１週休みが入ったので、２週間の間、たっぷりと練習した。練習を続けると不思議なもので、少し早いスピードで弾いた方が、指が勝手に動く場合があることに気付いた。しかし、それも長くは続かない。いい気になってやっていると、「こんなところで？」というパートでつっかえたりするからわからない。
それでも、ドレミ先生に言われたとおり、パートとパートの間に時間をおかず、流れるようなイメージで弾いてみると、確かに曲っぽく聞こえてくる。こっちはプロじゃないから、曲「っぽく」というところが大事なのだ。
深夜に練習を続け、何とか２ページ目の終わりまで弾けるようになった。ピアノ以外もこれくらいの情熱でやればなあ、などと考えてはいけない。そして、いよいよ、ドレミ先生の待つレッスンに臨む。
「じゃあ、どうぞ！」
というドレミ先生の合図で最初から弾き始めると、何と冒頭で要らぬ♯を弾いてしまった。
「あらら」
「最初っから、やりますね」
うーん、後半の難しいパートに頭がいってしまった……。それでも必死で弾き切る。
「なかなか弾けるようになりましたねー」
ドレミ先生が嬉しいことを言ってくれた。
「この辺、かなり練習したでしょう？ スムーズに弾けてるから、すぐわかります」
そのとおり！ ドレミ先生に言われたとおりに、四分音符で難しいところは、ひらすらスタッカート練習を続けていたのだ。それにしても、簡単にばれるな……。
「ここまで弾けてきたら、これから自宅での練習は、メトロノームを使ってみましょう」
メトロノーム！ これまた懐かしい響きだ。昔は、三角形の味わいある物が自宅にもあった。それが今や、電子ピアノに内蔵されている時代だ。
「特に、四分音符が続く中盤の難しいところでは、メトロノームをゆっくりのリズムにセットして弾いてみて。その代わり、目指すのはノーミス。ゆっくりのペースでやって、翌日は、メトロノームの目盛りを１つか２つ上げてください。その翌日はさらに、目盛りを上げて……」
あれだな。忍者が木の芽を毎日飛び越えているうちに、いつしか大木に育った樹を飛び越えられるようなものだ。
「多分、スピードが遅い最初のうちが、一番つらいと思いますよ。でも、ノーミスで弾くという緊張感を持って弾くと、かなり変わりますから。ミスしてもいいやと思っていると、頭や指も、ここは間違えるから、ここからやり直して……と、間違えたまま覚えちゃうから」
確かに、さっき弾いたときも、同じところで何回も間違えたなあ。家で練習するときは、間違えないんだけど。そう思ってみても、言い訳にしかならない。よし、今夜からメトロノームだ！
「この練習を続けると、１週間で１０目盛り、２週間で２０目盛りくらいまで上がるので、かなりのスピードになりますよ。その他のパートは、メトロノームを使って、同じスピードで弾けるようにしましょう。それから、今日、気になったことが……」
ん？ 他は結構、弾けていたのでは？
「鍵盤に指を置く位置が、下すぎるんですよ」
指の位置って、白鍵のところに置いて弾いていくんじゃないのか？
「ピアノは、前後の指の動きを抑えて、なるべく楽に左右に動かした方が楽に弾けます。なので、指の位置は、もっと黒鍵に寄せてください」
でも、ドレミ先生の指は細いから簡単に弾けるだろうけど、黒鍵と黒鍵に挟まれた白鍵を弾くのはなかなか……。
「私の師匠の指は、私の倍以上あるけど、まったく問題なく弾いてますから大丈夫。それに比べたら、指は細いですから」
そういうもんか。試しに弾いてみると、確かに前後の動きは少なくなるけど、黒鍵が邪魔になって、指がスムーズに動かない。
「３と５の指を黒鍵に置いて、４の指で白鍵を弾いてみて」
う、薬指が動かない……。こんなに力が入らないなんて。
「ね、問題は４の指なんです。ここをしっかり弾けるようになると楽になりますよ」
その後、何度かやったが、これはなかなか難しい。今まで意識したことなかったなあ。
メトロノームとともに、これも練習だ。やること、いっぱいあるなあ。
（つづく）
◇レポート執筆者◇
今東昌之
とある出版社勤務、めがねがトレードマークの編集者。
小学校３年から中学２年、インターバルを挟んで、高１から高２までピアノを習うも、
現在はさっぱり弾けなくなってしまったという。
40歳を過ぎたある日、再びピアノを始めようと一念発起。さあ、どうなる！
◇通ってみた音楽教室◇
コロムビア音楽教室
2013年にオープンしたばかり。ご存知のレコード会社日本コロムビアが運営する音楽教室。代々木公園駅近く、白寿ホールのある建物のなかで火曜日から土曜日まで開校。初心者から音大受験生まで、演奏家としても活動する講師たちにマン・ツー・マンで習うことができる。ピアノのほか、ヴァイオリン、チェロ、フルートのクラスがある。