小説「蜜蜂と遠雷」(恩田陸 著)

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恩田陸さんによる、ピアノ・コンクールを舞台にした「蜜蜂と遠雷」(幻冬舎)
少し前に発売されているので、すでにお読みになった方もいらっしゃるでしょう。
手に取ってまず、綺麗な本だなぁと。
その印象と違わない、優しくうつくしい恩田さんの文章がつまっています。

ある年の芳ヶ江国際ピアノコンクールに挑戦するピアニストと、
そのまわりのいろいろな立場の人たちの物語。
この小説を読みながら、仕事柄まず思わずにいられなかったのは、
こんな奇跡のようにすばらしいコンクールを取材できたら、本当に幸せだろうなということ。

正統派の天才、挫折を味わった元神童、彗星のように現れた異端児、
楽器店で働きながら最後のチャンスにかけるピアニスト、
いろいろな人物の心の動きが細やかに描かれていきます。
現実のピアニストたちがあらゆる場面でもらした言葉が重なって
この話はあの人みたいだなといちいち思い浮かべてしまいます。
その意味ではリアリティがすごい。実在の本人たち以上に言葉で説明してくれていますし。
ある場面で出てくる、主人公のひとりマサルが大曲を整えていく行程についての考え方も
おもしろくて、マサルのロ短調ソナタが聴いてみたいと思ってしまいました。

コンクールの関係者から見たら、はて、と思う設定はいくつかあるかもしれないけれど、
そういうところはあまり重要じゃない。
(しかも現実と違う設定がされているところは、
だいたいちゃんと物語のためにそうである必要があるからだというのが、
そんじょそこらの(?)リサーチ不足な作品とは違います)
現状を描くという意味での”リアリティ”を求めるなら、それとはもちろん違う感じ。
でも恩田さんの作品は、当然それを目指していないんですよね。
実際のコンクールにはつきものの理不尽な出来事、嫌なヤツの存在、
きれいでない事情など、この話に出てこないことはたくさんあるでしょう。
でもそこをそぎ落として書いているからこそ、
音楽に向かう人のうつくしさが強調されるのだと。

最近はコンクールの存在意義に懐疑的な意見も多く、
それは確かに正しい部分も多いし、
見よう(やりよう)によってはコンクールなんて良いことなし…な気がすることもありますが、
こうしてコンクールから多くのものを得て成長する演奏家もいるという現実が描かれている。
コンクールに向けてのあたたかい視点の選択肢を与えてくれる小説でもあると思います。
まあ、社会の出来事は何事も、その人がそこにどう向かい、どう捉えるかに、
ほとんどのことがかかっているということなのですよね。

実はもう10年近く前、まだ雑誌の編集部にいた頃、
文芸誌で連載が始まる前に、恩田さん、担当編集者さんとお会いしたことがありました。
当時の経験レベルですし、私の話なんて何の役にも経たなかったと思いますが…
その後、恩田さんは本当に綿密な取材を重ねられたのだろうと思います。
ステージマネージャーやコンテスタントの身内的存在、調律師、ドキュメンタリーのクルーなど、いろいろな立場でコンクールに関わる人間のことが丁寧に描かれています。

そして、モデルとなっているコンクールはどこからどう見ても浜松コンクールなので、
(実際恩田さんは、チョ君が優勝した回はじめ、浜松コンクールを何度も取材されています)
結果発表の情景とか、バックステージの様子とか、
いちいちものすごくハッキリとアクトシティ中ホール界隈の光景が思い浮かびました。
あの地下のインドカレー屋、いまいちなんだよね…とかも含め。

ちなみに、ピアノやコンクールに普段親しみがない人が読むとどう感じるのだろうというのが、
このタイプの本気の音楽小説を読むと、いつも気になるところです。
でもいろいろな感想を見るにつけ、音楽関係でない方々から絶賛されていますね。
というより、むしろ音楽関係でない人からのほうが、評判を集めているのかもしれない。
すでにかなりの刷り数いっているとのこと。
この小説を読んだ人は、コンクールというものにどんなイメージを持つのか…
そのあたりも、実は気になるところです。いろんな意味で。

とにかく登場人物がみんな魅力的だし、恩田さんが彼らに弾かせている曲もいい感じだし、
読んでいるといろいろな感情がめぐり、考えさせられる作品。
全500ページ超、読み始めたら一気にいってしまいたくなること間違いありませんので、
そのつもりで読み始めることをおすすめします。

 

東京国際ピアノフェスティバルにヤブロンスキー登場

今年スタートする、東京国際ピアノフェスティバル。
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ペーテル・ヤブロンスキーさんが最高顧問を務め、
ロンドン在住、最年少でスタインウェイアーティストとなった井尻愛紗さんが
芸術監督をされている音楽祭です。
10月4日にスタート、そして10月8日がガラコンサートです。

ヤブロンスキーさんから先日、
「僕が東京国際ピアノフェスティバルのchief adviserだって、前にもいったっけ?」
と、突然メッセージが届きました。 …いや、聞いてませんけど。
で、何のことだろうと思いよくよく聞いてみたところ、
日本の若いピアニストのために何かをしたいという想いから、
今年スタートする音楽祭で、ヤブロンスキーさんは最高顧問になったということでした。

彼は少し前、ロンドンの王立音楽大学の教授に就任したばかりで、
(これについても、教授になったんだー、知ってた?というメッセージが来ていた)
なんだか最近偉いみたいな役職ばっかりですごいといったら、
「もう年寄りだからね!」という返事。 …なにその北欧風自虐ジョーク。
とはいえ、私がヤブロンスキーさんと初めてお会いしたとき
中村紘子さんのFB記事で書いたリーズコンクールで、彼は審査員をしていたのです)、
彼はすでに30代半ばで、貫禄ある感じになっていたためよく知りませんが、
若き日は貴公子的キャラで活躍していたのですもんね。

…という件について、井尻さんとヤブロンスキーが
やんわ~りこの動画の中で話していて、ちょっとおもしろかった。
(ヤブロンスキーちょっと恥ずかしそうに見えるのは、気のせい?
というより、顔焼けてるように見えるのも、気のせいか?)

オープニング・ガラコンサートは10月8日@紀尾井ホール
ヤブロンスキーは、シューベルト、バルトーク、リストを弾きます。
個人的にはバルトークがすごい楽しみ。
きっと例によって、キレッキレなんだろうなぁ。

井尻さんは、CDのリリースコンサートとして、
アルバム収録曲などを披露されるそうです。

ガラコン当日、夜の部のロビーでは、ナッツのはちみつ漬けで有名な
マイハニーの商品の試食があるという情報も、
事務局の方から微妙にキャッチしました。

ガラコンサートに先立っては、ヤブロンスキーのマスタークラス
大津、横浜、そして東京で行われるそうです。
そういえば、ヤブロンスキーのマスタークラス、見たことない。
でも、来日のたびに今日は一日マスタークラスだったと言っているのを聞く気がするで、
なんか大人気なんだなと思っていました。
というわけで、これを見るのも楽しみです!

モエ・エ・シャンドンを楽しみながらピアノを聴く

秋なので、普段と違う気分で遊びに行ける演奏会のご紹介を。
シャンパンのモエ・エ・シャンドン協賛、
日本クラシックソムリエ協会と神楽坂TheGleeの共催でスタートする、
新しいサロンコンサートです。

オープニング2公演で出演するのは、こちらのナイスなお二人。

10月6日(木)19:30 宮谷理香さん
モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第10番K330
リスト:愛の夢第3番/ラ・カンパネラ
ショパン:ワルツイ短調遺作/ワルツ第2番「華麗なる円舞曲」/バラード第3番

11月11日(金)19:30 青柳晋さん
リスト:巡礼の年第1年「スイス」より「ジュネーヴの鐘」
フランク:前奏曲、アリアと終曲/前奏曲、コラールとフーガ

モエのグラスシャンパンと、それに合わせたフィンガーフードがついて7,000円。
なかなかお値打ちな料金設定だと思います。
ピアノの世界に誘いたいと思っていたクラシックに興味ナシのお友達を「釣る」にも、
もってこいの演奏会といえるでしょう。そうでしょう、そうでしょう。(プレトニョフ風に)

…にしても、新しい企画ということで
なんとなく全体像がつかめない方もいると思いますので、
ピアニストとプログラムに加えて、この企画のどこがイケてるのか、
少しご紹介してみたいと思います。

★会場の音響がイケてる。
サロンコンサートというと、ステージへの距離が近く息遣いまで感じられるかわりに、
音響条件が犠牲になることも時々あります。
が、このTheGleeという会場、
わずか70席という空間ながら、すごく音響設計にこだわって作られています。

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見てくださいこの壁のボコボコ。コンサートホールみたいです。
その音響の良さから、録音用の会場としてもよく使われているようです。

★会場のピアノがイケてる。
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1925年製ニューヨーク・スタインウェイが置いてあります。
タカギクラヴィア高木氏の説明によると
「ロマン派独特の香りを残し、太い重低音と輝かしい高音、
メロウな中音域、豊かな色彩を持つ」ピアノであるとのこと。
ヴィンテージピアノでピアニストたちがどんな味のある音を出すのかも聴きもの。

★シャンパンとフードのマリアージュ的なものがイケてる。
おつまみも、ちゃんとモエのシャンパンに合わせたものが提供されます。
オープン18時半なので、ブルーノートっぽく早めに来場して先にお酒を楽しむもよし。
第1部後半には、モエのアンバサダーを交えてのトークの時間もあるので、
その時間にお話を聞きながら…というのも楽しそうです。
ところでモエの創業は1743年なんだって。バッハが亡くなる7年前ですね。

フードは、このような感じの品々から2品選択になるそうです。
(※当日変更の可能性もあります)
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(鴨ロースのオーブン焼きと野菜のブロシェット/一口モッツァレラのカプレーゼ/
イワシのエスカベッシュ/サーモンリエットと 挽肉と菜の花のブルスケッタ)

ちなみに私の目撃した様子からすると、宮谷さんはお酒がお好き。
が、青柳さんは、おそらくお酒がほとんど飲めません。
インドでも、青柳さんはいつもお酒には興味がなさそうで、
ここ、それ頼むにはちょっとあやしくない?という雰囲気のレストランでも、
ラッシーやフレッシュジュースばかり飲んでました。(そういうとき安全なのはボトル飲料)
シャンパンの味については、妄想でトークを切り返してくれることと思います。

★モエのグラスが抽選で当たるらしい。
ご来場者の方の中から抽選で何名かに、モエのペアグラスがあたるそうです。
事情により画像を掲載できず、さらにうまく言葉で説明できないのですが、
土台にサクッとグラスをさすタイプの、
なんだかとてもかっこいい感じのペアグラスみたいです。
なかなかプレミアム度高いものらしいですよ。

…以上、この新企画の特徴をご紹介してみました。

私の場合は普段、仕事で聴きに行くことが多いこともあって、
コンサートの前や休憩中にお酒を飲むことはあんまりないですが、
ときどき遊びに行ったコンサートで少しお酒を味わってから聴くと、
より聴く耳がオープンになるところがやっぱりあるのかもしれないと思ったりします。
みんなでおいしいものを楽しみながら最高の音楽を聴くという、
素敵な雰囲気のサロンコンサートになりそうですね。

さて、今回のコンサート、お席は基本的に自由席ですが、
最前列のみSS席指定席(9000円、サイン色紙付き)となっていますので、
確実にかぶりつき席で聴きたい方はこちらをお求めください。

※過去のクラシックソムリエ検定受検者でメルマガに登録されている方には、
特典のご案内メールが届いていますので、ご確認くださいね!

予約方法はこちらです。

◎下記HPの予約フォームまたはお電話でご予約ください
宮谷理香公演予約HP http://theglee.jp/live/7951/
青柳晋公演予約HP http://theglee.jp/live/7953/
Tel 03-5261-3124 (The GLEE)

場所:The GLEE(ザグリー)
東京都新宿区神楽坂3-4 AYビル B1
アクセス:東京メトロ飯田橋駅B3出口徒歩3分/JR総武線飯田橋駅西口徒歩4分

「シーモアさんと、大人のための人生入門」を観てきた

まだ公開前ですが、クラシック音楽好き界隈で少し話題になっているらしい、
映画「シーモアさんと、大人のための人生入門」の試写会を観てきました。

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イーサン・ホークが撮った89歳のピアノ教師のドキュメンタリー。
俳優として行き詰まりを感じていたイーサン・ホークが、
シーモアさんと出会ったことで、多くのことに気がついた経験から、
このドキュメンタリーを撮ることを考えたのだそう。

シーモア・バーンスタインさんの経歴を見ると、
若き日にナディア・ブーランジェやジョルジュ・エネスクに師事してきたとあります。
朝鮮戦争中、兵役についていた記憶も彼のなかでは大きなものだともありました。
往年の大音楽家から優れた教育をうけ、同時に複雑な人生を送ってきた人。
50歳で突然演奏活動を引退し、その後は教えることに力を注いできたそうです。
素敵な感じのおだやかーなおじいちゃん。昔はイケイケだったこともあったのでしょうけど。

映画を見て感じたのは、シーモアさんは、ピアノを弾いていて
幸せだと思える自分であることを大切に人生の選択を行ってきたのだということ。
自分が情熱を傾けてやっていたはずなのに、夢中になりすぎるあまり、
気づいたときに目的がずれて、幸せを感じなくなっている。
これはどんな分野でも、誰にでも起こり得ることかもしれません。
芸術家はじめ、夢と仕事が重なっている人にとってはとくにそれが起こりやすいかも。
そんなとき、どんな考え方があるか、
その選択肢の一つを提示してくれる映画なのかなと思いました。
今悩んでいる人もそうでない人も、
一度自分が道に迷っていないか見直すきっかけになる映画かもしれないなーと。

でも、答えを見つけるのはあくまで自分ですよ、という感じの映画でもある。
最後に出てくる一言が、シーモアじいさんにとって
音楽人生において幸せがどこにあったのかを、端的に物語っていると思いました。

映画の中で出てくる演奏にはとても味があって、聴き入ってしまう。
でもしゃべってる言葉も聴きたいし、さらに字幕が出ると見ちゃうしで、
いろいろ大忙しです。何回か見たら消化できるかも?

9月下旬からシネスイッチ銀座、渋谷アップリンクほか、全国順次ロードショーです。
http://www.uplink.co.jp/seymour/

ロマノフスキーとフェンシング

目の前の締め切りに追われていたら、
結局書くのがリサイタルの直前になってしまいました。

アレクサンダー・ロマノフスキー、リサイタルは7月5日です!

2016年7月5日(火) 19:00 紀尾井ホール
シューマン:アラベスク Op. 18
シューマン:トッカータ Op. 7
シューマン:謝肉祭 Op. 9
ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」

インタビュー記事は、これまですでに、
ぶらあぼやジャパン・アーツ公演で配布中のチラシ(たぶん)に掲載されていますが、
今回はそれらの文字数内で書ききれなかった余談などを。

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今回ロマノフスキーが弾くプログラムは、シューマンとムソルグスキー。
どちらも苦悩の中で辛い最期を迎えた作曲家です。

私は、今回ロマさまが「展覧会の絵」をどんなふうに演奏するのか、
なんだかとても興味を持ちました。
この曲は、多くの音楽家、それもジャンルを問わず
いろいろなミュージシャンが手掛ける名作中の名作。
音として純粋に表現したり、内包されるものを自由に膨らませたりする演奏もあれば、
作曲家の精神に寄り添うタイプの演奏もあって、本当にいろいろ。
どちらにもそれぞれの魅力があり、どちらもがアリな楽曲だと思うので、
私としては、ロマさまのような人の場合、
どっち寄りになるのか興味があったわけです。

先のインタビューの折、そのあたりがどっちになるのかの予想をつけたくて、
「ムソルグスキーという人についてはどんな理解をしていますか?
あなたにとって近い? 遠い? 共感する?」
と聞いてみました。ストレートに尋ねなかった。
そうしたら、
「どうしてそんな質問するの?」という、必殺質問がえし…。
(アル中のムソルグスキーに共感するのか、という意図が
質問の裏にあったわけでもないんですが…)

しかしそこはロマさま、優しいほほえみとともにちゃんと答えてくれました。

「すばらしい音楽を創って多くの人から愛されている人物という意味で、
近しく感じる人でもあります。ただ、彼の人生は困難に満ちたものでしたよね。
そんな中で才能を与えられてしまったわけですから、
生きるのが大変だった面もあるでしょう。
大きな才能を与えられてしまった人がどのようにふるまえばいいのか、
その時々でとても難しい問題があったのではないかと思うので」

…才能を与えられてしまった。しかしそれに体や心がついてこない。
そんなムソルグスキーの苦悩について、ちょっと考えたことがありませんでした。
病気になったラヴェルが晩年、自分の頭の中には音楽が流れているのに、
それを楽譜に書き起こせないことを辛いといって涙を流したという逸話を思い出します。

そのほか、この作品について語っていることは
先のリンク先など既出の記事を読んでいただきつつ、
当日どんな演奏になるのか、楽しみにしてほしいと思います。
ちなみに、その翌週同じ「展覧会の絵」をガヴリリュクが弾きますが、
これはまったく違ったものになると思うので、その対比も楽しみ。

ところで、いつもスラリンとしたロマさま、
何かスポーツでもしているのかなと思って、
「演奏家は体力が大事だと思いますけど。何かスポーツは?」
とたずねてみました。
すると、
「演奏家だけじゃなくて、体力はみんな大事でしょ?」
(↑意外といちいちこういうことを言うので、エレガントな空気醸してるけど
ロシア・ウクライナ系の人だったことを思い出させられます…偏見でしょうかすみません)

「スポーツは、やりたいなー、でも時間がないなーっていつも思ってます。
昔フェンシングをやっていたんです。10年くらい前かな。数年間やっていましたよ。
今もやりたいけど時間がないので。秋にはまたやりたい!
フェンシングってすごいんですよ。
1対1のたった3分間のゲームで、20キロのランニングに匹敵するエネルギーを使うそうです。
いくつか種類があるんだけど、僕がやっているのは突きだけが有効のもので、
頭を使わないとできないんです。
相手がどう動くか察するという知力が必要なので、
チャンピオンになるのは30歳前後の選手なんですよ」

フェンシング、似合いそうな気もするけど、
あんなおっとりした雰囲気のロマさまにできるのだろうかという気もする。(失礼)
いや、きっと面をつけたら人が変わったように機敏に動くんでしょう。

しらっとエレガントにしているようで、実は熱い。
演奏もまさにそんな感じで、いつも聴くのがとても楽しみなピアニスト。
紀尾井ホールというちょうどいいサイズで聴けるのも嬉しいです。

JAサイトにメッセージ動画もありますので、どうぞご覧ください。

實川風さんデビューCDと、實川サンあるある

3月末にリリースされた實川風さんのデビューアルバム。
彼が去年3位に入賞したロン=ティボー=クレスバンコンクールの演目を中心に収録し、
ピアノは曲に合わせてスタインウェイとベーゼンの2台使いという、個性的な1枚です。

「實川風 ザ・デビュー」
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かなり前になりますが、3月にリリース記念リサイタルをヤマハホールに聴きにいったところ、
その1年半くらい前、2014年の夏に聴いたときからかなり印象が変わっていて、驚きました。
表現の細やかさはそのままに、迫力がすごいことになっていた。
いつの間にかニュー實川が誕生したのね…と思いました。
演奏家ってこうやって変わっていくからおもしろいものです。
一見爽やかな正統派アプローチのピアニストですが、
多分ものすごい空想(妄想)の世界をお持ちなのではないかと思います。

中でも印象に残ったのが、デビュー盤にも収録されている、
コンクール課題曲だったヌーブルジェの「メリーゴーランドの光」。
このヤマハホール公演で初めて生で聴きましたが、
いろんな色や質感のモノが次々目の前にうかぶようで、とてもおもしろかったです。
その日、実は私は仙台がえりでそのまま演奏会に行っていて、
日中、東北大学自然史博物館で世界のいろいろな鉱物を見せてもらっていたのですが、
演奏を聴きながら、昼間に見た神秘的な個体たちの姿を思い出してしまいました。
それくらい、とにかくいろいろな質感の音が鳴らされていた。
あの曲聴きながら鉱物のこと考えてるヤツなんて、
自分だけかもしれないなとも思いましたが。

そんな「メリーゴーランドの光」を生で聴ける演奏会。
今週末、6月4日(土)、渋谷の文化総合センター大和田さくらホールです。
(チケットまだあるのかな?)

ところで、實川さんについて最初に「あれっ?」と思ったのは、
去年、別の媒体で立て続けにインタビューをした、2回目の取材を終えたときのこと。
具体的に何がというわけではないのですが、
こちらが何か言ったときのリアクションが不思議というか、
えっ、そこにひっかかるんだ…へぇ…?という感じがして、
この方は、もしや爽やかさんの皮をかぶった変わり者なのではないかと…。
その後始まったヤマハPianist Loungeでの連載を見て、その思いは確信に変わりました。
まぁ、読んでいただけばわかると思います。

ヤマハPianist Lounge 「實川風 どこ吹く風パートII」

この連載のタイトル、あるとき急に気が付いて、
實川さんに、「もしかしてこれ、どこ吹く“かおる”って読むんですか?」と聞いたら、
「それじゃ、さすがに自意識過剰ですよ~」と言われました。
どこ吹く”かぜ”、であってるそうです。

ところで私は實川さんのことを、心の中で「じっちゃん」と呼んでいます。
学生時代の先輩に實川さんという男性がいて、「じっちゃん」と呼ばれていたからです。
その先輩は「じっちゃん」という呼び名が似合う人だったので良かったけれど、
こっちの實川さんの場合はどうなんだろう…と思いましたが、
そのことを話したら、実際に實川さんもじっちゃんと呼ばれていたそうなので、安心しました。
あだ名じっちゃんは、「實川サンあるある」なんですね。
ちなみに当時、戸谷さんという女性の先輩が「とっつぁん」と呼ばれていたのは、
今思えばさすがにすごいなと、全然関係ないのに急に思い出しました。

話がかなり脱線しましたが、
實川さんの「どこ吹く風」パートI はどこにあるのかというと、
公式ブログのほうが元祖ということのようです。
演奏会情報なども公式ホームページと併せて紹介されるっぽいですので、
チェックしてみてください。

小菅優さんとベートーヴェンとお父さん

如水コンサート企画が2020年のベートーヴェン・イヤーに向けて、
なんとも気が早いことに、もう4年も前からやっているベートーヴェン・シリーズ。
今度の6月12日(日)の公演には、小菅優さんが登場します。

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ベートーヴェン生誕250年(2020)プロジェクト Vol.5
『小菅 優の“ベートーヴェン詣”』
2016年6月12日(日) 14:00 開演 (開場 13:30)
会場:一橋大学兼松講堂

ベートーヴェン:
ピアノ四重奏曲 ニ長調WoO.36-2
ピアノ・ソナタ第17番ニ短調OP.31-2「テンペスト」
ピアノ・ソナタ第1番ヘ短調 OP.2-1
ピアノ四重奏曲 ハ長調WoO.36-3
共演: 川久保賜紀(ヴァイ オリン)、川本嘉子(ヴィオラ)、趙 静(チェロ)

先にベートーヴェンのソナタ全曲演奏シリーズを終えた小菅さん。
さてと、それじゃあ次に…とどこかに行ってしまうのではなく、
他の作曲家と並行して、引き続きベートーヴェンには取り組んでいきたいとのこと。
“優さまベートーヴェン好き”的には、よかったよかった!という気分ですよね。

この公演によせて、このまえインタビューをした記事が、
如水コンサート企画のサイトにアップされています。

ソナタ1番を勉強した6年まえから、2楽章に同じメロディが出てくる
ハ長調のピアノ四重奏曲とあわせて演奏してみたいとずっと思っていたとのこと。
小菅さん念願のプログラムということで、
これは、優さまファンは全員兼松講堂に集結するしかありません。

しかも共演者も超豪華です。
「ハ長調のピアノ四重奏曲は、メロディというより全体のストーリーがすごい。
ロンドとか楽しい感じで、みんなでお酒飲んでいるような雰囲気。
それぞれの楽器の持ち味、違う音色の対話を楽しんでほしい」とのことです。
女4人、ステージ上での公開宴会をのぞき見する感じになるのでしょうか!ドキドキ。

ところでこのインタビューをするにあたって
過去の記事や用意してもらった資料などを読んでいて気になったのが、
今年3月8日日経新聞夕刊掲載の、ご両親についてのインタビュー。

タイトルは、「届いた父の変顔ファクス」。

10歳でドイツに渡った小菅さんとお母さんに、
一人日本に残っていたお父さんがときどき、
変な顔の写真を撮ってファクスで送ってきていたという話です。
(いや、他にももっといろんな素敵なエピソードが出てくるのですが)
この中で小菅さんはお父さんについて、
“頑固”、“意見がはっきりしている”、“ユーモアがあるところも尊敬している”と語っています。

…これって小菅さんが前にベートーヴェンがどんな人だと思うかについて言っていたのと
ソックリ!これはもしかして!

(↓以下、小菅さんに半ばあきれられながらのやりとり)

———-
私 「思ったんですけど、小菅さんのお父さんて、ベートヴェンみたいな人なんですか?」

小菅さん 「ははははは! 同じくらいひねくれてるのかな。
そうならけっこうやばいですよね。もうちょっと普通の人だと思いますけど。
すごく自分のある人だとは思います。ベートーヴェンに似てるか意識したことなかったけど」

私 「恋人には父親の雰囲気を求める人もいるっていうじゃないですか。
それと同じで、小菅さんはお父さんの影響でベートーヴェンが好きになっているとか?」

小菅さん 「無意識にそうなんですかね。やだ!(笑)
でも確かにそういわれてみると、どちらかというとベートーヴェンかもしれません。
ベートーヴェンて毎日コーヒーの豆の粒を数えて飲んでいたっていうじゃないですか。
私の父も、これはこうじゃないといけないって、けっこうこだわるかも。
料理も好きで、こだわって何時間も出汁をとったりしてる。
ベートーヴェンって本当に指示が細かいんですよね。もちろん全部に意味があるんですけど。あ、なんか愚痴言ってるみたいになってきましたけど」

——-

…ということだそうです。

もし小菅さんのお父さんがモーツァルトみたいな人だったら、
今頃小菅さんは、「モーツァルト詣で」してたかもねぇ。
でもモーツァルトみたいなお父さんって、ちょっとどうなんだろう…。
(そもそも人にこれだけ詰めよっておいて、
実際自分の父親が作曲家なら誰似かだなんて聞かれたら、困るよなと思った)

さて、話はかなり脱線しましたが。
初夏のくにたち兼松講堂、緑も濃くて、大学構内を散歩すると気持ちいいと思います。
「みなさんにベートーヴェンのメッセージを伝えられるということは幸せなこと」と小菅さん。
小菅さんのベートーヴェンとともに、素敵な日曜日の午後を過ごせそう。
晴れるといいですね。
どうぞお楽しみに。

新井孝弘×ユザーンインド音楽ライブはもうすぐ!~クラシック音楽好きの方へ、インド音楽のすすめ

ベートーヴェンはインドの思想に大きな影響を受けていて、
日記やスケッチ帳には、インド思想からの引用やインド音階のメモが数多く残されています。
ベートーヴェンのメモを集めた書籍、「音楽ノート」を読んでいると、
二言目にはインドインドと出てきて、
この人本当にインドに興味あったんだろうなぁ~と感じます。

この前、3月に他界したアーノンクールとウィーン・コンツェルトゥス・ムジクスによる
ベートーヴェンの「運命」を聴いていたら(アーノンクールのラスト・レコーディングとなった盤)、
急に最後に、インド古典音楽な気配ムンムンのフレーズが出てきてびっくりしました。
他の演奏ではそんなことを思ったことがなかったのですが、
さすがアーノンクール先生、その部分をクッキリ鳴らしていたため耳についたようです。
さっそくサントゥール奏者の新井君に聞いてみたところ、
新井君がよく来日公演で演奏しているラーガ(特定の音列)に
似たものがあるとのこと(厳密には違うらしいけど)。
きっとベートーヴェン、このラーガをノートにメモってたいに違いないと推測。

ところでみなさんお気づきの通り、私はインド古典音楽には詳しくありません。
運良く、ユザーン、新井君それぞれの師匠である人間国宝級の演奏家
ザキール・フセイン氏やシヴ・クマール・シャルマー氏などを
生で聴く経験だけはしていますが、
(ピアノでいえば、ホロヴィッツやルービンシュタインを生で聴いたというような感じかなぁ)
まあ、豚に真珠状態かもしれません。
でもブタちゃんなりに本物の真珠の質感には、一応触ったということで。

しかし、私も全然良くわからないながら、
少し前に来日していたウスタッド・シュジャート・カーン氏の歌声を聴いたときは
なぜか涙が出そうになりましたし、
去年ザキール・フセイン氏のタブラソロ公演を聴いたときは、
興奮しすぎてやばかったです。目から星が飛び出しそうでした。

何かを越えている音楽は、こちらが受け取ろうとさえすれば、
すごいものが伝わってくるものなんだなと実感する瞬間です。
さらに、インド音楽をちょこちょこ聴くようになって、
西洋クラシックの演奏の感じ方も、少し変わってきたというか、
より耳と感覚を開いて聞くようになったような気がしないでもありません。

クラシック関係の人にも、インド音楽超大好きという方に時々遭遇するので、
わりと関心があるという方も多いのだろうと思いますが、
やっぱり、ピアノファンの多くのみなさんにとって、
インド音楽はなじみがなくてわかりにくいという印象があるかもしれませんね。
でも、とにかく聴いてみてほしいです!

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ところで、新井孝弘君とユザーン君という二人については、
感性、音楽に向かう姿勢、普通の人間とは完全に違う思考回路、
そしてそれが集約して生まれる音楽がとにかくおもしろくて、
こういう人が日本人にいるって本当にすごいことだなと思っています。

ユザーン君については、みなさんテレビ等での活躍もご存じのことでしょう。
昨秋まで放送されていたヨルタモリで、不思議なトーンのトークをかましつつ、
セッションになると、一転熱いタブラプレイを繰り広げる。
タモさんもビックリ!

このまえ某ジャズピアニストさんが、本物の天才ジャズミュージシャンは、
ライブセッションの中でリズムをずらす演奏をどんなに長らく続けていったあとでも
(説明が雑すぎてすみません…)
必ずまた、ピタッと1拍目をとることができる、という話をしていましたが、
まあ、ユザーン君のような人は余裕でそういう感じなんだろうなと
そのとき思いながら話を聞いていました。
インド音楽のリズムの語法に比べたら、
西洋クラシックやジャズのリズムの理論なんて、かなり若いですよね、たぶん。
古いからすごい、というつもりはありませんが、
インドのリズムの複雑さと奥深さがハンパないのは確か。
ユザーン君の場合はそれをインド音楽以外の分野でも輝かせていて、
しかもお話をさせても文を書かせても大変おもしろいという、稀有な才能です。

そして新井孝弘君については、
ものすごい人間国宝の先生に内弟子のような立場でついて勉強している
激レアな日本人音楽家だということが、
シタール奏者のヨシダダイキチさんの記事などでしっかり説明されています。
(新井君、日本に戻ってきて本当にホームシックみたい。つまり、インドに帰りたい)

ピアノファン(そして調律関係者のみなさん)にまず注目していただきたいのは、
このピアノのご先祖「サントゥール」の、超長い調律タイム。
ユザーンが軽妙なトークを繰り広げている間、
新井君は次の曲の演奏に合わせて100本の弦を黙々と調律します。
最近の楽器では、弦はピアノの弦を使っているそうで、
新井君が前日本にきたとき、
「ドイツ製のいい弦はインドで買えないから買いたい。
誰か調律師の友達にどこで買えるか聞いて」と言われたことを思い出します。
(というか、日本に来るとよくそう言っているような気がする)
でも、私のまわりのメーカー所属調律師さんは自分で弦を買いにいかないですからね…
というわけで、そのときはお役に立てずでありました。

そして、この弦を、ハンマーではなくクルミの木の撥で叩くという。
こんな感じの楽器です。(昨年ムンバイで撮影)

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一つ叩くと全部共鳴するので、とても繊細で神秘的な音がします。

そんな新井君の、ライブに寄せてのコメント動画がありますのでご覧ください。

最後に少し昨年のライブからの映像も入っていますので、
サントゥールとタブラはどんな音がするのか、ちょっと聴いてみてくださいね。
ライブ当日は、ユザーンが聞き手の新井君への質問コーナーもあり、
さらにはパルーおばさんという新井君の知り合いのおばさん特製ブレンドの、
かなり珍しい味のチャイも販売されます。
ユザーン君いわく、パルーおばさんはものすごいお金持ちで、
おばさんの家で出される料理はめちゃくちゃおいしいので、チャイにも期待できるだろうとのこと。
音楽はもちろん、トーク、変わったチャイも楽しめますので、
ぜひ遊びに来てください!

インド音楽のライブ会場なんてアウェ~感あるなとお思いの方もご心配なく。
もれなく、わたくしがおりますゆえ。

東京以外にお住まいの方、
そのほかの各地でも開催されますので、ユザーン君のHPをごらんください。
(ちなみにユザーン君のHP、Q&Aコーナーが絶品ですのでぜひのぞいてみてね)

◆2016 年4月14日(木) 19:30 開演(18:30 開場)
会場:Star Pine’s Cafe(吉祥寺)

[料金] 3,300円+1drink

[予約] Star Pine’s Cafeホームページのフォームよりご予約ください。
または、Star Pine’s Cafe 店頭でもチケット購入できます。

当日会場でお待ちしています。楽しいよ。

ニコライ・ホジャイノフ新春メッセージ2016

今年は出さないのかな、と思っていたら、届きました。
というわけで、なぜか毎年恒例となった、
ニコライ・ホジャイノフさんから日本のファンのみなさんへ、
新年の挨拶のメッセージをお預かりしましたのでご紹介します。

Dearest Japanese Fans,

I am sure that a storm might break out and a strong wind might blow but there is no force in the world that could stop our musical communication. It will continue in the new year, since these concerts fill up emotionally both of us. I am always happily looking forward to our meetings. You, my fans, with your attention, coming to my concerts, express your love to me, and this is very precious for me. In Japan I play not for just listeners but for people who are close to me.
I wish all my fans to have a good health first of all and to have only pleasant events in the new year, that everything negative would happen rarely and would seem like a warm summer rain and would be quickly forgotten. And also I wish you to have bright events in abundance in the next year.

Love,
Nikolay Khozyainov

例によってざっくりと内容を訳しますと……

人生において嵐が起きることはあっても、
音楽によるコミュニケーションを妨げることができる力などはなく、
新しい年も、コンサートが私たち両方の感情を満たしてくれるだろうということ。
ファンの方々が演奏会に来て愛情を示してくれることが自分にとってとても大切で、
日本でのコンサートでは、会場のお客さんはじめ
自分に近い方々のためにも演奏したいということ。
ファンの皆さんの健康と幸せを祈っているということ。
そして、ごくまれにネガティブなことが起きても、
それはあたたかい夏の雨のように、すぐに忘れることができ、
また次の年に実りある輝かしい出来事があることも祈っている。

…というようなことが書いてあります。
辛い出来事も夏のあたたかい雨である。それが実りにつながるように。
なるほど……。

ニコライさん、次の来日公演は今年11月が予定されています。
今発表されているものでは、いずみホール(大阪)でのリサイタル、彩の国さいたま芸術劇場でのリサイタル、それから札幌交響楽団の定期演奏会があるようです。
今度札響定期で共演する指揮者は飯守さんのほうのイイモリさんということで、
10歳にしてワーグナーの祝祭劇に憧れてプロメテウスを題材にしたオペラを書いてみようとしたというニコライさん(さすがに序曲なかばで断念したらしいけど)、飯守さんとワーグナー話で盛り上がったりするのでしょうか。

ところで、昨年モスクワ音楽院を卒業したニコライさん。
昨年秋からハノーファー音楽大学のアリエ・ヴァルディ教授クラスで勉強することになったとのこと。これを聞いて、私はけっこうびっくりしました。
あまりにもびっくりしたので、どうしてモスクワ音楽院を離れてハノーファーで勉強することになったのか質問をしてみたら、回答が来て、さらには日本のみなさんに紹介して良いとのこと。
なので、簡単にご紹介すると……

モスクワ音楽院はすばらしい学校だし、ピアノ演奏と個性を磨き、知識を豊かにすることができる場所だった。ただ、もともとヴォスクレセンスキー教授のクラスに在籍となってはいたけれど、実質的な指導を受けていたのはアレクサンドル・ストルコフ(Alexander Strukov)教授だった。ストルコフ先生はすばらしい教師であり、音楽家で、実を言うと、2010年のショパンコンクールもストルコフ先生の指導のもとで準備をしていた。
10月からハノーファー音楽大学に入って、ヴァルディ教授のレッスンを受けている。とても刺激的で楽しい。毎レッスン充実していて発見がある。

……ということでした。いろいろ考えがあって、新しい学びの場を選んだようです。
しかも、どうもヴァルディ先生のレッスンがかなり充実しているらしい!
環境が変わり、これからまた、音楽に大きな変化があるのでしょうね。
次の来日公演、リサイタルの詳細情報はまだ発表されていないようですが、いろいろ楽しみです。

第9回浜松コンクールの思い出

コンクールラッシュの2015年、10月以降、一体どうなってしまうんだろう…と不安に思っていましたが、そんな時期も無事に乗り越え、年内にアップすべき原稿は一応すべて提出でき、無事に年末を迎えることができました。
この3ヵ月は本当に充実していました。そしてものすごく書きました。

ショパンコンクールについての関連記事は、ガラ・コン日本ツアーまでこの後も更新していこうと思いますが、まずここで浜松コンクールについてのまとめの記事を一つ書こうと思います。

改めまして、2015年11月21日~12月8日まで開催された第9回浜松国際ピアノコンクール。今回はコンクール公式サイトの「オフィシャルレポート」で毎日の演奏の紹介と、終演後のコンテスタントのコメント、そして「審査委員インタビュー」で審査員のお話を書いていました。
終演後のコメントは、一人で書いている都合もあってどうしてもタイミングの合う方々をピックアップする形になってしまいましたが、やはりこうして見返すとなかなかみなさん、キャラ濃いですね。現代作品作曲家のインタビューからも、多くの発見がありました。

◇毎日のレポートと演奏後コメント、入賞者インタビューはこちら
http://www.hipic.jp/news/officialreport/

◇審査委員インタビューはこちら
http://www.hipic.jp/news/interview/

ファイナルまで残らなかったけれどすばらしい演奏を聴かせてくれた方、最初から最後までやたら存在感がすごかった方など、いろいろ。
3年ぶりに浜松に戻ってきて大人になっていたオシプ君、繊細で独特の表現力に注目していたんですが2次では演奏後異常に疲れた”と言っていたジャン=ミシェル君、個性的かつ気品ある演奏がものすごく主張してきて、個人的にはなんで1次で落とされねばならなかったのかよくわからないショイヒャーさん(自分が話した方々はかなりこの意見に同意してくれていましたが…審査員の先生方も含め…)、あと、こちらも3年ぶりのカムバック、ステージ上で昆虫気分だったというアシュレイ・フィリップ君
妙に貫禄のあった若いロシア勢も(演奏だけでなく存在感が)印象に残ります。現代作品を個性的に弾いて作曲家をびっくりさせていたマイボロダさん、いつもぷらぷらしているにいちゃんというイメージだったのにプロコフィエフ論を語り出したらやたら熱かったマーク・タラトゥシキンさん(今年プロコフィエフとバルトークの録音をリリースしたらしいのでご興味ある方はどうぞ)。
あとは、リード希亜奈さん、イアンジョー・チャン君、色白で不思議さんキャラ(と勝手に理解)な沼沢淑音さん、ドバイ&ロンドン育ちの三浦謙司さんも演奏が記憶に残っています。他にもいろいろあって挙げきれませんが、たとえばたった20分聴いただけでも演奏が記憶に残っている人もいるもので、人の感覚って不思議だなと。
演奏動画は、2016年1月31日まですべてこちらから視聴することができます。

今回のコンクールは、入賞者含めて明るくフレンドリーな人たちが多くて、なんだかとても楽しそうにしていたのも印象的でした。
前述のショイヒャーさんなんかは他のコンテスタントの仲間たちと富士山までいって、湖だか海だかで寒中水泳してきたようですし(ドイツやオーストリアに比べたら全然寒くないから平気だと言っていましたが……)、タラトゥシキンさんも滞在がよほど楽しかったのか、「それじゃあ多分また3年後~」と言って帰って行きました。また参加する気まんまん! ボランティアでホームステイを受け入れてくれたホストファミリーの方々のおかげですね。嬉しいことです。

さて、そして濃いキャラ揃いの入賞者の面々。最後にとったロングインタビューもようやく全部まとめました。公式ウェブで公開中です。
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アレクサンデル・ガジェヴさん(第1位、イタリア/スロベニア)
ローマン・ロパティンスキーさん(第2位、ウクライナ)
アレクシア・ムーサさん(第3位、ギリシャ/ベネズエラ)
アレクセイ・メリニコフさん(第3位、ロシア)
ダニエル・シューさん(第3位、アメリカ)
フロリアン・ミトレアさん(第4位、ルーマニア)

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頭の良さとハチャメチャさが絶妙なバランスで同居しているガジェヴさんとは、話をするたびに違う印象を受けたので、けっきょく彼が何者なのか未だによくわかりません! まだ粗削りなところがありながら、音楽性、キャラクター、バックボーンの全面から見て、このあと大飛躍の可能性のある人なのではないでしょうか。

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ロパティンスキーさんはあの親しみやすくかわいらしいおばさま顔(スカーフかぶったら似合いそう)と、やっぱりファイナルのラフマニノフ、ピアノ協奏曲第3番が印象に残ります。穏やかで控えめなピアノで始まり、ソロパートでずいずい自己主張をし、最後にはオーケストラを巻き込み一体となってぐわ~っと進んでいく様から、自分はなぜか「スイミー」の話を思い出しました。あの、赤い魚の仲間たちから仲間外れにされていた黒い魚が、最後みんなと一緒に大きな魚を形づくってマグロかなんかに対抗する話。思わずその感想を伝えたら「へぇ…ちょっとよくわかんないけど、そうですかぁ、おもしろいね」という反応をされましたが。そりゃそうなりますよね。わけわからなくてごめんね。

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ムーサさんは今回ゆっくり話すことができてすごくよかったと感じた人です。ショパンコンクールのときから何か興味をひかれる演奏で(でもコンクールだと難しいかなと思うステージもあったりして)、しかしワルシャワではやたらプレスから人気が高かったので話しかけるチャンスがなかったという。自由奔放でオープンでありながらクラシカルなものを愛する彼女。おもしろい人です。
なんとなく気が強そうな女性という印象を受けるかもしれませんが、とても繊細な人なんだなと私は思いました。ショパンコンクールのあともあまりに気持ちが疲れていたので、新作の暗譜のこともあったし、浜松はどうしようかだいぶ迷ったみたいです。それで今師事しているアリエ・ヴァルディ先生に意見を求めたら、「行け!」と背中を押されたそう。ナイス判断、ヴァルディ先生! とても尊敬し、信頼をよせる存在なのだと言っていました。

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ダニエル・シュー君は18歳とは思えぬ悟りっぷり。確かな自信と上を目指す気持ちが感じられると同時に、自分の中で音楽をする意味をもう見出しているのだと。あの一見パカーッと明るい様子に惑わされがちですが、ブラームスのOp.117をガラコンに選んでああいう演奏をするところからも、それはよくわかりますね。今後が本当に楽しみな人です。

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アレクセイ・メリニコフさんについては、1次から毎ステージ、しみじみいい演奏を聴かせてくれていました。スタートの選曲が常にシブい。しかしあの美しい独特の音色はちょっと忘れられません。ガラコンサートのシューベルトからスクリャービンで聴かせた音もずば抜けていました。また機会があるときには、必ずや聴きに行きたいピアニストです。

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ミトレアさんは、3次の演奏が本当に良かった。室内楽はもちろんですが、シューベルトとプロコフィエフも緊張感のある演奏で、緊張しいの性格がうまく作用したステージだったのではないでしょうか。常に折り畳み傘を持ち歩く心配性キャラが、かわいらしすぎました(ロンドン暮らしが長いせいだとは、ご本人の談)。
「ずいぶんハッピーな表情で弾いてましたね」「オーマイガ~!全部フェイクだし~!」という初めての会話が忘れられません。あのニッコニコが全部うそだったら人間不信になるところですが、さすがに室内楽の時の笑顔は本物と聞いて安心したという。

こうして取材をしたコンクールでも、正直言って時間がたつと「あれ、このときの入賞者6人て誰だったっけな」と思うことがあるのですが、今回の浜松コンクールの入賞者は忘れない気がします。それほど全員キャラが立っていました。

審査員の先生方のお話も本当に一つ一つ印象に残っています。
またここで紹介していくと長くなってしまうので控えますが、ぜひ、お時間がある時に読んでほしい。
ちなみに私の中で密かにヒットしているのは、いろいろな個性がありそれぞれの良さがあるという話のとき、その例としてアルゲリッチさんが「薔薇とジャスミン」と花を挙げたのに対して、海老さんが「トマト、ピーマン、なす」と野菜を挙げたところ。「わ、野菜で来たっ!海老先生かわいい…」と心の中で思ってました。でもそれにつづいて「それぞれから違う栄養を得られる」とおっしゃっているのを聞いて、ものすごく納得。

コンクールを受けるのって、時間も労力もかかるし、精神的にも本当に大変で、それでも若いピアニストたちは何かの可能性を見出して、全力で挑戦している。こういうイベントが、演奏家にとっても、音楽を楽しむ人にとっても、最高の形で生きるようであったらいいなと思います。
そのために何ができるか……。これからも考えてゆかねば。