませ、写真を撮ろうとしたら、すかさずアンダーソンさんも参加してきて撮影したもの。配信で見るのと同様、テンション高めの素敵な二人でした。この二人の演奏もすごいです。

さて、少し話は変わりますが、音についての印象のお話。
自分が1次予選の結果のとき、通ったことを意外に思った人というのは、だいたい音がドライめとかこもりぎみとか、そう思った人でした。
そして、中にはそこからそのままファイナルまで進んだんだなぁと感じる人も、実はいます。あくまで個人的な感想ですし、座る場所にもよるのだと思いますが。
結局、自分がツヤツヤした水分たっぷりよりの音が好みだから、音が好みでない時点でなんとなく魅力的ピアニスト候補から外してしまう。カサカサめの音にも、それだからこその表現があるのはわかるのですが。絵の具じゃなくて色鉛筆で描いたタッチの味わいみたいな感じでしょうかね。そういう音の良さも理解していきたいなと思ったりします。
で、さらにあとで配信で聴き直してみると、ホールで聴いていてカサカサめに感じた音がとってもクリアに聴こえて、けっこういい演奏だなと思ったりするわけです。
これ、どんなコンクールや演奏会でもあることではありますが、バス・パフォーマンスホールというやたら広くて響きをコントロールしにくそうな会場ゆえ、余計そういう差が顕著になるのかもしれないなと思いました。
以前スタインウェイのゲリット・グラナーさんが、「スタインウェイの典型的な音はと聞かれたら、わかりませんと答える。その人それぞれの独特の音が鳴ることが特徴だし、そのときの気分も反映する」といっていたのを思い出しました。(もちろんどのメーカーのピアノでもあることだとは思います)
今回はとくに、結局全員同じ楽器を使っているので、そのあたりの違いも本当に良くあらわれているようで興味深いです。

いずれにしても、ある一定のレベルを越えれば、音の好み、表現や解釈の好みなんて何が正しいか本当にわかりませんね(そういってしまえば、それまでですけど)。
コンクールって本当にむずかしい。毎回こればかり言っていますが。

クライバーン、セミファイナルもあと1日

セミファイナルも残すところあと1日。
6月5日最終日に、2人のリサイタルと4人のモーツァルトの協奏曲の演奏が終わると、その日の夜遅くに6人のファイナリストが発表されます。

ファイナル進出者を決める審査の方法は、9名の各審査員がここまで全てのステージの印象を考慮したうえで、次に進むべき6人を選んでマークをつけ、タイが出たときのためにMaybeを1人選んでおき、それを集計するというもの。
ちなみに、ここまでのステージの審査はすべてこのタイプの方式でした。
6人、どんな顔ぶれとなるのでしょうか……。

さて、セミファイナルでは、コンテスタントは、60分のリサイタルに加え、ニコラス・マギーガン指揮、フォートワース交響楽団とモーツァルトのピアノ協奏曲(9番、20〜25番、27番より選択)を演奏しています。

ここで、これまでにとらえた一部のコンテスタントの様子などをゆるやかにご紹介しておこうと思います。

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ダニエル・シューさん。ステージに出てきたときの声援も大きく、人気高い感じ。
モーツァルトの協奏曲では、ダニエル君によく合った21番という選曲で、明るく力のある音を響かせていました。
カデンツァおもしろいなぁと思って聴いていたら、これは同じくピアニストのお兄さんによる作だったそうです。この一家、3人きょうだいが3人ともピアニストらしい。ちなみにダニエル君は末っ子です。

ゲオルギ・チャイゼさん。そういえば昨秋横浜招待で聴いたシューベルトで、ものすごく独特のもんやり音(いい意味で)に驚き、一体どんな指の形状をしているのかちょいと見せてもらいたいと思っていたのでした。その希望をまさかテキサスでかなえることになるとは。
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うっすら笑みを浮かべつつ、けっこうノリノリで見せてくれました。想像していたとおりのまぁるい指先。チャイゼさん、ステージ上の印象と違ってけっこう小柄。しかもメガネかけているとショスタコーヴィチに似てる。
そして、横浜みなとみらいホールのすばらしさ、歌舞伎シアターに行って超楽しかったということなど(とはいえ、歌舞伎は上演中でなく、バックステージを見に行ったといっていました)、静かにわりとすごい勢いで語っていました。

イーケ・トニー・ヤン君は、スカルラッティに、ショパンの葬送ソナタ、展覧会の絵というボリュームたっぷり、濃いプログラムを弾いていました。大変そうだな…と思いましたが、当の本人は「どっちも弾きたいなと思って一緒に入れただけだよ~」みたいな口ぶりでした。
ちなみにトニー君、1次のときはもう1台のほうのハンブルク・スタインウェイ(財団の楽器)を使っていましたが、2次以降で、他の皆さんと同じほうのハンブルク・スタインウェイ(NYスタインウェイホールの楽器)にチェンジ。変えて、断然ひき心地がいいといってました。

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テキサスでも、ショパンコンクールの時と似たような赤いジャンパー着用。赤い上着が好きなのかな。
ステージでは、やはりワルシャワでも着ていた異素材シャツを愛用していますね。(通気性が良くて伸縮性もあり、着心地がいいのだと本人は言うけど、傍からは全然そう見えない、あのシャツ)

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レイチェル・チャンさん。1次から安定した演奏を聴かせていますが、セミファイナルでもプロコフィエフで美点炸裂。彼女の音は、決して音量は大きくないんだけど、独特のタッチですごいインパクトがあります。プロコフィエフのソナタ6番がすごくハマっていました。
セミファイナルから聴きに来ている音楽雑誌のおじさんが彼女のプロコフィエフをえらく気に入ったようで、過去も含めてクライバーンで聴いた演奏の中で最高だったといって興奮していました。以来会うたびに、レイチェル・チャンよかったねー、と言ってきます。会う人会う人に言っているのか、それとも彼女の終演後のバックステージで会ったから、同志だと思っているのか。

ソヌ・イェゴンさんは、仙台コンクール優勝者披露演奏会を日本で聴いて、堅実で、でもさりげなく華やかで、とてもいい演奏をする方だと思っていましたが、その安定感健在。R.シュトラウス=グレインジャーの「薔薇の騎士の愛の二重唱によるランブル」で、しみじみいい曲だなぁと思わせ、プロコフィエフのソナタ6番ではキレのよい表現を聴かせてくれました(とはいえ、急に降った大雨の湿気のせいで、プロコフィエフの連打や速いパッセージは、いつもより弾きにくかったとのこと)。自分のいろいろな面を見せるうまい選曲。

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1次からずっと気になっていたソヌさんのイメチェン問題について尋ねると、「痩せたのと、メガネをやめたのと、髪を伸ばしたからかな。前はすごく短かったから」とのこと。なんだか垢ぬけた感じがあって、人の印象ってちょっとしたことで本当に変わるんだなと思いました。でもよく見ると、確かにお顔は昔のまんま。
そして撮った写真を後から見て、なんたるつやつやフェイス!と驚きました。

スタインウェイ担当調律師、ベルナーシュさん

クライバーンコンクールのステージで使用されている3台のスタインウェイの調律を担当している、スタインウェイのコンサート調律師、ジョー・ベルナーシュさんにお話を聞きました。

なんだかとても控えめな雰囲気の方で、調律師になると決めたのは、「音楽も手作業も好きだし、一人きりで作業することも好き。自分にとって完璧な仕事だと思ったから」とのこと。
写真も、遠くからならいいよ…とのことだったので、ベルナーシュさんの姿は豆粒サイズです。(しかしさすがに遠すぎた)
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◇◇◇

◆ジョー・ベルナーシュさん(スタインウェイ、コンサート調律師)

─今回はNYスタインウェイホールのハンブルク・スタインウェイを選んだ人が圧倒的に多かったですね。3台のスタインウェイは、それぞれどんなキャラクターなのでしょうか?

NYスタインウェイホールのハンブルク・スタインウェイは、一番オープンで゛フォーカス”した楽器だと思います。作られてだいたい1年半くらいの楽器です。
あとの2台、財団所有のハンブルク・スタインウェイとニューヨーク・スタインウェイは、それぞれに違うけれど類似性があって、どちらも、決して悪い意味ではなく、暗めというか、重めの音がするピアノです。なかでもニューヨーク・スタインウェイのほうは、それならではの特徴的な音がしたと思います。ラフマニノフとか、ロマン派の作品には合うと思うのですが。
いずれにしても結果的には、多くの人が広いダイナミクスレンジを持つ楽器を選んだのだと思います。

─コンクールの調律で一番気にかけていることはなんでしょうか?

コンクールのピアノにとって一番大切なのは、最大のパワーで演奏されても耐えられる楽器であること、そしていち早く元に戻る楽器であること。例え音が良いピアノでも、この2つの条件がクリアできていなければ誰も弾きたいと思いません。まともに演奏することができませんから。

─あなたにとって理想的な音のピアノというのはどのようなものですか?

歌って、パワフルで、フォーカスしていて、バランスがとれていて、ダイナミクスの幅が広いピアノです。コンクールで求められるピアノとして説明したものと同じですね。

─ところでその、フォーカスした音というのがどんなものなのかもう少し詳しく知りたいんですが……。

そうですねー、明るいとかメタリックという意味ではないんですよね。もっと、はっきりと発音して、クリアで、まとまりのある音ということですね。

─コンテスタントからはピアノにリクエストがありましたか?

要望は聞きましたが、これだけ多くの人が弾く場合は誰か一人の好みに合わせて変えることができないのが難しいところです。もちろん、ペダルを踏むと音がするとか、そういう具体的な問題には対応できますが。

─今回のコンクールを見ていて、若いピアニストたちは平均的にどんなピアノを求める傾向にあると感じますか?

一般的には、輝かしい音がして、鍵盤が軽いピアノを好む傾向にあると思いますねぇ。

─スタインウェイの音とはどんな音でしょう。

スタインウェイと一言にいってもあまりにそれぞれの違いがありますが、挙げるとすれば、パワーとファンダメンタル・トーンへのこだわりでしょうか。私は普段ニューヨークを拠点にしているわけですが、こちらではとくにファンダメンタル・トーンを大事にしています。

─ピアニストのリクエストにこたえるためにもっとも大事にしていることは?

整音の行程ですね、それはもちろん。調律と整調は言うまでもなく重要で、正しくなくてはいけませんが、整音が一番の個人の好みの出しどころになります。主観的な部分ですね。

─ところで、コンクールなどで自分の調律したピアノが演奏されているときは緊張しますか?

全然しませんよ。慣れました。大きな問題が起きることはあまりないし、弦が切れたら直せばいいわけですし。

─この前あるピアニストと話していたら、長い演奏経験の中でピアノから思い描く音を出すため、どこまでが調律師に頼めることで、どこまでがピアニストの責任なのかがわかるようになってきたといっていました。そういう境目のようなものの認識って、ありますか?

それはおもしろいですね。
レベルの高いピアニストたちは、確かに楽器のことをよくわかっていて、自分が鳴らしたい音がする傾向のピアノを選んで、そこからリクエストをしてくれます。明るい音がいい、柔らかい音がいいなどといったことは、いくらでも僕たちに変えられるけれど、ただ、ピアノ自身の特質に由来する音の傾向は、何も変えることができません。優れたピアニストは、そのあたりを理解していると思います。

◇◇◇

お話を終えたあと「なんかおもしろくない話でごめんね」などとおっしゃるので、私は調律師さんのお話を聞くのが好きなんだということ、日本では去年、調律師さんを主人公にした小説(羊と鋼の森)も流行ったのだということを伝えると、「信じられない、そんなのが流行ることあるの!?」と驚いていました。
映画化もされるんだといったら、やっと信じてくれました。控えめベルナーシュさんらしいリアクションだなーと思いました。

クライバーンコンクールのピアノ

みなさまお気づきの通り、ヴァン・クライバーンコンクールでは、スタインウェイのピアノのみが使われています。

かつて他メーカーのピアノも使われていたことがあったようですが、ここしばらくはスタインウェイとの協力関係のもと、1メーカーのみということにしているようです。いろいろ理由はあると思いますが、前事務局長だったリチャード・ロジンスキーさんは以前、メーカー間のコンテスタント獲得合戦の激化を避けることも一つの理由だと話していました。

というわけで、コンクール本番で使う3台のピアノ、30名のコンテスタントが滞在しているホームステイ先のピアノ、そして楽屋の練習用のピアノ、すべて良い状態のスタインウェイ。つまり、ざっと40台近くのグランドピアノが用意されているということ。すごいですね。
クライバーン氏ありし日には、コンクール後、ホストファミリーがピアノをそのまま買い取る場合は、クライバーンがピアノにサインをしてくれるという制度(?)があったそうです。なんとよくできたセールスの流れ。

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さて、セレクションには3台のピアノが用意されていました。
ハンブルク・スタインウェイが2台(クライバーン財団所有の楽器と、NYスタインウェイホールの楽器)と、ニューヨーク・スタインウェイが1台。各人15分間が与えられてピアノを選択します。

結果、30人中23人がハンブルク・スタインウェイ(NYスタインウェイホールの楽器)を選択。3人がハンブルク・スタインウェイ(財団所有の楽器)、4人がニューヨーク・スタインウェイ(財団所有の楽器)を選ぶという、たいへん偏った結果となりました。

ちなみにこの大人気のハンブルク・スタインウェイ(NYスタインウェイホールの楽器)は、スタインウェイ社が選んで送ってきた2台(ニューヨーク・スタインウェイとハンブルク・スタインウェイ)から、ホロデンコが選んだ楽器だそう。
ホロデンコさん、さすがコンテスタントのニーズをわかってらっしゃる。

結果、この一番人気のピアノばかりがただひたすら弾かれ続ける日がほとんどとなりました。
ときおりのピアノチェンジ、カーテンコールの最中なのに大きなおじさんたちがワラワラとやってきて、ワイルドに音を鳴らしながら鍵盤をフキフキし、コンテスタントすれすれにゴゴゴーっとピアノを押してはけさせてゆく様子を何度か目にしましたね。
慣れていないせいなのか、それともそれでいいと思っているのか。

先日、スタインウェイの担当調律師さんに、この3台のピアノの特徴などお話を聞くことができましたので、近日ご紹介したいと思います。

クライバーン2次結果&今回のコンクールの特徴など

2日間で20人が演奏した2次予選が終あっという間に終わり、セミファイナリストが発表されました。

Kenneth Broberg, United States, 23
Han Chen, Taiwan, 25
Rachel Cheung, Hong Kong, 25
Yury Favorin, Russia, 30
Daniel Hsu, United States, 19
Dasol Kim, South Korea, 28
Honggi Kim, South Korea, 25
Leonardo Pierdomenico, Italy, 24
Yutong Sun, China, 21
Yekwon Sunwoo, South Korea, 28
Georgy Tchaidze, Russia, 29
Tony Yike Yang, Canada, 18

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セミファイナルでは、12人のコンテスタントが60分のリサイタルとモーツァルトの協奏曲を演奏。6月1日~5日までの5日間です。ここからがまたけっこうヘビー。
演奏日程はこちらで見られます。

ところで、ここで改めて、今回のクライバーンコンクールの特徴をおさらいしたいと思います。 まず、前回から大きく変わったことがいくつか。

・20人にしぼられた面々がリサイタルを演奏するクオーターファイナル(2次予選)が加わった。
・新作課題曲が2次ではなく1次で全員によって演奏されるようになった。
・協奏曲が、セミファイナルとファイナルでの演奏に分けられ、セミファイナルではモーツァルトのピアノ協奏曲が演奏される。それによって、室内楽はファイナルに移行。

…加えて、「審査員の顔ぶれが一新されている」のも特徴だと思います。

前回12人だった審査員は9人に。
審査委員長には、1973年からずっと審査員長をつとめてきた、指揮者で地元テキサス・クリスチャン大学の教授のJohn Giordano氏にかわり、デトロイト響の音楽監督、レナード・スラットキン氏が就任。本選の指揮者も自ら努めます。
審査員長が自ら指揮するというのは、けっこう珍しいのでは。

また、委嘱作品課題曲の作曲も手掛けたマルク=アンドレ・アムランさんも審査員として初参加。 日本からの審査員としては、児玉麻里さんが初めて参加しています。
書類&音源選考、各地でのスクリーニング・オーディション、そして本大会と、全ての審査員の顔ぶれが違うのも特徴だとのことです。

さて、セミファイナリストの顔ぶれ。
日本でおなじみの面々は、5月にはLFJで日本に来ていたばかりのユーリ・ファヴォリンさん、2015年浜松コンクール3位だったダニエル・シューさん、前々回仙台コンクール優勝のソヌ・イエゴンさん、そして2015年、16歳でショパンコンクール5位に入賞していたイーケ・トニー・ヤンさんあたりでしょうか。
(ソヌ・イエゴンさんのイメチェンぶりがすごいと思うのは私だけでしょうか。最初誰だかわかりませんでした…)
キム・ダソルさんやゲオルギ・チャイゼさんあたりは、コンクールでよく見かける面々かもしれません。

未だ審査員の趣味嗜好のようなものはわかりませんが、わりと、はっきりくっきり、わかりやすい演奏をする方々が残っている印象のような…。まあ、アメリカのコンクールだと思って見ているから、そう感じるだけかもしれませんが。

日本のみなさんの多くが注目していたであろう何人かはセミファイナルまで残らず、残念でした。

深見まどかさんは、アメリカにほとんど縁がない中ダメ元で受けたら出場できることになったのだとおっしゃっていましたが、1次予選、初日の2番目という状況で、繊細な表現で自分の音楽を届けようとしていました。地元の新聞「Star Telegram」の記者は翌日の記事で、この日の昼のセッションのお気に入りはマドカ・フカミだったと書いていましたよ。

アリョーシャ・ユリニッチさんも、私はこれまで彼のショパンの演奏しか聴いたことがなかったわけですが、他の作曲家では彼の自由な感性がより生きるという印象がありました。というより、ショパンコンクールならではの「ショパンらしさが求められる」という先入観で聴いていたときと状況が違うから、彼の表現するものをそのままに受け取ることができたのかも、と自分でも今気が付く。

1次予選の椅子の高さ調整の愛嬌のあるしぐさ、感情表現豊かな演奏で目立っていたマーティン・ジェームズ・バートレットさんは、実はすでに2018年3月、東京交響楽団との共演での来日が決まっているそうです!
プロコフィエフの3番のコンチェルトを弾くみたい。

ニコライ・ホジャイノフさんも、調子もよさそうで、耳をひきつける良い演奏をして聴衆を魅了していたので、あの演奏をしても今回の30人から次に通過できないのか…と驚きました。ちなみにこの後ホジャイノフさんは、2017年11月2日、オペラシティのアフタヌーンコンサートシリーズ (リサイタル&室内楽)、2018年1月15日サントリーホールでのワルシャワフィル公演ソリストとしての来日が決まっています。

ふと、前回の審査員だった野島稔さんがホロデンコについて、「ホロデンコは憎々しいほどにできあがっていた。人を手玉にとるようなところすら感じ、審査員もそこを少し感じていたと思う。あれだけ人にアピールするように弾くと、浮いてしまって嫌な感じを与えかねないんだけれど、やはり抜きんでていたから今回優勝した」と話していたことを思い出しました。
今回のケースは、その魅せ方知ってます的気配がうまいほうに転ばなかったということなのでしょうか。よくわかりませんが、コンクールというものはむずかしいですね。