クライバーン2次結果&今回のコンクールの特徴など

2日間で20人が演奏した2次予選が終あっという間に終わり、セミファイナリストが発表されました。

Kenneth Broberg, United States, 23
Han Chen, Taiwan, 25
Rachel Cheung, Hong Kong, 25
Yury Favorin, Russia, 30
Daniel Hsu, United States, 19
Dasol Kim, South Korea, 28
Honggi Kim, South Korea, 25
Leonardo Pierdomenico, Italy, 24
Yutong Sun, China, 21
Yekwon Sunwoo, South Korea, 28
Georgy Tchaidze, Russia, 29
Tony Yike Yang, Canada, 18

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セミファイナルでは、12人のコンテスタントが60分のリサイタルとモーツァルトの協奏曲を演奏。6月1日~5日までの5日間です。ここからがまたけっこうヘビー。
演奏日程はこちらで見られます。

ところで、ここで改めて、今回のクライバーンコンクールの特徴をおさらいしたいと思います。 まず、前回から大きく変わったことがいくつか。

・20人にしぼられた面々がリサイタルを演奏するクオーターファイナル(2次予選)が加わった。
・新作課題曲が2次ではなく1次で全員によって演奏されるようになった。
・協奏曲が、セミファイナルとファイナルでの演奏に分けられ、セミファイナルではモーツァルトのピアノ協奏曲が演奏される。それによって、室内楽はファイナルに移行。

…加えて、「審査員の顔ぶれが一新されている」のも特徴だと思います。

前回12人だった審査員は9人に。
審査委員長には、1973年からずっと審査員長をつとめてきた、指揮者で地元テキサス・クリスチャン大学の教授のJohn Giordano氏にかわり、デトロイト響の音楽監督、レナード・スラットキン氏が就任。本選の指揮者も自ら努めます。
審査員長が自ら指揮するというのは、けっこう珍しいのでは。

また、委嘱作品課題曲の作曲も手掛けたマルク=アンドレ・アムランさんも審査員として初参加。 日本からの審査員としては、児玉麻里さんが初めて参加しています。
書類&音源選考、各地でのスクリーニング・オーディション、そして本大会と、全ての審査員の顔ぶれが違うのも特徴だとのことです。

さて、セミファイナリストの顔ぶれ。
日本でおなじみの面々は、5月にはLFJで日本に来ていたばかりのユーリ・ファヴォリンさん、2015年浜松コンクール3位だったダニエル・シューさん、前々回仙台コンクール優勝のソヌ・イエゴンさん、そして2015年、16歳でショパンコンクール5位に入賞していたイーケ・トニー・ヤンさんあたりでしょうか。
(ソヌ・イエゴンさんのイメチェンぶりがすごいと思うのは私だけでしょうか。最初誰だかわかりませんでした…)
キム・ダソルさんやゲオルギ・チャイゼさんあたりは、コンクールでよく見かける面々かもしれません。

未だ審査員の趣味嗜好のようなものはわかりませんが、わりと、はっきりくっきり、わかりやすい演奏をする方々が残っている印象のような…。まあ、アメリカのコンクールだと思って見ているから、そう感じるだけかもしれませんが。

日本のみなさんの多くが注目していたであろう何人かはセミファイナルまで残らず、残念でした。

深見まどかさんは、アメリカにほとんど縁がない中ダメ元で受けたら出場できることになったのだとおっしゃっていましたが、1次予選、初日の2番目という状況で、繊細な表現で自分の音楽を届けようとしていました。地元の新聞「Star Telegram」の記者は翌日の記事で、この日の昼のセッションのお気に入りはマドカ・フカミだったと書いていましたよ。

アリョーシャ・ユリニッチさんも、私はこれまで彼のショパンの演奏しか聴いたことがなかったわけですが、他の作曲家では彼の自由な感性がより生きるという印象がありました。というより、ショパンコンクールならではの「ショパンらしさが求められる」という先入観で聴いていたときと状況が違うから、彼の表現するものをそのままに受け取ることができたのかも、と自分でも今気が付く。

1次予選の椅子の高さ調整の愛嬌のあるしぐさ、感情表現豊かな演奏で目立っていたマーティン・ジェームズ・バートレットさんは、実はすでに2018年3月、東京交響楽団との共演での来日が決まっているそうです!
プロコフィエフの3番のコンチェルトを弾くみたい。

ニコライ・ホジャイノフさんも、調子もよさそうで、耳をひきつける良い演奏をして聴衆を魅了していたので、あの演奏をしても今回の30人から次に通過できないのか…と驚きました。ちなみにこの後ホジャイノフさんは、2017年11月2日、オペラシティのアフタヌーンコンサートシリーズ (リサイタル&室内楽)、2018年1月15日サントリーホールでのワルシャワフィル公演ソリストとしての来日が決まっています。

ふと、前回の審査員だった野島稔さんがホロデンコについて、「ホロデンコは憎々しいほどにできあがっていた。人を手玉にとるようなところすら感じ、審査員もそこを少し感じていたと思う。あれだけ人にアピールするように弾くと、浮いてしまって嫌な感じを与えかねないんだけれど、やはり抜きんでていたから今回優勝した」と話していたことを思い出しました。
今回のケースは、その魅せ方知ってます的気配がうまいほうに転ばなかったということなのでしょうか。よくわかりませんが、コンクールというものはむずかしいですね。

クライバーンコンクール1次結果発表

4日間にわたる1次予選が終わり、結果が発表されました。
今回の審査員勢の好む傾向をつかむ最初の瞬間です。
通過者と2次予選の演奏順は以下のとおり。

◇Monday, May 29
10:00 a.m. Su Yeon Kim, South Korea, 23
10:50 a.m. Leonardo Pierdomenico, Italy, 24
11:55 a.m. Ilya Shmukler, Russia, 22
2:30 p.m. Dasol Kim, South Korea, 28
3:20 p.m. Tristan Teo, Canada, 20
4:25 p.m. Martin James Bartlett, United Kingdom, 20
5:15 p.m. Daniel Hsu, United States, 19
7:30 p.m. Yury Favorin, Russia, 30
8:20 p.m. Yutong Sun, China, 21
9:25 p.m. Luigi Carroccia, Italy, 25

◇Tuesday, May 30
10:00 a.m. Georgy Tchaidze, Russia, 29
10:50 a.m. Kenneth Broberg, United States, 23
11:55 a.m. Rachel Cheung, Hong Kong, 25
2:30 p.m. Sergey Belyavskiy, Russia, 23
3:20 p.m. Tony Yike Yang, Canada, 18
4:25 p.m. Yekwon Sunwoo, South Korea, 28
5:15 p.m. Han Chen, Taiwan, 25
7:30 p.m. Honggi Kim, South Korea, 25
8:20 p.m. Rachel Kudo, United States, 30
9:25 p.m. Alyosha Jurinic, Croatia, 28

結局、傾向のようなものはよくわかりませんでしたが、おもしろいピアニストがたくさん残っていると思います。
課題曲の設定からもわかるように、クライバーンコンクールは、すぐに第一線の演奏活動を行えるような成熟したピアニストを求めている傾向にありますが、今回はどうなのでしょう。審査委員長を務めるのが指揮者(レナード・スラットキンさん)というのも特殊で、審査員の顔ぶれもこれまでと少し違います。
これはきっと通るだろう!と思ったピアニストたちは、何人も通過している一方、何人かは通過していなくて、とても残念でありました。
結果的には、超絶技巧バリバリのピアニストから、わりとふわっとした演奏のピアニストまで、いろんな人が通過したという印象。コンクールというのはわかりません。

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恒例の、上方からの集合写真撮影に備える面々。なんかおもしろい写真)

2次予選では、20人のコンテスタントが10人ずつ2日間で一気に演奏してしまいます。一人45分、自由な演目によるリサイタルです。
間を空けずにすぐに始まってしまうので、まずは急ぎ、結果発表後の何人かのコンテスタントの様子を。

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イーケ・トニー・ヤンさん。
ステージ楽しんだ?と聞いたら、まあ…大丈夫…みたいなリアクションだったように感じたのは気のせいかな。確かにちょっと調子出ない感じだった印象。
ピアノのことをいろいろ言っていましたが…とりあえず結果に安心した様子でした。

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イリヤ・シュムクレルさん。
結果に安心したのかなかなかのハイテンションでありました。もう明日弾かなきゃいけないから準備しなくちゃと言っていました。
横にいたホストファミリーの女性に「浜松コンクール以来で久しぶりに会う」と我々が説明すると、アメリカの人っぽい、やはりなかなかのハイテンションで(偏見すみません)「ワーオ!それはすごいわね!世界はなんて狭いんでしょう!」と言われました。こういうのって世界は狭いっていうのか??

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アリョーシャ・ユリニッチさん。
ワルシャワ以来でお会いしましたが、やはりハイテンションで、とても嬉しそうな様子でした。
「1次から2次に行けるかが一番心配なところだけど、ここを越えられたから、あとのステージは楽しめると思う」と、相変わらず瞳を輝かせながら話していました。

マルク=アンドレ・アムランの委嘱作品&トークセッション

コンクール開始を翌日に控えた5月24日、審査員で、委嘱作品課題曲の作曲家、マルク=アンドレ・アムランさんによるトークセッションがありました。

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前回のコンクールまで、新作委嘱作品は12人が演奏するセミファイナルの課題でしたが、今回からは予選で30人のコンテスタント全員が演奏することになります。

「作品によっては一度も演奏されることのないものもあるというのに、この曲は最低でも30回も演奏されて、しかもインターネット配信までされるのでうれしい。これまでの自分の作品の中で一番世の中への露出が多いものになるのではないか」とアムランさん。
今朝のStar Telegram誌によると、コンクールの審査員をほとんどやってこなかったアムランさんが、今回、この長期にわたる審査員業を引き受ける決め手となったのが、新作課題曲も書いてほしいと言われたから、だったとか。たくさん弾いてもらえるのって嬉しいんでしょうねぇ。
これまでこのコンクールの委嘱作品を手掛けた作曲家は、コープランドやバーバー、バーンスタインなど錚々たる顔ぶれ。そんな中、アメリカ人でない作曲家がこれを担当するのは初めてだそう(とはいえ、アムランさんはボストンに長く暮らしているみたいですが)。

作品のタイトルは「Toccata ”L’homme arme”」。
「L’homme arme」(武装した人)はフランス、ルネサンス期の世俗音楽で、この時代の作曲家たちがしばしばミサ曲の旋律に使用しました。アムランさんの作品は、古い時代の宗教的な要素を持ちながら、現代的な感性を融合させたもののようです。

この日のトークセッションは、委嘱作品について…とあったのでもう少しいろいろ作品についてお話しされるのかなと思いましたが、具体的な作品についての説明はそれほど多くなく(まあ、もう翌日からコンテスタントたちが演奏するところですからね…)、彼のこれまでのキャリアや音楽についての考えなどが主に語られました。

作曲家として、影響を受けている作曲家は?という質問には、
「自分が正しいと思うものを音にしているので、基本的には誰かの影響を受けているということはない。でも、”オリジナリティは、そのルーツを隠すための最大のもの”といった人がいたけれど、これは真実かも」
…なーんて答えていました。

その他印象に残ったお言葉としては…
「散歩をしていて素敵な風景を見てアイデアを得ることも、自分にとってはピアノに向かう練習や作曲の作業と変わりない」
「技術の練習は””セルフ・ティーチング”。テクニック的な練習で大切なのは、できないことは何なのか、自分を知るということ」

それから、
「作品の中にある芸術的な苦悩を知ることは、作品を知るうえでとても大切なこと」
という話には、なるほど、作曲家ならではの説得力のある言葉だなと思いました。

ある作品を演奏するのに、その作曲家の生涯を知ることは当然意味のあることだと思うけど、「この作品を書いたとき彼はフラれて落ち込んでいた」とか、「結婚したばかりで浮かれていた」とか、演奏のために具体的になぜ知っている必要があるのか?それじゃあ現代の作曲家の作品を弾く時も、そういうことを知っている必要があるのか?と、ふと思うこともあるわけですが。

作品に反映される芸術的な苦悩を知るため、と思えば、書いたときの心理状態や人生の歩みという情報は、特に異なる時代の人間の書いたものを理解するうえで、有用な手掛かりの一つだよね、と改めて思ったのでした。

自分の作品が何百年もあとに弾かれていると思う?と聞かれて、アムランさんは、思わないよ~とくに望んでもいないよ~!と言っていましたが、本心なのかな。どうなんでしょう。
ご本人の「生涯」が、後世の人に根掘り葉掘り研究されることになるかもしれないことは、どう感じているのでしょう…チャンスがあったら聞いてみたいと思います。

前にこの質問を池辺晋一郎さんにしたら、「絶対ヤメテほしい!!」とおっしゃっていましたが。

クライバーン取材のためテキサスにやってきた

テキサス、フォートワースにやってきました。
4年に1度行われる、ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール。
思えば2005年にコブリンが優勝した回から毎回何かしらの期間聴きに来ていて、取材をするのは今回が4回目になります。
毎回参加者のレベルが高い…というか、もう演奏活動してますよね?という顔ぶれが多く見られるのは、やはりこのコンクールに優勝・入賞すると、3年間のマネジメント契約により、当面アメリカでの活動が確実に増えるなど、普通のコンクールとは少し違った、わりと直接的な形でキャリアにプラスの影響があるからでしょう。
このコンクールに上位入賞したらその後はコンクールを受けない、という人がけっこう多いのはそのためでしょうね。

今年のコンテスタントの顔ぶれはこちらで見ることができます。

そして、1次予選の演奏順はこちら

初日(25日)の二人目には日本の深見まどかさんが登場。
2日目(26日)には、この前の浜松コンクール3位入賞のダニエル・シューさん、それから、同コンクールで1次を通過せず、自分や自分周辺の人々の間に密かに衝撃が走っていたフィリップ・ショイヒャーさんが。
3日目(27日)には、前回のショパンコンクールの際、手の故障で大変そうだったけど人気を集めていたルイジ・カローチャさん、そして日本ではすでにおなじみのニコライ・ホジャイノフさんが朝から続けて登場。
そして最終日(28日)は、前回のショパンコンクール5位だったイーケ・トニー・ヤンさん、いろいろなコンクールでおなじみのレイチェル奈帆美工藤さん、そして最後の奏者には、前回ショパンコンクールのファイナリストだったアリョーシャ・ユリニッチさんが登場します。

他にもちょっと名前を挙げきれないくらい、おなじみの顔ぶれがたくさん。それにもちろん、単に私にとって”おなじみ”でないだけでまだ見ぬ素敵なピアニストがたくさんいることでしょう。

日本とテキサスの時差はマイナス14時間。
朝のセッションなら日本時間深夜12時スタートですが、夕方セッションは午前4時半、夜セッションは午前9時半スタートと、平日はとくにライブ配信で聴くのがちょっと大変な時間帯でしょうか。
とはいえ、アーカイヴも順次公開されるはずですので(今回もオーケストラとの契約か何かの問題で、いずれかのコンチェルトはアーカイヴなしになるのかもしれませんが?)、素敵な演奏との出会いを楽しみにぜひチェックしてみてください。

ところで今回私はめずらしく、知り合いのジャーナリストの家の部屋を借りて、テキサスに滞在しています。このジャーナリストさんは、日本やインドにも長く駐在した経験がある人で、奥様はインドの人でした。
というわけで、この家には、ガネーシャのお面とかガンジーの置物とかインド映画のパネルとか、あちこちにインド的なものが飾ってあり、さらにはインド関係の本もずらーっと本棚に並んでいて、すごくわくわくします。

そしてこのジャーナリスト氏、そんなに日本語ができるわけではないんだけど、突然予想外のむずかしめの日本語を発する人なのですが(以前何かでも書きましたが、たとえば毎日15分歩いてホールに通っているといったら、「オー、”ヒザクリゲ” デスネ!」と言われた)、今回も、”八百長”とか”労働組合”とか、何とも言えない言葉をよく知ってるなぁと思いながら話を聞いています。

ただ、先日のマンチェスターでの自爆テロのニュースをみていて
「Suicideをなんていうっけ、ジサツ?」と聞かれたので、そうですよ、でも、とくにこういうテロのことを、”自爆テロ”というんだよと教えたら、「自分が70年代に日本の新聞社で仕事をしていたときにそのフレーズを使った覚えはないから、新しい言葉なのかな」といわれて、そうか…と思ってしまいました。この言葉が定着するようになってしまった時代が辛い。

というわけで、いよいよこちらの時間で明日の午後2:30から1次予選が開始。
ファイナルまで、こちらで見聞きしたいろいろなことをお伝えしたいと思います。