仙台コンクール、入賞者こぼれ話

仙台国際音楽コンクールピアノ部門、レセプションでの出来事をご紹介します。
(入賞者全員とお話しできたわけではありませんが…)
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まずは4位となったシャオユー・リュウさん。白ハット姿の激写に成功。
19歳の彼はオーケストラとの共演経験も決して多いわけではないそうですが、
本当にステージでの姿が堂々としていました。
アーティストの家系(父が画家)ならではなのでしょうか。
一緒に写真を頼まれた時のポージングとかも、いちいちさりげなくイカしていました。
いつも帽子を持っているのはおしゃれか身だしなみのこだわりなの?と聞くと、
「単に日差しが強いからかぶっているだけなんだけど。
でも、おしゃれのためだと君が思うなら、それでもいいけどね」
という、またしてもなんとなくイカした返答。
やはり、今後もイカした青年街道まっしぐらであることに間違いありません。

こちらのお写真は、記者会見後の北端祥人さんと坂本彩さん。DSC_1639

北端さん、記者会見のコメントのときはわからなかったけど、
しゃべってみたら、ところどころクッキリとした関西の言葉で、
「あっ、そうだ。関西の人なんだった」と思い、
なんか仙台にいたので新鮮でした(だからなんだって話ですが)。
日本ショパン協会主催の2010年日本ショパンコンクールで
ショパンの協奏曲を演奏していた…と先日の記事で書きましたが、
オーケストラとのコンチェルト経験はそれ以来だったそうです。
「この2週間で一気にどばっとコンチェルトのチャンスがやってきたんです。
これからもっとやっていかな、思ってるんです」とおっしゃっていました。
これぞ仙台コンクールを受ける意義ですね。

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2位のエヴァン・ウォンさん。
このコンクール期間中の経験で最も印象に残っているのは、
「お客さんから感じた愛情と、仙台フィルのすばらしさ」とのこと。

「これまでにオーケストラとの共演経験は数回しかなかったので、
この短い時間に違うレパートリーで“4回”演奏したのはすごい経験だった。
仙台フィルもすばらしかったけど、なにより指揮者が良かった。
ときどき、なぜそこでそんなに時間をとるの?こうしたら?なんて提案をしてくれて、
試してみるとすごくよくなる。
もちろん押し付けたりすることはなく、すごくいいアドバイスをくれた」とのこと。
コンクールの指揮者さんは聞き役に徹するとけっこう聞きますが、
ヴェロさんは程よくアドバイスもしてあげていたのですね。すごい。
ところで、彼が“4回”のコンチェルトといっているのは、
たぶん先月のエリザベートコンクールのセミファイナルで
モーツァルトの25番のコンチェルトを弾いたことを入れているのだと思います。
この短期間で全レパートリーを用意するのは本当に大変だった模様。
(ちなみに仙台のオーケストラのほうがずっと良かったと言っていたことを
こっそりお伝えしておきます)

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そして1位のキム・ヒョンジュンさん。
長いインタビューコメントは後日コンクール公式関係の媒体で紹介しますが、
そのうちのこぼれ話的なものを。
ステージで目をひいたドレスは全て日本人デザイナーのタダシ・ショージのもので、
このコンクールのために用意し、色などプログラムに合わせて着ていたのだそう。
タダシ・ショージ、調べてみたら、仙台ご出身なのですね!
偶然のようですが、これまたびっくり。

以上、こぼれ話的エピソードたちでした。
入賞者たちのちゃんとしたコメントは、記者会見でたくさん語られていました。
そんな記者会見の様子は、見事なことこまかさで、
こちらの広報ボランティアさんのブログにて紹介されています。
ブログ記事、そのほかもとても充実しているので是非ご覧ください。
メインで記事を書いているミスターO、
本当に会社に行ってるんだろうかと他人事ながら心配になるレベルの内容と速さで
連日記事をアップされていました(会社にはちゃんと行っているらしいです)。
他にも会場のボランティアスタッフなど、多くの方がコンクールを支えていました。

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期間中いつもめちゃくちゃ楽しそうに活動していたボランティア&事務局の方々

仙台コンクールピアノ部門最終日と結果

仙台国際音楽コンクールピアノ部門、全日程が終了しました。
審査結果はこちら

第1位 キム・ヒョンジュン(25歳 / 韓国)
第2位 エヴァン・ウォン(26歳 / アメリカ)
第3位 北端 祥人(28歳 / 日本)
第4位 シャオユー・リュウ(19歳 / カナダ)
第5位 シン・ツァンヨン(22歳 / 韓国)
第6位 坂本 彩(27歳 / 日本)

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最終日の最後にブラームスのピアノ協奏曲第1番を立派に弾ききった
キム・ヒョンジュンさんが見事優勝に輝きました。
確かに、あのブラームスは、もしかしてと感じさせる堂々たる演奏でした。
というわけで、すでに結果は出ているので今さらですが、
一応、最終日の様子を簡単に振り返ってみようと思います。

まずはシャオユー・リュウさん(カナダ/1997年生まれ)のモーツァルト、K.459。
彼は最年少なのに、オーケストラを前にしたステージ上での立ち居振る舞いが
すごく慣れた感じで堂々としていているんですよね。
演奏はみずみずしく、第2楽章は小鳥のさえずりのような繊細な音が聞こえ、
終楽章はなんだか粋な感じ。白いハットを持っていた姿が思い起こされます。
若いって素敵ね、とつい心の中でつぶやいてしまう爽やかな演奏でした。

シン・ツァンヨンさん(韓国/1994年生まれ)のモーツァルトはK.453。
コロコロした音で、快い自然な抑揚の音楽が始まった瞬間、
そうそう、モーツァルトの音ってこういうのだよねぇ、と。
腕の重みで自然に鳴らしている音が美しく、味わい深い。
モーツァルトの音楽には、素敵な音が一番大切で
他には何もいらないんじゃないかと思ってしまいました。
もちろん実際にはいろいろなことがとり行われているから、そう聴こえるんでしょうけど。

そして後半、エヴァン・ウォンさん(アメリカ/1990年生まれ)は
ラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」。音が伸びて、迫力ハンパない演奏。
緊迫する音楽、躍動する音楽と、変奏ごとに鮮明に異なる世界を描き出していました。

そして、最後の演奏者、キム・ヒョンジュンさん。
真っ赤なドレスで現れた姿に、隣の隣の席のおじさんが「ホゥ…」とため息をもらしていました。ブラームスのピアノ協奏曲第1番という大曲を選んでいます。
一つ前の記事で「自分に合う作品」について考えたことを書きましたが、
まさにこの日のヒョンジュンさんは、一見ギャップのある組み合わせで
予想外に素敵な側面を見せてくれたという感じ。
無理のない自然なやりかたでこれだけ豊かな音が鳴らせるのはすごい。
とくに女性ピアニストの場合に多いですが、ブラームスの重めの曲って、
ブラームスが大好きで、恋い焦がれて、でもヨハネスさんはなかなか振り向いてくれないの、
みたいな演奏がよくあるような気がします。
それがブラームス特有の“もどかしい気質”みたいなものと重なってすてきに響くときもある。
が、今日のヒョンジュンさんは、ちゃんと振り向いてもらっている感じがするんですね。
無理をしている感じがしないからなのか。
しかも彼女の場合、せっかく振り向いてもらったというのに、ふと気づいたら
ヨハネスさん放置してどっかいっちゃいそうな無邪気さを感じさせるところがまたいい。
(完全なる想像ですけど)

そんなわけで、すべての演奏が終わり、
それから約2時間ほどのちに冒頭に紹介した結果が発表されました。
ヒョンジュンさんの優勝は、最後のブラームスを聴いた瞬間、
あるかもしれないなと感じていたと同時に、全体的な順位には意外なところも。
まあ、コンクールとはそんなものですね。
その後の野島先生のコメントを聞いても、
評価がまっぷたつとなったコンテスタントが何人かいたようで、
どちらかというと安定して票を集めた面々が上位に入った感じみたいでした。

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こちらは結果発表後の記者会見後の写真。
「いつも仙台コンクールの入賞者会見では、必ず全員牛タンという単語を発する」
という自分なりの説を持っていたのですが、
今回は仙台の街の印象とかおいしかったものとかの質問が出ず、
そんな私のささやかな持論は崩壊してしまいました。

上位3名はガラコンサートでの演奏が控えていましたが、
なにはともあれ、長いコンクールが終わってみんな安心した表情。
記者会見ではみんな口々に、「たくさん寝たい」と言っていました。
これだけ短期間に3曲のコンチェルトを弾く課題がいかに大変だったか、
この言葉に集約して現れていたような気がしました。

仙台コンクールピアノ部門、ファイナル2日目

仙台国際音楽コンクールピアノ部門、ファイナル2日目まで終わりました。
セミファイナル、ファイナルと聴いてきて今なんとなく思うのは、やっぱり、
いろんな角度からその人に合った選曲をすることって大切なんだなということ。
ベートーヴェンの3番と4番どちらを選ぶかのときも感じていましたが、
やはり特にファイナルは、この少ないリハーサルで
2曲もの協奏曲を弾かねばならない状況とあって、
ますますそのあたりが重要になりそうですね。
憧れていた曲で想いの強い演奏をするというのも素敵だと思いますし、
演奏効果の高い曲を選ぶという考えも、やはりコンクールだからあると思います。
でもここ一番というときに、自分の魅力が最大限にアピールできる曲を
冷静に選べるということも、ピアニストとして大切なんでしょうね。
セルフプロデュース能力的な意味で。
例えばよくある、「先生に言われてこの曲を選んだ」という話を聞くと、
ふーん、そうなんだとつい思ってしまいがちですが、
特に若いピアニストの場合は自分を知る意味でも、それが得策なのかもしれませんね。
自分のことって意外と自分ではわからないこともありますからね。
何にでもいえることだと思いますが…と、突然自分についても反省しだす。

さて。
今日のトップはエヴァン・ウォンさん(アメリカ/1990年生まれ)。ピアノはカワイ。
演奏したのはモーツァルトのK.453。
サラサラとした繊細な音がオーケストラとなじんでいました。
彼に対して抱いていた勝手なイメージからするとちょっと意外な演奏でした。
そしてソロ演奏の部分になると表現がめいっぱい詩的に。
キム・ヒョンジュンさん(韓国)は、K.459。
スタインウェイのピアノで、生き生きした音を鳴らしていました。
いつものように、自らも口で歌っているだけあって、ピアノもなめらかな抑揚で歌っています。
どちらも、間違っても下ネタのジョークなど言いそうにない品のあるモーツァルトでありました。

そして後半は昨日に引き続き日本勢二人の登場です。
彼らはこれでいち早く全ての演奏を終えることになります。
(今回のような演奏順だと、
初日後半に弾いた2人だけ2曲のコンチェルトに中1日もらえるんですよね)
背筋を伸ばし堂々とした姿でステージに現れた坂本彩さん(日本/1989年生まれ)は
ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を演奏。
オーケストラと対等な掛け合いを繰り広げるべく、
勇ましさも感じる勢いでピアノに向き合い、華やかな演奏を繰り広げていました。
真っ赤なドレスが音楽に似合っています。
そして北端祥人さん(日本/1988年生まれ)は、ショパンのピアノ協奏曲第1番。
唯一の初期ロマン派さわやか系選曲です。
(そして、連日これを聴きまくったワルシャワの思い出がよみがえる…)
緊張感を持ってスタートしたショパンは、
落ち着いたリズム感とともに、穏やかに弾き進められます。
2010年の日本ショパンコンクールで3位になった時に演奏しているのは確かなので、
もう何年にもわたって弾いているレパートリーなのでしょうね。
それでもどこかフレッシュな雰囲気も保った繊細な演奏でした。
客席は、演奏が全部終わる前から拍手が起きるほど、大いに盛り上がってました。

仙台フィルさんも、そろそろお疲れがピークの頃でしょうか。
新しい課題曲体制で、先月のヴァイオリン部門から1ヵ月、本当に大変だったと思います。

そんなコンクールも今日で最終日。夜には結果が発表されます。

仙台コンクールピアノ部門、ファイナル1日目

仙台国際音楽コンクールピアノ部門、ファイナルが始まりました。

今回、ファイナルでは2曲のピアノ協奏曲を演奏します。
(前回までは2曲を用意しておいて、直前に決まった1曲を演奏するという、
“ファイナルまで進んでも、用意してきた曲を絶対に全部弾けない”ルールだったのですが。)
1曲目の課題は、モーツァルトのピアノ協奏曲から第15番~第19番という、
作曲家が1784年にウィーンで書いた6曲中の5曲から選択します。
超有名どころの曲ではなく、ちょっとシブめの選択肢。
それにしても1年でこれだけの曲を書くって(ピアノ協奏曲以外も書いているわけだし)、
改めてモーツァルトすごい。

もう1曲は、指定されたロマン派~近代の16の協奏曲から選びます。
曲のタイプはもちろん、演奏時間もさまざま。
コンクールのファイナルでよく起きることですが、
例えばブラームスのピアノ協奏曲(約50分)と、
リストのピアノ協奏曲やラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」(約20分)では、
倍以上の長さの違いがあるわけで。
ちなみに今回最終日は、そんな短長の2曲が揃っています。
(課題曲については以前公式サイトのコラムでも紹介しています)

ヴァイオリン部門では各人が2曲続けて演奏する形でしたが、
ピアノ部門はそれだと大変だということで(ピアノの方がソリストは大変なんでしょうかね?)、
別日に1曲ずつ演奏するスケジュールになっています。
各日、前半に2曲モーツァルが、後半に2曲自由なコンチェルトが弾かれます。
ちなみに演奏順はここで抽選し直し。
セミファイナルからファイナルまで3日間の空き日がある日程ならでは。

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さて、初日です。
セミファイナル、ファイナルと実際に聴いてみて、
ベートーヴェンとモーツァルト、両方のコンチェルトを見事に弾くって、
さりげなくものすごく大変なことが要求されているよねと改めて…。

演奏順、最初に日本人二人が続けて演奏するという形になりました。
二人とも、ピアノはスタインウェイ。
坂本彩さん(日本/1989年生まれ)はモーツァルトの第18番K.456を演奏。
ベートーヴェンのときも力強い音にインパクトがありましたが、
モーツァルトでも地に足のついた安定感のある感じ。
弾いていない左手で曲の雰囲気を感じながら演奏している姿も印象に残りました。
北端祥人さん(日本/1988年生まれ)は第19番K.459。
これは6人中3人が選んでいる作品です。
軽やかなやわらかい音が、オーケストラの音と自然とコントラストをつくって、
なんだかモーツァルト的かわいらしさ。清々しい演奏でした。
どの曲を選ぶかで、印象にけっこうな違いが生じますね。

と、そんな曲が続いたあとで、後半ズドンズドンとラフマニノフ2曲。
感覚を切り替えて聴かないと、一瞬混乱(?)します。
まずは最年少シャオユー・リュウさん(カナダ/1997年生まれ)の
「パガニーニの主題による狂詩曲」。ピアノはヤマハです。
パワーも充分、キラリン音もばっちり。
各変奏の表情ごとに、ご本人のまわりに灰色やらパステルカラーやら
いろんな色が、もわーんと発生するようでした。

ところでラフマニノフのパガ狂の第18変奏を聴いていると、
以前、小曽根真さんがおっしゃっていた話を思い出します。
“あの変奏が始まった瞬間に、キタキタ~オレの見せ場!と
冒頭からメロメロに弾くピアニストは、オーケストラから嫌われると思う。
そのあと管弦楽でクライマックスが訪れるのに、空気読めてないみたい”
…的なご意見。さすがいつもご自分のビッグバンドと
即興の掛け合いを繰り広げているジャズ・ミュージシャンだなと思ったわけですが。
この話を聞いて以来、「そういう演奏」を聴くと、ぷぷぷ、と思ってしまうわけですが、
この日のシャオユーさんは見事に空気(というか曲の流れ)読んでましたね。

そして、最後はシン・ツァンヨンさん(韓国/1994年生まれ)のラフマニノフの2番。
ピアノはスタインウェイ。
聴かせどころをひとつひとつばっちりキメてくる演奏。音もズドンとまっすぐ飛んできます。
2楽章はかなりゆったりめ。一方の3楽章はワイルドな感じで、
セミファイナルの時にも感じた自由で感情豊かなキャラクターが発揮されていました。

さて、ファイナル2日目には、再び日本人の2人が登場します。
坂本さんはラフマニノフの2番、北端さんはショパンの1番。
どんな演奏になるでしょうか。

※ファイナルの演奏、アーカイヴはこちらから聴くことができます。

仙台コンクールピアノ部門、セミファイナルを終えて

ただいま開催中の仙台国際音楽コンクールピアノ部門。
ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番または第4番を演奏するという、
ユニークな課題曲のセミファイナルが終わり、ファイナリスト6人が発表されました。
ファイナリストと演奏順はこちらで確認できます。

仙台コンクールはいつも、普通の(?)コンクールとは
一味違ったタイプのピアニストが優勝するというイメージが私にはあります。
派手ではないけど、ユニークだったり、堅実だったり。
若いピチピチのスターというよりは、わりと年齢も高めのオトナが頂点に輝くという印象。
協奏曲が中心の課題曲だということが、やはり大きいのでしょう。

さて、今回はセミファイナルの3日間をまず現地で聴いてきました。
ベートーヴェンの3番と4番だけを12人分ひたすら聴くというのは
どんな気分だろうと思いましたが、想像より辛くなくて、むしろかなり楽しかったです。
(ベートーヴェンの4番のコンチェルトがとくに好きなので。)

ちなみにこの課題曲、副審査委員長の植田先生が思いつき、
審査委員長の野島先生が「イイネ~!」となって、決まったそう。
今年の課題曲は、仙台コンクール史上最高だと、野島先生的にも太鼓判らしいです。

音の美しさ、音楽の構成力、作品への向き合い方という各人の音楽性がよくわかる。
なんというか、演奏家の“哲学度”もわかるという意味で
(高ければ良いということでもなく、そこは好みだと思いますけど)、
もしかしたらモーツァルト以上に“ごまかしがきかない”のではないかと。
続けて聴いていると、ピアニストごとに際立たせる声部とかパートとかが異なって、
ベートーヴェンはこの作品の中になんてたくさんのネタを仕込んでいるんだ!と、
改めて感じるのでした。
演奏のアーカイヴはこちらから聴くことができます。

今回12人のピアニストのベートーヴェンを聴いておもしろいなと思ったのは、
概して、女性陣が音量たっぷりに力強い演奏をして、
男性陣がすごく繊細な表現をしていたということ。
一瞬、これはなんですか、現代の世相を反映しているんですか、と思いましたが
(草食系男子と肉食系女子的な。でもそれって日本だけの話ですよね)、
ふと、女性の目で見たベートーヴェン像(男らしくてパワフル)と、
同性の目で捉えるベートーヴェン像の差から生まれた傾向の違いなのかも…
とか思いました。もちろん、個人差はあると思うんですけどね。
なんでしょう、男兄弟の中で育った人が女性に抱く幻想、の逆バージョンみたいな?
(ちょっと違うか。)

さて、今回は現地で終演後にバックステージでコンテスタントにお話を聞く機会は
あまりなかったのですが、たまたま会えた何人かの話題をご紹介しようと思います。

まずは、チーム韓国。
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イ・スンヒョンさん、キム・ヒョンジュンさん、シン・ツァンヨンさん。
なんだか仲がよさそうでした。
(写真をウェブ上に載せるといったら、右の二人が一生懸命うつりをチェックしていました)
一番左のスンヒョンさんは、4番の協奏曲で、
3楽章のカデンツァにただひとりバックハウスバージョンを弾いていました。
そこまでわりとおしとやかに弾いていたのに一気にゴージャスになったので、
かなりのインパクト。録音を聴いて気に入ったので、耳コピして弾いたといっていました。
中央のヒョンジュンさんは、
2009年の浜松コンクール(チョ・ソンジン優勝回)で5位だったあの子です!
当時はまだ18歳でした。
ステージに出る直前に袖でバナナを食べて、スタッフに皮を託して出ていくという
謎の習慣が当時話題になっていましたが、それは7年経った今も変わっていないそうです。
あの力強い演奏はバナナのエネルギーによるのだろうか。
右のシン・ツァンヨンさんも、初日にとても情感豊かなベートーヴェンを聴かせてくれました。
今をときめく(?)カーティス音楽院、ロバート・マクドナルド門下。
去年のショパンコンクールに入賞したケイト・リウ&エリック・ルーと同門です。
右の二人はファイナルに進出しました。

初日、ツァンヨンさんの前に、同じ曲をまったく違う理性的なアプローチで弾いて、
この演奏は仙台コンクール好みだろう…と思ったのが、ニキータ・ムンドヤンツさん。
ホロデンコが優勝したヴァン・クライバーンコンクールでファイナリストになっていたので、
配信で演奏を聴いたことのある方もいらっしゃるでしょう。
お父さまもピアニスト&モスクワ音楽院教授で、
クライバーンコンクールの過去の受賞者ということもあり、
当時テキサスではあたたかく迎えられていました。

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(結果発表前に控室で撮った写真。
話しかけたら立ち上がってくれて、わりと長らく話をした後に撮ったんだけど、
よく見たらリュック背負いっぱなしじゃないの…ごめんね)

モーツァルト&プロコフィエフのコンチェルトを聴いてみたかったので、
ファイナル通過ならずで本当に本当に残念です。
派手さはないけど、渋めがお好みの仙台コンクールだし、
あの演奏なら通るだろうと思いましたが、わかりませんね。
ちなみに、作曲家でもある彼、クライバーンコンクールのときは
モーツァルトの協奏曲で自作のモダンなカデンツァを披露していたので、
今回も楽しみにしていると言ってみたところ、
「今回弾く曲にはモーツァルトのオリジナルのカデンツァがあるからそれを弾くけど…」
と言われてしまいました。
(某所の講座に参加してくださったみなさん、いろんな意味で予想外でした。すみません)

あとは、日本人のセミファイナリスト、北端祥人さんと、坂本彩さんは、
揃ってファイナルに進出!
お二人とも、関西出身で今はドイツで勉強しているという共通項があります。

それからカナダとアメリカ国籍の二人は、いずれも中国系。
エヴァン・ウォンさんは台湾育ちで、15歳からジュリアードで勉強した人です。
プログラムに載っている写真と実物が全然違います。
(実物のほうが良いと思う。でも写真は撮り忘れました)
一方の最年少19歳シャオユー・リュウさんは、フランス生まれ、モントリオール育ち。
結果発表を待っている部屋でずっと手に白いハットを持っていて、
19歳にして、さすがモントリオール紳士…と思いました。
(これまた写真は撮り忘れましたが。)
絵を描くのが趣味らしいですが、お父さんが画家なんですって。
そんな家庭環境、この後もイカした青年街道まっしぐらという感じですね。

ところで、国際コンクールについて思うこと。
これだけ世界にコンクールがあると、すべての内容や結果を追いきることもできず、
やっていたことにも気づかないことすらあります。
よって私としては、たまたま何かのきっかけで聴く機会があるコンクールは、
真剣に聴いて、予期せぬ出会いに期待したいと思っているところ。

コンクールの意義については、ここしばらくずっと議論されていることですけど、
例えばこの仙台コンクールのようなものの場合、現地に来てみると、
地元の音楽好きからの注目度の高さ、コンテスタントを迎えるあたたかさがすごくって、
地元の方々の喜びを生み、それがピアニストに伝わっているという意味だけでも
本当に価値あるイベントなんだと改めて感じます。

もちろん音楽界での権威が高まって、優勝すると世界で認められるようになるなら
それに越したことはないし、
関係者や音楽ファンが結果に高い関心を寄せているなら、それもそれに越したことはない。
でも、それとはまた別の価値が、ローカルな国際コンクールにはある。
そういう盛り上がりのないコンクールもあるのが現状だとは思いますが、
少なくとも、ガラコンのチケットがさっさと完売になったり、
ボランティアさんたちの熱量がすごかったり、
仙台は、なんかすごいと思います。
普段の仙台フィルの活動の成果もあるのでしょうね。

というわけで、ファイナルは6月23日から。
各人モーツァルトと自由選択のコンチェルトを弾きます。楽しみです。

實川風さんデビューCDと、實川サンあるある

3月末にリリースされた實川風さんのデビューアルバム。
彼が去年3位に入賞したロン=ティボー=クレスバンコンクールの演目を中心に収録し、
ピアノは曲に合わせてスタインウェイとベーゼンの2台使いという、個性的な1枚です。

「實川風 ザ・デビュー」
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かなり前になりますが、3月にリリース記念リサイタルをヤマハホールに聴きにいったところ、
その1年半くらい前、2014年の夏に聴いたときからかなり印象が変わっていて、驚きました。
表現の細やかさはそのままに、迫力がすごいことになっていた。
いつの間にかニュー實川が誕生したのね…と思いました。
演奏家ってこうやって変わっていくからおもしろいものです。
一見爽やかな正統派アプローチのピアニストですが、
多分ものすごい空想(妄想)の世界をお持ちなのではないかと思います。

中でも印象に残ったのが、デビュー盤にも収録されている、
コンクール課題曲だったヌーブルジェの「メリーゴーランドの光」。
このヤマハホール公演で初めて生で聴きましたが、
いろんな色や質感のモノが次々目の前にうかぶようで、とてもおもしろかったです。
その日、実は私は仙台がえりでそのまま演奏会に行っていて、
日中、東北大学自然史博物館で世界のいろいろな鉱物を見せてもらっていたのですが、
演奏を聴きながら、昼間に見た神秘的な個体たちの姿を思い出してしまいました。
それくらい、とにかくいろいろな質感の音が鳴らされていた。
あの曲聴きながら鉱物のこと考えてるヤツなんて、
自分だけかもしれないなとも思いましたが。

そんな「メリーゴーランドの光」を生で聴ける演奏会。
今週末、6月4日(土)、渋谷の文化総合センター大和田さくらホールです。
(チケットまだあるのかな?)

ところで、實川さんについて最初に「あれっ?」と思ったのは、
去年、別の媒体で立て続けにインタビューをした、2回目の取材を終えたときのこと。
具体的に何がというわけではないのですが、
こちらが何か言ったときのリアクションが不思議というか、
えっ、そこにひっかかるんだ…へぇ…?という感じがして、
この方は、もしや爽やかさんの皮をかぶった変わり者なのではないかと…。
その後始まったヤマハPianist Loungeでの連載を見て、その思いは確信に変わりました。
まぁ、読んでいただけばわかると思います。

ヤマハPianist Lounge 「實川風 どこ吹く風パートII」

この連載のタイトル、あるとき急に気が付いて、
實川さんに、「もしかしてこれ、どこ吹く“かおる”って読むんですか?」と聞いたら、
「それじゃ、さすがに自意識過剰ですよ~」と言われました。
どこ吹く”かぜ”、であってるそうです。

ところで私は實川さんのことを、心の中で「じっちゃん」と呼んでいます。
学生時代の先輩に實川さんという男性がいて、「じっちゃん」と呼ばれていたからです。
その先輩は「じっちゃん」という呼び名が似合う人だったので良かったけれど、
こっちの實川さんの場合はどうなんだろう…と思いましたが、
そのことを話したら、実際に實川さんもじっちゃんと呼ばれていたそうなので、安心しました。
あだ名じっちゃんは、「實川サンあるある」なんですね。
ちなみに当時、戸谷さんという女性の先輩が「とっつぁん」と呼ばれていたのは、
今思えばさすがにすごいなと、全然関係ないのに急に思い出しました。

話がかなり脱線しましたが、
實川さんの「どこ吹く風」パートI はどこにあるのかというと、
公式ブログのほうが元祖ということのようです。
演奏会情報なども公式ホームページと併せて紹介されるっぽいですので、
チェックしてみてください。