長いコンクールが終わりました(クライバーンコンクール結果発表)

第14回ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール。
結果が発表され、すべてのイベントが終わりました。

結果は以下の通りです。

■ゴールドメダル ヴァディム・ホロデンコ, 26, ウクライナ
■シルバーメダル ベアトリーチェ・ラナ, 20, イタリア
■クリスタルメダル ショーン・チェン, 24, アメリカ

■優秀現代作品演奏賞および、■室内楽演奏賞  ヴァディム・ホロデンコ, 26, ウクライナ
■審査員特別賞 クレア・フアンチ, 23,アメリカ
■聴衆賞 ベアトリーチェ・ラナ, 20, イタリア
■John Giordano 審査員特別賞  スティーヴン・リン, 24,アメリカ
■Raymond E. Buck 審査員特別賞 アレッサンドロ・デルジャヴァン, 26, イタリア

こちらの聴衆や関係各位と話していると、“なんとなく、納得の結果だね”という人が多いかなと思います。
とくにゴールドメダルとシルバーメダルについては、全ての演奏を聴いた後に、わりと多くの人がこの結果を予感していたようです。いや、最後までわからないぞと私は思っていましたが。
若いラナさんと、すでに貫禄のあるホロデンコさん。
しばしばコンクールの審査で論点となる「年齢も上ですでに成熟しているピアニストと、若く今後大きく伸びる可能性のあるピアニストを比較することの難しさ」。
これを考慮に入れても、ホロデンコさんが一歩上だった、という審査員の判断なのかなと思います。
審査員の野島稔さんにお話を伺いましたが、レセプション会場を抜け出してお話しさせてもらったこの時間が異様に楽しかったです。
野島先生、3週間で焼けちゃってねぇ、とおだやか~な口調でおっしゃっていました。なんだか独特のふんわり感とスルドい発言が絶妙なバランスの、素敵なお方です。
それで野島先生曰く、「ホロデンコはオールマイティで、群を抜いていた。室内楽賞、現代音楽賞も総なめしたことにもあらわれている」とのこと。それに付け加えて、「でも、あまりに出来上がっていて、もはや聴衆を手玉にとるような雰囲気すらありましたよね。審査員もそのあたりは感じて見ていたと思いますけどねぇ。それでも、あれだけ抜きんでていましたからね」。

…手玉にとる(笑)! しかし確かに、思い起こせば自分もすっかり手玉にとられていたような。とくに後半戦。やられたー。やられたー。

クライバーンコンクールは、優勝者に3年間のマネジメント契約とたくさんのコンサート機会を与えるため、すぐに演奏家として活動できるピアニストを求めていることでも知られています。それを考慮に入れれば、さらに納得の結果かもしれません。
とはいえ、ホロデンコさんもまだ26歳なんですよね。やたらベテラン風味出ていますが。

ラナさんは浜松アカデミーで牛田智大さん(当時12歳)と優勝を分けたので、日本でもすでに生演奏を聴いている方がいるかもしれません。
それにしてもこのラナさんの、すでにアーティストとしての強い意志を感じる演奏を思い起こすにつけ、彼女と当時12歳で優勝をわけた牛田くんもまたすごいなと思ったり(もちろん、この場合も年齢や将来性を考慮しての結果だと思いますが)。
以前、職場の先輩が「かとうかずこが選んだんだから、そのまんま東っていい男なのかなぁ、と思うよね」と言っていたことを今ふと思い出しました。すみません、全力で関係ないし、状況が全く違いますね。

クリスタルメダルについては、誰が入ってくるかな…と感じていました。
結果的には、“ジョン・ナカマツ以来のアメリカ人入賞者”ショーン・チェンがこの賞に輝きました。
Star-Telegramの記事に出ていましたが、彼は高校卒業後、ハーバードやマサチューセッツ工科大学からも入学を認められていたけれど、ジュリアードで勉強することを選んだそうです。高校生まではピアノは趣味だったとのこと。
ビデオゲームが好き、なんて言っていてへぇ~と思っていたけど、MITと聞いたとたん、ものすごい次元の高いメカを使ったゲームをしているんじゃないかと想像してしまいます。
会場には、師であるホン・クワン・チェン氏(ユジャ・ワンさんがカナダで師事していた先生でもある。前回のクライバーンコンクールでは審査員を務めていた)も駆けつけていました。

クライバーンコンクールでは、この3年間のマネジメント契約によりたくさんの演奏機会が与えられるため、しばしば、若い人が入賞した場合その後のキャリアを心配する声があがります。
しかしすでに演奏家として活動をしているホロデンコさんにはそんな心配もなさそう。「お酒を飲みすぎたりしないでコンディションを整えていれば大丈夫! それに、僕には家族の支えがあるし」…と、家族の話になったところで、2歳半になる娘さんとのコミュニケーションが自分のモーツァルトの演奏を変えた、という興味深い話を聞かせてくれました。
とはいえ、公式のインタビューで娘をピアニストにしたいかと問われて、すごい勢いで「No!」と言っていましたね。ちなみに、奥さんはピアニストでヨガのインストラクターなんですって。なんかオシャレというか、ミステリアスというか。

あ、それと娘と子供の話で思い出しましたが、チェルノフさんに会ったのでちゃんとご本人に確認しました。
お子さんは3人、もう音楽を勉強していて、音楽家になってくれたらいいかなぁ、と思っているらしいです。
奥さまも仲良さそうに寄り添っていましたが、なんとなくふたりの雰囲気が似ていて、夫婦って一緒に生活していると似てくるのかなぁ、おもしろいなぁと思いました。

一方、日本からの期待の星、阪田さん。
ご本人も、「この場所で(クライバーンを象徴する作品である)チャイコフスキーを弾くことほどおそろしいことはない」なんて言っていましたが、今日地元の記者と話していたら、「ここであれを弾いたら、聴衆はパーフェクトな演奏しか絶対受け入れないよ。それはみんな知ってる。サカタはチャレンジャーだ」と言い切っているのを聞いて、そうなのね…と改めて思いました。
ご本人は終演後に、とくにチャイコフスキーではベストの力が出せたとは言えないとおっしゃっていました。
今回のオーケストラはどの作品でもわりとゆっくりめのテンポをとるように見受けられましたが、とくにこのチャイコフスキーでは、阪田さんはもう少し速く前に行きたいんだろうな、と感じる場面がしばしばありました。実際阪田さんによれば、リハーサル時に「オーケストラはあのテンポがやりやすいと言われたので、こちらが合わせた」とのこと。
入賞は果たせませんでしたが、この大舞台での経験、そしてこれだけ聴衆に愛された記憶は、今後の彼の演奏活動にとって大きな糧になるのでしょうね。
今回はヴァン・クライバーン氏が亡くなって最初のコンクール開催でした。
特別なイベントは行われなかったのがちょっと意外でしたが、それでも結果発表のセレモニーでは冒頭に7分間ほどのクライバーン氏の追悼ビデオが流れるなど、フォートワースの人々のクライバーン氏への愛情を感じる場面が時折ありました。
これがまた、クライバーン氏のラフマニノフのピアノ協奏曲第3番の演奏をバックにしたコラージュ映像なのですが、プレゼントされた帽子のかぶり方がわからなくてクルクルしている様子とか、聴衆から渡された花束をソッコー指揮者に横流ししちゃう様子とか、クライバーン氏の愛らしいキャラクターのわかるシーンが随所にちりばめられていて、会場からはクスリと笑いがもれていました。
映像が終わると、ステージ中央に置かれたピアノの傍らにある無人の椅子にスポットライトが当たって、徐々に会場が明るくなるという、素敵な演出でした。

さて、今回も私たちの耳を喜ばせてくれた素敵なピアニストたちの情報、審査員のコメント、そしてテキサスのよもやま話、まだちょっと出し切れていないものもあったり、考えがまとまっていないこともあるので、またこの後もなんとなくぼちぼちと書いてみようと思います。
このブログはだいぶ勢いで書いているので、少々読みにくい箇所もあったかもしれません。毎回長ったらしい文章にお付き合いいただき、ありがとうございます。
明日東京に帰ります。おいしいカレーが食べたいです。

ドキュメンタリーとか、コミュニケーション能力とか(クライバーンコンクールファイナル)

2曲の協奏曲を演奏するファイナルも、3日目が終わりました。残すはあと1日。

コンクールも佳境にさしかかり、裏方の面々にも疲れがたまってきたようです。初日に元気溌剌だったプレスセンターの青年が、最近時々ぼんやりした表情を見せているので、ちょっと心配です。余計なお世話ですけど。

そしてドキュメンタリーのクルーのアニキたち。カメラかついで後ろ歩き、大きなマイクを持って右往左往。とくに昨夜はバックステージを緊迫した表情で走り回っていました。
このドキュメンタリーの監督を務めているのは、クリス・ウィルキンソン氏。映画「ニクソン」や「アリ」の脚本家も務めた人で、アカデミー賞にノミネートされたこともあるとか。ライブ配信中に流れていたスタジオ撮影のインタビューの聞き手も、この方がたびたび務めていたそうです。

さて、今日の午前中は、審査員によるシンポジウムがありました。
クライバーン・リサイタルホールで行われるのですが、会場は一般の聴衆でいっぱい。質問も絶え間なく次から次へと飛び出し、しかも一つ一つがちょっとしたスピーチに聴こえるほど、思慮深さを感じるものでした。
それぞれの質問に出席した審査員が回答するのですが、中でも目立ったのが、カプリンスキー審査員の話。彼女の圧倒的な頭の良さをひしひしと感じました。
カプリンスキーさんは長らくジュリアード音楽院ピアノ科の長を務めていて、また地元テキサス・クリスチャン大学の教授でもあります。クライバーンコンクールの審査員を務めるのは2001年以来4度目です。
実は過去のコンクールでは、彼女の生徒が多くエントリーしていることで、批判にさらされてしまったこともありました。ちなみに今回のファイナリストの中では、フェイフェイ・ドンさんがジュリアードでカプリンスキーさんに師事しています。ヴァルディ先生とカプリンスキー先生のお弟子さんは、本当にあちこちのコンクールで活躍していますね…。
さらにちなみに言えば、ファイナリストのラナさんはヴァルディ審査員のお弟子さんです。とはいえ、4年以内に師弟関係にあった弟子には、審査員は投票できないことになっています。

さて、シンポジウムの話。
他の審査員のおじさま方もとても興味深いコメントをしてくれるのですが、いつも最後にカプリンスキーさんが付け加えるコメントが、必ずどこか、うーんと納得するものなのです。
例えば、「西洋クラシック音楽には、その周辺のさまざまな文化が影響していて、それを知ることは大切だ。その部分に今やアジアの演奏家たちがとても関心を持っていて、欧米のピアニストが失っているものをアジアのピアニストが得ているような気がしてならない。今後ますますアジアのピアニストが台頭するのではないか」という質問が出たとき。
これには、“メディアの発達で、世界中の人がいろいろな演奏に触れることができるようになった。そのうえ、結果を早く得るにはイミテーションが一番手っ取り早い。同時に、現在の音楽業界が20代前半の若者を求める。知り合いのプロモーターは、26歳を越えているともうちょっとためらってしまうと言っていた。メルティンポットは良いことだが、それにより若者がじっくり音楽性を育てる時間を失っている。ルービンシュタインやホロヴィッツ、ギレリスが現代のコンクールのシステムに参加しても優勝することはできないだろう。昔の音楽家には、自分が音楽で何を言いたいのかをじっくりと育てる時間があった。これが昨今、これこそが芸術家と呼べるピアニストが出てきにくくなっている理由だと思う”とおっしゃっていました。

音楽の背景にある文化やその他の芸術を深く知らないままに、“イミテーション”の演奏家が台頭する恐ろしさ。
これはおそらくアジア人の演奏家に限ることではまったくなく、ヨーロッパ人にも言えることでしょうね、生まれてから自然な生活の中で宗教的な価値観や文化を身につけていることは武器ではあると思いますが。
西洋クラシックの深い文化に心から理解する努力をなしに成功できるチャンスがある、むしろそういう華やかなピアニストを市場が評価する方向にいくのは、確かになんだか怖いことです。

それともう一つこんな質問も。
「演奏家が自分の音楽を言葉で説明できる能力は必要か」という話題になったとき、「演奏家として活動していくためには、オーケストラや指揮者、世界の聴衆とコミュニケーションをとるにあたって、英語などの言語のコミュニケーション能力が求められる場面もあると思いますが、それは審査の際に考慮に入れるのか」というもの。

確かに今回顔ぶれを見ていて、アメリカで勉強しているピアニストが強いなぁという印象を持ちました。彼らは音楽に限らずいろいろな意味で、アメリカの聴衆の心をつかむ方法を知っているといえるかもしれません。もちろん、そんなサービスは関係なく、音楽一本で評価される人もたくさんいると思いますけど。
これに対してカプリンスキーさんは、“今、プロの演奏家の置かれる状況が大きく変わっている。あるマネージャーと話していて聞いたのですが、20年前、ピアニストとカーネギーホールの演奏会の契約をするときには、ステージから聴衆に話しかけるなという項目が入っていた。しかし今必ず問われるのは、逆に、聴衆とコミュニケーション(※これは音楽によるコミュニケーションという意味ではないでしょう)ができるか、ということ。キャリアを作るにはこのコミュニケーション能力が重要だという考えは音楽学校のカリキュラムにも影響していて、その能力を育てるような授業が取り入れられているほど。ただ、これはコンクールの現場で試されることではない”と語っていました。

冒頭に紹介したドキュメンタリーもそうですが、このコンクールでは事前にコンテスタントのインタビュー映像を撮っておいたり、また、コンクールが始まってからもたびたびインタビューや取材のアポイントをとって、参加者のキャラクターを一般聴衆に知ってもらおうとしています。
さらに、地元新聞などもいろいろな観点で彼らを取り上げています。
これは確かに彼らの音楽が放つメッセージをより強く“感じる”うえでは有効なことでしょう。しかし同時に物事にはちょうど良い按配というのがあって(その感性は人それぞれでとても難しいと思うのですが)、人柄のイメージに聴衆がひっぱられて冷静に聴けなくなるほどでは、なんだかなぁ、と思ったりもします。まぁ、これだけ余計なことばっかり書いてる私が言うのもなんですが。
そして、現地でなされている情報を全部チェックしていないので、ここではどんな感じなのかよくわかりません。

ホロデンコさんなんかは、決して必要以上に愛想の良いタイプではないと思いますが、まさに演奏で聴衆の心を掴んだパターンでしょう。私なんてこれまで何度もインタビューしてお会いしてるのに、今回久しぶりに会って「この前東京でインタビューさせてもらってるんだけど」といったら、薄ら笑いを浮かべて「…maybe?」(かもね?=お前のことなぞ覚えておらんの意味と解釈)と言われました。
タヴェルナ君なんてめっちゃハイテンションで「あぁ!覚えてるよ!どこで会ったのかは覚えてないけど!!」とか、あんまり覚えてなくてもとりあえずノッてくれるのだが。
…とはいえホロデンコさんについては、「日本のファンへのメッセージを」とお願いした際、シブい声を出して「親愛なる僕の日本のファンのみなさん、愛してるよ」と、アンタはロックスターか!という一言をかましてきたときに、意外と内に秘めた輝くアイドル精神(?)を持った人なんだな、と思いましたよ。(※動画はぶらあぼFB参照)

実は先日、もう一人の忘れてはならない“愛想の良いタイプではない”ピアニスト、ホジャイノフと、アメリカ系のコンテスタントがいかにニコニコ良い感じの取材対応をしているかの話になりました。ひとしきり黙って聞いたのち、「…じゃあ次から僕も“ハーイ! 聴衆のみなさん、いつも聴いてくれて本当にありがとう!!”とかやってみよっか」との返答。
…ちょっと想像して、おねがいです、こわいからやめてください、と思いました。

さて、再びホロデンコの話に戻りますが。
先日浜離宮の方から教えてもらうまで気が付いていなかったのですが、11月に東京でリサイタルが決まっているのでした。
ヴァディム・ホロデンコ ピアノリサイタル
2013年11月22日(金)19時 浜離宮朝日ホール

現在予定されている曲目は、リストの超絶技巧練習曲全曲。休憩なしの1時間! セミファイナルのPhase1で演奏していたものです。
ただ、これもいいけど、みなさんにもあのペトリューシュカを生で聴きたいと思いませんか? プログラムこれから変更したりしないのかな。

明日はいよいよファイナル最終日。阪田さんもチャイコフスキーの1番で登場します。
演奏後には審査結果の発表です。

ファイナリスト発表とZoo Party(クライバーンコンクール)

ファイナルがいよいよ始まります。
ファイナリストは以下の6名。

Sean Chen, 24, United States
Fei-Fei Dong, 22, China
Vadym Kholodenko, 26, Ukraine
Nikita Mndoyants, 24, Russia
Beatrice Rana, 20, Italy
Tomoki Sakata, 19, Japan

コンテスタントたちは、モーツァルトまたはベートーヴェンから1曲と、自由曲で1曲、計2曲の協奏曲を2夜にわけて演奏します。
共演は、レナード・スラットキン指揮のフォートワース交響楽団。
このコンクールでは、上位3名にゴールド、シルバー、クリスタルメダルが授与され、その他にはファイナリストのディプロマが与えられます。
以前はファイナリストには3位以下も順位がついていたのですが、ここ何回かは今の形です。これだけの戦いを勝ち抜いた上位6人なのだから誰が見てもわかりやすい称号を出してもよいのに、と思ったりしますが、いろいろ意図があるのでしょう。

それにしてもこうして若いピアニストが一同に会している現場では、演奏はもちろんそうですが、人物のキャラクターもそれぞれで、つくづくいろいろ考えされられます。
以前浜コンのときにオニシチェンコさんが「コンクールは人生の縮図だ」なんて言っていて、大袈裟だなぁとちょっと思いましたけど、一理あるなと。コンテスタントもいろいろ、そこに審査員やら先生やら、事務所やらレコード会社やら、ビジネスの局面も関わるのですから、人生というか、社会の縮図ですね。純粋な芸術的イベントとは程遠いかもしれません。
例えば他人からの期待について、それによって力を発揮する人、そもそもあんまり気にならないと言う人、じわじわとプレッシャーを感じでストレスをためる人と、いろいろですね。
それから、結果発表の後のリアクションについても、仕方ないな!とあっけらかんとしている人(デルジャヴァンさんなんかは、人の輪の中でおしゃべりに花を咲かせている感じでした)、静かに憤る人、悲しむ人、深く傷ついた表情を見せる人といろいろです。
そんな中で、この結果発表の瞬間に今回改めて感じたのは、彼らはこの瞬間に、人が離れていく恐怖を経験しているのだなぁということ。
これまでにもいろいろなコンクールで、良い結果を残せなかったコンテスタントにはなんと声をかけたら良いのか困るのと同時に、やはり取材をする身としては“勝者”も追わなくてはいけないわけで、自分自身も良い判断ができないことが多かったのではないかと思い返します。いろいろ、思い出されるよなぁ。
良い演奏ができなかった、結果が出なかった、それで離れてゆくのは、ビジネスとか市場の原理で言えば当然のことですけど、やっぱりどこか辛いですね。彼らは冷静に見てます。まぁ、そんなナイーブなことを言っていては、演奏家のような厳しい世界では渡っていけないかもしれませんが。
人の信用というのは、失うと取り戻せないもんですし。音楽家ってめんどくさいほど繊細で敏感…とも思いますが、それがあの音楽の源と思って、今後もありがたくビビらせていただこうと思います。

で、前にぶらあぼFBに載せた終演後コメントにあったとおり、「他人からの期待もわりと気にせず行けるタイプ」の阪田さんなんですが、日本人唯一ということでますます期待が寄せられているでしょう。地元のマダムたちからはかわいいキャラで愛されている模様です。
思い起こせば去年の秋のこれまた浜松コンクール、最初に気にかかったのは、演奏順抽選のときに手袋をしていて、くじを引くときだけ外し、終わったらまたすぐに手袋をしなおしていたことだったでしょうか。
よほど神経質な人なのかと思い声をかけると、「なんか前に本番直前に指を虫に食われちゃったことがあって、それ以来できるだけ手袋してるんですよ、あはは!」と。あれ、なんか想像してたのと違うぞ?という、あっけらかんとした答えが返ってきたのでした。
ちなみに今回は手袋をしているところは見ません。まぁ、この暑さですしね。
というわけでこれまで幾度かコメントをもらうときにも何か予想と違うリアクションが返ってくることが多く、心の中でツッコミつつ、一人でじわじわ楽しんでいます(時々書いちゃうときもあるけど)。
一昨日の結果発表のあとも、なんだか髪型がキマっていたので、今日はヘアスタイル良い感じに決まってますけどセットしてきたんですかとしょうもない質問をしたら、「違うんです!これは偶然なんです!全然そういうんじゃないです!!」と全力で言われて、そんなに必死に否定しなくてもいいトピックスだと思うけど、なんかツボにはまったのか?と、ひとりいぶかしく思っていたのでした。どうでもいいことなんですが、おもしろいな。

ところで昨日はZoo Partyでした。
本選前の恒例行事で、審査員、ホストファミリーやボランティアのスタッフ、コンテスタント、プレスなどいろいろな人が集まり、テキサス風のバンドの演奏を聴きながら、テキサス風の料理を食し(アルコールにはマルガリータも用意されていました)、テキサス風にバンダナを身に着けて、パーティーを楽しみます。
ファイナリストはあまり見かけませんが、その他のコンテスタントでまだ滞在している人は、リラックスした感じで参加していました。

そしてパーティーの途中にはコンテスタントが最初の日にサイズを測っていたウエスタンブーツを受け取ります。こういうのは基本ギュウギュウのようで、みんな「きつい」という顔で試着をしていました。
さて、ファイナル初日はこちらの時間で19:30から。日本でも鑑賞しやすい時間帯ですね。日曜日はまた夕方スタートになってしまいますが…。またすごい名演に出会えることを期待しつつ!

聴衆人気について考えたこと(クライバーンコンクールセミファイナル)

セミファイナルも最終日に突入しました。
今さらですが、セミファイナル進出者の顔ぶれ、個人的には、この感じで通るのか、ふ~ん、という人もいれば、逆に通らなかったコンテスタントの中で次も聴きたかったと思う人もいましたが、おおむね納得のいく感じでした。
爆音系だと感じた方々は通っていなかったようなので、安心しました。爆音の演奏って、聴いてるとしかめっ面になって、だんだん悲しくなってきちゃうんだよね。

さて、ここで一つお詫びと訂正がございます。
チェルノフさんの子供の数ですが、5人ではなく、3人らしい、ということです。誤情報申し訳ありません。そして、実数以上の子だくさんキャラに仕立て上げてしまって、ごめんなさいチェルノフさん。ご本人と交流のあるらしい情報通の方から聞いたので正しいんだろうと思ったのですが、やはり直接確認しないといけませんね。
というわけで、この3人というのも直接本人から聞いたわけではないのですが、まずは訂正を。実際、書く前に聞こうかと思ったんですが、ベートーヴェンの32番のソナタについて語ってもらった直後に「ところで子供が5人いるって本当ですか?」とか聞くのもなぁ、と思ってやめてしまったのでした。もっと勇気出せよ、自分!
ちなみにチェルノフさんの上のお子さんはすでに9歳だか10歳くらいで、音楽学校で勉強しはじめているとか(これもモスクワ音楽院の人から聞いた話で、直接聞いたわけではありません)。
でもこれって今回のコンクールで言うと、今20歳のコンテスタントが、10年後どこかのコンクールでチェルノフの子供と競い合うことになるかもしれないってことでしょ。なんだかすごいよね。

さて、今日はすべての演奏の終了予定時刻が22:40。ファイナリストの発表予定時刻が23:30とのこと。予定どおりに結果がでるのだろうか…すべてが終わるのは何時になるのでしょう。
審査方法は予選と同様です。審査員はここまですべてのPhaseを考慮に入れて、ファイナルに進むべきと思う6名の名前と、予備候補“Maybe”の1名の名前を記載して提出することになります。

セミファイナルでおもしろいのは、やはり現代作品の演奏の違いでした。
最近はこうした課題が取り入れられるコンクールが多く、いつも、演奏者によってこれほどに違うかと感じるわけですが、今回の曲に関してはもう、圧倒的に全員違うのでびっくりします。リズムのとりかたから明らかに違う。
親をからかってイタズラをする子供、というテーマの曲らしいですが、それぞれのコンテスタントの演奏によって、元気いっぱいのやんちゃ坊主からちょっとニヒルな子供、ゴリラの子供まで、いろいろ出てきます(すべて私の勝手な想像です)。
“この曲のテーマは子供といっても、イタリア、それもシチリアの子供だよ。マフィアの子供かもよ。フフフ”とか言ってた人もいました(誰とは言いませんが)。ともかく、コンクールの委嘱作品としてはなかなかダイタンなテーマです。

室内楽も、これまでは見えなかったピアニストの個性が見えてとてもおもしろいです。
弦と対話するように調和のとれた演奏をする人、どうしても音が飛び出してしまう人、合わせようとしすぎて存在感が消えちゃう人、自分のことで精いっぱいな人、いろいろいます。
ここまで聴いた中で、室内楽ベテランの風格を示したのは、やはりホロデンコさんでした。そういえば彼が優勝した仙台コンクールっていうのは、室内楽や協奏曲を重視して審査するコンクールでしたね。

ところでホロデンコさんは、リサイタルPhase2の「ペトリューシュカ」以来ものすごい人気です。
前傾姿勢でトコトコとステージに登場してきただけで、会場がわーわーします。確かにあのペトリューシュカはすごかった。その後同じ作品を弾く人がかわいそうなくらい、強いインパクトだった。
あのときのホロデンコさんの映像とゲゲゲの鬼太郎のアニメーションをコラージュ加工して音楽に合わせたら、抱腹絶倒の素敵な作品ができるんじゃないだろうかと勝手に妄想しています。だれかそっちのほうに強い人、作ってください。あ、冗談です。

それにしても、聴衆から人気が高いとか、演奏の後お客さんが盛り上がるということは、どのように審査に影響するのか?について、この前ちょっと話題に出たことをきっかけに、考えました。
とくにアメリカの聴衆は、実に頻繁に盛り上がりますし。あれだけいちいち「フ~フ~!」言って毎日過ごせたらストレスないだろうね、と思うけど、実際そうでもないらしいから不思議なもんです。
それで、聴衆に人気のあるピアニスト=スター性がある、という認識につながることは、やっぱり少しあるだろうと思います(アメリカのコンクールだしね)。一方演奏後のリアクションについては、お客さんが盛り上がるからいい演奏だと思っちゃうほど、審査員は単純だとは思いません。
そこで思うのは、審査員にとっても、自分が良い演奏だと思っているときに客席の反応が良ければそれは良い評価のほうに作用して、逆に、良くない演奏だと思っているときにお客さんが大盛り上がりの場合は、すごく逆効果になるのではないかということ。なんでこの演奏がもてはやされる?と思うと、ちょっぴりにくたらしくなる、的なね。
前にもこのブログで書いたかもしれませんが、かつてのリヒテルコンクールでボジャノフが1位なしの2位になったとき、記者会見で審査員のアファナシェフがしかめっ面で、「今回は聴衆に人気のある人が最高位になりましたが、我々は聴衆を教育しなくてはなりません」と本人を目の前にして言い放ったことなんかは、良い例ですよね。

ところで、ぶらあぼのFBのほうに、フランソワ・デュモンの、2013年10月1日ハクジュホールでの演奏会情報とプチコメントを載せています。
ロングインタビューは、後日ハクジュホールのホームページのほうに寄稿予定です。
インタビュー、あんまり時間がなかったのでひとつひとつのトピックスを簡潔にすませようとしたのですが、語りが熱すぎてまったくそうはいきませんでした。ハクジュホールは客席の椅子がふかふかなんだよと教えると、想像以上の興奮したリアクションを返してくれました(自分が座るわけじゃないのに)。
それにしてもデュモン、見れば見るほどツヤツヤで(あ、顔がですよ)、一体何を食べて、どんな生活をしているのだろうと思ってしまいました。毎朝スプーンで一口、最高級のエクストラ・ヴァージン・オリーブオイルを食べています、とか言いそうなツヤツヤっぷり(昔インタビューしたツヤツヤのフレンチのシェフが言っていたことがある)。
そしてたとえご本人にプリプリされても言い続けますが、私は彼のフランスものが好きです。一方、ハクジュホールのプログラムはオール・ショパンです。でも、きっとショパンも良いと思います。

デュモンさんもしかり、結果は残念でも、こうして注目していた若いピアニストの演奏を聴かせてもらえるきっかけができるのが、コンクールのいいところです。参加するご本人たちのストレスはハンパないでしょうが。
とはいえ、結果ももちろん気になる。このあと夜の部の3人が演奏したあと、ファイナリストの発表です。