「kotoba」夏号、インドの音楽学校事情

集英社「kotoba」での、インド社会の現状を西洋クラシックの受容の観点から読み解くという連載。第2回の記事が、先日発売された夏号に掲載されています。

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今回からはいよいよ、今年2月のインド現地取材でリサーチしてきた話題です。

内容はこんな感じ。

「インドはオペラを歌う」~西洋クラシック音楽で大国を読む~
第2回 西洋クラシック楽器を習う心理の裏側
・楽器の名前も知らずに習いにくる ~コルカタ、デリーの音楽学校の場合
・インドの楽器講師のレベルは?
・もはや趣味ですらない… 受験戦争対策としての楽器習得
・チェンナイ、衝撃の「ロシアン・ピアノ・スタジオ」

ここ5年~10年ほどで急激に西洋楽器を習いたがる人が増えている、その理由はなんなのか。
ボリウッド映画やYoutubeの影響かと思いきや、実は、受験戦争を勝ち抜くための方法として西洋楽器が流行しているということもわかりました。
それにかける親の情熱には、インドの家族をめぐる社会システムも大きく影響しているという証言もあり、なるほど…と納得(詳しくは記事参照)。
日本だって受験戦争は熾烈ですが、インドの競争はそれはすごい。数年前、親たちがわらわらと校舎の壁をよじ登ってカンニングペーパーを渡す集団カンニング事件がニュースになりましたよねー。

そんななか、受験戦争などの世界からは隔絶された、ある意味超ピュアなピアノ教育をしていたのが、チェンナイの「ロシアン・ピアノ・スタジオ」です。
ボリウッド映画音楽の大人気作曲家、ARラフマーン(ムトゥ・踊るマハラジャとか、スラムドッグ$ミリオネアの音楽を担当した人)が創設した、KM音楽院の中に創設されているコースで、先生は生粋のインド人、チャタルジー先生。モスクワ音楽院を卒業した初のインド人だそうです。
「私が開発したメソッドで勉強すれば、1、2年で誰でもヴィルトォーゾになれる」というのがウリ。
ネットでこのクラスの存在を発見し、猛烈な勢いで弾きまくる生徒たちの動画を見て、なんとしてもこの先生に会って話を聞かなくてはと思ったわけです。

実際にお会いして見聞きしたこと、完全インド化された独自メソッドについて先生が語ったことについて、記事の中で紹介しています。ちなみに、記事と連動して、クラスで撮影した動画が公開されています。
習って1年半〜5年の生徒たちです。

どうですかみなさん。
この演奏を披露されて、生徒の父兄まで集まっている教室で、チャタルジー先生から「さあどうだね? 彼らがショパンコンクールに出たらどうなるとあなたなら思う?」ってドヤ顔で聞かれる私の気持ち、わかりますか…。

ただ機械的に弾くというのではなく、音楽性やメンタルの指導もすごくしてるんです。ただそれが超インド流なので、最終的に音楽表現が(一般的な西洋クラシックの感覚からすると)とんでもないところに着地しているわけです。
その弾き方はめちゃくちゃだと批判することは簡単だけど、初心者から一音入魂で弾かせる濃すぎるアプローチ、インド流を自認するメソッドへのみなぎる自信には、見るべきところがあると思いましたよ私は…。
その辺りについての詳しい考察は、記事を読んでいただくとして。
ちなみにこのクラスの生徒たちにとってのヒーローは、ラン・ランだそうです。

その後チャタルジー先生とメールでやりとりをしていたら、「そういえば日本人にも、私のメソッドを彷彿とさせるような、すばらしいボディランゲージと表現力を持つ若いピアニストがいますよね。私も生徒たちもみんな、彼女の音楽に魅了されています」と。
そのメールの最後に貼られていたのが、小林愛実ちゃんが9歳のときのモーツァルトのコンチェルトの動画でした…。なんかいろんな意味で衝撃でした。愛実ちゃん、まさか遠いインドの国にファン集団が存在しているとは、知らないだろうな…。

kotobaは一般誌ですから、ピアノファンや学習者なら食いついてくれるであろう詳しいお話について全て書ききることはできませんでしたので、いつかどこかで発表できたらいいなと思っています。

ちなみにこの号の巻頭は、日記特集。すごく読み応えがあります!
井上靖さんや、湯川秀樹さん、加古里子さんの戦中の日記などとても興味深い。ベートーヴェンの日記についての平野昭さんの文章ものっていました。