クライバーンコンクールファイナル、室内楽


ファイナル、2日間の室内楽のステージが終わりました。

コンテスタントはそれぞれ、1回きりのリハーサルで本番に臨むことになります。
共演はブレンターノ弦楽四重奏団。内田光子さんとよく共演しているクァルテットですね。

Kenneth Broberg e170
Photo:Carolyn Cruz

1日目、最初に演奏したのはケネス・ブロバーグさん。
演目はドヴォルザークのピアノ五重奏曲。
彼のピアノの音はわりと硬質な印象なのですが、弦楽と合わさったときには、よく言えばその音が目立ち、悪く言えばそれがなじまずという印象。ちょっと変な例えかもしれませんが、アグレッシブな雰囲気で会話をしている4人の周りで、ピアノの人が、どうした、どうしたと顔を出そうとしているような、そんな感じだったかな…。あくまで個人的な印象ですが。

Yury Favorin044
Photo:Ralph Lauer

ユーリ・ファヴォリンさんはフランクのピアノ五重奏曲を選択。
あたたかい音で、ときに後ろにさがり、あるときにはググッと前に出てくる。室内楽慣れしているんだろうなという、さすがの安定感の演奏でした。

Yekwon Sunwoo069
Photo:Ralph Lauer

ソヌ・イェゴンさんは、ブロバーグさんと同じドヴォルザークを選択。
これがまた、先ほどはアグレッシブな演奏をしていたクァルテットが同じメンバーとは思えないほど違った演奏をしていました。ピアノと弦楽器の掛け合いも楽しく、感動的な瞬間がちらほら。
ソヌさん、クァルテットの面々と肩をたたき合いながらステージからはけていきました。レディを先に退場させるところなどにも、こなれ感が。さすが、アンサンブル能力が重視される仙台コンクールの覇者であります。

Georgy Tchaidze403
Photo:Ralph Lauer

そして二日目の一人目は、ゲオルギ・チャイゼさん。
ドヴォルザークのピアノ五重奏曲。持ち味の魅力的なもんやりサウンドは、弦楽四重奏となじむような、少し埋もれるような。しかしアンサンブルとしては無駄に目立ちすぎず、ぴたりとクァルテットに寄り添ってまとまった音楽を聴かせていた印象です。

Rachel Cheung058
Photo:Ralph Lauer

レイチェル・チャンさんは、ブラームスを選択。
冒頭のピアノの入りのところ、セミファイナルで聴かせてくれたキラリン音を期待していたら、そこでいきなり予想外の音だったのでビックリしましたが。ブラームスというセレクトのためか、最初から最後まであたたかく重めの音を鳴らし、弦楽の中で堅実に演奏していた印象。

Daniel Hsu099
Photo:Ralph Lauer

そして最後の奏者、ダニエル・シューさんはフランクを選曲。
弦楽器に合わせるところは合わせ、自分が出るべきところは一気に出て、存在感充分。いろいろな音を鳴らしています。若さを感じる場面もありながら、それはそれで魅力的だなと感じられました。
以上、あくまで個人的な、そしてざっくりした音や演奏の印象でありました。

ファイナルで室内楽を演奏するというのはわりとめずらしいケースかと思いますが、このタイミングでアンサンブル能力を試すということが、最終結果にどんな影響を及ぼすのか、興味深いところです。

そんな中、あるジャーナリストが審査員がたむろしているところにやってきて、「室内楽って、どのくらい審査に影響しますか?」という大変興味深い質問を投げかけていました。そこで小耳にはさんだひとつの意見。

「でも実際、プロとして室内楽を演奏するときは、共演する相手を選ぶことがほとんど。それに、音楽性が合わない人とやってうまくいかないことなんてプロになってもあるけれど、それはどうにもならない。しかもたった1回のリハーサルで本番に臨むことなんて、実際にはあんまりない」

つまりこの課題で、基本的なアンサンブル能力や意欲のあり方を見ることはできても、室内楽の演奏としての音楽的な完成度をまともに評価しようとすると共演者との相性に大きく左右されるので、そのあたりは差し引いてみてあげないといけない、ということになるかと。

一方今日の審査員によるシンポジウムでは、「室内楽の演奏には、ピアノソロ作品以外の作品にも興味を持ち、聴いているかも現れる」という話がありました。
これもまた、なかなか興味深い。

さて、ファイナルの協奏曲はいよいよ今夜から。
下記の時間から、3人ずつ2日間にわたって演奏します。
ライブ配信はこちら

現地時間6月9日(金)19:30 [日本時間 10日(土)午前9:30]

ユーリ・ファヴォリン(ロシア、30歳)
ケネス・ブロバーグ(アメリカ、23歳)
ソヌ・イェゴン(韓国、28歳)

現地時間6月10日(土)15:00 [日本時間 11日(日)午前5:00]

レイチェル・チャン(香港、25歳)
ゲオルギ・チャイゼ(ロシア、29歳)
ダニエル・シュー(アメリカ、19歳)