チャイコフスキー国際コンクール審査員、ペトルシャンスキー先生のお話


前述の通り、審査委員長のマツーエフさんは結果発表の翌日に演奏会のためあっという間に旅立ってしまって、私はうっかりつかまえることができませんでしたが、授賞式でピアノ部門のプレゼンターを務めたお二人の審査員の先生に、待ち時間の間にお話を聞くことができました。

お一人目は、ボリス・ペトルシャンスキー先生です。モスクワ音楽院で、ネイガウス、ナウモフのもと学んだピアニストで、現在はイモラ国際ピアノアカデミーなどで教えています。優秀なお弟子さんがたくさんいらっしゃる名教授です。

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ボリス・ペトルシャンスキー先生

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—結果について、どのようにお感じになっていますか?

審査員はそれぞれに趣味が違いますから、自分の考えと完全に合うということは難しいですが、フランスのカントロフさんと、日本の藤田真央さんの結果については私も嬉しかったです。
二人はとても才能があるので、これから大きな発展の可能性がありますね。きっとすばらしい将来が待っているでしょう。そう祈りたいです。コンクールはこうして若者が可能性を広げていくために必要なものです。

—1位1人、2位2人、3位3人という結果になりましたが、これはみんな良いピアニストだったから3位までにいれてあげたいという審査員の先生方の判断の結果なのでしょうか?

本当に、ピラミッドみたいな結果なりました。その理由は、まず一つが、本当に彼らがほぼ同じレベルのピアニストだったこと。もう一つはデニス・マツーエフの決定です。彼の哲学といってもいいかもしれませんが、無理に1位から6位まで順番をつけるより、一緒の順位を与えるほうがピアニストの将来のためにいいという考えを持っていました。こういうスタイルの順位にすることは、マツーエフさんがプッシュしました。
それに、3位の三人はタイプは違うけれどレベルがほぼ同じピアニストでした。今日はこの人のほうが良くても、明日はその逆になっているかもしれない。そう思えるレベルで実力が僅差でした。

—優勝したカントロフさんが評価されたポイントはなんだったのでしょうか?

私が一番気に入ったのは、彼の左手です。作品のハーモニーのプロセスを見事に整理できるピアニストだと思いました。彼はピアノを、まるでシンフォニーの楽譜を演奏しているように聴かせてくれます。例えばチャイコフスキーのピアノ協奏曲第2番でとても良いと感じたのは、彼が弾きながら、オペラか小説など、何か音楽作品とは別の分野の芸術の雰囲気を生み出していたところです。ただのピアニストではなく、もっと違った存在といえるでしょう。彼がやっていることは、毎回普通のピアノの演奏ではなく、なにか文化的な出来事であると思えました。審査員が彼の解釈をどう受け取るかは別の話ですが、彼の解釈は普通ではなく、当たり前のこともおもしろいと感じさせてくれました。
藤田真央さんもとても魅力的だと思いました。例えばモーツァルトの演奏は、私の意見ではテンポに少し違うと思える部分もありましたが、それでも音楽がとても魅力的で、聴衆もそれに反応したのです。

—確かに、あの藤田さんの1次の演奏は、その後の評価にまで影響を与えたのではないかという印象の強さに思えました…。

そうですね。最初の曲目を聴いた時、彼には特別な才能があると感じました。彼の演奏は、聴き手にショックを与えるというより、ハグをしている…音楽を包み込んでいるような演奏だったと思います。

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「聴き手にショックを与えるというより、包み込むような」というのは、今時ありそうでなかなかない演奏だよなぁと、先生に言われて改めて思いました。
一方でカントロフさんの演奏は、どちらかというとちょっとショックを与えるタイプですよね。それが奇をてらっているようなものでなく、いろいろな基本にそった上で、心の中のオリジナリティから湧き出すものであると、説得力があるということになるのでしょう。オペラか小説のようというのは、ファイナルのチャイコフスキーで自分も感じたことだったので、心の中で激しく納得しておりました。

このお二人については、今回のコンクールについて感想を聴いた時、全くタイプの違う二つの才能として多くの人が名前をあげます。ロシアのお客さんにとって、もともとマークしている存在じゃなかったということも大きいのかもしれません。発見の喜びって嬉しいもんね。こういうのは、コンクールという場があってこそであります。