聴衆人気について考えたこと(クライバーンコンクールセミファイナル)


セミファイナルも最終日に突入しました。
今さらですが、セミファイナル進出者の顔ぶれ、個人的には、この感じで通るのか、ふ~ん、という人もいれば、逆に通らなかったコンテスタントの中で次も聴きたかったと思う人もいましたが、おおむね納得のいく感じでした。
爆音系だと感じた方々は通っていなかったようなので、安心しました。爆音の演奏って、聴いてるとしかめっ面になって、だんだん悲しくなってきちゃうんだよね。

さて、ここで一つお詫びと訂正がございます。
チェルノフさんの子供の数ですが、5人ではなく、3人らしい、ということです。誤情報申し訳ありません。そして、実数以上の子だくさんキャラに仕立て上げてしまって、ごめんなさいチェルノフさん。ご本人と交流のあるらしい情報通の方から聞いたので正しいんだろうと思ったのですが、やはり直接確認しないといけませんね。
というわけで、この3人というのも直接本人から聞いたわけではないのですが、まずは訂正を。実際、書く前に聞こうかと思ったんですが、ベートーヴェンの32番のソナタについて語ってもらった直後に「ところで子供が5人いるって本当ですか?」とか聞くのもなぁ、と思ってやめてしまったのでした。もっと勇気出せよ、自分!
ちなみにチェルノフさんの上のお子さんはすでに9歳だか10歳くらいで、音楽学校で勉強しはじめているとか(これもモスクワ音楽院の人から聞いた話で、直接聞いたわけではありません)。
でもこれって今回のコンクールで言うと、今20歳のコンテスタントが、10年後どこかのコンクールでチェルノフの子供と競い合うことになるかもしれないってことでしょ。なんだかすごいよね。

さて、今日はすべての演奏の終了予定時刻が22:40。ファイナリストの発表予定時刻が23:30とのこと。予定どおりに結果がでるのだろうか…すべてが終わるのは何時になるのでしょう。
審査方法は予選と同様です。審査員はここまですべてのPhaseを考慮に入れて、ファイナルに進むべきと思う6名の名前と、予備候補“Maybe”の1名の名前を記載して提出することになります。

セミファイナルでおもしろいのは、やはり現代作品の演奏の違いでした。
最近はこうした課題が取り入れられるコンクールが多く、いつも、演奏者によってこれほどに違うかと感じるわけですが、今回の曲に関してはもう、圧倒的に全員違うのでびっくりします。リズムのとりかたから明らかに違う。
親をからかってイタズラをする子供、というテーマの曲らしいですが、それぞれのコンテスタントの演奏によって、元気いっぱいのやんちゃ坊主からちょっとニヒルな子供、ゴリラの子供まで、いろいろ出てきます(すべて私の勝手な想像です)。
“この曲のテーマは子供といっても、イタリア、それもシチリアの子供だよ。マフィアの子供かもよ。フフフ”とか言ってた人もいました(誰とは言いませんが)。ともかく、コンクールの委嘱作品としてはなかなかダイタンなテーマです。

室内楽も、これまでは見えなかったピアニストの個性が見えてとてもおもしろいです。
弦と対話するように調和のとれた演奏をする人、どうしても音が飛び出してしまう人、合わせようとしすぎて存在感が消えちゃう人、自分のことで精いっぱいな人、いろいろいます。
ここまで聴いた中で、室内楽ベテランの風格を示したのは、やはりホロデンコさんでした。そういえば彼が優勝した仙台コンクールっていうのは、室内楽や協奏曲を重視して審査するコンクールでしたね。

ところでホロデンコさんは、リサイタルPhase2の「ペトリューシュカ」以来ものすごい人気です。
前傾姿勢でトコトコとステージに登場してきただけで、会場がわーわーします。確かにあのペトリューシュカはすごかった。その後同じ作品を弾く人がかわいそうなくらい、強いインパクトだった。
あのときのホロデンコさんの映像とゲゲゲの鬼太郎のアニメーションをコラージュ加工して音楽に合わせたら、抱腹絶倒の素敵な作品ができるんじゃないだろうかと勝手に妄想しています。だれかそっちのほうに強い人、作ってください。あ、冗談です。

それにしても、聴衆から人気が高いとか、演奏の後お客さんが盛り上がるということは、どのように審査に影響するのか?について、この前ちょっと話題に出たことをきっかけに、考えました。
とくにアメリカの聴衆は、実に頻繁に盛り上がりますし。あれだけいちいち「フ~フ~!」言って毎日過ごせたらストレスないだろうね、と思うけど、実際そうでもないらしいから不思議なもんです。
それで、聴衆に人気のあるピアニスト=スター性がある、という認識につながることは、やっぱり少しあるだろうと思います(アメリカのコンクールだしね)。一方演奏後のリアクションについては、お客さんが盛り上がるからいい演奏だと思っちゃうほど、審査員は単純だとは思いません。
そこで思うのは、審査員にとっても、自分が良い演奏だと思っているときに客席の反応が良ければそれは良い評価のほうに作用して、逆に、良くない演奏だと思っているときにお客さんが大盛り上がりの場合は、すごく逆効果になるのではないかということ。なんでこの演奏がもてはやされる?と思うと、ちょっぴりにくたらしくなる、的なね。
前にもこのブログで書いたかもしれませんが、かつてのリヒテルコンクールでボジャノフが1位なしの2位になったとき、記者会見で審査員のアファナシェフがしかめっ面で、「今回は聴衆に人気のある人が最高位になりましたが、我々は聴衆を教育しなくてはなりません」と本人を目の前にして言い放ったことなんかは、良い例ですよね。

ところで、ぶらあぼのFBのほうに、フランソワ・デュモンの、2013年10月1日ハクジュホールでの演奏会情報とプチコメントを載せています。
ロングインタビューは、後日ハクジュホールのホームページのほうに寄稿予定です。
インタビュー、あんまり時間がなかったのでひとつひとつのトピックスを簡潔にすませようとしたのですが、語りが熱すぎてまったくそうはいきませんでした。ハクジュホールは客席の椅子がふかふかなんだよと教えると、想像以上の興奮したリアクションを返してくれました(自分が座るわけじゃないのに)。
それにしてもデュモン、見れば見るほどツヤツヤで(あ、顔がですよ)、一体何を食べて、どんな生活をしているのだろうと思ってしまいました。毎朝スプーンで一口、最高級のエクストラ・ヴァージン・オリーブオイルを食べています、とか言いそうなツヤツヤっぷり(昔インタビューしたツヤツヤのフレンチのシェフが言っていたことがある)。
そしてたとえご本人にプリプリされても言い続けますが、私は彼のフランスものが好きです。一方、ハクジュホールのプログラムはオール・ショパンです。でも、きっとショパンも良いと思います。

デュモンさんもしかり、結果は残念でも、こうして注目していた若いピアニストの演奏を聴かせてもらえるきっかけができるのが、コンクールのいいところです。参加するご本人たちのストレスはハンパないでしょうが。
とはいえ、結果ももちろん気になる。このあと夜の部の3人が演奏したあと、ファイナリストの発表です。