久しぶりにスラムを訪ねる


デリーに着いてすぐ、学生時代にフィールドワークをしていた
パフォーマー・カーストの人々が暮らすコロニーに行ってきました。

コロニーの名称は「カティプトゥリ・コロニー」といい、木製パペットコロニーの意味。大道芸人の住むスラムとして有名な場所です。
ジプシーのルーツともいわれる、ラジャスターン州を故郷とするパペッティア・カーストの世帯を中心に、蛇遣いやマジシャン、ジャグラーなど、700世帯ものパフォーマー・カーストの人たちが、肩を寄せ合って暮らしています。

芸能カーストは基本的に、不可触民と呼ばれる「カースト外」の人々です。かれらは大昔は、大衆向けに路上パフォーマンスを行ったり、富裕層のパトロンを持って儀礼の余興を行ったりしていました。
1947年のインド独立によって社会システムが変容すると、農村での生活が難しくなり、一部の人々が都市に流入。異なる種類のパフォーマー同士、集まって暮らすようになったのでした。

私がここで調査をしていたのは、大学院生だった11年前のこと。今回みんなを訪ねるのは5年ぶりです。

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(明日のパペットショーで使うという、鳥的ななにかを作っている)

ここは、スラムといわれる種類の場所なのですが、ストリートのスラムと違って、
似た職能を持つカーストの一族たちが助け合って暮らしているので、
わりと秩序立っています。人々も明るくて優しいです。路地を歩けば、ジャグリングの練習をする少年やドラムを叩く青年、むやみに踊り狂う子供などがあちこちに出没します。

ただ、この5年でますます人口が増えたようで、人が溢れかえっていました。
雑な増築(というか、単にビニールシートで屋根作ってるだけだけど)が
あちこちでなされていて、ますます町並みはワイルドに。
デリーの街がどんどん綺麗になっている中、
衛生環境も5年前に比べてサッパリ良くなっていません。
設備はもちろん、人々の意識や価値観も関係していると思いますけど。
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(一番きついエリアは写していません…)

そして相変わらず、あちこちから何かを練習しているらしい太鼓の音が聞こえてきます。
ここは「世界で最も有名なスラム」と言われているのですが、
それは、質の高いパフォーマンスをする住民はNGOの支援を受けて、
海外のフェスティバルなどに頻繁に参加しているから。
そのため成功している家族はけっこう豊かな暮らしをしていて、
パソコン、バイクや車、さらには近くにゲスト用のアパートまで持っています。
でも、ここに自ら選んで住み続けているんですね。
居心地の良さ、仕事の得やすさ、長くこの場所で生きてきたプライド、理由はいろいろでしょう。
そんなわけで、実はスラム内の格差もますます広がっています。

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写真は、コロニー内で最も成功しているパペッティアの一家の子供たち。
11年前、彼らがまだ幼く、彼らの父がまだ青年だったころの
ホーリー(色の粉をかけあうインドの激しいお祭り)の動画を観て、盛り上がっています。
女の子たちもちゃんと学校に通っていて、かなり英語を話していたのでびっくりしました。
将来何になりたいの?と聞くと、近くにいるおじいちゃんに聞かれないように、
「ファッションデザイナーになりたいの」と小声で教えてくれたのでした。

このスラムには、相変わらず、やることがなくて昼間から酔っぱらって
道に座り込みカードゲームに興じているオヤジもたくさんいますが、
一部の子供たちの意欲の高さに、かなり明るいものを感じました。
人というのは、頑張れば何かあるという現実を見ていると意識が変わるものなんですかね。
お手本になる姿が身近にいるかいないかはとても大きいのだなと思いました。
近くにそういう人がいなくても、努力や希望という感覚を掴める子供もいると思いますが、
やはりそれは、けっこう難しいよね…。
そんなことを思う、彼らとの久しぶりの再会でした。

それにしても、5年も10年も経つと子どもたちが倍ぐらいの背丈に育っていることもあって、
道端で「わー!」とか声をかけられても、誰だか全然わからない。
特に男の子たちから可愛らしさが見事に消え去り、
普通に外で話しかけられたら無視するレベルの眼光鋭い男になっていることも、しばしば。
にっこりすればかわいいんだけどね。
久しぶりに地元に帰って同級生のお母さんを見かけ「こんにちは!」と声をかけて、
「え、誰だこれ…」という反応をされることがしばしばありましたが、
今まさに、自分が逆の立場になっているのだということを思い知りました。
おばさんは、何年も経ってもあんまり変わんないからね…。