仙台コンクールピアノ部門、セミファイナルを終えて


ただいま開催中の仙台国際音楽コンクールピアノ部門。
ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番または第4番を演奏するという、
ユニークな課題曲のセミファイナルが終わり、ファイナリスト6人が発表されました。
ファイナリストと演奏順はこちらで確認できます。

仙台コンクールはいつも、普通の(?)コンクールとは
一味違ったタイプのピアニストが優勝するというイメージが私にはあります。
派手ではないけど、ユニークだったり、堅実だったり。
若いピチピチのスターというよりは、わりと年齢も高めのオトナが頂点に輝くという印象。
協奏曲が中心の課題曲だということが、やはり大きいのでしょう。

さて、今回はセミファイナルの3日間をまず現地で聴いてきました。
ベートーヴェンの3番と4番だけを12人分ひたすら聴くというのは
どんな気分だろうと思いましたが、想像より辛くなくて、むしろかなり楽しかったです。
(ベートーヴェンの4番のコンチェルトがとくに好きなので。)

ちなみにこの課題曲、副審査委員長の植田先生が思いつき、
審査委員長の野島先生が「イイネ~!」となって、決まったそう。
今年の課題曲は、仙台コンクール史上最高だと、野島先生的にも太鼓判らしいです。

音の美しさ、音楽の構成力、作品への向き合い方という各人の音楽性がよくわかる。
なんというか、演奏家の“哲学度”もわかるという意味で
(高ければ良いということでもなく、そこは好みだと思いますけど)、
もしかしたらモーツァルト以上に“ごまかしがきかない”のではないかと。
続けて聴いていると、ピアニストごとに際立たせる声部とかパートとかが異なって、
ベートーヴェンはこの作品の中になんてたくさんのネタを仕込んでいるんだ!と、
改めて感じるのでした。
演奏のアーカイヴはこちらから聴くことができます。

今回12人のピアニストのベートーヴェンを聴いておもしろいなと思ったのは、
概して、女性陣が音量たっぷりに力強い演奏をして、
男性陣がすごく繊細な表現をしていたということ。
一瞬、これはなんですか、現代の世相を反映しているんですか、と思いましたが
(草食系男子と肉食系女子的な。でもそれって日本だけの話ですよね)、
ふと、女性の目で見たベートーヴェン像(男らしくてパワフル)と、
同性の目で捉えるベートーヴェン像の差から生まれた傾向の違いなのかも…
とか思いました。もちろん、個人差はあると思うんですけどね。
なんでしょう、男兄弟の中で育った人が女性に抱く幻想、の逆バージョンみたいな?
(ちょっと違うか。)

さて、今回は現地で終演後にバックステージでコンテスタントにお話を聞く機会は
あまりなかったのですが、たまたま会えた何人かの話題をご紹介しようと思います。

まずは、チーム韓国。
DSC_1631
イ・スンヒョンさん、キム・ヒョンジュンさん、シン・ツァンヨンさん。
なんだか仲がよさそうでした。
(写真をウェブ上に載せるといったら、右の二人が一生懸命うつりをチェックしていました)
一番左のスンヒョンさんは、4番の協奏曲で、
3楽章のカデンツァにただひとりバックハウスバージョンを弾いていました。
そこまでわりとおしとやかに弾いていたのに一気にゴージャスになったので、
かなりのインパクト。録音を聴いて気に入ったので、耳コピして弾いたといっていました。
中央のヒョンジュンさんは、
2009年の浜松コンクール(チョ・ソンジン優勝回)で5位だったあの子です!
当時はまだ18歳でした。
ステージに出る直前に袖でバナナを食べて、スタッフに皮を託して出ていくという
謎の習慣が当時話題になっていましたが、それは7年経った今も変わっていないそうです。
あの力強い演奏はバナナのエネルギーによるのだろうか。
右のシン・ツァンヨンさんも、初日にとても情感豊かなベートーヴェンを聴かせてくれました。
今をときめく(?)カーティス音楽院、ロバート・マクドナルド門下。
去年のショパンコンクールに入賞したケイト・リウ&エリック・ルーと同門です。
右の二人はファイナルに進出しました。

初日、ツァンヨンさんの前に、同じ曲をまったく違う理性的なアプローチで弾いて、
この演奏は仙台コンクール好みだろう…と思ったのが、ニキータ・ムンドヤンツさん。
ホロデンコが優勝したヴァン・クライバーンコンクールでファイナリストになっていたので、
配信で演奏を聴いたことのある方もいらっしゃるでしょう。
お父さまもピアニスト&モスクワ音楽院教授で、
クライバーンコンクールの過去の受賞者ということもあり、
当時テキサスではあたたかく迎えられていました。

FullSizeRender
(結果発表前に控室で撮った写真。
話しかけたら立ち上がってくれて、わりと長らく話をした後に撮ったんだけど、
よく見たらリュック背負いっぱなしじゃないの…ごめんね)

モーツァルト&プロコフィエフのコンチェルトを聴いてみたかったので、
ファイナル通過ならずで本当に本当に残念です。
派手さはないけど、渋めがお好みの仙台コンクールだし、
あの演奏なら通るだろうと思いましたが、わかりませんね。
ちなみに、作曲家でもある彼、クライバーンコンクールのときは
モーツァルトの協奏曲で自作のモダンなカデンツァを披露していたので、
今回も楽しみにしていると言ってみたところ、
「今回弾く曲にはモーツァルトのオリジナルのカデンツァがあるからそれを弾くけど…」
と言われてしまいました。
(某所の講座に参加してくださったみなさん、いろんな意味で予想外でした。すみません)

あとは、日本人のセミファイナリスト、北端祥人さんと、坂本彩さんは、
揃ってファイナルに進出!
お二人とも、関西出身で今はドイツで勉強しているという共通項があります。

それからカナダとアメリカ国籍の二人は、いずれも中国系。
エヴァン・ウォンさんは台湾育ちで、15歳からジュリアードで勉強した人です。
プログラムに載っている写真と実物が全然違います。
(実物のほうが良いと思う。でも写真は撮り忘れました)
一方の最年少19歳シャオユー・リュウさんは、フランス生まれ、モントリオール育ち。
結果発表を待っている部屋でずっと手に白いハットを持っていて、
19歳にして、さすがモントリオール紳士…と思いました。
(これまた写真は撮り忘れましたが。)
絵を描くのが趣味らしいですが、お父さんが画家なんですって。
そんな家庭環境、この後もイカした青年街道まっしぐらという感じですね。

ところで、国際コンクールについて思うこと。
これだけ世界にコンクールがあると、すべての内容や結果を追いきることもできず、
やっていたことにも気づかないことすらあります。
よって私としては、たまたま何かのきっかけで聴く機会があるコンクールは、
真剣に聴いて、予期せぬ出会いに期待したいと思っているところ。

コンクールの意義については、ここしばらくずっと議論されていることですけど、
例えばこの仙台コンクールのようなものの場合、現地に来てみると、
地元の音楽好きからの注目度の高さ、コンテスタントを迎えるあたたかさがすごくって、
地元の方々の喜びを生み、それがピアニストに伝わっているという意味だけでも
本当に価値あるイベントなんだと改めて感じます。

もちろん音楽界での権威が高まって、優勝すると世界で認められるようになるなら
それに越したことはないし、
関係者や音楽ファンが結果に高い関心を寄せているなら、それもそれに越したことはない。
でも、それとはまた別の価値が、ローカルな国際コンクールにはある。
そういう盛り上がりのないコンクールもあるのが現状だとは思いますが、
少なくとも、ガラコンのチケットがさっさと完売になったり、
ボランティアさんたちの熱量がすごかったり、
仙台は、なんかすごいと思います。
普段の仙台フィルの活動の成果もあるのでしょうね。

というわけで、ファイナルは6月23日から。
各人モーツァルトと自由選択のコンチェルトを弾きます。楽しみです。