こわいデリー


インドというと、最近は女性への性的暴行事件が目立っていて、怖いですね。
こんな最中にインドに行くというと、クラシック音楽関係の方たちからは、
信じられねぇ!という反応をうけることが多いです。
(インド関係の人たちは、ふーん、いいねいいね!で終わりですが)
先日たまたまインタビューのコメントでやりとりをしていた某ジャノフ君は、おもむろに、
「ところで、どうしてわざわざそんな大変なところに行くの?
旅行するならもっと素敵なところに行けばいいじゃない。たとえば、別府で温泉に入るとか」
と、一気に身近すぎる代替案を提示してくれました。
(それにしてもなんで別府なんだろう。好きなのかな。…よくわからない)

それはさておき、今回は今までの6回のインド滞在の中で、
初めてなにも盗られず、どこも触られずに(痴漢にあうという意味です)
帰ってくることができました。
これまでは行くたびに何らかのトラブルがありました。
すれ違いざまにがっつりポケットに手をつっこまれたり(何かを盗もうとしていたらしい)
道端でおしりを触られたり、バイクで追い越しざまに胸部を触られたり。
思い出すだけで腹立たしいことがたくさんあります。
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デリーでは2014年に2069件のレイプ事件が報告されているというので、
被害届が出されているだけでも、1日に5~6件起きているということになりますね。
被害者は、5歳の少女から、70歳を超える高齢の女性まで、幅広い年齢にわたるとのこと。

今年に入って日本人が被害にあったというニュースも続きました。
街で知り合った自称ガイドについていって巻き込まれたパターンだったようですが
(犯人が絶対に悪いですが、少しでも長くインドにいた経験がある人なら、
ついていっちゃだめでしょ~と思うパターンでもある)、
実際には大変に卑劣な手口で仕掛けてくることもあるので、この場合は本当に怖いです。
最近の強盗は、エアコンの室外機から睡眠薬を流し込んでくる、なんて話も聞きました。

ただいろいろなところで指摘されていますが、インドのレイプ事件の件数が増えているのは、
そのことを届け出るインド人女性が増えたこと
(それでも、未だ被害者家族が報復をうけるとか、自殺してしまう例もあるようです)、
また、届け出を警察がちゃんと受けとるようになったことも大きいと思われます。

とくにこの警察の話については、実体験からも言いたい。
かつて宿で、風呂場を覗かれたとき。
びしょ濡れのまま服を着て、隣の部屋のインド人3人組の部屋のドアを蹴っ飛ばし、
全員ロビーに下ろして尋問しましたが、やってないの一点張り。
警察を呼ぶと言ったら、宿のスタッフに、
そんなことをしても警察が彼らから少しお金を受け取って帰って行くだけたから
意味がないのでやめなさい、と、説得してくるわけです。

インドで一番ひどい痴漢行為をしてきたのも、警察のおっさんでした。
ほっぺたをべろべろ舐められた気色悪さは、一生忘れません。
このまま警察に行って今あなたがしたことを言うよ!と言ったら「言えばぁ~?行こう行こう!」と言われて、この国の警察は終わってる…と思いました。もう10年も前の話です。
ちなみにその警官は一緒にいたインド人の友人にいちゃもんをつけ、バシバシ棒で殴り、
お金を巻き上げたら満足して去っていきました。ひどいね。
今なら何かしら仕返しする策も考えられたと思いますが、あの頃は何もできなかった。

それに比べて、自分も歳をとったせいか、
またお金をかけて安全な策をとれるようになったせいもあってか、今回は平和でした。
周りのみなさんの気遣いのおかげもあります。
遅くなったときは、遠回りでもホテルまで一緒に来て送り届けてくれました。

やむを得ず夜に外を移動しなくてはならないこともあったので、
そのたびにどんな対策があるか、考えたものです。
・スタンガンや催涙スプレーなど護身グッズを常備する、
・タクシーなどに乗るときは、後部座席でシュッシュ言いながら
シャドウボクシング的な動きをしてみる(強いのかも、と思わせる)、
・鼻髭をつける(小さいおじさんだと思わせるか、
それが無理にしても、とりあえず頭おかしいとは思われるだろう)、
・ずっと変な咳をしている(変な病気うつるかもと思えば襲われないだろう)
などなど…。

しかし一番いいのは、やはり護身術を身に着けて本当に強くなることだろうなと思いました。
次のインド行きに備えて、何か本気で勉強してみようと思いました。
そして、タクシーやリキシャに乗る時は、戦ったらなんとか勝てそうな運転手を選ぶと。

10年前、研究で滞在していたとき、
道端で卑猥な言葉をかけられたり、触られたりするたびに、
この社会では、どうしてこういう人が発生してしまうのだろうかと考えたものでした。
彼らとまったく文化の違うハリウッド映画が多く流入することで、
外国人の女性はオープンで、少し触られるくらい気にしないと思われているのかもしれない。
そして彼らの欲求だけは刺激されて、日常の中で満足を得られる場面がないというのが、
その原因となっていそうだと思われました。
女性を弱い立場のものとみる価値観も、もちろん影響しているでしょう。

そんな中、最近思うのは、この頃はインド映画も昔よりだいぶ過激になったなということ。
インド人女優さんの衣装もけっこうセクシーだし、ラブシーンもかなり際どいところまで見せる。
昔は、口づけをしそうになった瞬間、影像が別のものに切り替わるみたいな感じでしたけど、今は、そのままいく映画もよく見るようになりました。
少し過激なくらいじゃないと売れないのかもね、とは、インド在住の友人の談。

それでいて、多くのインドの人にとって、結婚は基本アレンジ・マリッジ、
結婚するまで女性といちゃつくことはゆるされないという状況は変わっていません。
(一部はだいぶオープンになっているようですが)
そういう中で屈折した欲求不満がますますつのっていくこともあるんだろうなと、
ボリウッド映画の中で、やたら脱いで腹筋を見せる素敵なインド人男優、
くびれと谷間を強調した衣装を着た、超綺麗なインド人女優さんを眺めながら、思うのでした。

実際には、本当に複雑な社会の状況が影響して起きていることですから、
こんな簡単な分析もどきで説明のつくことではありませんが。