横山幸雄・超人伝説

先日行ってきました、西麻布の「リストランテ ペガソ」

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ピアニストの横山幸雄さんがオーナーをしているイタリアンレストランです。
横山さんのお店、以前は恵比寿駅と渋谷駅のちょうど真ん中くらいにありましたが、
昨年、今度は表参道駅と広尾駅のちょうど真ん中くらいのこの場所に移転しました。
駅と駅の間が好きみたい。

わたくし、実は移転後のお店で食事をしたことがないのですが…
同じシェフのお料理は前のお店でいただいておりまして、
お皿はひとつひとつ美しく、繊細かつパリッとしたお味で、かなり好みでした。
北海道出身のシェフということで、ジビエ系がお得意とのことだったような。
そしてワインはユキオ・ヨコヤマセレクトのラインナップですから、間違いありません。

で、この日は食事にいったわけではなく、ラジオ「みよたカンタービレ」の出張収録でした。
今年も5月のゴールデンウィークに開催される「ショパン全曲演奏会」について、
大いに語っていただこうということで、突撃インタビューです。
放送は来週の土曜日あたりかな? Webにアップされるのも4月の初旬になると思います。

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横山さんのショパン全曲演奏会も、今年でなんと5回目を迎えます。
1年目こそ、アイデアを聞いた瞬間はぶったまげましたが、
今となっては「あーまたやるんだ。今度はどんな内容?」みたいな感じになっているから、
人間の慣れとは恐ろしいものです。

過去4回、少しずつ内容を変化させながら開催されてきましたが、
今年は2日間にわけて、これまでで最大曲数を取り上げるとのこと。
実は、現在配布中のぶらあぼ4月号 で、インタビューを書いています。
おそらく誰もが感じているであろう
「横山幸雄は一体どこに向かっているのか?
なんでこんなに大変なこと(だと普通の人間は思う)を毎年やっているのか?」
についても切り込んでおりますので、ぜひお読みください。

で、今回ここではこうした記事の中では書ききれなかった(書けなかった)ことを中心に、
いくつかの「横山幸雄・超人伝説」の中から
あえてどうでもいいものをご紹介したいと思います。

まずその1。
これは有名な話ですが、『1日1食しか食べない』。
朝起きてお腹空いてないんだろうか…とかいろいろ疑問に思いますが、
日中は本当に食べないらしいです(水は飲みます)。
そして、夜1食ちゃんとしたものをたっぷり食べるらしい。
これは、全曲演奏会の日でもそうなんですって。信じられなーい。
以前「お腹空いたという感覚がないんですか?」と聞いてみたところ、
「そういう意味では、常にお腹空いてるね」とのこと。、
まるで、ストイックなトップモデルのような発言だ。
食べると集中力が鈍るとか、いろんな理由をおっしゃっていましたが、
自分がいまだに妙な共感とともに記憶しているのは、
「変なもの食べるくらいなら、食べない方がいい」と言っていたこと。
確かにね。
忙しい合間に添加物たっぷりのカップめんやらコンビニ弁当を食べるくらいなら、
何も食べないほうが体にいいのかもね。まあ、真似はしないほうがいいと思いますが。

その2。
『練習は短いほどいい』。
これはぶらあぼでのインタビューの中でも書きました。
これだけの演奏会をこなしている横山さんはどうやって練習時間を確保しているのか?
と尋ねたところ、この話が出ました。
曰く、
「練習しているということは向上しているということ。
練習し終わった状態が一番良いとすれば、
練習中は理想的でないモノをずっと自分の耳に聴かせることになるでしょ、
そうすると自分の耳を、どんどんバカにしていることになるから。
実際にどれだけ短くできるかは別にしても、基本的に、僕はいつもそう思ってる。
だから、頭の中で構想もまとまっていないのに練習するのは、無意味どころか毒。
もちろん、ある動きを覚え込ませるため、また毎回変わる本番の状況に対処できるように、
指を慣らしておく練習をすることはどうしても必要なんだけど」
…なんていうか、圧倒的な運動能力を持つ指と、
過敏ともいえるほどの耳を持っている人ならではの発言だなと思いました。

そして、その3!
『電話番号が全部ショパンの作品番号に見える』。
全曲演奏会の日、暗譜はもちろん、演奏順を覚えるのだけでも大変ですよね?
みたいな話題になったときに出てきたお話。
基本的にショパンの作品のOp.番号はほとんど頭に刻み込まれていて、
それによって演奏順を覚えているらしいんだけど
(だから、ナショナルエディションの作品番号が出てくると一気に混乱するらしい)
結果、人の携帯の電話番号も、2ケタずつに分かれてショパンの作品番号に見えるうえ、
見ると頭の中で音楽が流れるらしい…。
これはもう、インド人もびっくりですよ。
(インド人って電話番号めちゃくちゃ覚えてるんですよね。
歩く電話帳のような友人がたくさんいます)

というわけで長くなりましたが、インド人もびっくりの超人・横山幸雄。
その演奏クオリティの絶対的な安定感、クールと見せかけて熱い表現。
私にとって、任せて安心(?)、繰り返し聴きたいと思うピアニストの一人です。
横山さんのショパン全曲演奏会、今年は5月3日、4日の2日間
両日聴けばショパンが降臨する瞬間を感じられると思いますが(自分も一度経験済み)、
初日はかなり演奏機会の少ない作品が目白押しですので、
一度は聴いておくといいと思います。

どうしてピアノが好きなのか

まだ最初なので、この妙なタイトルのサイトを始めた自分が何を考えているのかについて、もう少し書きたいと思います。

そもそも、学生時代はせっせとインドの研究をしていた自分が、なぜクラシック音楽、それもピアノの専門誌で仕事をすることになったのか。
それは話せば長くなるようであり、成り行きの一言でかたづけられるところでもあるのですが、一番大きいのは、やっていることの根本的な心の動きに共通するものがあったからだと思います。

私は幼少期からけっこう長らくピアノをやっていましたが、それはかなりイヤイヤで、あまりに練習しないので母に月謝袋を破かれたこともありました(泣きながら貼り合わせてみると、それは前年の古い月謝袋でしたが。しかも母は本気でまちがえたらしい)。
流行っていたからなんとなく始めることになったピアノであり、演奏会に連れて行ってもらうこともなく、なにかCDを与えられることもなく、よって誰かのピアノ演奏で感動することなどただの一度もないまま、自分の13年間ほどにわたるピアノ人生は幕を閉じました。
その後、大学に入るとピアノに触れることもなくなり、インドのスラムに入り浸ったりして大学院を卒業したあと、ピアノの専門誌で編集の仕事をすることになったわけです。
ピアノやクラシックを聴く喜びに目覚めたのは、ここから。おそっ!

それで、最近つくづく実感するのですが、自分がクラシック音楽をこんなにも聴くようになった理由のひとつは、この音楽やそれに関わる芸術家に触れていると、人間とか人生について思い悩んでいることの解決の糸口が発見できたり、ひらめきが訪れたりすることが、わりとちょいちょいあるからのような気がしています。もちろん純粋に音楽に感動したり、打ちのめされたりしていることもありますが。
そういう発見は、シンプルに演奏を聴いているだけで受け取れることもあるし、インタビューをする中で相手から湧き出した言葉から教えてもらうこともあれば、彼ら、音楽の神に選ばれしヘンタイ(いい意味で)の無意識の動きを観察する中で、勝手に発見することもあります。

そうして人が語る言葉の意味を発見するためには、まわりのいろいろな背景を知っていなくてはいけません。もっと勉強しなくては。そしていろいろなことに気が付ける自分でいなくては。

で、ここでインドが出てくるんですが。
ああやって、自分とは違う価値観、能力を持ち合わせて生きている人たちの言葉を注意深く聞いていると、自分が思い悩むような多くのことがとても小さなことに思えてくるわけです。
その価値観は普遍的なものなのか?否。今自分が悩んでいることは、ところ変わればどうでもいいことなのだ、みたいな。
スカッとしますし、次いで新しいアイデアが浮かんできます。ところ変わろうがどうなろうが、悩むべき問題もときにはあるかもしれませんが、ではそもそも社会や人間の存在とは……みたいな話になってくるので、それはこのあたりでやめておこうと思います。

中でも同じ時代を生きているピアニストにフォーカスしたくなるのはそのためです。まだ見ぬすばらしい演奏に触れる喜びはもちろんですが、その人が誰も知らないおかしな思考回路を持ち合わせているかもしれなくて、そんな話を聞くのが私は大好きなのです。そして当然、その人の音楽はそこから生まれているわけですし。
だから別にコンクールが好きなわけではないんですが、ひとつひとつ見知らぬピアニストの演奏会に通うには限度がありますし、そもそも東京で演奏会を開く前の段階にある人に出会うには、やっぱりコンクールという場に頼るしかない。演奏後、話を聞くチャンスも持ちやすいし(迷惑かもしれないけど)。
というわけで、けっこうおもしろそうな人の集まっているコンクールを現地で取材するのは好きです。

こう考えると、もしかしたら、本当はピアノじゃなくて、なにか別のものでもよかったのかもしれない。
でも、ピアノの音は特別好きなんですよねぇ。それを思えば、月謝袋を破かれながらも13年ピアノを弾いていたことは、無意味ではなかったのかもしれません。
ちなみに、今私がこの仕事をしていることを、私のかつてのピアノの先生は知らないと思います。多分、めちゃくちゃびっくりするだろうな。

 

ピアノの惑星、始めます

ピアノにまつわるいろいろなことを紹介するウェブサイトを始めることにしました。
ピアニストには実におもしろい人が多いですね。
歴史上の作曲家にも、かなりおもしろい人が多いですけど。
変な人とすばらしい天才は、紙一重ですね。

ですが普通どこかの雑誌やウェブサイトに何かを書く時には、
さすがにおこられるような気がして余計なことを思う存分書くことができないので、
自分で自由に書くことができる場所が欲しかったというのが、
このサイトを始めることにした主な理由です。

普通の音楽情報サイトとは少々切り口の違った形で、
ピアノにまつわるいろいろなこと、
ときにはピアノに全然関係ないいろいろなことを紹介していこうと考えています。
ピアノや楽しいことが好きな人たちが集まる場所にしたいと思っていますので、
どうぞよろしく!