ロマノフスキーとクライネフ・コンクール、そして大きな手について


昨年末、自身が芸術監督と審査委員長をつとめる
クライネフ国際ピアノコンクールの東京審査のため来日していた、
アレクサンダー・ロマノフスキー。
(これ、昨年中5回目くらいの来日だったのでは。)
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名ピアニストで名教育者の故ウラディーミル・クライネフ氏の名を冠した
ジュニア向けのコンクールで、13歳以下の部と、18歳以下の部があります。
以前はウクライナのハリコフで行われていましたが、
前回2015年からモスクワで開催されるようになったそう。
前回は子供部門で、日本の奥井紫麻さん(当時10歳)が優勝しています。
2017年は、3月27日~4月1日に、リサイタルとコンチェルトによるモスクワ大会を開催。

クライネフ先生といえばラフマニノフ弾きとして特に有名で、
さらに奥様がフィギュアスケートの名コーチ、タラソワさんだということも知られています。
門下には、河村尚子さんやイム・ドンミン、ラシュコフスキー、クリッヒェルなどがいますね。

ロマさまは、2013年からこのコンクールの芸術監督に就任。
世界各地で行われるオーディションの審査にもあたっています。
今年はこの東京審査をスタートに、
モスクワ、サンクトペテルブルク(ロシア)、北京、上海(中国)、
キアッソ(イタリア)、エレバン(アルメニア)を回るそう。

ロマさまが熱く語ることによれば、このコンクールでは、
海外に渡航するとなると負担が大きいと感じる才能ある子供たちのために、
世界各地であらかじめ審査をして、3次以降の2ステージをモスクワで開催。
参加者全員の渡航費宿泊費はすべてコンクールで負担することになっているそうです。
両部門とも、最終選考に進んだ5名はロシア・ナショナルフィルと共演できるので、
とても良い経験になるだろうとのこと。
さらに、結果については優勝者だけを選定し、
その他には全員にファイナリスト賞を与えるそうです。
コンクールであるからには、飛びぬけた才能は選び出す必要があるけど、
それ以外に順位をつけることなどできないし意味がないよ、と言っていました。

ロマさまは、自分自身コンクールがあまり好きでなかったようですが、
やるならできるだけ参加者にとって良い形で…という想いがあるのでしょう。
このとき、前回の参加者のハリトノフさんやマロフェーエフさんの演奏動画を
嬉しそうに次々見せてくれました。
もはや子供の自慢をするお父さんのような雰囲気でしたが、
そういえばロマさま、まだ今年33歳という若さ。
それでモスクワ文化庁的なものの支援も受けるこの大コンクールの
重要な役職を務めているのだから立派です。

ひとつ、ドッキリした発言。
子供や10代の参加者の才能を見極めることの難しさについて話していたとき、
こんなことを言っていました。
「まず、男女の比較が難しい。総じて女の子のほうが精神的な成長が早いから。
そしてもうひとつ、その後どれだけ成長し続ける人であるかを判断するのは難しい。
常に成長し続けている音楽家であるということは大切なことで、
これは若者だけでなくどんな年代の人にでもいえること。
長年トップアーティストとして活躍している巨匠にでも、
成長が感じられない人というのも確かにいて、僕はあまりそういう演奏には興味がない」

実はここで、具体的にいくつかの例を挙げながら意見を交換したのですが、
私個人の趣味嗜好からいくと、ロマさまの見解には共感する部分が多く、
うーむ、とうなってしまいました。
いつの時点で聴いても優れた演奏であることに変わりはないけれど、
その人を2年ぶり、5年ぶりに聴いたときになにか新しいものが感じられるかどうか。
とくに大ピアニストの場合、巨匠だと思って聴くとそれだけでありがたいような気になって、
そのあたりに鈍感になってしまうことも確かにあるかもしれない。
だから悪いということではないけど、敏感で正直な聴衆であるために、
「あれ?」と思ったら、その感覚も大切にしたほうがいいかもしれないと、思ったり。
さらに、意欲や好奇心を自然に持ち続け、吸収したものを消化して外に出せるということは、
すべての人にとって、とくに表現をする立場にある人にとっては
大事だよねとしみじみしてしまいました。
優れたレベルをキープして出し続けるだけでも、簡単ではないですけどね…。

さて、そんなロマさま、
このところいろいろな録音プロジェクトが進んでいるようです。リリースが楽しみ!
録音の話の中で、ふとラフマニノフのピアノ協奏曲2番の話になりました。
相変わらず手がでかいよね、あの最初の和音なんて、
弾こうと思った当初からなーんの苦労もなくつかめるんでしょう、と発言したら、
そりゃもちろんだよ、あれを押さえるのはそんなに難しいことじゃないよ、
You にだってできるって!とロマ様。
しまいにはピアノのところに連れていかれ、
ほら、こことここだよ、ほら!押さえて!としきりに言われるんですが、
手が大きくない上にサッパリ指の開かない私の手で、あんな和音一度につかめるはずない。
(実は以前試して、ちょっと物理的に無理すぎると思ってびっくりした)

あまりにしつこく言われるので、だからできないっていってるでしょと、
半ばキレ気味に鍵盤の上に置いた、わたくしのこぢんま~りしたガチガチの手を見た瞬間、
ロマ様が出した、「ハッ」という息をのむような気配、見逃しませんでしたよ。
あまりのできなさ、残念な光景に、びっくりしたんでしょうね。
それにしたって、あれが人類なら誰にでもできると思ってもらっちゃ困るぞー。

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2011年チャイコフスキーコンクール時に撮影。大きな手を見せつける(?)ロマ様

余談が多くなりましたが、
クライネフコンクール、一応演奏動画の配信なども予定されているようですので、
気になるピアニストがいたら、チェックするのも楽しそうです。