クライバーン、ファイナリストが発表されました

クライバーンコンクール、ファイナリストが発表されました。

ケネス・ブロバーグ(アメリカ、23歳)
レイチェル・チャン(香港、25歳)
ユーリ・ファヴォリン(ロシア、30歳)
ダニエル・シュー(アメリカ、19歳)
ソヌ・イェゴン(韓国、28歳)
ゲオルギ・チャイゼ(ロシア、29歳)

演奏日程はこちらで見られます。

1日あけて、6月7日から行われるファイナルは、室内楽とコンチェルトの2ステージ。

最初の2日間は室内楽で、ブレンターノ弦楽四重奏団と共演。ブラームス、ドヴォルザーク、フランク、シューマンのピアノ五重奏曲から選びます。

そして最後の課題となるコンチェルトは、審査員長のスラットキン指揮、フォートワース交響楽団との共演。選曲のリストなどはなく、なんでも自由に選んでいいという太っ腹(?)なルールですが、一応、事前に指揮者とオーケストラからの了承が必要とのこと。(今回の6人、偶然全員違うコンチェルトを選んでいます。めずらしい!)

審査員長が自ら指揮をするということは、共演者としての感触も審査に反映されるのかな、さらには、それまでのステージで気に入った人に協力的にしたりできちゃうんじゃないの!などと思いましたが、審査のルールブックを見たところ、審査員長&指揮者はファイナルの順位付けには投票できないのだそうです。タイが出たときだけ、それを解決するために投票することになるらしい。(審査員長が最終順位の投票に基本的には参加しないというのも、それはそれで斬新な気もしますが)

審査は、これまで全てのステージを考慮しての判断となります。1位から順にふさわしいと思う人を投票&決定、過半数にならない場合は上位2人で再投票というシステムとのこと。

さて、発表後のファイナリストの6人の表情です。

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ソヌ・イェゴンさん。
2013年仙台コンクールの優勝者ということで、仙台コンクールのみなさんが応援してるといってたよ、と伝えると、はにかみフェイスですごくうれしそうにしていました。また仙台や日本で演奏したいなと言っていました。
ファイナルの協奏曲では、ラフマニノフの3番を演奏します。

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ケネス・ブロバーグさん。
今回は6人のファイナリスト中2人がアメリカ人ということになりましたが、そのうちの1人として地元人気を集めています。ミネアポリス出身。2001年ヴァン・クライバーンコンクール優勝者のスタニスラフ・ユデニチさんのお弟子さんだそうです。
ファイナルではラフマニノフのパガニーニの主題による狂詩曲を演奏します。

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ゲオルギ・チャイゼさん。
おめでとう!と声をかけても表情一つ変えず、ありがとう、とぼそっと言うあたり、いい感じのロシアの人風味出しています。私の中での彼のショスタコーヴィチ感がより一層高まってきました。
ファイナルではプロコフィエフの3番を演奏。

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ユーリ・ファヴォリンさん。
先月はLFJ出演のために来日していたばかり。日本好きなんだよー、好き以上に好きなんだよー、文化とか、食べ物とか、と、日本の思い出を語り出したら急ににこやかになりました。
ためしに食べ物は何が好きなのか聞いてみると、「魚」とのこと。
ステージでのお辞儀の手の揃え方が猫っぽいのはそのためか…などと、いらんことを考えてしまいました。さすがに言いませんでしたけど。
ファイナルではプロコフィエフの2番を演奏。ロシア人のおふたりはプロコフィエフ攻めですね。

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ダニエル・シューさん。(インタビュー中)
最年少、唯一の10代のファイナリストとなりました。
結果発表前から、緊張する~!といってバタバタ(?)していましたが、ファイナル進出が決まったら決まったで、どうしよ~、みたいな感じでワサワサしていました。
ファイナルではチャイコフスキーの1番を演奏。これはクライバーンのシンボルのような曲で、フォートワースの聴衆にとっては特別な作品だとよく言われます。
「昔から大好きな作品で長く勉強してきた。この曲をここで演奏するのは特別なことだとわかっているけど、今はこのステージに上がって演奏するのがとにかく楽しみ!」とのこと。

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そして唯一の女性となったレイチェル・チャンさん。
ドレスも私服もいつもかわいい。
セミファイナルのプロコフィエフがとても印象に残りましたが、ファイナルではベートーヴェンの4番というシブめの選曲です。
それにしてもあの独特の音とタッチ。子供の頃なにか特別なテクニックの教育でもうけたのかなと思いましたが、「頭でイメージした音を出そうとしているだけ。特別なメソッドみたいなものはなかったと思うけど、香港で師事していた先生は、とにかく聴くことを大事にするように言う人だった」と話していました。
結局、耳なんですね。

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おまけ。ライブ配信のナビゲーターをしているアンダーソン&ロウさん。
最初、ジャケ写とイメージが違うので気が付きませんでしたが、去年自分がライナーの訳と解説を書いたジョン・フィールドのノクターン集のエリザベス・ジョイ・ロウさんは、このロウさんだということに、2次予選あたりで気が付きました。
このアルバムのおかげで、ノクターンの創始者と呼ばれたフィールドが、当時ロシア貴族の間では「フィールドを知らないことは罪悪」と言われるほど人気だったこと、リストやショパンにすごく影響を与えたこと、そしてあんなきれいでおだやかな曲を書きながら、“酔っ払いのジョン”と呼ばれるような破滅型の人生を送った人だということを知りました…。
上の写真は、ロウさんに無事ご挨拶もすませ、写真を撮ろうとしたら、すかさずアンダーソンさんも参加してきて撮影したもの。配信で見るのと同様、テンション高めの素敵な二人でした。この二人の演奏もすごいです。

さて、少し話は変わりますが、音についての印象のお話。
自分が1次予選の結果のとき、通ったことを意外に思った人というのは、だいたい音がドライめとかこもりぎみとか、そう思った人でした。
そして、中にはそこからそのままファイナルまで進んだんだなぁと感じる人も、実はいます。あくまで個人的な感想ですし、座る場所にもよるのだと思いますが。
結局、自分がツヤツヤした水分たっぷりよりの音が好みだから、音が好みでない時点でなんとなく魅力的ピアニスト候補から外してしまう。カサカサめの音にも、それだからこその表現があるのはわかるのですが。絵の具じゃなくて色鉛筆で描いたタッチの味わいみたいな感じでしょうかね。そういう音の良さも理解していきたいなと思ったりします。
で、さらにあとで配信で聴き直してみると、ホールで聴いていてカサカサめに感じた音がとってもクリアに聴こえて、けっこういい演奏だなと思ったりするわけです。
これ、どんなコンクールや演奏会でもあることではありますが、バス・パフォーマンスホールというやたら広くて響きをコントロールしにくそうな会場ゆえ、余計そういう差が顕著になるのかもしれないなと思いました。
以前スタインウェイのゲリット・グラナーさんが、「スタインウェイの典型的な音はと聞かれたら、わかりませんと答える。その人それぞれの独特の音が鳴ることが特徴だし、そのときの気分も反映する」といっていたのを思い出しました。(もちろんどのメーカーのピアノでもあることだとは思います)
今回はとくに、結局全員同じ楽器を使っているので、そのあたりの違いも本当に良くあらわれているようで興味深いです。

いずれにしても、ある一定のレベルを越えれば、音の好み、表現や解釈の好みなんて何が正しいか本当にわかりませんね(そういってしまえば、それまでですけど)。
コンクールって本当にむずかしい。毎回こればかり言っていますが。