仙台コンクールピアノ部門最終日と結果


仙台国際音楽コンクールピアノ部門、全日程が終了しました。
審査結果はこちら

第1位 キム・ヒョンジュン(25歳 / 韓国)
第2位 エヴァン・ウォン(26歳 / アメリカ)
第3位 北端 祥人(28歳 / 日本)
第4位 シャオユー・リュウ(19歳 / カナダ)
第5位 シン・ツァンヨン(22歳 / 韓国)
第6位 坂本 彩(27歳 / 日本)

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最終日の最後にブラームスのピアノ協奏曲第1番を立派に弾ききった
キム・ヒョンジュンさんが見事優勝に輝きました。
確かに、あのブラームスは、もしかしてと感じさせる堂々たる演奏でした。
というわけで、すでに結果は出ているので今さらですが、
一応、最終日の様子を簡単に振り返ってみようと思います。

まずはシャオユー・リュウさん(カナダ/1997年生まれ)のモーツァルト、K.459。
彼は最年少なのに、オーケストラを前にしたステージ上での立ち居振る舞いが
すごく慣れた感じで堂々としていているんですよね。
演奏はみずみずしく、第2楽章は小鳥のさえずりのような繊細な音が聞こえ、
終楽章はなんだか粋な感じ。白いハットを持っていた姿が思い起こされます。
若いって素敵ね、とつい心の中でつぶやいてしまう爽やかな演奏でした。

シン・ツァンヨンさん(韓国/1994年生まれ)のモーツァルトはK.453。
コロコロした音で、快い自然な抑揚の音楽が始まった瞬間、
そうそう、モーツァルトの音ってこういうのだよねぇ、と。
腕の重みで自然に鳴らしている音が美しく、味わい深い。
モーツァルトの音楽には、素敵な音が一番大切で
他には何もいらないんじゃないかと思ってしまいました。
もちろん実際にはいろいろなことがとり行われているから、そう聴こえるんでしょうけど。

そして後半、エヴァン・ウォンさん(アメリカ/1990年生まれ)は
ラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」。音が伸びて、迫力ハンパない演奏。
緊迫する音楽、躍動する音楽と、変奏ごとに鮮明に異なる世界を描き出していました。

そして、最後の演奏者、キム・ヒョンジュンさん。
真っ赤なドレスで現れた姿に、隣の隣の席のおじさんが「ホゥ…」とため息をもらしていました。ブラームスのピアノ協奏曲第1番という大曲を選んでいます。
一つ前の記事で「自分に合う作品」について考えたことを書きましたが、
まさにこの日のヒョンジュンさんは、一見ギャップのある組み合わせで
予想外に素敵な側面を見せてくれたという感じ。
無理のない自然なやりかたでこれだけ豊かな音が鳴らせるのはすごい。
とくに女性ピアニストの場合に多いですが、ブラームスの重めの曲って、
ブラームスが大好きで、恋い焦がれて、でもヨハネスさんはなかなか振り向いてくれないの、
みたいな演奏がよくあるような気がします。
それがブラームス特有の“もどかしい気質”みたいなものと重なってすてきに響くときもある。
が、今日のヒョンジュンさんは、ちゃんと振り向いてもらっている感じがするんですね。
無理をしている感じがしないからなのか。
しかも彼女の場合、せっかく振り向いてもらったというのに、ふと気づいたら
ヨハネスさん放置してどっかいっちゃいそうな無邪気さを感じさせるところがまたいい。
(完全なる想像ですけど)

そんなわけで、すべての演奏が終わり、
それから約2時間ほどのちに冒頭に紹介した結果が発表されました。
ヒョンジュンさんの優勝は、最後のブラームスを聴いた瞬間、
あるかもしれないなと感じていたと同時に、全体的な順位には意外なところも。
まあ、コンクールとはそんなものですね。
その後の野島先生のコメントを聞いても、
評価がまっぷたつとなったコンテスタントが何人かいたようで、
どちらかというと安定して票を集めた面々が上位に入った感じみたいでした。

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こちらは結果発表後の記者会見後の写真。
「いつも仙台コンクールの入賞者会見では、必ず全員牛タンという単語を発する」
という自分なりの説を持っていたのですが、
今回は仙台の街の印象とかおいしかったものとかの質問が出ず、
そんな私のささやかな持論は崩壊してしまいました。

上位3名はガラコンサートでの演奏が控えていましたが、
なにはともあれ、長いコンクールが終わってみんな安心した表情。
記者会見ではみんな口々に、「たくさん寝たい」と言っていました。
これだけ短期間に3曲のコンチェルトを弾く課題がいかに大変だったか、
この言葉に集約して現れていたような気がしました。