沼尻竜典さんと三鷹とカレーの話

音楽家にはカレー好きの人が多いですが、指揮者の沼尻竜典さんもそのひとり。
オペラの稽古場の近くの美味しいカレー屋さん情報など、よくご存知です。
リューベックのご自宅には何種類ものスパイスを用意してあって、自ら作ることもあるとか。

以前、西荻窪のカフェ・オーケストラというカレー屋のシェフと、厨房で料理をすること、スパイスの個性を際立たせて美味しいカレーを作ることは、オーケストラを指揮することと似ているのではないかという話になったことがありますが、もしかしたら、沼尻さんは指揮と同じ要領でカレーを作っているのかもしれません。
(今度、それぞれのスパイスはオーケストラの楽器に例えるならどれか聞いてみよう…)

今この記事を書き始めて思い出しましたが、私が沼尻さんに初めてお会いしたのは、2006年の浜松コンクール。ユベル・スダーンさんが腰痛でキャンセルして、沼尻さんがかわりに本選指揮をされたときでした。
一緒に浜松入りしていた当時の同僚が、「沼尻さんがリハーサルで歌ってるから見ておいでよ! 鶴のような歌声だよ!」と、すごい楽しそうに言っていたので、こっそり見に行った。それが私が見た最初の沼尻さんです。鶴って…。

さて、沼尻さんといえばオペラ指揮者としてご活躍で、リューベック歌劇場の音楽総監督でもありますが、ピアノ好き的に注目したいのは、ピアノを弾いてもすごくうまいということ。
沼尻さんは三鷹ご出身ですが、地元の三鷹市芸術文化センター風のホールで、ご自身の弾き振りによるモーツァルトのピアノ協奏曲全曲演奏会を継続中です。

mitaka

1995年に発足したトウキョウ・モーツァルトプレーヤーズが、2015年の20周年を機に「トウキョウ・ミタカ・フィルハーモニア 」に名前を改め、引き続きこの全曲演奏会が行われています。

機敏な動きのオーケストラが沼尻さんのピアノとぴったりリンクして、弾き振りならではのプリプリのモーツァルトを聴くことができるという感じ。その他のプログラムも、オーケストラの面々がみんなすごく楽しそうに演奏しています。
次回の公演「第15弾」は7月29日だそうです。

2017年7月29日(土)15:00 三鷹市芸術文化センター 風のホール
オネゲル:夏の牧歌
モーツァルト:ピアノ協奏曲第18番変ロ長調K.456
ベートーヴェン:交響曲第6番ヘ長調op.68『田園』
沼尻竜典(音楽監督・指揮/ピアノ)
トウキョウ・ミタカ・フィルハーモニア(管弦楽)

ところで沼尻さんには、件の浜松以来何度かインタビューをしていて、毎回ちょっと毒はいりぎみの話がとてもおもしろいのですが(そんなわけで、三鷹の公演のプレトークも鋭いおもしろさですよ)、お話を聞いていていつも思うのは、
「すごい頭いい」「なんか楽しそう」「手抜きしてるやつ見つけたらただじゃおかねぇ人」という3点。(若干頭悪そうな言い回しですみません)

どんな複雑な作品でもきっちりすみずみまで理解する音楽的才能と、オペラや舞台が好きで、次に取り組むプロジェクトに常にワクワクしている感じ、良いものを創るためならぶつかることを恐れず妥協しない感じ。
「周りの人たちに恵まれてきたから何でもできた」「仕事と趣味が完全一致しているのは幸せだ」とご本人はおっしゃっていましたが、現代にしてはめずらしい形で進みたい道に進む音楽家のような気がします。これからどんなご活動をされるのか楽しみです。個人的には、沼尻さん作曲のオペラ「竹取物語」をインドでやってほしい!(インドのラーガを取り入れたシーンがある)

あともう一つ、関係ありませんが、沼尻さんの演奏を聴くと、私は必ず終演後にカレーが食べたくなります。演奏から、カレーを食べたいと感じさせる何かがきっと出ているのだと思います。
三鷹の終演後ならどこがいいのかな。
あいにく私には三鷹駅周辺に行きつけのお店がないのですが、ちょっと西荻窪までいけば、前述の「カフェ・オーケストラ」があります。チキンカレーもおいしいですが、食後のチャイもすばらしいですので、ぜひ。

ちなみに、大森にある南インド料理、ミールスのおいしい「ケララの風Ⅱ」の有名なオーナーシェフは沼尻さんという方ですが、親戚関係ではないそうです。
実は私、二人の沼尻さんが「どうもどうも、ルーツはどちらで」的なやりとりをしている場面を目撃したことがあるのですが、めずらしい名前の人同士が出会った時に起きる謎の親しげな空気が漂っていて、おもしろかったです。