チャイコフスキーコンクール、2次進出者と1次予選の様子


3日間にわたる一次予選が終わり、二次進出者が発表されました。25名から選ばれた14名が、50~60分のリサイタルを演奏する次のステージに進みます。
二次進出者はこちら。

Tianxu An CHINA
Kenneth Broberg USA
Sara Daneshpour USA
Mao Fujita JAPAN
Alexander Gadjiev ITALY
Anna Geniushene RUSSIA
Andrei Gugnin RUSSIA
Alexandre Kantorow FRANCE
Dohyun Kim REPUBLIC OF KOREA
Philipp Kopachevsky RUSSIA
Alexey Melnikov RUSSIA
Dmitriy Shishkin RUSSIA
Arsenij Tarasevich-Nikolayev RUSSIA
Konstantin Yemelyanov RUSSIA

この後は日をあけず、すぐに翌6月21日から2次予選のステージが始まります。
というわけでその前に、一次の様子を振り返ってみましよう。

今更ながら一次の課題曲をおさらいすると、バッハの平均律からいずれかのプレリュードとフーガ、古典派のソナタ(ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、クレメンティ)から一曲、チャイコフスキーの作品一曲以上、技巧的なエチュードとして、ショパン、リスト、ラフマニノフから1曲ずつ、という内容。
やたら曲がかぶるなと思った方も多いと思いますが、それは指定が結構細かいからなのでしょうね(だからって熱情とかマゼッパとか、かぶりすぎだなと思いましたが)。それで、みんながいかにもコンクールな感じの細切れプログラムを弾いているわけです。

それではここから、日本でもおなじみと思われる面々や気になったピアニストを中心に、少しずつ、演奏やそこらへんで見かけたときの様子をご紹介します。

まず、2015年のショパンコンクール第5位のイーケ・トニー・ヤンくん。私が最後に会ったのは、2017年のクライバーンコンクールでのこと。トニーくん、今回の結果は残念でしたが、またあのときから少し大人になった演奏を聴かせてくれました。
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ベートーヴェンでは、最初から、優しさ100%という感じの音で初めていたのが印象的。ショパンなど、安定した美しさでした。また日本に来てくれるといいな。

そして、同じショパンコンクールで第6位だった、シシキンさん。相変わらず音が華やかで、輪郭のくっきりした演奏を聴かせてくれました。ショパンしばりでないプログラムのほうが、個人的には好きかな。2次進出です。
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ググニンさんの演奏も、私はとてもおもしろかったです。大胆な歌い回しで、静寂を聴かせようとするベートーヴェン。ショパンとかも、チャイコフスキーコンクールなんだしこのくらいやっていいんだろうなっていう(?)、抑揚たっぷりの演奏でした。選んでいたピアノはスタインウェイ。プロフィール写真見るたびに、ヒゲがおしゃれだなって思います。
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こちらは、2015年浜松コンクール優勝のガジェヴさん。2次進出です。演奏した翌日、音楽院の前で藤田真央さんとおしゃべりしているところを見かけて声をかけたという。
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浜コンのときはカワイのピアノを弾いていましたが、彼は今回スタインウェイのピアノを選びましたね。カジェヴ曰く、ここのホールの音響はとても難しくて、ピアノ選びも本当に悩んだとのこと。「セレクションに5時間欲しかったよ。…ってそれは言い過ぎかもしれないけど、少なくとも2時間は欲しかったね」ですって。ボケをボケでつっこむ高度なわざ。
ステージでは少し緊張気味なのかなと思ったりしましたが、作品の造りがピシッと伝わる演奏でした。バッハを弾くのが楽しかったそう。

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そして、同じく2015年浜コン入賞者組のメリニコフさん。私は実は、浜松で聴いた、彼のあの独特の、美しい、どこか素敵にくぐもったところのある音が忘れられないのです。今回も、普通のパワフルなロシア人ピアニストとはちょっと違う、あの独特の音色を聴かせてくれました。彼も浜松ではカワイを選んでいましたが、今回はスタインウェイでした。
演奏後にバックステージに見に行ったらものすごい人気ぶりで、びっくりしました。某関係者さん曰く、ドレンスキー門下の地元の人気ピアニストという扱いだから取材が次々入って大変みたいだよ、ですって。二次進出です。

コパチェフスキーさんは、8年前のチャイコフスキーコンクールのときにネットで聴いて、こんなおもしろい演奏するんだから変わった人なんだろうなと思い、印象に残っているピアニスト。私はあの回は途中からモスクワに取材に来たので、生で聞くことはできませんで。
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でもたまたまその後トリフォノフ君とコパチェフスキーさんの話になったとき、どんな人なの?やっぱり変わってるの?と聞いたら、「えー、いい子だよ、超普通の子だよ」と言われたんですよね。で、えっ、そうなんだと一瞬驚いたんですが、でもすぐに、まあトリフォノフから見たら誰だって普通だろうなと思い直したのでした。
話はそれましたが、コパチェフスキーさん、ラフマニノフの音とか、やっぱりこの音って、こういうロシアの人じゃないと出せないんだろうなと思ってしまうタイプのすごい音でした。二次進出。また聴けてうれしい。

カントロフさんは、あのヴァイオリニストのジャン=ジャック・カントロフさんの息子さんだということです。で、演奏がものすごく個性的。さらに、拍手をされても全然立ち上がらないという様子も、おもしろかったですね。いい加減とりあえず立っとけよ、って心の中でつっこみながら見ていたのは、私だけではないはず。

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序盤、リストの超絶技巧練習曲で、シゲルカワイのまろんとした低音を轟々と混ぜ合わせていて。その音に、体の中からゾワゾワ~っとくるものを感じ、この子きっと変な子だ(いい意味で)…って思いましたね。なんか内臓掴まれるみたいな感触の音なんですよ。音のヴァリエーションも一番多く感じたのですが、聴いていてどこか怖いみたいな感情を覚えました。こわいけど次も聴いてみたい。そう思って、薄目で次のプログラムを確認する感じ。そうしたら二次に通過したので、びっくりしました。
彼は唯一シゲルカワイを選んだコンテスタントですが、「たった30分で選ばなくてはいけないから大変だったけど、直感でこれがいいと選んだ。とてもノーブルなピアノだと思う」と話していました。

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カザフスタンのBeisembayevさんは(この方はどうしても名前の読み方がよくわからない…)、ぱっと見おじさんみたいですが、まだ21歳。藤田君と前後しての演奏だったので、このふたりが1才違いってなんなの、と、一部の人の間で話題になっていました。
とても品格のある抑揚で、紳士のピアノという感じ。私的に好感度が高かったので、次で聴くことができないのは残念です。ピアノはファツィオリを選んでいましたが、オープニング・ガラで同じピアノを弾いたトリフォノフともまた全然違う、少し渋めの音を鳴らしていました。ピアニストの個性が色々な形で出てくるピアノなんですね。

 

クライバーン2位のケニス・ブロバーグさん。二次進出です。

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ドゥムカ熱演だったし、プログラムの最後に持ってきているし、何か思い入れあるのかなと思って聞いてみたら、いや、ロシアのチャイコフスキーコンクールだし、弾いたらいいかなと思って弾いたんだけどね、テヘ、的なノリでした。演奏を聞いて、勝手に特別な作品なんじゃないかと妄想しちゃった。ピアノはスタインウェイです。

それにしても。私がはっきり記憶している限りでも、ドゥムカのフライング拍手、このとき少なくとも3回目だったんですよ。モスクワのお客さんたち、なんで学習しないのかな、そもそもこの曲知らないのかなって思いますよね。
でもむしろ逆に、知らなければこれだけの頻度で終わったと思っちゃうようにエンディングを書いたチャイコフスキーは、やはり、チャイコフスキーだったんだなとも思います(説明になってない)。
とにかくもう演奏前に、日本のオーケストラ演奏会でよくある「演奏の余韻を楽しむため、拍手は指揮者が手を下ろしてから…」のノリで、ドゥムカは最後終わったと思っても終わってませんので、拍手はピアニストが立ち上がってから…ってアナウンスした方がいいんじゃないかって思いましたね。

そして、ゲルギエフのお気に入りで、優勝候補の一人と目されていた、マロフェーエフさん17才。

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彼の演奏が始まる前の客席は、ぎっしり満員、補助席まで使われていました。モスクワでもすでに大変注目された存在なのでしょうね。その演奏は、爆演という言葉がぴったり。ヤマハを選んでいましたが、その豊かな音を目一杯鳴らし、弾きやすさを最大限に生かして、ガンガンいっていました。
弾けて弾けて弾けまくって17歳だとこういう演奏になるんだろうなぁという感じの熱情やマゼッパ。しかしだからといって、ゲルギエフさんのお気に入りが1次で落とされてしまうことはないだろうと思っていたので…ある意味でびっくりしましたね。コンクールとはわからないものです。逆に、審査は普通に行われているということを意味しているのかもしれません…。

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そしてダネシュプールさん、最年長での挑戦です。チャイコフスキー=プレトニョフの「眠れる森の美女」など、繊細で優しく生き生きとした表現が絶品。で、客席がものすごく盛り上がりました。関係ないけど、遠目にみたら、サラ・ジェシカ・パーカーみたいだった。

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続けて演奏したのが、アンナ・ゲニューシュネさんです。ルーカス・ゲニューシャス君の奥様。今回、女性は全25人中たった二人だったのですが、揃って2次に進出です。品のある、でもパワフルで美しい音にどんどん引き込まれてしまいました。ピアノはスタインウェイ
それにしても、女性陣二人とも、黒の袖ありロングドレスで、大人の女という雰囲気。演奏も優しさと強さを兼ね備えていて、今回のチャイコフスキーコンクールで求められていたのはこういうタイプだったんだろうなということが、衣装からも垣間見られた、かも。

そして最後に、2日目最終日に登場した藤田真央さんの演奏の様子をご紹介しましょう。
これ、本当におもしろかったんですけど。藤田君、2日目の夜10時ごろの演奏順だったんですね。聴衆もちょっと疲れていて、最初藤田くんが登場したときは、拍手の雰囲気が「ふーん、次は日本人の若い子ね」っていう、特別な興味はありませんという気配全開の感じだったんですよ。今回のモスクワの聴衆は、地元ロシア人にあからさまにあたたかいということもありまして。
でも、その時私は心の中でこう言っていましたよ。「あのねぇ、この子は普通の日本人じゃないんだよ。聴いたら、あれってなりますよ」、と。

そしてバッハの最初のフレーズが始まると、ふっと客席の空気が変わるわけです。あれ?この日本人、随分楽しそうにバッハを弾いているぞ?なんだ?という。
そして続くモーツァルトで、完全に虜にしましたね。この日はロシアのいかつい男子たちが次々ベートーヴェンのソナタを弾いていたこともあって、ある意味、ここで1日の疲れが払拭されるような清涼感が流れたということも、効果として大きかったと思います。モーツァルトの後は延々拍手が鳴り止みませんでした。
その後も、1曲ごとにどんどん聴衆が引き込まれていくのが、客席にいて肌で感じられるのです。最後のリストを弾き終えたときには、審査員席も含めて拍手の嵐でした。

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直、あれほどコンクールの演奏で会場の空気が変わっていくというのは、いまだかつて体験したことがありませんでした。本当に特別な演奏だったと思います。そもそも、プログラムの縛りが厳しく、小品をバラバラ繋ぐようなプログラムだったわけで、それでこんなに引き込めるのはすごいこと。そのうえ、派手な作品でなく、最初のバッハとモーツァルトで持っていくっていうのも驚きです。わたくし、日本人だからなんでも応援するというタイプではないんですが(非国民的発言ですみません)、ここ1年ほどの藤田さんの演奏はちょっとすごいなと思っていたこともあり、今回のお客さんのリアクションをとても嬉しく思いました。…そもそも、にこりともしないロシア男子が多いこのコンクールで、ふわふわー、にこにこーっとした感じで出てきた藤田さんは、異質で魅力的だとお客さんも本能的に感じとったのかもしれません。

そして、無事に二次予選進出。まあ、もしものことがあったら、聴衆が黙っていなかったでしょうね…というくらい、客席が魅了されていました。
結果発表後の藤田さん、嬉しそうな表情。なぜかメンデルスゾーン前で記念撮影。
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1次のステージで完全に聴衆を味方につけたので、次もきっといい雰囲気の中で演奏できることでしょう。こういうの、本当に大事なんですよね。ヴァン・クライバーンコンクールで優勝したときのホロデンコを思い出します。
次のプログラムを聴けることが楽しみです。