チャイコン出場者の演奏会情報&おまけ話

随分時間をかけてしまいましたが、ようやく現地でとってきたインタビューをご紹介し終えたところで、チャイコフスキーコンクールピアノ部門に出場したコンテスタントの一部の来日公演情報をご紹介したいと思います。(チェックしきれていないものもあるかと思いますが…すみません)

まずは、入賞者ガラコンサートです。
こちら、ピアノ部門は当初発表されたカントロフさんが来日できなくなってしまって残念なのですが、コンチェルト公演にはドミトリ・シシキンさんが、リサイタル公演にはアレクセイ・メリニコフさんが出演します。どちらも、生音をぜひ体感していただきたいピアニスト。プログラムなどはリンク先をご覧ください。

コンチェルト公演
10月7日(月) 岩手県民会館 大ホール
10月8日(火) 東京芸術劇場 コンサートホール
10月12日(土) ザ・シンフォニーホール
10月13日(日) 山形テルサホール

リサイタル&室内楽公演
10月9日(水) ノバホール
10月10日(木) 愛知県芸術劇場コンサートホール

アレクセイ・メリニコフさんについては、
いつもナイスなセンスで若手ピアニストを招聘していることでおなじみ、
横浜市招待国際演奏会での来日も決まっています。
こちらには、セミファイナリストのアレクサンドル・ガジェヴさんも出演予定。
2019年11月4日(月・休) 横浜みなとみらいホール 小ホール

コンスタンチン・エメリヤーノフさん(第3位)は、
毎年カワイ表参道で開催されるロシアン・ピアノ・スクールin東京に、
どうやら招聘学生として参加するみたいです。なんて豪華な招聘学生。
マスタークラスに加え、もしかしたら受講生による演奏会で演奏を聴けるのかも。
2019年8月11日(日)~8月15日(木) カワイ表参道

アンドレイ・ググニンさん(セミファイナリスト)は、9月に来日予定。
とても凝ったプログラムで、すごくおもしろそう!
2019年9月27日 (金) すみだトリフォニーホール小ホール

アルセーニ・タラセヴィチ=ニコラーエフさん(セミファイナリスト、ニコラーエワのお孫さん)も9月に来日。
ショパンのバラード4曲+ロシアものという、これまた聴きごたえ大のプログラム。2019年9月15日(日)東京文化会館 小ホール

第2位となった藤田真央さんは、入賞前から決まっていたコンサートも含めてかなりたくさんの公演があります。
きっとこれからも増えると思いますので、これはもう、藤田さんの公式サイトをご覧くださいませ。そして藤田さんが風間塵の吹き替えピアノで出演する映画「蜜蜂と遠雷」は、10月に公開されます。

…というわけで、ここからはこれまでのレポートでお届けできなかったおまけのお話です。

まず藤田真央さんといえば、このツーショット!

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なんと宇宙飛行士の野口聡一さんが、モスクワの会場にいらしていたのです!
クラシック音楽がお好きだそうで、今回はコンクールファイナルとガラコンサートをお聴きになったとのこと。ガラコンのあと、藤田さんに宇宙に行くときにつけていたワッペンと思しきものをプレゼントしていました。
それで、普段芸能人とかに遭遇してもテンションが上がりにくいわたくしですが(多分なんらかの神経が死んでるんでしょうね…)、野口さんを前にテンションがあがってしまい、突然にインタビューを申し込んでしまいました。以下、野口さんにお付き合いいただいたミニインタビューです。

◇◇◇

ーコンクールの演奏をお聴きになって、いかがでしたか?

モスクワ音楽院の大ホールで3日間ファイナルを聴きましたが、独特の緊張感がありますね。真央くんの、弾いている途中はノッていて、終わったあとに見せるあの「終わったー」という表情に、頑張っているんだなぁと感じました。観客を巻き込み、心を掴んでいることが伝わってきて、同じ日本人として誇らしいと思いました。今日のガラコンサートもとても楽しそうに弾いていて、これからが楽しみです。
最終結果発表の様子もライブ配信で見ていましたが、真央くんとカントロフさんが最後二人だけ残り、名前が呼ばれたときのホッとした表情も印象的でした。
ぎりぎりまで自分を追い込み、緊張した2週間を過ごしたのだと思います。お疲れさまでしたと伝えたいですね。

ー藤田さんの予選は、配信でお聴きになったのですか?

はい。インターネットで聴いていても、最初と最後で会場の雰囲気が全然違っているのがわかりました。

ーピアニストの緊張感を近くでご覧になって、宇宙に行く緊張感に共通するものは感じましたか?……すごいこじつけみたいな質問ですみません。

そうですねぇ。見ていて、ファイナルは特にオーケストラと共演しますが、そうすると、審査員への緊張感もあるでしょうけれど、聴衆やオーケストラは敵にも味方にもなるという緊張感もあるのだろうと思いました。真央くんは、観客も審査員も味方につけていたから、それが高い評価につながったのでしょう。
「緊張感を味方にする」ということができないといけないのだろうなと思いましたね。

ー実際に宇宙に行っている方にこういうことを聞くのもなんなのですが、すばらしい演奏って、聴いていると、宇宙を感じるというか…物理的な空間という意味の宇宙ではなくて、ホールの天井のようなものがなくなって宇宙に到達しているように感じるときがあるんですけれど。実際に宇宙に行かれている野口さんは、好きな音楽を聴いていてそういうことを感じるときってありますか?

そうですね、僕は音楽については素人ですが、優れた音楽家の方は、音を鳴らすのではなく、一瞬にして会場の空気を全部支配するというか、まさにおっしゃるとおり、天井がぬけるという感覚をもたらしてくれますよね。そこがすばらしいなと思います。例えば今日(モスクワでのガラコンサート)のシシキンさんの最後の演奏も、グワっと会場全員のテンションが集まって、陶酔感とともに、天井がぬけるような感じをもたらしてくれた。そういうのが音楽の醍醐味なんだろうなと思います。

◇◇◇

オーケストラと聴衆は敵にも味方にもなる。うまくいっている場面ばかり見ていると忘れがちですが、本当にその通りですよね、自然現象と同じく。
とはいえ見返してみると、わたし、まあまあアホみたいな質問を投げかけているんですが、それに調子を合わせて丁寧に答えてくださっている野口さん…優しい。私、概念としてのコスモスみたいなものと、実際の宇宙空間との共通性の有無みたいなものに、子供の頃から妙に関心がありまして。ここぞとばかりに質問してすみませんでしたと野口さんに言いたい。
でも、このくらい寛容で、なおかつ緊張感を味方につけることができるようでないと、未知なる超高度な何かを相手にする宇宙ではやっていけないのでしょうね。
(野口さんがロシアにいらしていたのは、この任務のためだったんですね)

さて、話はそれましたが、引き続き藤田さんの話題。

インタビューでも、藤田くんは日々のお食事を楽しみにしていたようだという話をご紹介しましたが、演奏のある前日はゲン担ぎのカツ(コトレット)を食べるということでした。結果、期間中全部で3回食べることになったそうです。
そのうちの一度、お母様やマネージャーさん、関係者のみなさんにまざって、カツの集いに同席させていただく機会があったのですが、レストランに入ったグループ全員でカツを頼み、あとから参加した人も次々カツを頼むもんで、どんだけカツ好きの集団なんだよとロシア人店員さんに失笑される&カツの追加オーダーが入るとキッチンから「オーマイガー」という声が聞こえてくるという事態が起きていました。
せめて誰か店員さんに「カツっていうのは日本語で…」って説明してあげたほうがいいんじゃないかと思いましたけど。

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(ロシアって肉料理頼むと、軽めの野菜の添え物とかなんにもなく、ただひたすら肉と芋が出てくること多い)

そのほかモスクワ音楽院のすぐ近くにはTOKYOというレストランがありました。私も、一度そこでお寿司をたべたりしました。

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(輝かしいお寿司たち)

藤田くんもランチによくここを利用していたみたいです。
中でも衝撃的だった出来事。

その日もいつものように、「今日もTOKYOでランチを食べたんですけどー」と、その詳細を教えてくれた藤田くん。添え物の小鉢の説明として、
「なんだっけ、今日はあれがついてた……”めくばせ”ー!」
と言っていました。

どうやら、「めかぶ」のことだった模様です。
ランチにそんな思わせぶりなものがついてたら大変です。
だいたい、「め」しかあってないし。

 

こちらは結果発表直前の、カントロフさんと藤田真央さん。ホールのホワイエでおしゃべりしています。

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(このあと1位と2位になるということを、この時の彼らはまだ知らない…)

ちなみにカントロフさん、結果発表はファイナルの翌日だと思っていたらしく、部屋でのんびりしていたら電話がかかってきてホールに来いといわれて、慌てて出てきたそうです。いつものワインレッドのシャツ姿に、毛糸のマフラーを握りしめていました。夏なのに。

最後に、いい声のカントロフさんのメッセージがこちらから見られますのでどうぞ。
2年前に大阪にいらしたときは、京都も東京も見ないで帰ったんですね。今回、残念ながらガラコンサートへの参加は叶いませんでしたが、いつか近いうちに来日して、日本のピアノファンのみなさんにあの音を届けてほしい!!
楽しみに待ちましょう。

チャイコン第1位、アレクサンドル・カントロフさんのお話

ようやく最後のお一人。
チャイコフスキーコンクールピアノ部門第1位、そして全部門のグランプリに輝いた、アレクサンドル・カントロフさんのお話です。

カントロフさんは、お父様は有名なヴァイオリニストで指揮者のジャン=ジャック・カントロフさん、お母様もヴァイオリニストという家庭に生まれました。大きなコンクールに挑戦するのは今回が初めてとのこと。
ちょうど先日、父カントロフさんのお弟子さんのヴァイオリニストにお会いしたのですが、アレクサンドルさんは昔からものすごく才能のあるできる子だったので、お父様も相当かわいがっていたそうな。息子さんの今回の優勝をとても喜んでいるそうです。

1次予選から見かけるたびにちょこちょこ話しかけていたにもかかわらず、やっぱり優勝しちゃうとひっぱりだこでなかなかじっくりインタビューできずで、結果発表前と後の細切れインタビューとなりましたが、どうぞご覧ください。

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Alexandre Kantorowさん

◇◇◇
[まずは結果発表の直前に聞いたお話から]

ーチャイコフスキーコンクールのファイナルの舞台で演奏してみて、いかがでしたか?

本当にすばらしかったです。このコンクールのために全力で準備してきたので、アドレナリンもたくさん出て、特別な感情を持ちましたし、本当に疲れました。…というのも、ファイナルでは最初からエネルギーを全然セーブしないで弾いてしまったので、1曲目の1楽章が終わったところで、もう息切れしそうになってしまって(笑)。

ー力の配分とか計画しなかった感じなんですか? でも、見事に弾ききったように見えましたよ。

全然計画しなかったんですよー。事前に2曲をいっぺんに弾いてみるということもしなかったし。まぁどうなるかやってみようという感じで本番に臨んだので。

ーそうなんですか…そのうえ、2曲目にあの大きな曲(ブラームスの2番)を選んでいたんですね。

そうなんですよ。もしかしたら1曲目にブラームスを弾いておいたほうがよかったのかもしれません。なにしろ、チャイコフスキーが終わったときにはもう疲れきっていたから。あの時はどうなるかと思いましたが、でも、再びステージに出てブラームスを弾き初めてみたら、大丈夫でした。

ーそしてチャイコフスキーの協奏曲は2番を選びました。カントロフさんのキャラクターにとても合っていると思いましたが、やっぱり珍しい選択ですよね。

僕もはじめは、普通に1番を用意しようと思っていました。でも、ふと自分の耳が、古い録音やトラディッションに塞がれてしまっていることに気がついたのです。そしてそのうちに、楽譜に書かれていることから自分だけの音楽を見つけることに困難を感じ始めてしまいました。
でもある日、両親の部屋でチャイコフスキーのピアノ協奏曲のオーケストラ譜を見つけて、2番の協奏曲の楽譜を読んでみたところ、「このコンチェルト、これまで知らなかったけれど、好きかもしれない」と思ったんです。この作品が、うるさいとか間延びしていると批判されていることは知っていましたが、改めてみると本当にすばらしく、エモーショナルで、室内楽的な要素もあり、愛すべき作品だと思いました。それで、これなら自分の音楽を見つけられそうだ、コンクールでは2番を弾こうと思いました。

[続いては、結果発表後に聞いたお話です]

ーブラームスについてお聞かせください。カントロフさんにとって特別な作曲家なんだろうなということは、演奏からもよくわかりましたけれど。

あははー! そう、本当に特別な作曲家なんです。エモーショナルなところはチャイコフスキーのようですが、もう少し、自身の中にそれをためこんでいるようなところがあって、その部分こそがとても心に触れてくると感じます。ブラームスは基本的に完璧主義者でしたから、楽譜として残されている作品はほとんど完璧に近いものばかりです。間違った音はひとつもありません。僕は室内楽も好きですが、とくにブラームスの室内楽作品は最高だと思っています。

ーところで、1次、2次ではカワイを選び、ファイナルではスタインウェイを弾いていましたね。オーケストラリハーサルの後にピアノを変えていらしたので、ちょっと驚きました。

はい、まずカワイのピアノはとてもすばらしい楽器で、1次、2次では楽器が僕をものすごく助けてくれました。でも、オーケストラと最初のリハーサルをした後、すばらしい楽器だけど、少しフラジャイルな感じがしたので、2時間近くコンチェルトを弾くのは難しいかもしれないと思いました。大編成のオーケストラと共演する中、ピアノを限界まで鳴らすということはしたくなかったというのもあります。スタインウェイはより楽に演奏できそうに感じて、ファイナルはこちらで挑戦してみようと思いました。

ーそうだったんですね。でも、もともとカワイのピアノを弾いて慣れていたわけでもなかったそうですね。

はい、まったく弾き慣れていませんでした。でもセレクションで5台を弾いてみて、これだ!って思って選んだんです。よく考えることもしませんでした。というか、考え込んで頭を混乱させるようなタイミングじゃないと思って、好きだと感じる楽器を選ぶことにしました。

ー1次予選のときから、カントロフさんのものすごい音に内臓を掴まれるようだったとお伝えしていましたけど…あの特別な音を出す秘密は?

うーん、抑え込まず、遮らず、いつも歌声を思い浮かべること、イリュージョンを生み出そうとすることですね。あとは、できるだけ長く音を持続させること。完全にマスターすることはなかなかできませんが、今もそれを実現するための懸命な探求は続いています。

ーそういえばある審査員の先生が、あなたの左手のコントロールがすばらしいとおっしゃっていたんです。それを聞いて、そういえばカントロフさんは左利きだったなって…。

ははは! そうなんですよ、左利き。でも、左利きでトラブルがないわけではないんですよ。ピアニストで左利きの人は、自然とヴィルトゥオーゾぶりに欠けることが多いので大変なんです。僕も一生懸命練習しないといけませんでした。

ーカントロフさんは特別な音楽家の家庭に生まれていますが、やはりそういう環境が音楽性に影響を与えているところはありますか?

もちろんです、子供の頃からずっと継続的に彼らから多くのことを受け取ってきました。両親ともにヴァイオリニストで、僕は二人の演奏を聴くことが大好きでしたから。

◇◇◇

というわけで、演奏同様、おしゃべりをしていても独特の空気感を漂わせるカントロフさんのお話でした。

ところで、1次予選でカントロフさんの演奏を聴いたときの衝撃、今も忘れられません。
弾き方も自由で歌い回しも個性的だったことにも驚いたんですが、それ以上に、深い音をごうごうと鳴らしあう混濁の一歩手前みたいな響きに、背中がぞくっとするような、内臓をぎゅーっと掴まれるような感覚を味わいました。
1次予選の記事でわたくし、こわいこわい書いていましたが、本当に畏れみたいなものを感じたんです。このピアニストが、リストやラフマニノフの楽譜からああいう音を想像するということも、実際にそれを鳴らせるということにも。(ちなみに、帰国して諸々の原稿を書き終わって初めてインターネット配信を聴き返してみましたが、配信のほうが響きがスッキリ聴こえるように思います。やはりあのゾワゾワ感は会場ならではの感触だったのかも…当然といえば当然ですが)

1次予選のあと、この内臓掴まれたちょっとこわかった感触をご本人にも伝えたいと思って(体験したことのない感触だったから)、よくない意味で受け取られる可能性を心配しつつもオブラートにつつむこともなくそのまま言ってしまったんですが、「へぇー、そう!? サンキュー」という返答をいただき、ちゃんと賞賛してるって伝わってよかったと思いました。

そんなわけで、あの音を出す秘密は?とお尋ねしてかえってきた言葉に、ものすごく納得してしまったのでした。そういう考えで響きを追求しているから、ああなるのねと…。

それにしてもカントロフさん、見かけるといつもワインレッドの何かを着ているんですよ。すごく気に入っている色だとか、はたまた験担ぎだとか、なんかあるかなと思って聞いてみたところ、「確かにこの色は好きだけど、よく考えないでスーツケースに洋服を入れて持ってきちゃったから」という返答でありました。でもこのお色似合ってると思います。
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あと、メリニコフさんのインタビューでも話題に出しましたが、カントロフさんも、独特の声色(喋る声のほう)の持ち主ですよね。それでピアノでもああいうまろんとした音をお出しになるので、「本人の声色と楽器の音色似てくる説」は、わりと信憑性あるかもしれない、と思いました。