ヤマハがインド現地生産を開始、チェンナイ工場を見てきました

ムンバイまでは、インド楽器奏者の友人たちに助けてもらいながらなんの問題もなく過ごしてきましたが、チェンナイに夜遅く着いて、久し振りにインドあるあるのトラブルに遭遇。
レセプションで「今朝電話したけど出なかったから、部屋はキャンセルしたので、お前が泊まる部屋はない」っていわれるやつ…。

ここはひとつ頑固に譲らないぞ、でも怒っても仕方ないし…と思って悲しげな表情を見せたら、近くの同じ系列の別のホテルに部屋を用意してあげるから我慢してくれと。そしてご丁寧に、オーナー夫妻の妻が一緒にオートリキシャー(バイクタクシー)に乗ってついてきてくれるという安心のサポートっぷり。悲しげな表情がかなり効いたみたいです。
ただ、スーツケースもあってリキシャーの中は超ギュウギュウなのに、奥さんは膝に小学生の子供を乗せてついてきました。なんだろう、ちょっとしたアトラクション感覚なのか。

到着して早々あちこち連れまわされて疲れましたが、こういう優しいフォローは初めてです。まあそもそも、勝手にキャンセルするのがひどいんですけどね…。

そして部屋のバスルームに入ったら、トイレットペーパーが、立ち上がってなお見上げる位置にセッティングされていました。今まで見た中で最高です。
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チェンナイは南インドの大都市のひとつ。
言葉はタミル語なので、連邦公用語のヒンディー語は基本的に通じません。なので、困ったことがあるともうお手上げ…。

ヒンドゥー寺院の雰囲気も特徴的です。私はまだチェンナイは2回目なのですが、このカーパレーシュワラ寺院のプージャ(礼拝)の音が妙に気に入っていて、今年も見にいったりしました。

 

 

さて、ヤマハ・ミュージック・インディアのお話。

今年からインドで現地生産を開始、そのチェンナイ工場を見学してきました。まずはアコースティックギターとキーボードから、今後は音響機器の製造も予定しています。

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インドでアコースティック楽器の大規模生産をするのはヤマハが初めてだそう。
ただ、アコースティックピアノの現地生産の予定は、さすがに今のところないみたいです。
本社からの期待も大きいそうです…インドがヤマハさんの中で期待されているだなんて、なぜかしら、他人事ながら嬉しい。

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この工場では、積極的に女性を雇用しているということで、工場内にはたくさんの若い女性スタッフの姿が見られました。女性が外で働きにくいこのインドの地で、すばらしいこと!中心地から車で1時間半ほどのこの工業エリアには、日本の企業の工場がたくさんありますが、ほとんどが自動車関連なので、女性は働きにくいんだって。

食堂も完備で、朝昼ごはんが出るそう。海外の生産拠点あるある的な手口(?)みたいですが、朝ごはんを出すと、出勤をサボる人が減るらしい!

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社長の芳賀崇司さんは、これまでにも海外の生産拠点のお仕事を何箇所も経験しているそうです。(ランチをオススメするポージングの写真に付き合ってくださった、優しい芳賀社長)

いろいろとお話を伺いましたが、さすが素敵ななんとかなる精神の持ち主であります。2008年の開設以来、歴代のヤマハミュージックインディア社長にお目にかかっていますが、みなさんそんな感じ。そうじゃなきゃインドの社長なんてできませんよね…。

芳賀さんは今回、次の工場は(世界の中の)どこにするか、その段階から携わっていたそうです。インドでのビジネスは、法的な手続き関係でものすごく時間がかかることが多いですが、今回は新記録な勢いでスピーディにことが進んだみたい。それには、モディ首相のメイク・イン・インディア政策の流れもあったと思いますが、ちょうどチェンナイ州が、外資企業の受け入れ手続きがのろすぎるという評判がたってしまったのを払拭しようとしていたタイミングだったからだとか。幸運でしたね。

芳賀さん、ヤマハのものづくりの未来はもちろん、地元の人たちへの貢献も大切にしていて、かっこいいなと思いました。いろいろと詳しくお話を伺いましたので、のちの記事をお楽しみに…。

部品の巣窟的空間、ムンバイの楽器修理工を訪ねてみた

去年ヤマハ・ミュージック・インディアの方からその存在を聞いて、会いに行ってみたいと思っていた、ムンバイの楽器修理工の家族の工房。ヤマハの現地スタッフ、アンシュマンさんに案内していただき、ついに訪ねることができました。

すごいすごいとは聞いていましたが、なかなかの穴蔵っぷり。細い路地を入り、半地下に下ったところに工房はありました。

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今は三兄弟で職人をしていて、とくに長男のムンナさんはこの狭い部品の巣窟風スペースに座って、ひたすら作業をしています。ムンナさん、長いルンギー(インドのおじさんがよく着ている腰巻き布)をしてなくて足が写っちゃうって気にするしぐさが、かわいらしかったです。でも、作業中のワイルドな手元の動きはかっこいい。

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(左のお二人が、次男、三男。一番右はヤマハのアンシュマンさん)

主に修理をしているのは管楽器。インドでは結婚式にウエディングバンドを呼ぶ習慣があるので、管楽器の需要はかなり大きいのです。

楽器修理工を始めたのは、彼らの父親だそう。もともと車の修理工をしていたところから、興味を持って路上の楽器修理屋で技術を習得。その技術が息子たちに伝えられて、今につながっているようです。つまり、すべてが口頭伝承的な技術。しかも起源もよくわからない。
難しい修理の依頼も、経験と三人の知恵(あと、ネットの情報)でなんとかしちゃう。輸入品でしかない部品は、自分たちで作っちゃう。

インドの暮らしの中では、いろんな場面で、壊れた何かが、ひらめきと経験(その場しのぎともいう)で修復されているのを見ます。いわば、そのプロフェッショナル版ですね。あと、今や機械で作られているのしか見ないものがハンドメイドで作られていたり。糸車をまわすガンティー的思想が受け継がれている…というとすごい感じがしますが、単に彼らはずっとそういうふうに生きているんですよね。

もう15年も前の話ですが、インドで自転車のスペアキーを作ろうと思って鍵屋さんに行ったら、目視で確認しながら、普通のヤスリで、手削りでスペアを作ってくれたことを思い出します。それで、これがちゃんと開くんですね。ちょっとひっかかるけど。

ちなみにヤマハさんは数年前、この我流リペア職人さんたちに、楽器修理についてのワークショップを行ったそうです。今までそんな話をもちかけた楽器メーカーはヨーロッパにひとつもなく、ヤマハさんが初めてだったんですって。
ヤマハの楽器が修理に持ち込まれることももちろんあるそうですが、
「やっぱり他のメーカーと比べて品質が良い」とのこと。
(通訳で入ってくれていたアンシュマンさんが、ちょっと盛り気味に説明してくれて、インド人スタッフのヤマハ愛ステキと思いました!)

この場所の写真だけ見せてもらっていた時は、労働環境が厳しい作業場なんじゃないかと勝手に思っていたんですが、三兄弟、とってもこの仕事を愛しているようでした。素敵な職人魂を感じる。(そして、実際けっこう儲かっているっぽい)

やっぱりなにごとも、行って見てみないとわからないものです。

ザキール・フセインさんのタブラ協奏曲

ムンバイに再び戻ったあとは、シンフォニー・オーケストラ・オブ・インディアの春シーズン定期公演を聴いてきました。お目当ては、タブラ奏者のザキール・フセインさん作曲によるタブラ協奏曲「ペシュカール」。

開演前、ホワイエを見渡すとたくさんの人が飲んでいた、冷たいミルクコーヒー。サモサとのセットで100ルピー(150円くらい?)という、コンサートホールなのにそこらへんのカフェより断然お安い値段で購入できて、しかも辛いと甘いでおいしい。ムンバイ のジャムシェッド・ババ・シアターでコンサートを聴く機会があったらぜひ試してみてください。甘辛のコンビネーションに夢中すぎて、写真は撮り忘れました。

ベルリオーズの序曲「ローマの謝肉祭」がおわると、台がセッティングされて、タブラを持ったザキールさんが登場。
タブラソロに始まって、ティンパニ、低弦、ファーストヴァイオリンがインドらしい旋律をつぎつぎ受け渡していきます。西洋の語法の中で音楽を育んできた人では書かないだろう旋律がからみあう。怒涛のタブラの音の波、管との掛け合いがかっこいい。

演奏後は、客席総立ちでした。さすがスーパースタータブラ奏者。みんな大好き。
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日本でもこの曲を公演できたらいいのに…。

どうですか、指揮者のみなさん、そして日本のオーケストラ関係者のみなさん!!
ちなみにこちらは2015年の演奏の動画です。

私がインド古典音楽を生で聴く経験はまだまだ全然浅いのですが、それでもザキールさんの演奏は、技術はもちろん、音がすごく特別なんだなということがわかります。
先日、ザキールさんのお弟子さんであるユザーン氏のプチ解説を聞く中で、その音作りの精神のお話がちらりと出て、他のインドの有名タブラ奏者とザキールさんの音の印象が違うように思うのはそういうわけか…と納得しました。

SOI全体の演奏に関しては、やはり、海外のオーケストラで活動する外国人臨時メンバーばかりだけに、個々の技術は一定レベル以上で普通にうまい。いつも一緒に演奏していないからアンサンブルの面が少し大変そうですが、スケールの大きな演奏が特徴です。

ところでちょっと関係ないですけど、ユザーン氏と環ROYさん、鎮座DOPENESSさんが最近発表したこの曲とミュージックビデオ。

音もかっこよく、なんだか(いい意味で)様子がおかしくて笑っちゃうと同時に、インド古典音楽、そしてそのほかの音楽の歴史も知ることができて、とても素敵です。なんなんでしょうこのセンス。いい仕事してますね…。

そしてこのユザーン氏と、サントゥール奏者の新井孝弘氏による、毎年恒例、インド古典音楽のツアー、今年も開催されるそうです。新井くんは、今年ムンバイであったら、またしっとりとインド人度が増していました。いつか本当にインド人になってしまうかもしれません。
二人が発するインドの匂いを嗅ぎたい方は、お近くの会場でぜひご体験ください。

公演スケジュールは、こちら。

(最後はインドでいつもお世話になるお二人のコンサートのお知らせでした。)

インド人チェリストが祖国に作った素敵な学校に行ってきた

ここまでのインドのいろいろを、少しずつ紹介したいと思います。

到着した日に向かったのはタージマハルホテル。チャローインディアというインド料理探訪プロジェクトのため来印中の東京スパイス番長のみなさんがお食事中ということで、水野さんを訪ねて合流です。
今年のテーマはアチャール(インドのお漬物的なもの)らしいので、成果を見るのが楽しみ。アチャールって本当においしいですよね。梅干し好きの私としては、インド料理においてなくてはならぬ付け合わせ。

タージマハルホテルといえば、11年前に大規模なテロがあった場所です。あれ以来、セキュリティチェックがとても厳しい。
そしてロビーには、1852年から1872年の間に作られたというスタインウェイのピアノがあって、インド人ピアニストのおじさんがポロポロ弾いてました。植民地時代の置き土産的な存在。
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インドではたまにこういうアンティークのピアノに出会います。去年もコルカタでシタール奏者のインドの方のお宅にお邪魔したら、家にベーゼンドルファーのグランドピアノがあると言われてびっくりしました。(しかも、その方自身は弾けないらしい)

翌日は早速コルカタに移動。

浜松コンクールでお世話になった、ピアニストの小川典子さんにご紹介いただいた、ロンドン在住インド人チェリストのアヌープ・クマール・ビスワス氏が、故郷のコルカタに作ったMatheison schoolを見学してきました。

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犬が寝てますし、牛もいます。

牛は飼ってるのかと思ったら、学校のまわりに柵がないからどっかの家からいつも入ってくるらしい。

そもそもどうしてこの学校に行くことになったのかというと。
ある日小川さんがツイッターで突然(?)、「友人のチェリストのパーティの様子」といって写真を送ってきてくれまして。
見たら、どう考えてもインドのパンジャービーダンスの様子なんですよ。
お友達は、インド人ってことですか?と尋ねたところ、そうであると。
(最初は、インドにどハマりしているイギリス人のパーティなのかと思って、小川さんには変わったお友達がいるもんだなと思ってしまいました、すみません)

さて、こちらのインド人チェリスト、ビスワスさんは、コルカタの貧しい家に生まれました。しかしその瞳の輝きに何かを感じたイギリス人の神父さんが、教会の学校で彼にチェロを教え、ロンドンに留学させたのだそう。

さて、学校について。

学校には、そのイギリス人神父さんの名前が付けられています。全てが無料の全寮制、貧困層の中でも特別に貧しい家庭の子供のみ入学可能。教会を通じて入学の希望者がいると聞くと、家庭に面談にいって、本当に貧しいのかを確認するんだって。

草原の中にポツンと小さな建物があるところからスタートして25年。基本的にビスワスさんが私財をつぎ込んで作ったもので、多くの困難を乗り越えてここまでになった努力の結晶だそうです。
今は50人ほどが勉強しています。現在校舎を増設中で、もっと多くの子供を受け入れられるようにしていくつもりとのこと。すごいぞビスワスさん!

学校の生徒たちはみんな弦楽器を習っています。

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訪ねた日、スクールコンサートを開いて、子供たちのオーケストラの演奏を聴かせてくれました。全員音を真剣に鳴らしている感じが伝わってくる、良いオーケストラ。インドのコルカタにこういう子供たちが育っていたとはとびっくりしました。

ビスワスさんは、神父さんから受け取ったものを今度は自分が次の世代に与えていく番だと、活動を続けているようです。

これまで私もいろいろなプロジェクトのことでインドのお金持ちさんに接してきましたが、あまり私財を投じてこういう活動をしようという人はいないんですよね…国民性なのか、宗教上の感覚なのか。ビスワスさんは、お電話で話した明るくグイグイ来る感じこそさすがベンガル人の人だなーと思いましたが、活動を知るほど、なんてすばらしい方なのだ!と思ってしまいました。

生徒たちはナチュラルに礼儀正しく、明るくどこか控えめで、すごくいい。

子供達の集合写真を撮ろうとしていたたら、犬がグイグイ来ました。
このあと彼は、しっかり集合写真に一緒におさまっていました。

ちなみにこの日ビスワスさんはもうロンドンに帰っていてご不在。後日詳しくご本人にお話を聞くことになっています。楽しみだ。