第7回「パート練習の罠」


Hakujuホールに向かっている途中で、コロムビアのMさんから連絡が入った。
「ドレミ先生が15分ほど遅れるので、教室で練習していてください」
今回の宿題に多少の不安があったので、これ幸いと、ホールの人に鍵を開けてもらって教室に入る。さて、始めますかね。15分もあれば、かなり練習できるな。

すっかりやる気モードになっていたのだが、ピアノを見て動きが止まる。鍵盤の蓋(蓋と言っていいのか?)を開けようにも、まずは、ピアノ全体を覆う黒い板(板と言っていいのか!)を持ち上げなければならないようだ。いつもは、ドレミ先生がすべて準備してくれているし、我が家は電子ピアノ。こんな本格的なピアノの準備をしたことがない。
「ここにネジがあるから、こっちから持ち上げるのかな?」
一つ一つ確認しながら力を入れてみる。

重いっ!

ピアノの蓋(分からないから、蓋という呼び方に決めた)がこんなに重いとは……。でも、ドレミ先生は簡単に持ち上げていたような気がする。
結局、何度かトライしてみたが、下手にいじって壊れても困るので練習は断念し、教室の机を借りて、本業の仕事にいそしんでしまった。
そんなこんなでドレミ先生登場。「これ重いんですよ」と言いながら、簡単に準備完了。

「では、最初から弾いてみましょう。宿題のパートはゆっくりで大丈夫です」
最初から弾き始め、いよいよ宿題パートへ。それまでよりもスピードを落として弾いてみるが、当然のようにスムーズにはいかない。ここ数回のレッスンで感じていたことだが、やはり電子ピアノと普通のピアノの違いは明瞭だ。鍵盤のひっかかりも違うし、もちろん、音の出方も異なる。家では普通の音量で弾いていたはずが、レッスンでは思わぬ大きな音が出てびっくりすることもある。でも、マンションでは電子ピアノが限界だしなあ……。
「やっぱり、これまで弾いていたところと比べると、自信がないのがわかりますね」
「速く弾けるときと、そうじゃない時があるんですよね……」
自分でも思いがけないほど速く弾ける時があるが、あれは何なんだろう?
「そうしたら、右手だけで一つ一つの音をゆっくり力強く弾いていきましょう」
ドレミ先生の言う通りに弾いて、頭と指に音を覚えさせる。
「次は、ドレドシの最初のド、ラシラソの最初のラ、など、最初の音だけを少し強めに弾く練習をしましょう」
それが終わると、スタッカート練習だ。こうして、一つ一つの音をしっかり弾くことで、覚えていくんだなあ。

復習したところで、曲の最初から弾いてみる。なかなか上達したかな。そう思っていると、ドレミ先生、何やら考え込んでいる。
「今、聴いていて、全体的に気になるところがありました」
ん? 前回までのところはきちんと弾けていたんじゃあ?
「練習する時に、パートごとに覚えて練習してきましたよね。だから、一つ一つのパートはきちんと弾けるんだけど、次のパートに移るときに、間が空いちゃうんですよ」
確かに、その通りだった。一つのパートを弾けたことに安心して、「さあ、次にいくか!」と気持ちを新たに取り組んでいたのだ。
「曲は、一つのパートで終わりじゃなくて、一曲全部弾いて終わりです。次のパートにいく時も、一拍置かないで、流れるように次に進む練習をしましょう。そうしないと、一つの曲を弾いてることにはなりませんよ」
う~ん、各パートがそれぞれに有名だから、パートを弾くだけで満足していたんだな。でも、すぐに次に移れるかなあ?
「次のパートの出だしを間違えても構わないから。間違えることよりも、止まらないことを意識して弾いてみて」

その言葉に従って弾いてみると、パートが変わることで、出だしの指の位置がそれほど変わらないことが分かる。何より、今までよりも、ちゃんと「曲を弾いてる」という思いが強くなった。これはちょっと嬉しい。
「そうです。次回からは、止まらないで流れるように弾くことに注意してくださいね。それから、次のパートはやってみました?」
「右手だけは少し弾いてみました」
ここは、右手の音階が上がったり下がったりなので、それほど複雑じゃない。
「ここが終わると、その後しばらくは、これまでの繰り返しだったり、一部が変わっていたりするだけなので、一気に進みますよ」
楽譜を確認すると、見たことのあるパートが並んでいる。それを見るだけで勇気百倍だ。これなら来週にも、かなり進むんじゃ……。

「え~、来週はお休みになりますので、次回は再来週。それまでに、ちょっと長いけど、ここまで弾いてきてください」
休みとは残念! それでも、練習時間が増えると前向きに考えることにする。
「この曲が終わったら、次はサザンに入りましょうね!」
おおっ、ますますメジャーだ! 今日もエアピアノやらなきゃ!

(つづく)

◇レポート執筆者◇
今東昌之
めがねがトレードマークの会社員。
小学校3年から中学2年、インターバルを挟んで、高1から高2までピアノを習うも、
現在はさっぱり弾けなくなってしまったという。
40歳を過ぎたある日、再びピアノを始めようと一念発起。さあ、どうなる!

◇通ってみた音楽教室◇
コロムビア音楽教室
2013年にオープンしたばかり。ご存知のレコード会社日本コロムビアが運営する音楽教室。代々木公園駅近く、白寿ホールのある建物のなかで火曜日から土曜日まで開校。初心者から音大受験生まで、演奏家としても活動する講師たちにマン・ツー・マンで習うことができる。ピアノのほか、ヴァイオリン、チェロ、フルートのクラスがある。

ホームページ http://www.columbiamusicschool.jp/