第9回浜松コンクールの思い出


コンクールラッシュの2015年、10月以降、一体どうなってしまうんだろう…と不安に思っていましたが、そんな時期も無事に乗り越え、年内にアップすべき原稿は一応すべて提出でき、無事に年末を迎えることができました。
この3ヵ月は本当に充実していました。そしてものすごく書きました。

ショパンコンクールについての関連記事は、ガラ・コン日本ツアーまでこの後も更新していこうと思いますが、まずここで浜松コンクールについてのまとめの記事を一つ書こうと思います。

改めまして、2015年11月21日~12月8日まで開催された第9回浜松国際ピアノコンクール。今回はコンクール公式サイトの「オフィシャルレポート」で毎日の演奏の紹介と、終演後のコンテスタントのコメント、そして「審査委員インタビュー」で審査員のお話を書いていました。
終演後のコメントは、一人で書いている都合もあってどうしてもタイミングの合う方々をピックアップする形になってしまいましたが、やはりこうして見返すとなかなかみなさん、キャラ濃いですね。現代作品作曲家のインタビューからも、多くの発見がありました。

◇毎日のレポートと演奏後コメント、入賞者インタビューはこちら
http://www.hipic.jp/news/officialreport/

◇審査委員インタビューはこちら
http://www.hipic.jp/news/interview/

ファイナルまで残らなかったけれどすばらしい演奏を聴かせてくれた方、最初から最後までやたら存在感がすごかった方など、いろいろ。
3年ぶりに浜松に戻ってきて大人になっていたオシプ君、繊細で独特の表現力に注目していたんですが2次では演奏後異常に疲れた”と言っていたジャン=ミシェル君、個性的かつ気品ある演奏がものすごく主張してきて、個人的にはなんで1次で落とされねばならなかったのかよくわからないショイヒャーさん(自分が話した方々はかなりこの意見に同意してくれていましたが…審査員の先生方も含め…)、あと、こちらも3年ぶりのカムバック、ステージ上で昆虫気分だったというアシュレイ・フィリップ君
妙に貫禄のあった若いロシア勢も(演奏だけでなく存在感が)印象に残ります。現代作品を個性的に弾いて作曲家をびっくりさせていたマイボロダさん、いつもぷらぷらしているにいちゃんというイメージだったのにプロコフィエフ論を語り出したらやたら熱かったマーク・タラトゥシキンさん(今年プロコフィエフとバルトークの録音をリリースしたらしいのでご興味ある方はどうぞ)。
あとは、リード希亜奈さん、イアンジョー・チャン君、色白で不思議さんキャラ(と勝手に理解)な沼沢淑音さん、ドバイ&ロンドン育ちの三浦謙司さんも演奏が記憶に残っています。他にもいろいろあって挙げきれませんが、たとえばたった20分聴いただけでも演奏が記憶に残っている人もいるもので、人の感覚って不思議だなと。
演奏動画は、2016年1月31日まですべてこちらから視聴することができます。

今回のコンクールは、入賞者含めて明るくフレンドリーな人たちが多くて、なんだかとても楽しそうにしていたのも印象的でした。
前述のショイヒャーさんなんかは他のコンテスタントの仲間たちと富士山までいって、湖だか海だかで寒中水泳してきたようですし(ドイツやオーストリアに比べたら全然寒くないから平気だと言っていましたが……)、タラトゥシキンさんも滞在がよほど楽しかったのか、「それじゃあ多分また3年後~」と言って帰って行きました。また参加する気まんまん! ボランティアでホームステイを受け入れてくれたホストファミリーの方々のおかげですね。嬉しいことです。

さて、そして濃いキャラ揃いの入賞者の面々。最後にとったロングインタビューもようやく全部まとめました。公式ウェブで公開中です。
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アレクサンデル・ガジェヴさん(第1位、イタリア/スロベニア)
ローマン・ロパティンスキーさん(第2位、ウクライナ)
アレクシア・ムーサさん(第3位、ギリシャ/ベネズエラ)
アレクセイ・メリニコフさん(第3位、ロシア)
ダニエル・シューさん(第3位、アメリカ)
フロリアン・ミトレアさん(第4位、ルーマニア)

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頭の良さとハチャメチャさが絶妙なバランスで同居しているガジェヴさんとは、話をするたびに違う印象を受けたので、けっきょく彼が何者なのか未だによくわかりません! まだ粗削りなところがありながら、音楽性、キャラクター、バックボーンの全面から見て、このあと大飛躍の可能性のある人なのではないでしょうか。

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ロパティンスキーさんはあの親しみやすくかわいらしいおばさま顔(スカーフかぶったら似合いそう)と、やっぱりファイナルのラフマニノフ、ピアノ協奏曲第3番が印象に残ります。穏やかで控えめなピアノで始まり、ソロパートでずいずい自己主張をし、最後にはオーケストラを巻き込み一体となってぐわ~っと進んでいく様から、自分はなぜか「スイミー」の話を思い出しました。あの、赤い魚の仲間たちから仲間外れにされていた黒い魚が、最後みんなと一緒に大きな魚を形づくってマグロかなんかに対抗する話。思わずその感想を伝えたら「へぇ…ちょっとよくわかんないけど、そうですかぁ、おもしろいね」という反応をされましたが。そりゃそうなりますよね。わけわからなくてごめんね。

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ムーサさんは今回ゆっくり話すことができてすごくよかったと感じた人です。ショパンコンクールのときから何か興味をひかれる演奏で(でもコンクールだと難しいかなと思うステージもあったりして)、しかしワルシャワではやたらプレスから人気が高かったので話しかけるチャンスがなかったという。自由奔放でオープンでありながらクラシカルなものを愛する彼女。おもしろい人です。
なんとなく気が強そうな女性という印象を受けるかもしれませんが、とても繊細な人なんだなと私は思いました。ショパンコンクールのあともあまりに気持ちが疲れていたので、新作の暗譜のこともあったし、浜松はどうしようかだいぶ迷ったみたいです。それで今師事しているアリエ・ヴァルディ先生に意見を求めたら、「行け!」と背中を押されたそう。ナイス判断、ヴァルディ先生! とても尊敬し、信頼をよせる存在なのだと言っていました。

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ダニエル・シュー君は18歳とは思えぬ悟りっぷり。確かな自信と上を目指す気持ちが感じられると同時に、自分の中で音楽をする意味をもう見出しているのだと。あの一見パカーッと明るい様子に惑わされがちですが、ブラームスのOp.117をガラコンに選んでああいう演奏をするところからも、それはよくわかりますね。今後が本当に楽しみな人です。

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アレクセイ・メリニコフさんについては、1次から毎ステージ、しみじみいい演奏を聴かせてくれていました。スタートの選曲が常にシブい。しかしあの美しい独特の音色はちょっと忘れられません。ガラコンサートのシューベルトからスクリャービンで聴かせた音もずば抜けていました。また機会があるときには、必ずや聴きに行きたいピアニストです。

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ミトレアさんは、3次の演奏が本当に良かった。室内楽はもちろんですが、シューベルトとプロコフィエフも緊張感のある演奏で、緊張しいの性格がうまく作用したステージだったのではないでしょうか。常に折り畳み傘を持ち歩く心配性キャラが、かわいらしすぎました(ロンドン暮らしが長いせいだとは、ご本人の談)。
「ずいぶんハッピーな表情で弾いてましたね」「オーマイガ~!全部フェイクだし~!」という初めての会話が忘れられません。あのニッコニコが全部うそだったら人間不信になるところですが、さすがに室内楽の時の笑顔は本物と聞いて安心したという。

こうして取材をしたコンクールでも、正直言って時間がたつと「あれ、このときの入賞者6人て誰だったっけな」と思うことがあるのですが、今回の浜松コンクールの入賞者は忘れない気がします。それほど全員キャラが立っていました。

審査員の先生方のお話も本当に一つ一つ印象に残っています。
またここで紹介していくと長くなってしまうので控えますが、ぜひ、お時間がある時に読んでほしい。
ちなみに私の中で密かにヒットしているのは、いろいろな個性がありそれぞれの良さがあるという話のとき、その例としてアルゲリッチさんが「薔薇とジャスミン」と花を挙げたのに対して、海老さんが「トマト、ピーマン、なす」と野菜を挙げたところ。「わ、野菜で来たっ!海老先生かわいい…」と心の中で思ってました。でもそれにつづいて「それぞれから違う栄養を得られる」とおっしゃっているのを聞いて、ものすごく納得。

コンクールを受けるのって、時間も労力もかかるし、精神的にも本当に大変で、それでも若いピアニストたちは何かの可能性を見出して、全力で挑戦している。こういうイベントが、演奏家にとっても、音楽を楽しむ人にとっても、最高の形で生きるようであったらいいなと思います。
そのために何ができるか……。これからも考えてゆかねば。