クライバーンコンクールのスタインウェイ…ハンブルク?NY?


6月6日現在、クライバーンコンクールはクオーターファイナル進行中。

コンクールが始まって数日はわりと過ごしやすかったのですが、クオーターファイナルが始まったあたりから、またものすごく暑くなってきました。本日は最高気温36度。今週末には38度までいくようです。焦げますね。

IMG_2997
IMG_2998
(予選、クオーターファイナルの会場、テキサス・クリスチャン大学のヴァン・クライバーンホールとその周辺。午後5時過ぎでも太陽ギラギラ、36度!)

基本的にはカラッとしているのでまだ過ごしやすいですが、突然大雨が降ったりするので、そのあとは湿度が爆上がりです。ピアノの状態が心配になりますが、先日話を聞いたコンテスタントのゲオルギス・オソキンスさんは(ハンブルクスタインウェイを選択)、「自分の演奏の前にも雨が降ったから心配していたんだけど、このピアノはいろいろな場所を移動しているから、環境の変化に強くて安定していたよ」とのこと。

さて、そんなスタインウェイのピアノ。先日の記事で書いた通り、このコンクールではスタインウェイのみが使用され、今回はニューヨークとハンブルクの2台のピアノから、それぞれが使用するピアノを選んでいます。

IMG_2959
(このコンクールではレアな、ピアノチェンジの場面)

これがまた、かなりキャラクターの違うピアノです。配信でどのくらいそれが伝わっているかわかりませんが、特に強めに鍵盤を叩いたときに、はっきり違いがあらわれる印象です。
今回予選に参加した30人のコンテスタントのうち、9割がハンブルクの方を選んでいます。こちらを選んだピアニストは、ほとんど迷わなかったという人ばかり。
「ハンブルクの方が深い音色をもっていると思った」「あたたかい音がする」「絶対こっちだと思った」などと、みんな“推し”の誰かをすすめてくるかのようなノリで語っていました。
ちなみに前述のオソキンスさんは、15分のセレクションの際、ニューヨークのほうには10秒しか触らずあとはハンブルクを弾いていたといい、「こっちのほうがリッチで熟した音がすると思った。より想像力をかきたてるの」と話していました。
…想像力をかきてるピアノ、いいですね。

一方で、ニューヨークの方を選んだのはわずか3人だったわけですが、こちらを選ぶ人は、自分のプログラムと照らしてこちらが求める音だということで決断を下していた模様。そして気づけば、3人ともアメリカ人またはアメリカで勉強しているピアニストだという。偶然か必然か。そういえば逆にハンブルクを選んでいる人の一部は、ドイツで勉強しているからこちらのほうに慣れている、と言っていましたね。

例えばティアンス・アンさん(彼は中国人ですが、カーティス音楽院で勉強中です)は、メフィストワルツや「ソ連の鉄のイメージで弾いた」というグバイドゥリーナを念頭に、ブリリアントな音を持つニューヨークスタインウェイのほうを選んだとのこと。

また興味深かったのは、クレイトン・スティーブンソンさんのコメント。予選のゴドフスキー「喜歌劇〈こうもり〉による交響的変容」のシアターモードな感じのサウンド、プロコフィエフのソナタ7番の轟くような音といい、ただきれいという感じでもない強烈な音がインパクト大でして。
(ニューヨークの方を選んでいるピアニストは、パワフルにピアノを叩く方が多い気がします)

どうしてこのピアノを選んだのか、他にほとんどニューヨークを選んでいる人がいないけどどう思った?と聞いたら、こんな回答が。

「まあ、そうでしょうね。鍵盤がとても重いんですよ(笑)、それが問題なんだと思います。私は、音質と弾き心地のよさでどちらをとるか迷って、結局音質が好みの方を選びました。
私の先生は、心にしっかりと音楽のイメージがあれば、鍵盤の問題は考える必要がなくなるものだといつもいっていました。その考えにそった選択です。
このニューヨークスタインウェイは音質がとてもおもしろい。思っている音を出すためにはとても努力が必要だけれど、でも頑張る価値があったかなと思います」

心に出したい音色のイメージがあれば、少し弾きにくいピアノでも、指が勝手に動いてコントロールしてくれる…いいピアニストがよく言ってるやつ。かっこいい。

結局、クオーターファイナルには、ニューヨークを選んだ3人のうち、前述のスティーブンソンさんと、アンドリュー・リさんのお二人が進みました。
お二人とも初日に登場していますので、あらためて他のピアノと聴き比べてみるとおもしろいかもしれません。
逆に2日目のほうは全員ハンブルクスタインウェイでした。完全に同じピアノを、同じ環境で別のピアニストが弾くところを続けて聴き比べられるのは、コンクールならではです。ぜひご注目を!