第15回「曲に強弱を!」


『北の国から』の伴奏について、いくつかのパターンを考えるとは言ったものの、仕事の関係でまったく時間が取れず、何とか1パターンを書いたのはレッスン前日。こればかりは仕方ないか。

当日の昼頃、この教室を紹介してくれた編集者Kさんから、「今日のレッスンを見学します」とのメールが届いた。5,6年前からの知り合いなので、会うことにまったく躊躇いはないが、自分のピアノを聞かれると思うとやはり緊張する。だったら、初めてのレッスンにも来てくれれば、上達度が分かったのに……とぶつぶつ言いながら白寿ホール前で待ち合わせ。

ドレミ先生の合図で弾き始めるが、ちょっとミスが多い。
「最初から、やり直していい?」
「どうぞ~。彼は、ちょっと緊張しております」
と、ドレミ先生の突っ込みが入る。
何とか弾き終えると、「すごい、弾けてる~」とKさんの拍手が聞こえた。ふふふ、何度か休んだことはあっても、この3,4カ月、必死に練習してきたのだ。
「大分できるようになったけど、気になることが……」
ドレミ先生のこの言葉を何度聞いたことだろう? でも、今日は、そんなに間違いはなかったのでは?
「強弱についてですが、この曲は、何で始まるか知ってます?」
「……ピアノ」
「そう! でも、ピアノで弾いてます?」
ぐっ……。そう言われると、全体的に同じ強さで弾いていたような……。
「あえて大げさに真似してみると……」
と、ドレミ先生は、強弱をつけずに弾き始めた。う~ん、周りには、こんな風に聞こえていたのか。体の固い人のテニスのスウィングみたいに、ガチガチだ。
「大きな間違いがなくなって、暗譜までできているから、ここからは、ピアノやフォルテなどに注意を払って弾いてみてください。冒頭は、大人しく不安な感じで。ラシド~のパートになったら、すべてを開放するように元気に弾いてみて」
そう言われて弾いてみるが、強弱を意識すると暗譜したはずが分からなくなってしまったり、結構混乱する。
「今日は、難しいなあ」
「うん。でも、ここからがピアノの楽しいところですよ。暗譜までできてるから、あとは表現を入れていきましょうね」
その後、何度か弾いてみて、何となく分かってくるようになった。でも、これはかなり練習が必要だな。

「じゃあ、強弱をつける練習を宿題にして、『北の国から』いきましょうか」
「実は、1パターンしか作れなくて、しかも最後が単調なんですよね……」
「いいですよ~。弾いてみて!」
自信がないから静かにしか弾けない。これは強弱じゃないな……。
「なるほど。どれどれ……お~、なかなか味のある楽譜ですね」
味のあるって、便利な言葉だなあ。
その後は、ドレミ先生の赤入れがあり、こちらも次回までに改めて完成させることになる。今日のレッスンは全体的に難しかったなあ。
「さっきから、今日は難しいって連呼してるね~」
油断していると、Kさんから悪魔のような発言が飛び出す。くそ~、上手くできなかった言い訳だと思ってるな。本当に難しいんだって!
「でも、これまでよりレベルは高いですよね」
ううっ、ドレミ先生ありがとう。嘘つき少年にならないで済んだよ。

その夜、Kさんからメールが入る。
「家に帰って、まだトルコ行進曲が弾けるか試してみたよ。全然だめだったわ」
ぷぷぷ、弾けないのか、などと意地悪なことは思わないけど(本当か?)、何か安心して眠りについたのだった。

 

(つづく)

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◇レポート執筆者◇
今東昌之
めがねがトレードマークの会社員。
小学校3年から中学2年、インターバルを挟んで、高1から高2までピアノを習うも、
現在はさっぱり弾けなくなってしまったという。
40歳を過ぎたある日、再びピアノを始めようと一念発起。さあ、どうなる!

◇通ってみた音楽教室◇
コロムビア音楽教室
2013年にオープンしたばかり。ご存知のレコード会社日本コロムビアが運営する音楽教室。代々木公園駅近く、白寿ホールのある建物のなかで火曜日から土曜日まで開校。初心者から音大受験生まで、演奏家としても活動する講師たちにマン・ツー・マンで習うことができる。ピアノのほか、ヴァイオリン、チェロ、フルートのクラスがある。

ホームページ http://www.columbiamusicschool.jp/