部品の巣窟的空間、ムンバイの楽器修理工を訪ねてみた


去年ヤマハ・ミュージック・インディアの方からその存在を聞いて、会いに行ってみたいと思っていた、ムンバイの楽器修理工の家族の工房。ヤマハの現地スタッフ、アンシュマンさんに案内していただき、ついに訪ねることができました。

すごいすごいとは聞いていましたが、なかなかの穴蔵っぷり。細い路地を入り、半地下に下ったところに工房はありました。

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今は三兄弟で職人をしていて、とくに長男のムンナさんはこの狭い部品の巣窟風スペースに座って、ひたすら作業をしています。ムンナさん、長いルンギー(インドのおじさんがよく着ている腰巻き布)をしてなくて足が写っちゃうって気にするしぐさが、かわいらしかったです。でも、作業中のワイルドな手元の動きはかっこいい。

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(左のお二人が、次男、三男。一番右はヤマハのアンシュマンさん)

主に修理をしているのは管楽器。インドでは結婚式にウエディングバンドを呼ぶ習慣があるので、管楽器の需要はかなり大きいのです。

楽器修理工を始めたのは、彼らの父親だそう。もともと車の修理工をしていたところから、興味を持って路上の楽器修理屋で技術を習得。その技術が息子たちに伝えられて、今につながっているようです。つまり、すべてが口頭伝承的な技術。しかも起源もよくわからない。
難しい修理の依頼も、経験と三人の知恵(あと、ネットの情報)でなんとかしちゃう。輸入品でしかない部品は、自分たちで作っちゃう。

インドの暮らしの中では、いろんな場面で、壊れた何かが、ひらめきと経験(その場しのぎともいう)で修復されているのを見ます。いわば、そのプロフェッショナル版ですね。あと、今や機械で作られているのしか見ないものがハンドメイドで作られていたり。糸車をまわすガンティー的思想が受け継がれている…というとすごい感じがしますが、単に彼らはずっとそういうふうに生きているんですよね。

もう15年も前の話ですが、インドで自転車のスペアキーを作ろうと思って鍵屋さんに行ったら、目視で確認しながら、普通のヤスリで、手削りでスペアを作ってくれたことを思い出します。それで、これがちゃんと開くんですね。ちょっとひっかかるけど。

ちなみにヤマハさんは数年前、この我流リペア職人さんたちに、楽器修理についてのワークショップを行ったそうです。今までそんな話をもちかけた楽器メーカーはヨーロッパにひとつもなく、ヤマハさんが初めてだったんですって。
ヤマハの楽器が修理に持ち込まれることももちろんあるそうですが、
「やっぱり他のメーカーと比べて品質が良い」とのこと。
(通訳で入ってくれていたアンシュマンさんが、ちょっと盛り気味に説明してくれて、インド人スタッフのヤマハ愛ステキと思いました!)

この場所の写真だけ見せてもらっていた時は、労働環境が厳しい作業場なんじゃないかと勝手に思っていたんですが、三兄弟、とってもこの仕事を愛しているようでした。素敵な職人魂を感じる。(そして、実際けっこう儲かっているっぽい)

やっぱりなにごとも、行って見てみないとわからないものです。