チャイコフスキー国際コンクール第3位、コンスタンチン・エメリャーノフさんのお話

チャイコフスキー国際コンクール入賞者のコメント。続いては、第3位のコンスタンチン・エメリャーノフさんです。
モスクワ音楽院で、ドレンスキー先生とその門下の先生方(ピサレフ、ネルセシヤン、ルガンスキー)のもと学んで、2018年から音楽院のアシスタントを務めているようです。王道ルートという感じ。

エメリャーノフさんはまだ25歳ですが、演奏も佇まいもとても落ち着いた雰囲気です。私の中では、演奏はわりとサラリとしているけれど、音にインパクトのあるタイプという印象。

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Konstantin Yemelyanovさん
結果発表直前に、薄暗い通用口のドアの前で佇んでいるところを発見
さすがに背景がもの寂しすぎたので、場所を移動して撮影しました。ニッコリ

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—チャイコフスキーコンクールのファイナルという舞台で演奏してみて、どんなお気持ちですか。

とても幸せですし、光栄です。でも、同時にすごく疲れました。もっともストレスの大きい経験だったと思います…。

—やっぱりロシアのピアニストには、昔からチャイコフスキーコンクールの舞台への憧れみたいなものがあるのですか?

子供の頃っていうことですか? とくにそういう夢とか憧れはなかったですねぇ。僕は神童みたいなタイプではなかったし、練習もあまりしなかったし。家族には音楽家もいないし、両親も、僕を音楽家にしようなんて考えていなかったと思います。
僕が音楽の道に進んだのは、ほとんどアクシデントのような感じなんですよね。子供の頃は練習だって4、50分くらいしか続かなかったですし……。

—でも、ご両親は今この結果を喜んでいるでしょう。

それはもちろん(笑)。

—全然体を動かさないで、すごくどっしりした音を鳴らしていらっしゃいましたね。これがロシアン・ピアニズムを受け継ぐ人の音なのかなと思いましたが、エメリャーノフさんとしては、そういうロシアのスクールのようなものについてどう考えていますか?

僕自身が、もしかしたらその中にいるのかもしれませんけれど……ロシアン・ピアニズムの演奏家は、みんな違う音、音の色を持っています。一番重要視されるのは、音楽のアイデア、コンセプトでしょう。テクニックの問題だけが重要なのではありません。ステージで演奏する作品についてのコンセプトを常に深く掘り下げ、そのキャラクターを真に捉えていなくてはいけません。

—モスクワ音楽院の大ホールは音響をコントロールするのが難しいとみなさん言っていましたが、いかがでしたか?

そうですね、とても広いし、物理的に簡単ではありません。この会場は、ステージに座って聴く音と、客席で聴く音が大体同じだと感じます。自分が十分でないと感じるときは客席でも十分でないし、クリアに聴こえると思うときはクリアに響いている。おもしろいなと思いました。

—今回は5台のピアノからヤマハのCFXを選びました。その理由は?

関心を持ったそれぞれのピアノを試してみましたが、このホールの音響にはヤマハが合うと思いました。一番音がクリアで、混ざり合っても音がごちゃごちゃになってしまうこともなく、すべての声部を聞くことができて、音楽を作るのにとても良いピアノだと思いました。
僕にとって、鍵盤の弾き心地の良し悪しはあまり大きな問題ではありません。最も重要視しているのは、このホールの中でどう響くかという音のことです。

—エメリャーノフさんが音楽家として最も大切にしていることはなんでしょうか。

常に真摯で正直でいること。自分自身でいること、そして作曲家に正直でいることです。自分が人に届けたいと感じる偉大な作曲家たちの作品を弾いているのですから、そんなすばらしい音楽に対して、いつも正直でいないといけないと思っています。

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この“家族に音楽家はいないし、子供の頃あんまり長い時間練習しなかった”っていうパターン、ロシアのピアニストに結構いますね。(それで、それじゃあ何して遊んでたのと聞くと、だいたい「サッカー」っていう。エメリャーノフさんには聞きませんでしたけど)
ゴリゴリ練習漬けにはしないけれど、才能のある子は早期教育の学校に入れてしまって、自然とすごい先生と仲間に囲まれて淡々と音楽をやっていて、気づくと技術と考え方が身についている。そういう芸術家育成システムが、ロシアにはあるんでしょうね。

エメリャーノフさん、演奏の雰囲気からもっとクールな感じなのかと思っていたんですが、話しかけてみたら非常に優しい感じで、しかもにっこりポーズの撮影にまで付き合ってくださり、そんなところも、いかにもロシアのピアニストって感じでした(イメージ)。

チャイコフスキー国際コンクール第4位、ティアンス・アンさんのお話

ここから、お話を聞くことができた一部の入賞者のみなさんの言葉をご紹介したいと思います。

まずは、中国のティアンス・アンさん。
中国に生まれ、北京の中央音楽院で学んだのち、アメリカのカーティス音楽院に留学している20歳です。中国のピアノ、長江を選んでファイナリストとなり、また前述の通りのファイナルでのハプニングもあり、いろいろな意味で注目されました。そのハプニングへの配慮から、アンさんには特別賞(Special Prize  for courage and restraint)が授与されました。

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Tianxu Anさん。結果発表前に少しだけお話を聞きました
写真はガラコンの日のもの。何度写真撮っても、安定の満面スマイル

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—ファイナルの演奏については、いかがでしたか?

よかったと思います。私にとって、オーケストラと共演するのは人生で初めてでした。こんなに大きなコンクールでその初めての経験ができたことは、とても幸せだったと思っています。とても緊張しましたが、こんなチャンスをいただくことができて、自分はとても運が良いと思っています。

—「パガニーニ」の演奏のことは、驚きましたね。

でも、あれは自分の責任です。ステージに出る前に指揮者と話して確認しなかったのがいけませんでした。私のミスです。

—そんなことないでしょう……。でも、すぐにリカバーして演奏を続けたのはすごかったですね。

ああ、ありがとうございます。

—今回、ピアノは長江を選びましたが、どんなピアノでしたか? ピアノを選んだ理由は?

とてもすばらしいピアノで、ソフトな音もとても輝かしく鳴るところが気に入りました。大きな音も輝かしく、小さな音もクリアなままで鳴る、そのキャラクターが自分の演奏に合うと思って選びました。どのピアノもみんな違う特性がありましたが、あのピアノの特徴は私が好きなものでした。

—あまり弾いたことのないピアノを大きな舞台で選ぶのは勇気がいったのでは?

でも、中国で試したことがありましたし、ステージごとにピアノに慣れていきましたので。

—今は、カーティス音楽院でマンチェ・リュウ先生の元で勉強されているんですよね。小林愛実さんも一緒ですよね。

はい!! もちろんアイミはしってますよ。一緒の先生のクラスですから。

—リュウ先生から、どのようなことを学びましたか?

先生は、技術のトレーニングについてとても厳格に見てくださいます。彼が伝えようとしているのは、音楽を作るために、いかにそのテクニックを使うかということだと思います。筋肉の使い方などについてたくさんのアドバイスをくださいます。また、ブラームスやベートーヴェンなど、ドイツもののレパートリーの指導がすばらしいです。先生の元で、多くのことを学ぶことができました。

◇◇◇

…アンさん、なんと今回のチャイコフスキーコンクールのファイナルが、初めてのオーケストラとの共演経験だったんですね。それであの、「チャイコフスキーの1番だと思って座っていたらラフマニノフのパガ狂はじまる事件」が起きたわけです。コンチェルトのステージがトラウマになったりしないだろうか…パガ狂弾いたらいろいろフラッシュバックしそう。そしてあんなことがあったのに、自分はファイナルで演奏ができて幸運だったと何回も言っていて、前向きだなと思いました。
ただ、マツーエフさんからのファイナルの演奏やりなおしの提案については、弾こうとは全く思わなかったようです。

お話を聞こうと話しかけるといつも、アセアセしながらしゃべってくれるアンさん。ステージでの見た目はちょっとベテラン風ですが、非常に初々しいというか、人の良さが感じられました。結果発表のときにも、一人正装で臨んでいましたね。(カントロフさんなんて、結果発表は明日だと思ってさっきまで部屋でダラダラしてたとかいいながら、いつも着ているシャツ&ジーパン、手にマフラーむんずと掴んで会場に来てたのに)。
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アンさんの笑顔もいつも見事でしたが、付き添っていたお母様も本当ににこやかでフレンドリーな方で、会うといつも明るく声をかけてくださいました。このアンさんスマイルはお母さんの教育のたまものですね、といったら、アンさん以上のスマイルがかえってきて、親子すごいと思いました。