海老彰子さん(ショパンコンクール審査員)


すでにコンクールから2ヵ月半がたって、入賞者たちはもうピアニストとしての新しい時間を歩み始めているところ、審査がどうの……という部分はもうどうでもいいかもしれませんが、せっかくお話しいただいた審査員の先生方のお言葉、ご紹介します。

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海老彰子さん(ショパンコンクール審査員)

─審査結果発表には本当に時間がかかりましたね。いろいろな意見の審査員がいらっしゃる中で一つの結果を出すのは、やはり大変だったのでしょうか。

今回の審査員はみなさんピアニストとして弾かれる方ばかりですので、ピアノを通してどんなメッセージを伝えてくれるか、音の裏にあるものまで聴いて、評価したと思います。
1位はなしでも良いのではないかという意見も審査員の半数以上が持っていたのですが、点数で出た順位をそのまま受け入れないならば、審査規定では、一つの順位ごとに賛成、反対の投票をしなくてはならず、それは大変なことです。最終的には、スコアの順位通り1位からつけていく形で結果を出そうということになりました。

─その回のコンクールでスコアが1位なら1位じゃないか、と思ってしまいますが、そうもいかないんですね。

これだけ歴史のある大きなコンクールですと、歴代の水準に達しているかがどうしても問題になりますね。

─日本からのコンテスタントにはどんな印象をお持ちになりましたか。

小林愛実さんは、すごく健闘されて、嬉しかったです。心の中でずっと応援していました。春の予備審査のときからすごく伸びて、大人になっていました。
これだけたくさんの演奏を聴いていると、どうしても演奏会とは違って比較する考えが出てしまいます。彼女の協奏曲は、例えば同じ女性のファイナリストだったケイト・リウさんと比べても、とても音楽的だったと思います。ただ、遠いバルコニー席では、ケイトさんのほうが音の粒立ちがよく、はっきりと聴こえたんですね。別の場所やインターネットで聴いた方の印象とは違ったかもしれません。
今回のショパンコンクール全体を聴いていて私が感じたのは、自分自身も含め、日本人はもっと人間として生きてゆくエネルギーを強くもっていかなくてはいけないということです。私たちには合気道のような文化もあるのですから、そうしたものを思い起こして……。ステージでの外見などに気をとられすぎず、気骨のある、太いものを持った生き方をしていかなくてはいけないと思いました。

─今回は10代の若いファイナリストも活躍しましたね。

私の個人的な意見では、これだけのコンクールですから、大人のコンクールにしていかないといけないのではないかと感じています。入賞したあとが大変なコンクールですから、あまりに若い方ばかりが選ばれるようだともったいないという気持ちがあります。すでに荷物をたくさん背負っている人でないと、そのあと進んでいくことが困難なのではないでしょうか。その意味で、チョ・ソンジンさんには大変な強さがあると思っています。

─ショパンコンクールの審査員というのは、若者のキャリアを左右する大変なお仕事ですね。

はい、すごく責任を感じます。評価をするのは本当に大変でした。例えばアルゲリッチさんは、実演を聴いた後部屋でYouTubeの配信を確認して、本当に才能があるのかどうかをとても真剣に考えていらっしゃいました。
今回こうして順位が出ましたが、この後もずっと勉強を続けていった方だけが、ピアニストとして残っていきます。周囲の人間もそれを認識し、コンクールというものを客観的にとらえていく必要があると思います。
聴衆のみなさんも、このピアニストが好きだと思ったら、その人をずっと追って、聴き続けてほしいと思います。音楽とは、聴いてこそ、何かを与えられるものですから。コンクールの順位というレッテルによらず、それぞれのご意見を尊重して音楽を聴いてほしいですね。

★下記サイトもあわせてご覧ください。
ジャパン・アーツHP 海老彰子さんインタビュー

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