ヴァディム・ホロデンコ、今回は過去の優勝者として、
最年少で仙台国際音楽コンクールの審査に参加していました。
仙台コンクールもスタートして18年。
過去の優勝者が、審査員を務められるような
世界で認められるピアニストとなったということでもあり、感慨深いですね。
ちなみに野島稔審査委員長は、ホロデンコが優勝した
ヴァン・クライバーンコンクールで審査員を務めていらしたんですよね。
そのときホロデンコの圧倒的なステージについて、
「なんといいますか…聴衆を手玉にとるような演奏」とおっしゃっていて。
あの表現、結構インパクトあったなー。実際そんな感じだったし。
(コンクール最後のレセプションに現れたホロデンコ氏。
いろいろ気になってつっこみたいと思いますが、まあちょっと待て。)
さて、そんなホロデンコ、
6月11日(火)に豊洲シビックセンターでリサイタルがあります。
6月11日(火) 豊洲シビックセンターホール
ショパン=ゴドフスキー:ショパンのエチュードによる53の練習曲より 作品10- 1・2・3・4・8・12、作品25- 9・11
スクリャービン:ピアノソナタ第6番 作品62、エチュード 作品2-1、作品42-5
プロコフィエフ:ピアノソナタ第6番「戦争ソナタ」イ長調 作品82
ショパンのエチュードが原曲より数倍難しくなっているゴドフスキーの難曲は、
なかなか生で聴く機会のない作品。
また、スクリャービン&プロコフィエフのソナタという、
ホロデンコ・ワールド全開になりそうな内容です。
で、仙台でお会いした際、演奏会について一言だけコメントちょうだいといったら、
すごく語り出してしまったので、せっかくなのでご紹介しますね。
◇◇◇
ーゴドフスキー、演奏するんですねー。楽しみです。
この作品は単なる“原曲よりも技巧的に難しいエチュード”というものではありません。ゴドフスキーは、ショパンが書いた音楽的なイメージを、外側は変えながら、優れたテイストを保って膨らませています。
それにこの曲は、19世紀から20世紀初めに存在していた、特別なテクニックのショーケースでもあると、僕は思うんですよね。
現代の私たちは何かを失ってしまった…みたいなことは言いたくないのですが、でも確かに、現代のピアニストのマナーやアプローチ、音は変化したといわざるをえません。そんな中、このゴドフスキーの作品は、古き時代のテクニックの記憶を呼び起こしてくれるように思うのです。
ーそれから、スクリャービンとプロコフィエフを演奏しますね。
スクリャービンのソナタは、これまで4番、5番と弾いてきて、今度は6番を演奏します。チクルスをしようとしているわけでもないのですが、僕にとって、スクリャービンのソナタは演奏するのがとても楽ししいのです。とくにこの4番から5番へ、そして5番から6番へと移る間に見られる作風の進歩が、とにかくおもしろい。
そして後半はプロコフィエフの6番。他の2曲の戦争ソナタに比べると、あまり知られていないうえ、一番簡単な曲だと思われているかもしれませんが、でもこの6番のソナタにはたくさんの特別な小さなディテールが隠されているんです。練習するたびに日々何かを見つけ、どんどん好奇心が増していく、とてもエキサイティングな作品です。
ーゴドフスキーのエチュードが入っているのを見た瞬間、ホロデンコさんがヴァン・クライバーンコンクールでリストの超絶技巧全曲を弾いていたステージのことを思い出しましたよ。
あー、弾きましたねぇ。
ーこういうプログラムを弾くのは、楽しいんですか?
うーん、楽しんでいるっていうとちょっと違うんですよね。ただ、まず肉体的に弾けるうちに弾きたいという気持ちがあるのは確かです。この年齢になると、これから身体能力が高まっていくことはないと思いますから。
ただ、この曲の技巧的な要素は一つの側面にすぎません。たくさんの要素を持つエチュードで、それぞれの曲が音楽的に大きく異なります。求められる技術にまったく遜色ない量の、多くのことを音楽的に語る曲です。
聴衆のみなさんには、この曲は確かに技巧的に難しく書かれているけれど、技巧ではなく、そこから浮かび上がる音楽的な要素を楽しんでほしいということです。
ー豊洲のホールに置かれているファツィオリを演奏しますね。
はい、とても気に入っています。
実はスクリャービンのプロジェクトを思いついたのは、ファツィオリのピアノのおかげなんですよ。楽器がインスピレーションを与え、パレットを広げてくれました。
例えば僕、最近、アレクセイ・リュビモフがハンマークラヴィーアを演奏するのをライブで聴いたのですが、その演奏と音自体が、この曲をどう弾いたらいいかというイマジネーションを広げてくれたんですよね。ファツィオリという楽器もそれと同じように、別の世界への扉を開いてくれたんです。
アイデア、想像、音の広がり。それから、音の混ざり方。…というのも、ファツィオリのピアノの魅力は、ポリフォニーを弾いたときの美しさにあると思うからです。何声も重なる曲を弾いたとき、このことを強く感じます。新しい地平を見せてくれるピアノです。
◇◇◇
往年のピアノテクニックのショーケースだというゴドフスキーも楽しみなのですが、お話を聞いてみて、ホロデンコが楽譜のあちこちからいろんなものをほじくり出した(言い方)というプロコフィエフ6番への期待が、がぜん高まってきました。
ちょこっとビデオメッセージをお願いしました。
相変わらず渋いお声。
ヴァディム・ホロデンコ氏が、6月11日の豊洲シビックホールでのリサイタルに、みんな来てねと言っています。メガネをした謎のクマTシャツは、仙台で購入したそうです。 pic.twitter.com/nCABSSE235
— 高坂はる香(音楽ライター) (@classic_indobu) 2019年6月9日
で、みなさん気になっているでしょう、こちらのクマTシャツ。
クマが好きなんだそうです。
ああ、似てますもんね…っていう言葉が喉元まで出かかりましたが、
ぐっとこらえました。
言わずに我慢できたなんて、私も成長しました。