「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」発売

「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社)が発売となりました。
彼女がいかにして国民的ピアニストとなったのか、時代背景も考慮し、
関係者の証言や昔の記事を掘り起こしてまとめた評伝です。
書いていて、自分で本当に楽しかった!

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昭和という時代の熱量を受け止めながらスターの座にのぼりつめ、
生涯にわたって華やかな演奏活動を行い、
クラシック音楽界の“女帝”ともいうべき、圧倒的な輝きを放ち続けた人。
彼女なくして今の日本のピアノ界の発展はありえないと誰もが言います。

ざっくりと本書の内容の一部をご紹介すると、
このような感じになっています。

<本書のコンテンツより一部抜粋>
●リーダーシップの強さは子供の頃から
●あの斎藤秀雄にケンカを売る
●振袖を着た天才少女~NHK交響楽団の世界一周ツアー
●ジュリアードでの苦労とショパンコンクールでの成功
●大衆人気と玄人筋の評価のはざま
●共演者から見た中村紘子
●中村紘子が求めた音
●審査員席の中村紘子が語ったこと
●変化するコンクール審査員界の潮流
●中村紘子の覚悟

評伝の紹介としていきなりこんなことを書くのは少し変かもしれませんが、
中村紘子さんのファンの方はもちろん、むしろそうでなかった方にも、
さらに言えば、ちょっと苦手だった…という方にも、ぜひ読んでいただきたい。

というのも、彼女が音楽界のために行ったことはとても大きかったと同時に、
あまりにパワーのある女性だったので、
恐れられたり、言動が批判的にとらえられることもあったと思うから。
そんな中でも、中村紘子さんは、ピアニストとして、女性として
覚悟を持って力強く歩んできた方でした。

今回この評伝を書いていく中で、彼女がまだ少女時代の頃の記事を調べていくと、
あの強そうに見える中村紘子さんが人知れず辛い思いをしていたときもあったこと、
それを乗り越えさせたのは、10代の頃に持ったピアニストとしての覚悟だったのだと
改めて知ることになりました。

…実は私自身、自分が中村紘子さんの評伝を書くことになるだなんて、
思ってもいませんでした。
最初にお話をいただいたとき、イヤイヤ…もっと個人的に親しかったとか、
同じ時代を知っている書き手の方はたくさんいるだろうに、
私で書けるのだろうか、さらに言えば、
私はコンクールの取材をしすぎて、いろいろなことを見聞きしているだけに、
ちょっと気が進まないぞ…というところがあったのです。

でも今回、高度経済成長とバブルという特殊な時代背景、空前のピアノブーム、
時代とともにさまがわりしていった女性を取り巻く社会環境、
そしてなにより戦後のピアノ界の変遷というものと、
中村紘子さんの生きた時代を重ねて考えるという主旨だったことで、
それなら、ぜひ挑戦してみたいと思ったのでした。
それにやっぱり、中村紘子さんという方は唯一無二の存在だったと思うから。

評伝の中では、そういう社会的な事象への考察もしていますが、
もちろんネタの宝庫ともいうべき「中村紘子親分」の伝説の数々を紹介しています。

本の中では、「キャリアの確立」「憧れの存在となる過程」「音楽への考え」
「審査員として業界を牽引した時代」「日本の未来への提言」にテーマをわけて、
その生涯と音楽をたどっています。

その中で、長年ので共演者である堤剛さん、指揮者の秋山和慶さんや大友直人さん、
中村紘子さんが見出した才能であるチョ・ソンジンさん、
コンクール界の重鎮ドレンスキーさん、マネージャーさんや、
ヤマハ、スタインウェイの調律を長年担当した調律師さんなどに、
いろいろなお話をお聞きしました。
中には、あんまり親しくなかったであろう方にもお話を聞いて、
紘子さん、なんでこんなことおっしゃってたんでしょうねぇ?というテーマについてご意見をいただいています。

結果的に、中村紘子さんには編集者時代に大変お世話にはなったけれど、
ものすごーく親しかったというわけではない立場だからこそ書けたこと、
見えたことがあったのではないかと思いました。
(もちろんその逆があったことも、わかってはおりますが…)

私が中村紘子さんに直接お会いしたのは、
だいたい国際コンクールの取材で講評をお聞きするときでした。
今こうして中村紘子さんが歩んできた道を知ったうえで、改めて、
もっとつっこんでいろいろなお話を聞いてみたかった…と思います。

2018年1月26日、いよいよ発売、ということで、
何回かにわけて、本の内容や執筆裏話をご紹介していこうかなーと思います。

 

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『キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶』
高坂はる香 著/集英社
1,700円+税/四六版/320ページ
2018年1月26日発売