第6回「記憶力の勝負?」


仕事の都合で一週休んでしまったが、その間、ぶつぶつと言い続けた甲斐あって、宿題のパートは諳んじられるようになった。

夜中にヘッドフォンをしながら、大音量で途中まで弾き、突然歌いだすという、傍から見たら変態の世界に入った日々だ。
レッスン当日、最初から弾き始めるが、力を抜いて弾くパートと、歌うパートのことが頭をよぎり、何でもないところでつっかえてしまう。う~ん、こんなはずじゃあなかったのに……。
それでも、ドレミ先生から、「力が抜けましたね」という言葉をもらったことで一安心。
「この2週間、このパートを一生懸命練習したことがわかりますよ」
そうでしょ。
力が入りすぎだと言われたから、なるべく軽快に弾くように注意して練習した成果だ。ドレミ先生のアドバイスに従って弾いてみたら、その日から、練習後にストレッチをやる必要もなくなったし、肩こりがひどくならなくて済んでいる。普通に考えたら、ピアノを弾いた後に腕や肩の凝りをほぐすためにストレッチするっておかしいのだ。どれだけ力んでいたかが、すぐにわかってしまうエピソードとなった。でも、そこにこだわるあまり、最初の頃のパートにまで頭が回らなかったんだよなあ……。

「じゃあ、次ですね。歌えるようになりました?」
なりましたなんてもんじゃない。
もはや、頭で音符を追う必要はなく、自然と口をついて出てくる。この楽譜を見たときからは、想像もできなかったことだ。
その割には、少しとちってしまったのが不思議だ。それでも無事にクリアしたところで、左手の練習スタート。楽譜を見る限り、とても単純なのだが、♯が3つ増えたことで、なかなか指が言うことをきいてくれない。途中でドレミ先生が右手のパートで加わったとき、耳がその音をとらえた。
「私が弾いている音が、しっかりわかりますよね? 歌の成果ですよ」
確かに、前回までなら速すぎてわからなかったはずなのに、しっかりと聴き分けられている。エアピアノといい、歌といい、ドレミ先生すごいな。

ようやく左手の動きを覚えたところで、右手の練習。これが難しい。
ミの♯って何だ!? どうしてファの♭にならない!? これは今でも謎だが、譜面にそうあるんだから仕方ない。『トルコ行進曲』始まって以来の、せわしない指遣いだ。どうしたらいいんだろ?
「歌いながら弾くと、すんなり弾けますよ」
ドレミ先生がアドバイスをくれる。
「特に、各小節の最初の音を少し強めに弾くことで、リズムがつかめるから」
今となっては、ドレミ先生を疑うことはない。これまでになく素直に従って、歌いながら弾いてみると、不思議なことに指が動く!
「ほらね」
歌を覚えただけで、ここまで指が動くのか?
「脳の指令が直接、指に伝わってる証拠ですよ」

こうやって順調に弾くことができたら、小学校の時も楽しかったろうなあと、レッスンが始まって以来、何度も思ったことを改めて思う。基礎ばっかりやるのが嫌になって、ピアノから離れた人って、本当に多いだろうなあ。あのやり方を変えていけば、日本人ピアニストって、もっと増えるんじゃないだろうか。実際に、国内に何人くらいのピアニストがいて、世界の中で日本がどのレベルかなんて、さっぱりわからないけどね。
「そうしたら、来週までに、ゆっくりでいいから、このパートを弾けるように練習してきてください。できれば、その次のパートもいってみて」

勉強に関する宿題っていうのは、昔からがっかりするものだが、ピアノの宿題は、なぜかやる気になる。というよりも、すぐに家に帰って練習したい気分だ。やればやるだけ弾けるようになっているのが、その場でわかるのが嬉しい。
「楽譜って歌えるようになるもんですね」
「まあ、子供だったら、1、2時間で覚えちゃいますけどね」
なに! 子供の吸収力、おそるべしである。
「私も、100種類以上のポケモンの名前、テレビ見てないのに、すぐに覚えましたもん」
ドレミ先生、ポケモン世代か! 若い!

その後、微かに二人の記憶が交差する、GAMEBOY(もちろん、画面はモノクロで、ドレミ先生より僕の方が懐かしく感じる)の話などをしつつ、教室を後にした。
来週までに、覚えることいっぱいだ。40代は覚えるのに時間がかかるのだ!

(つづく)

◇レポート執筆者◇
今東昌之
めがねがトレードマークの会社員。
小学校3年から中学2年、インターバルを挟んで、高1から高2までピアノを習うも、
現在はさっぱり弾けなくなってしまったという。
40歳を過ぎたある日、再びピアノを始めようと一念発起。さあ、どうなる!

◇通ってみた音楽教室◇
コロムビア音楽教室
2013年にオープンしたばかり。ご存知のレコード会社日本コロムビアが運営する音楽教室。代々木公園駅近く、白寿ホールのある建物のなかで火曜日から土曜日まで開校。初心者から音大受験生まで、演奏家としても活動する講師たちにマン・ツー・マンで習うことができる。ピアノのほか、ヴァイオリン、チェロ、フルートのクラスがある。

ホームページ http://www.columbiamusicschool.jp/