トリフォノフ、ただいま来日中


ダニール・トリフォノフ、来日中です!
ここまで、岡山、神戸、前橋、武蔵野、そして横浜での公演を終え、
残すところはゲルギエフ指揮マリインスキー歌劇場管と共演する2公演と、
千葉、東京でのリサイタル2公演。

★協奏曲
10月16日(木) 愛知県芸術劇場コンサートホール
10月18日(土) 所沢市民文化センター ミューズ
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番

★リサイタル
10月19日(日) 青葉の森公園芸術文化ホール
ストラヴィンスキー:イ調のセレナード
ドビュッシー:「映像 第1集」より 1. 水の反映、3. 運動
ラヴェル:「鏡」より1. 蛾、2. 悲しい鳥たち、3. 洋上の小舟、4. 道化師の朝の歌
リスト:超絶技巧練習曲集 S.139より

10月21日(火) 東京オペラシティ コンサートホール
バッハ/リスト編:幻想曲とフーガ ト短調 BWV.542
ベートーヴェン:ピアノソナタ 第32番 ハ短調 Op.111
リスト: 超絶技巧練習曲より

曲目や最近の活動についてのインタビューが、ジャパン・アーツのサイトにアップされています。お話の中で、一日3種類のピアノを弾くのがトレーニングになったと言っていますが、この前リシッツァさんにインタビューしたときも同じような話をしていたなぁ。

さて、13日は台風がじわじわと迫る中、横浜みなとみらいホールでリサイタルを聴いてまいりました。プログラムは、青葉の森と同じ、前半がストラヴィンスキー、ドビュッシー、ラヴェルのほう。
5月にイスラエルで聴いた演奏は、ルービンシュタインコンクールのオープニングの一部だったため、フルのリサイタルを聴くのは久しぶりです。
実を言うと、トリフォノフ前回来日時のリサイタルでは、すごく楽しんだと同時に多少取り残された感があったので、今回はどう感じるのか、楽しみ半分、不安半分。あの自由な魂に自分はついてゆくことができるだろうかと……。
しかし、今回の演奏はすばらしかったです。
特に前半のドビュッシー、ラヴェル。感情の機微を繊細に、しかし鮮烈に。とても自由なんだけれど、暴走するようなところはなく。なにより、あの撫でるようなタッチで鳴らされるやわらかい音の美しさ。使用ピアノはファツィオリのF278です。ショパンコンクールの時、トリフォノフは軽い鍵盤を好んだと調律の方がおっしゃっていましたが(一方、同じファツィオリを弾いたデュモンは重いほうがいいと言うので調整が大変だったとのこと)、軽い鍵盤で見事に音をコントロールし、透き通る音を響かせます。こんな音を引き出してもらったら、調律の人も嬉しいだろうなぁと思わずにいられませんでした。「ちょっと聴いた~? このピアノ、本当はこんな音するんだから!!」と、客席中に言いたくなるんじゃないだろうか。ちなみに今日の調律担当は、以前ルービンシュタインコンクールのインタビューでもお話を聞いた越智さんです。
このところ、大きなホールでさまざまなピアニストが弾くファツィオリを聴く機会が増えたように思うのですが(サロン的な場所では前からよく聴くことがあったけど、最近大きいホールで聴くことがすごく増えたように感じます)、やはりトリフォノフの出す音は一番しっくりくる、ような気がします。この楽器、あの方の指のつくりと異様に相性がいいのでは。

そして後半、リストの超絶技巧練習曲集。ひとつひとつの短い曲であれだけのドラマを作るのはさすがです。曲の細部というより、大きな流れを大事にしているという感じ。ある意味でトリフォノフらしさが出た、がががーっと走って行くような部分もあるのだけれど、だからこそ作品全体のストーリーが見えてくるという。当初の全12曲から変更となり、順番を入れ替えた10曲が演奏されましたが、この曲順もよく考えていい流れを作ろうとしたことがわかるものでした。


こちらは終演後のトリフォノフ。
今日はピアノがすごくしっくり来たようで、パーフェクトだったと、嬉しそうに、早口でなんだかんだしゃべり倒していました。

もともとベートーヴェンの32番のソナタを弾くほうのプログラムにかなり興味があったのですが、わけあって今日の横浜公演を聴き、トリフォノフのフランスもの、聴いてよかった……とつくづく思いました。
というわけで、関東エリアにお住まいで横浜公演を聴き逃したみなさん、まだ千葉と東京が別プログラムであるので、両方制覇されるもよし、どちらかを選ばれるもよし。

ちょっと変な言い方かもしれませんが、今回の演奏を聴いて、トリフォノフは一周まわっていい感じで戻って来てくれた、という感じがしました。とはいえもちろん、いつも通りの(笑っちゃうほどの、いい意味での)ヘンタイな瞬間は健在ですので、ご心配なく。

次の来日はどんなプログラムを聴かせてくれるのか、すでに楽しみになっています。オール・フランスものとか、意外といいかもなぁ……絶対ないだろうけど。