ここから、お話を聞くことができた一部の入賞者のみなさんの言葉をご紹介したいと思います。
まずは、中国のティアンス・アンさん。
中国に生まれ、北京の中央音楽院で学んだのち、アメリカのカーティス音楽院に留学している20歳です。中国のピアノ、長江を選んでファイナリストとなり、また前述の通りのファイナルでのハプニングもあり、いろいろな意味で注目されました。そのハプニングへの配慮から、アンさんには特別賞(Special Prize for courage and restraint)が授与されました。
Tianxu Anさん。結果発表前に少しだけお話を聞きました
写真はガラコンの日のもの。何度写真撮っても、安定の満面スマイル
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—ファイナルの演奏については、いかがでしたか?
よかったと思います。私にとって、オーケストラと共演するのは人生で初めてでした。こんなに大きなコンクールでその初めての経験ができたことは、とても幸せだったと思っています。とても緊張しましたが、こんなチャンスをいただくことができて、自分はとても運が良いと思っています。
—「パガニーニ」の演奏のことは、驚きましたね。
でも、あれは自分の責任です。ステージに出る前に指揮者と話して確認しなかったのがいけませんでした。私のミスです。
—そんなことないでしょう……。でも、すぐにリカバーして演奏を続けたのはすごかったですね。
ああ、ありがとうございます。
—今回、ピアノは長江を選びましたが、どんなピアノでしたか? ピアノを選んだ理由は?
とてもすばらしいピアノで、ソフトな音もとても輝かしく鳴るところが気に入りました。大きな音も輝かしく、小さな音もクリアなままで鳴る、そのキャラクターが自分の演奏に合うと思って選びました。どのピアノもみんな違う特性がありましたが、あのピアノの特徴は私が好きなものでした。
—あまり弾いたことのないピアノを大きな舞台で選ぶのは勇気がいったのでは?
でも、中国で試したことがありましたし、ステージごとにピアノに慣れていきましたので。
—今は、カーティス音楽院でマンチェ・リュウ先生の元で勉強されているんですよね。小林愛実さんも一緒ですよね。
はい!! もちろんアイミはしってますよ。一緒の先生のクラスですから。
—リュウ先生から、どのようなことを学びましたか?
先生は、技術のトレーニングについてとても厳格に見てくださいます。彼が伝えようとしているのは、音楽を作るために、いかにそのテクニックを使うかということだと思います。筋肉の使い方などについてたくさんのアドバイスをくださいます。また、ブラームスやベートーヴェンなど、ドイツもののレパートリーの指導がすばらしいです。先生の元で、多くのことを学ぶことができました。
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…アンさん、なんと今回のチャイコフスキーコンクールのファイナルが、初めてのオーケストラとの共演経験だったんですね。それであの、「チャイコフスキーの1番だと思って座っていたらラフマニノフのパガ狂はじまる事件」が起きたわけです。コンチェルトのステージがトラウマになったりしないだろうか…パガ狂弾いたらいろいろフラッシュバックしそう。そしてあんなことがあったのに、自分はファイナルで演奏ができて幸運だったと何回も言っていて、前向きだなと思いました。
ただ、マツーエフさんからのファイナルの演奏やりなおしの提案については、弾こうとは全く思わなかったようです。
お話を聞こうと話しかけるといつも、アセアセしながらしゃべってくれるアンさん。ステージでの見た目はちょっとベテラン風ですが、非常に初々しいというか、人の良さが感じられました。結果発表のときにも、一人正装で臨んでいましたね。(カントロフさんなんて、結果発表は明日だと思ってさっきまで部屋でダラダラしてたとかいいながら、いつも着ているシャツ&ジーパン、手にマフラーむんずと掴んで会場に来てたのに)。
アンさんの笑顔もいつも見事でしたが、付き添っていたお母様も本当ににこやかでフレンドリーな方で、会うといつも明るく声をかけてくださいました。このアンさんスマイルはお母さんの教育のたまものですね、といったら、アンさん以上のスマイルがかえってきて、親子すごいと思いました。