ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールは、韓国の18歳、イム・ユンチャンさんの優勝、そしてロシアのゲニューシェネさんが銀メダル、ウクライナのチョニさんが銅メダルという結果となりました。
今回もすばらしいピアニストたち、記憶に残る演奏にたくさん出会うことができました。閉幕からもう1週間、少し落ち着いたところで、ゆるめに今回のコンクールを振り返って見たいと思います。アーカイヴで演奏はこれからも聴けますので、ご興味を持った演奏はぜひ聴いてみてください!
まず今回のコンクールで印象を残してくれた人たちといえば、このお三方でしょう。
日本/フランスのマルセル田所さん、日本の亀井聖矢さん、吉見友貴さん。
(そろって次のステージに進出した予選結果発表後の写真)
(この写真吉見くんだけすごい躍動感でじわじわくる。一人だけ今から時空越えそう)
普段コンクールの取材をするときは、日本人という理由でクローズアップするというスタンスから少し距離を置きがちな、みなさまの需要に応えないダメライターのわたくしですが(なに人だっておもしろいピアニストを紹介したいのよと思ってしまう)、今回このお三方は非常にキャラが濃く、音楽性も濃く、自然と注目するに至りました。予選演奏後のコメントなどもこちらで紹介しています。
印象に残ったのは、亀井さんならセミファイナルのリサイタル。
余裕すぎる「イスラメイ」の仕上がりは、過去のコンクールで植え付けられた「コンクールで聴くイスラメイは弾けることを見せるために選曲されたもので、いつも一生懸命弾かれている」的なイメージを払拭するものでありました。すごい素敵な曲じゃないのと。みずみずしく伸びる音の持ち主です。
亀井さん、ファイナルは会場に聴きにいらしていましたが、フォートワースの皆さんから本当に人気で、なんだかホールの中で女子の人だかりができてるな?と思ったら、亀井くんの撮影会が行われていた、なんていうこともありました。すごい。
(フォルムが似ているという理由でよくユンチャンと間違えられたようですが、この時は決して間違われていたわけではありません)
吉見さんは、予選のリストのロ短調ソナタもよかったんですが、とても印象に残っているのは、クオーターファイナルのブラームスの「パガニーニの主題による変奏曲」ですかね。運動神経の良さが発揮されているというか、生命力にあふれているというか。さすが四重跳びできるだけある(縄跳びがめちゃくちゃ得意なんだそうです)。思い切りの良い、迷いのない音楽は、聴いているとわくわくしてくる。
(縄跳びのせいかピアノのせいか、さすがのしっかりした前腕)
マルセル田所さんは、セミファイナルのモーツァルトのピアノ協奏曲の演奏がとても楽しくてすばらしかったのですが、ソロのステージでも、自分だけのプログラム、自分だけの音楽を聴かせてくれて、始まるまで何が出てくるかわからない感じが良い。これからも聴き続けたいピアニストです。
何を弾いていても基本的には音が優しく品があって、だからこそ、ストラヴィンスキーのペトリューシュカとか、スクリャービンやラフマニノフで狂気チラ見せしてきた時のインパクトがすごいのです。やっぱり隠し持ってたか、という感じが。結果的に、表現の印象は人間的で熱いという不思議。
マルセルさん、取材に行ってみたら、ホームステイ先のわんちゃんにめちゃくちゃなつかれてた。 pic.twitter.com/tKZ5AbPB4G
— 高坂はる香(音楽ライター) (@classic_indobu) June 19, 2022
ところでこれはコンクール取材あるあるなんですけど。帰ってきてから改めて配信の映像みて、この方、こんな表情で弾いてたのね!とびっくりするということがわりとあるんですね。
日本からのお三方に関していえば、吉見さんは、客席から遠目で見ていた印象とそう離れていない感じ。
亀井さんは、普段と弾いてるときの顔違うよね?というのに加えて、体の使い方が興味深い。肩甲骨周りやわらかそうで、泳げないとは思えない感じ(マルセル家のプールで溺れかけたらしいというエピソード、ご存知の方も多いかと思います)。
ギャップがあったのはマルセルさんで、こんな深刻な顔で弾いてたんだ!と思いました。いやなんか普段のゆるんとした表情のイメージがやっぱり強いから。
でもまあ、何より一番ギャップがあったのは、審査委員長でファイナルの指揮をつとめたオルソップさんかもしれない。会場で見ていたピアノ蓋で半分隠れた後ろ姿(正面が見えるのはピアニストの方をしっかり向いているときだけ)と、映像で四方から映された姿だとだいぶ印象違う…そもそも会場でも、ファイナルの終盤で左の席にずれて棒の先がよく見えるようになった時点で、少し印象変わってたけど。
ものごとは、見る角度によって違って見える。
と、それはさておき、日本勢の国内における今後のコンサート情報です。
吉見友貴さん
2022年9月9日(金)19:00 東京 紀尾井ホール
亀井聖矢さん
2022年8月7日(日)17:00 岐阜 サマランカホール
2022年8月11日(木・祝)15:00 八ヶ岳高原音楽堂
2022年10月27日(木)18:45 愛知 三井住友海上しらかわホール
2022年12月11日(日) 17:00 東京 サントリーホール
*7月中にはかてぃんさんこと角野隼斗さんとの2台ピアノの全国ツアーがあるようですが、こちらはさすが完売。他にもオーケストラとの共演があるようですのでHPをチェックしてください。
マルセル田所さんはフランスにお住まいで、直近ではサンタンデールなどコンクールへの挑戦も控えていることから、日本でのコンサート情報はまだありません。
でもインタビューで、やっぱり日本大好き、日本で弾きたい!とすごくおっしゃっていたので、近いうちに開催されることを楽しみにしましょう。
全体を振り返ろうと思っていたのですが、日本のみんなのことを書いているだけで長くなってしまったので、とりあえず今日はこのあたりで。