第9回「どうしても弾けないパートだってあるさ」


ドレミ先生の指示通り、電子ピアノのメトロノームを使って、四分音符のパートをノーミスを意識して練習を始めた。最初はゆっくりのスピードで。しかし、これが少しつらい。あえて遅めのスピードから始めているので、心の中に「もっと早く弾けるよ」という気持ちがあるため、イライラしてしまうのだ。いかんいかん、ドレミ先生も一日ずつスピードを上げていくことが重要と言っていたではないか。

ある程度、順調に進んだところで、(僕にとっての)難関であるパートに突入。これまでは、「ラシド ラシドシラソ ファソラシソミ……」と弾いていたところが変化する。親指と小指がばらばらになって、「ララシシドド ララシシドドシシララソソ……」と続くのだ。こんな風に書くと簡単に感じるが、一度、親指と小指を同時に弾くことに慣れているから、それを崩すのが大変だ。せっかく覚えたのになあ……。
不思議なことに、ここだけは、何度練習しても上手くいかない。挙句の果てに、腕が攣りそうになってしまった。まるでレッスン開始当初に戻ってしまったようだ。力が入りすぎているんだろうなあ。わかってはいるのだが、こればかりは仕方ない。
これまでだったら、何としてでも弾けるようになってレッスンに臨もうとしたところだが、ここまでできないと諦めの境地だ。
「ドレミ先生に聞こう……」
と自分に言い聞かせて、他のパートの練習に励む。せっかくだから、四分音符のパートだけではなく、全体を通してメトロノームを使ってみる。スピードを合わせるのは初めてだ。何度も弾いているだけあって、我ながら上手く弾けると自己満足。

翌朝、改めて弾いてみたが、問題の箇所はやはり無理。一晩で弾けるようになってるわけないか……。
レッスン時間に教室に入ると、久々にコロムビアのMさんがいた。レッスン後にドレミ先生と打ち合わせがあるようだ。内心、ここ最近の上達ぶりに驚くぞと思いながら、ピアノに向かう。それでも、問題のパートが上手く弾けないことを、ドレミ先生に事前に伝えることは忘れない。
よし。これで、もう大丈夫。でも、こういう時に限って、最初から間違えるんだなあ。上達ぶりが伝わらん!
そして問題のパートをつっかえながらも……弾けなかった。
「う~ん、手が固まってますね」
「指を固めた方が、弾く位置がずれないかと思って固めてるんです」
「ずれますよ。手は固めても絶対にずれます」
ドレミ先生、ずばりと言うなあ。
「ずれますか」
「ずれます。それより、一つ一つの音をゆっくり弾くように心がけたほうがいいですよ」
そうか。四分音符のところと同じだな。
意識して弾こうとするが、どうしても前のパートを弾いたときの印象が強くて上手くいかない。
「前のパートよりも簡単なはずなんですけどねえ。苦手だと思うから、余計難しく感じるのかもしれませんね。思い切って、すごくゆっくり弾いてみましょう。1の指がラを弾いた後は、すぐにシに移動させてください。指を尺取虫のように動かすイメージですよ」
ドレミ先生、相変わらず例えが上手い、などと感心している場合ではない。言われた通りにやっていたが、2、3回で疲れてしまった。
「腕が疲れますか?」
「そうですね~」
「同じところばかりだと疲れるから、他のパートに移りましょう。練習するときは、今のイメージでね」

それにしても、これほど弾けないパートが出てくるとは。ドレミ先生の言う通り、難しいと思うから、ますます苦手意識が出てくる。練習しても上手く弾けないのではないかと、つい後ろ向きな考えを抱きつつ、教室を後にした。

その夜、少し練習してみたが、やはり弾けなった。これ、どうする?

(つづく)

◇レポート執筆者◇
今東昌之
めがねがトレードマークの会社員。
小学校3年から中学2年、インターバルを挟んで、高1から高2までピアノを習うも、
現在はさっぱり弾けなくなってしまったという。
40歳を過ぎたある日、再びピアノを始めようと一念発起。さあ、どうなる!

◇通ってみた音楽教室◇
コロムビア音楽教室
2013年にオープンしたばかり。ご存知のレコード会社日本コロムビアが運営する音楽教室。代々木公園駅近く、白寿ホールのある建物のなかで火曜日から土曜日まで開校。初心者から音大受験生まで、演奏家としても活動する講師たちにマン・ツー・マンで習うことができる。ピアノのほか、ヴァイオリン、チェロ、フルートのクラスがある。

ホームページ http://www.columbiamusicschool.jp/